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『 この光を忘れない 』
彩咲 姫乃aa0941

衣擦れの音が聞こえる。
 そこは36時間TV控室、その隅に設けられた一室が男子禁制の脱衣部屋。ここで『彩咲 姫乃(aa0941) 』は派手な舞台衣装に着替えようとしていた。
「く、くそ、屈辱だ」
 そうドレスをびらーんとぶら下げながら告げる。その傍らには彼女の髪色に合わせたウィッグが置いてあり、それらすべてを身に着けると、何と絶世の美少女に替わるのだ。
「くー。この変装になれて、着替え速度が上がっていく自分が悔しい」
 そう、あらかじめ着こんでいた服をすとんと落とし、なだらかな胸やお尻をあらわにする。
 このまま成長しないでくれれば、そう願いつつも、姫乃は髪も衣装も整えて。そして。
 孤児たちが待つ一室に突入したのだった。

    *   * 


 軽く挨拶をかわし子供たちとTRPGをして遊ぶ姫乃。
 そんな子供たちの白々しい雰囲気に何かを感じて言った。
「え? 孤児院で一回逢ったの覚えてるよね?」
 顔を見合わせる子供たち、そんな中ひかりだけが微笑んでいた。
「ほら、あの短髪の」
 そうひかりが告げると、全員がやっと思い出したらしく。手をうっていた。
「それより
。お姉ちゃん、どうしてこんなにおんなじ本を持ってるの?」 
 そう『三浦ひかり(NPC)』は姫乃に尋ねた。
「え? それは、くれるんだよグロリア社が」
「え、グロリア社ってそんな会社なの?」
「私も初めて知ったわ、TRPGにこんなに力を入れてるのを」
「TRPG?」
 そうハテナマークを浮かべる子供たちに丁寧にルールを教えていく姫乃。
 そのキャラクターシートを完成させるまでがかなり長かったが、出来上がるまでには子供たちととても仲良くなれた。
「ねぇねぇ」
 そんな姫乃の服の袖を引いてひかりは告げる。
「なんで姫菜なの? なんで髪を長くしてるの?」
「それはいろんな意味があるけど、まぁ、何というか」
「髪長いのも似合うね」
 そう言って笑うひかり、その笑顔を直視できず姫乃はあわててゲームに移った。

   *  *

子供たちとの交流は数時間で終わってしまった。前回孤児院を訪れた時は二十四時間を超えて一緒にいたので、子供たちは名残惜しそうに姫乃を見つめる。
 またくるから。そう振り向きざまに微笑んで、そしてひかりの車いす、その取っ手を掴んだ。 
「うわわわわ、お姉ちゃん……どうしたの?」
「いいこと思いついたんだよ。もうすぐフィナーレだと思ってさ」
 そう楽しそうにひかりの車いすを押す姫乃の口調は普段の物に戻っていた。
 そんな姫乃を大きな瞳で見つめてから、姫乃は口元を抑えて笑う。
 やがてその笑いが抑えきれなくなって二人は、ただただ笑い声を響かせて廊下を走った。
 そしてたどり着いたのは、歌合戦が行われているステージ、その舞台袖。
「え? ここ……」
「ひかり、一緒に出よう」
「ええ!」
 椅子から飛び上がらん勢いで叫ぶひかり。
「だだだだ、だめだよ。私、まだはやいよ」
 そうひかりは両手で顔を覆って、体を二つに折り曲げてしまった。自分の太ももに顔がつきそうなくらいに小さくなってしまう。
「大丈夫だって、全部カボチャに思えば」
「カボチャ頭の人たちがあんなにいたら怖いよ」
「それは、すごくたくましい想像力を持ってるな、おまえ……」
 そう呆れた姫乃は一つため息をつくと一瞬考えて、そして。
 問答無用でひかりの車いすを押し上げた。
 すると、光の頬を撫でる、会場の熱気、そして目に痛いくらいのライト。
 その向こうで、観客全員が手を振り上げていた。
 ラストステージを待っている。
 ひかりは姫乃を見あげた。
「なにを謳うの?」
「これ」
 そう姫乃は光に歌詞カードを渡す、するとひかりは知っている。と言って笑った。
 それは当然だろう、この日のために姫乃はあらかじめひかりにこの曲を聞かせていたんだから。
「みんなで歌おう」
 そう姫乃が告げると、ひかりは姫乃の手を取った。
「一緒に、いてくれる?」
「もちろん」
 やがて柔らかに流れ出した旋律を捉え、ひかりはその声を音楽に乗せた。
 最初は戸惑っていたひかりだが、喉に手をあて一生懸命に声を当てる姿勢から、やがて自由に音を響かせる姿勢に変わった。
 そんな彼女の肩を手のこうで叩くと、姫乃の嬉しい気持ちが伝わったのかひかりは満面の笑みで姫乃を見あげる。
 それはたった三分程度の軌跡。だが、ひかりは後に語ることになる。
 この思い出があるから。自分はここまで走ってこれたと。
 
   *   *
 

 壇上を降りるとひかりは告げた。
「夢をかなえてくれてありがとう、けど」
 その言葉に姫乃は違和感を覚えた。
「夢はまだ、始まったばかり、じゃないのか?」
「ううん、私は。無理だよ。みてたもん」
 ひかりは、このアイドルパフォーマンスを全て見ていたという。
「すごかったなぁ、私にはできないや」
「わかるぞ、足が悪いからって気にしてるんだな」
 姫乃はウィッグを外してそう告げる。
「……なんでわかるの?」
「卑屈な奴の考えることは大体わかるんだ、どうせ無理だって諦めたい気持ちもわかるんだ」
 そう告げ姫乃は目を閉じた。姫乃も抗っている最中である、それが何かまでは姫乃に言えないが、だが同じように抗う人間の気持ちはわかるつもりだ。
「試してみないか、俺もそれがうまくできるか分からない、でも生まれ持ったものでそれで生き方が決定されるなんて受け入れられないよな。やりたいことをやろうぜ、俺も、頑張る」
「じゃあ、一緒に頑張ってくれるの?」
「勿論だ」
「勇気が、湧いてくるね」
「そうだな」
 そう告げて姫乃は当てもなくひかりの車いすを押し始める。

「あ、ねぇ欲しいんだ」
「だれの?」
「えっと、姫乃お姉ちゃんと仲のいい。あの人とか、あとは姫乃お姉ちゃんの」
「サインって、どう書けばいいんだよ」
「うーん、一緒に考える?」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『三浦ひかり(NPC)』
『彩咲 姫乃(aa0941) 』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海ですこの度はOMCご注文ありがとうございます。
 今回は36時間TVの裏側ということで、泣く泣くカットした部分を書かせていただきました。
 あとはNPCとの交流ということで、二人の友情とプラスアルファを書かせていただきました。
 気に入っていただけたなら幸いです。
 ちなみに孤児院依頼はその後続く予定があって、NPCを沢山出したのですが、もろもろの事情があっていまだ続きを書けていません。
 もしシナリオリリースされた際はぜひともよろしくお願いします。
 それではながくなりましたがこの辺で、鳴海でした、ありがとうございました。
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2016年12月27日

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