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『紅薔薇は心にも咲き誇る 』
天谷悠里ja0115

「次はこっちね」

 とん。と胸を指でつつかれ天谷悠里(ja0115)はきょとんとする。

「外見だけでは本当のドレスアップとは言えません。我々ではもうご満足できないかと思いますが、もう暫くお付き合い下さい」

 白の少女が従者の様に傅きワインレッドの爪先に口付ける。

「満足出来ないって……そんな……」

「本当に?」

 悠里が首を横に振り言葉を投げかけると、今度は黒い少女が耳もとで囁く。

「貴方の恋人でもない私達が傅いて口付けるだけで満足できるの?焦ったい感じはしない?その子が愛する人だったらとは思わないの?」

 耳にかかる息が少女に戻りそうになった悠里を官能へ連れ戻す。
 目の前にいる少女が愛しいあの人だったら……そんな想像をした瞬間、ゾクゾクっと甘い何かが背中を駆け抜けた。

「ほら、ね。もう私達じゃ満足できないでしょう?想像するだけでそんなに嬉しそうにして」

 鏡に映るのは美しく高貴で妖艶な女王。
 爪先にキスを受けた時、一瞬見えた戸惑う少女の姿は幻だったのではと思う程艶めいた表情で白い少女を見下ろしている。

『これが今の私。この姿こそが今の、本当の私……』

「さあ、思い出して。貴方が初めてこのドレスに袖を通した時の事」

 黒の少女は6月のあの夜何があったのかを断片的に囁きながら、胸や首筋をなぞりキスを落とし、白の少女もまた悠里の耳元や唇を細い指先でなぞっていく。
 忘れるはずもない事ではあるが、年端もいかない少女の口から想像力を掻き立てる様に断片的に語られるそれは安い官能小説よりも悠里を刺激する。
 花嫁キスをねだり懇願する声。
 夢でも見る様な蕩けた顔。
 背中にたどたどしく回された腕。
 甘く痺れる思考。
 いつも奪われる側だった悠里が奪う側にまわった初めての夜。恋人の嬌声に妖艶な笑みを浮かべ、世界の全てから花嫁を奪い尽くす様に何度も唇を重ね、情事の様に耳や肌、何より心を犯す。
 克明に思い出せば思い出す程、瞳は潤み、妖艶な笑みは深くなる。

「もう貴方はここに来たばかりの頃の貴方じゃないわ。それは自分が一番わかっているでしょう?今の愛し方の方が貴方は昂ぶる。違う?」

 貰うばかりの愛も幸せだった。
 あの時の悠里は奪い与える愛がこんなにも甘美で蠱惑的だということを知らなかったのだから。

「貴方様が花嫁様に愛を注げば、彼女が跪き愛を願う事も貴方に奉仕するのも当然かと思われます」

「知ってしまった事をしらなかったことには出来ないわ。貴方の花嫁は奪われる愛を拒まない。奉仕する愛も喜んで受け入れている様に私は感じる。あの夜の様な愛し方が今の、ううん。これからの貴方に相応しい愛し方じゃないのかしら」

 少女達が紡ぐ言葉はどれも当然で当たり前のことの様に心に染み込んでいく。

 美しい紅の薔薇に染められ、時折口元に浮かんでいた妖艶な笑みはいつの間にか馴染んでいる。

  ***

「最後の仕上げはどうする?」

「これよりさらにドレスアップ致しますと、後戻りは出来ないかも知れません。よく御考え下さい」

 もう少しで高みへ達しそうな所で少女達が動きを止める。
 体を離し、指を止め、声も囁きではなくいつも出迎えてくれる時のそれ。

 2人を一瞥した悠里の唇が動くと、少女達は頭を下げた。

「畏まりました。仕上げの準備を致します」
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18 / 紅薔薇を胸に】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お久しぶりです。今回もご依頼ありがとうございました。

 天谷様の中から妖艶で高貴な美しさが滲み出るようになる過程の物語でしょうか。
 次の物語でドレスアップの総仕上げをさせて頂く予定です。そちらはもう暫くお待ち下さい。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年12月20日

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