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『確たる明日を見る(2) 』
白鳥・瑞科8402
 休日の校舎は、普段の喧騒を忘れたかのように静寂に支配されている。生徒が失踪する事件があったせいか部活動等も当面は休止になっているようで、学校内に人の気配はない。
 そんな場所に、たった一人で歩く女性の姿があった。遠目で見たとしても豊かな膨らみを持っている事が分かるスレンダーながらもグラマラスな体に、ぴったりと寄り添うように張り付く青いシスター服を着た美女……瑞科である。
 首下から全身を覆う黒のラバースーツの上に着用されたそのシスター服は、腰下まで深いスリットが入っていた。それ故に、長くすらりとした美脚やニーソックスが食い込んだ太腿は惜しげもなく周囲に晒されている。膝まである編上げのロングブーツが、より一層彼女の魅力を高めていた。
 身に着けられたコルセットが何もせずともその存在を主張している胸を更に強調し扇情的な魅力を醸し出す一方、ケープと同色のヴェールは彼女の穢れなき純真さを表しているかのように真っ白であった。
 女性らしく華奢で可憐な二の腕には、装飾のついた白い布製のロンググローブ。更に、爪の先まで手入れされた手を包み込んでいるのは同じく美しい装飾のある革製のグローブだ。瑞科の魅力を一層引き出す、彼女によく似合ったこの戦闘服は全て最先端の技術を使った素材で出来ており、細かなところまで気を抜かない彼女のこだわりが詰まっていた。
 人けのない校舎で、瑞科は失踪事件に関する調査を始める。神父から与えられた情報を頼りに、めぼしい場所へと向かう。
 廊下の隅、あまり人目につかないところにそれはあった。模様自体はもう殆ど掠れてしまって見えなくなってしまっているが、まるで残り香のような微量な魔力の痕跡を微かに感じる。
(これが神父様の言ってらした、魔方陣の描かれた跡ですわね)
 長く細い指が、そっとその痕へと伸ばされる。だが、瑞科が魔方陣に手を触れようとしたその時、耳をつんざくような奇声が廊下へと響き渡った。
「キシャー!」
 その魔方陣から、突然何体もの怪物が姿を現したのだ。
 ――トラップだ。恐らく、瑞科のような優れた力を持つ者が魔方陣に近付くと、発動するようになっていたのだろう。
 体も小柄な上に一体一体の力はさしてないとはいえ、怪物達の数はあまりにも多く、すぐに瑞科は彼らに囲まれてしまった。
(この罠を設置したのは、魔方陣の存在を暴かれるのを危惧したため? それとも、わたくしに対する挑発かしら?)
 しかし、この程度の事は今までいくつもの戦場を渡り歩いてきた瑞科にとって予想の範囲内なのか、聖女の顔に驚きはない。彼女は冷静に、魔方陣を設置した敵の狙いを探りながらも戦闘の構えをとる。
「なんであれ、戦闘服を着てきた事が無駄にならなくてよかったですわ」
 穏やかな笑みを携えて、どこまでも優雅に瑞科はそう呟いた。余裕溢れる彼女の態度に、「キキ?」と怪物が訝しげに鳴く。しかしその瞬間、その怪物の体に強烈な衝撃が襲い掛かった。瞬きをする間もない程のほんの刹那の間に、瑞科は相手との距離を詰め拳を叩き込んだのだ。
「ぼんやりしていてよろしいのでして? すでに戦いは始まっていましてよ」
 愛らしい唇が弧を描く。挑発するようなその笑みさえも瑞科が浮かべるとひどく美しく、異形の者すらもぞくりとさせる魅力があった。だが、怪物達もむざむざと負ける気もない。先程の瑞科の攻撃で彼女の強さを察した彼らは、いっせいに攻撃を仕掛ける。
 異形の腕が無遠慮に伸ばされ、瑞科のその魅惑的な肢体を狙った。
 けれど、その手……それどころかその指先すらも瑞科に触れる事は叶わない。
 大勢でいっせいに襲い掛かったというのに、否、いっせいに襲い掛かってしまったからこそ、勝負はたったの一瞬でついてしまった。
 窓から差し込む光を反射し、きらりと光るのは瑞科の武器である剣だ。目にもとまらぬ速さで剣を抜いた瑞科は、自身を中心とした円を描くように剣を薙いで襲い来る怪物達を切り裂いたのである。

 怪物達は全て塵と化し消え、校舎は再び静寂に包まれる。誰か別の者があの怪物達の犠牲になってしまう前に自分がここを訪れてよかった、と優しき聖女は切に思った。
(トラップの効果もなくなったようですし、これ以上この魔方陣から分かる事はなさそうですわね。一度、本部に戻って神父様に報告を……あら?)
 ふと、廊下に一枚の紙が落ちている事に瑞科は気付いた。壁に貼ってあったものが落下してしまったらしい。
 拾い上げて何気なく目を通してみると、学園祭というカラフルな文字が紙の上には踊っていた。この学校の学園祭のポスターのようだ。どうやらすでに終わってしまったらしく、書かれているのは数週間程前の日付だった。
(この日付、生徒達が失踪した日の直前ですわね。学園祭の日に、何者かが生徒達に干渉したという事?)
 考えを巡らせている内に、まるでパズルのピースがはまっていくかのように瑞科はある可能性に思い当たる。
「ようやく、黒幕の尻尾が見えてき始めましたわね」
 瑞科は通信機を取り出し、以前からこの失踪事件について調査をしていた「教会」の諜報部隊へと通信を繋げた。
「至急、調べてほしい事が出来ましたの。頼めまして?」
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年12月26日

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