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『これってやっぱり、運命かしら? 』
夢洲 蜜柑aa0921

 能力者となって、早一年と少し、だろうか。
 夢洲 蜜柑は、目の前で愚神に両親を殺され、天涯孤独となった身の上だが、まだまだ中学生と言うこともあってお子様な雰囲気がぬぐえない。ヘビィな過去を背負ってはいるが、その結果彼女は英雄との誓約をむすび、いまはその英雄――おとなかわいい雰囲気のお姉さまであるヴァレンティナ・パリーゼといっしょに生活している。
 ただ、ヴァレンティナは見た目はとても女性的、性格も真面目な方なのだが、蜜柑と同等のレベルでけんかをしたり、家事一般の能力が残念なこともあって、名義上はヴァレンティナの保護下にあることになっているが、じっさいに生活を支えているのはどちらかというと蜜柑という状態である。
 何しろ蜜柑曰く、ヴァレンティナは『二十六歳児』。まあ、ヴァレンティナはヴァレンティナで、蜜柑のことをちんちくりん扱いしてしまうところもあるのだが。
 でも、それでも二人は共鳴しあった同士。なんだかんだで馬が合う、と言う奴なのだろう。喧嘩するほど仲がいい、なんて言葉もあるのだし。
 
 
 さて。
 蜜柑はたしかにお子様ではあるが、だからこそ背伸びをしたくなる性分で、そしてなにより寂しがり屋である。
 年齢のこと、そして過去に彼女を襲った惨劇を考えればそうなるのも仕方がないのかも知れないが、だから夜、一人きりになるのは本当は苦手だ。
 しかし、その日はなんだか不思議な予感があった。
 幻想の欠片――二人目の英雄との誓約を結ぶ為の、キーアイテム――が、いつもとちがう輝きを帯び、そして蜜柑にだけ聞こえるような声で囁いているのだ。
 この幻想の欠片というのはふしぎなもので、運命の相手と巡り合わせる、なんて聞かされていたし、その日に見た夢がひどく印象的だったのだ。
 ――長身の男性剣士。そう聞くだけで想像が膨らむような感じだが、そんな存在が夢の中に現れたとあっては、蜜柑の胸も高鳴るというものだ。
 まあ、ヴァレンティナからしてみれば、恋に恋するお年頃なお嬢さんである蜜柑の言葉なんて、とくだん関心をひくものではないようであるが。
 と――
 欠片に導かれるようにしてふらふらと歩いていた蜜柑の前に、薄く消えかかった姿をした、青年がうずくまっていた。
 恐らく、蜜柑とヴァレンティナ以外には見えないのだろう、人通りの少ない道とはいえ苦しむようにうずくまっている青年を放っておくなんて、普通はありえないのだから。
 青年は、赤みがかった茶色い長い髪をひとつに結び、時代がかった衣装を身に纏っている。
 そして、耳が長い――おとぎ話で見たことがある、妖精か何かのように。
 どきん、と蜜柑の心臓が早鐘を打つ。
 だって、その姿は、夢で見た青年剣士と、よく似ていたから。
「……ねえ、ヴァレンティナ、あれ、もしかして」
 僅かに声を震わせながら、確認するかのようにヴァレンティナの方を向くと、彼女も苦笑交じりで小さく頷いた。
「……そうみたいね。すごいじゃない、蜜柑。ちゃんと運命の英雄って、見つかるものなのね」
 そう言って、ヴァレンティナは蜜柑の背中をぽんと押す。
「さ、ここから先は蜜柑にしか出来ないんだから。頑張ってきてね」
 まだ幼さの残る蜜柑には二人の英雄なんて時として重荷になるかも知れない。
 それでも、彼女がこれからも能力者として戦う為には、きっと必要なことなのだ。背中を押された蜜柑は一瞬よろけかけたが、それでもヴァレンティナの気持ちが伝わってきて、小さく頷き、青年にそっと近づいた。
「……あの、あなた」
 蜜柑は思わず声をかける。
「あなた、あたしと契約して!」
『……契約?』
 青年はくぐもった声で問う。
「うん、あたしと契約して、あたしの英雄になって!」
 そして、この世界のことを簡単に説明する。愚神と呼ばれる敵と戦う為、様々な人と、異世界からの英雄と呼ばれる存在が、共鳴し、戦うという現実を。そんな異世界のひとつからきたばかりであろう青年にはきっと意味の分からないことなのだろう、しばし考え込むようにしてはいたが、やがて
『構いません。私はもう、いまは一人きりなのだから』
 そう言うと、青年は改めて蜜柑に向き直って跪き、そして誓いの証拠と言わんばかりに蜜柑の手の甲にそっと口づけを落とした。
 そしてそれが契約となったのだろう、青年の姿が徐々に鮮明になっていく。あっという間に、青年はこの世界に現れ出でていた。
「――ありがとう、可憐なお嬢さん。私の名前はアールグレイ。ジ・アースという世界で、騎士だったものです。あなたの名前を、きいてもいいでしょうか?」
 アールグレイと名乗った青年騎士は、そう言って優しい笑みを浮かべる。途端に蜜柑は顔を真っ赤に染め上げて、それでも平静を保つように心がけながら、
「夢洲蜜柑! 十四歳です! で、こっちのがヴァレンティナ、あたしの最初の英雄!」
「……あのね蜜柑、こっちの、って言い方は結構傷つくのよね、私」
 蜜柑の少し舞い上がり気味な自己紹介に、ため息をつきはするものの微笑むヴァレンティナ。
「蜜柑さんと、ヴァレンティナ、さんですね。よろしく頼みます。私はこの世界に来てまだ間もないので、判らないこともたくさんあると思いますが……」
 そう畏まって言うアールグレイに、ヴァレンティナはくすりと笑う。真面目そうな人柄が、この僅かなやりとりで見て取れたからだ。
 そして蜜柑はと言えば――もう真っ赤になって目が離せない状態でいる。茶色い目元も涼やかな、いわゆるイケメンに出逢い、しかも手の甲にキスまでされてしまったのだから、それで真っ赤にならないわけがないのだ。
 そんな変化を目ざとく見つけたヴァレンティナが、楽しそうに蜜柑ににやにやと笑みを向けると、
「ああ、蜜柑ってああいうのが好みなんだ?」
 そんな意地悪めいた言葉を言ってみせる。蜜柑としては当然ながら、首をぶんぶんと横に振って、
「ちがう、ちがうもん!」
 と否定はするものの、確かに出逢ったときにぽうっとなってしまったし、いまもまだどきどきしているのは間違いないし、ともやもやしてしまう。しかもさらに、
「どうしたんですか、蜜柑。顔が赤いようですが……風を引いたりはしていませんか?」
 なんて、アールグレイに顔をのぞき込むようにして、心配そうに尋ねられてしまったら、さっきヴァレンティナに言ったことが酷く後悔させられて、更に顔を赤くさせ、
「ななな、なんでもない! なんでもないから!」
 と慌てふためいてしまう。
 この病は薬でも草津の湯でも、治せるものではないのに。
 
 蜜柑の能力者としての生活は、まだまだ波瀾万丈の予感でいっぱいだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0921 / 夢洲 蜜柑 / 女性 / 十四歳 / 人間】
【aa0921hero001 / ヴァレンティナ・パリーゼ / 女性 / 二十六歳 / ソフィスビショップ】
【aa0921hero002 / アールグレイ / 男性 / 二十二歳 / シャドウルーカー】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご発注ありがとうございました。
少し遅れての納品となってしまい申し訳ありません。
人と人との出逢いというのは一期一会、あるいは袖触れあうも多生の縁ともうしますが、皆様の出逢いはいずれであったのでしょうか。
ちなみに、アールグレイさんはもしやAFO世界からのお方なのでしょうか? ジ・アース出身という言葉が、それを想起させて、どこか懐かしくも感じられます。
これからどうなるかは皆さん次第かと思いますが、どうか楽しく過ごせることを祈っております。
では、改めてありがとうございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年12月19日

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