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『Let's Party Rhapsody. 』
郷田 英雄ja0378)&只野黒子ja0049)&愛須・ヴィルヘルミーナja0506)&機嶋 結ja0725

 ついにやってきた始業式の朝は、気持ちの良い秋晴れだった。
 此処、郷田 英雄(ja0378)が籍を置く久遠ヶ原学園は一般的な日本の学校とは異なり、秋が新学年の始まりとなる。今日の日を迎えるために、やはり校風柄、一般的とはとても言えない進級試験の数々もなんとか無事(?)に終え――まぁ一部には残念な結果になった者も居たようだが――迎えた朝なのだから、それはもう、爽やかでなければ嘘だというもので。
 朝の爽やかな空気を身体いっぱいに感じながら、心なしか軽い足取りで向かったのは彼の学び舎、ではなく中学棟。そこに建っている校舎の1つに勝手知ったる様子で近付くと、おもむろにひょいと窓枠に手をかけて、慣れた仕草で乗り越えて。
 朝の爽やかさとは一切無縁に中学棟への侵入を果たした男は、周囲のざわめきをまるっと無視してぐるりと辺りを見回し――おや、とそこで初めて不審と不思議の狭間の表情を浮かべた。

(いない……?)

 英雄が侵入路として選んだのは、先述の通り勝手知ったる窓である。そして、なぜ彼がその窓の事を良く知っていたかと言えばもちろん、今日に限らず今までにも何度もその窓から侵入を果たしていたからだ。
 だってここは、『彼女』の教室に最も近い場所。だからこうして侵入を果たせば、この時間ならすぐにも『彼女』の姿が見えることが多いのに、件の少女の姿は影も形も見当たらない。
 なぜだ、と浮かんで当然の疑問が浮かぶ。今朝は『彼女』に放課後デートの誘いをするつもりだったのに――
 ひとしきり考えを巡らせた英雄はだが、すぐにその答えに思い至ってそうか、と1人頷いた。今日が『いつも通り』ではない理由がまだまだあることに、ようやく気が付いたのだ。
 今日は確かに始業式、新たな年次の始まりだ。だが人によっては新たな年次の始まりというだけではなく、新たな学び舎で新たな生活が始まる、入学式の日でもあって。
 英雄が探していた『彼女』、すなわち機嶋 結(ja0725)もまた本日入学式を迎える1人。つまり――
(早いものだ、あいつも今日から高校生……つまり結婚可能!)
 いきなり一足飛びにそう考え、ふふふ、と不気味にほくそ笑んだ英雄に、周りを行き交っていた中等部の生徒が一斉にズザザザザ……ッ! と身を引いた。いくら、普段から常識に囚われない生徒や教師やそれ以外が闊歩していることも珍しくはない久遠ヶ原学園と言っても、変人的な行為がいつでもどこでも当たり前に受け入れられるわけではない。
 ――が、己の中に瞬時に広がっためくるめく想像と妄想に忙しい英雄はもちろん、そんな周囲の学生達の反応に気付くはずもない。そのまま1人満足そうに、そうかそうか、と何度も何度も頷いては宙のあらぬ所を――具体的には多分脳内世界の幻想を――見つめてほくそ笑む姿は、長年の親友であったとしても全力で他人のフリをしたくなるほどだ。
 とはいえ、その時間は決して長くはなかった。やがて何かに気付いたようにカッ! と目を見開いた英雄は、いかん、と独りごちる。

「こうしてはいられないな……急いで準備しなければ……」

 そうして、そんな言葉を呟きながら真顔に戻ると、今度は何事だと遠巻きに見守る中等部生達には目もくれぬまま当たり前の顔で侵入してきた窓をひょいと乗り越え、中等部から去っていった。そんな英雄が後日、不審者として教師に通報されたかはまた別のお話である。





 結が英雄に声をかけられたのは、無事に高等部への入学式を終えた昼休みの事だった。

「高校入学は人生の節目だ。特別な1日にしよう」
「――はい?」

 いきなり現れたかと思えば、開口一番大真面目にそう言い出した英雄に、言い出された結は怪訝な顔を一切隠さず、素直な気持ちでそう眉を寄せる。英雄の言い出すことだ、おおよそマトモな話ではないだろうという見当くらいはついたけれども、ならばどういう意図なのかと判断するには些か情報が足りない。
 高校入学、とだから彼女は告げられた言葉をおうむ返しに胸の中で繰り返した。高校入学、と確かに英雄は言った――そして人生の節目だ、とも。
 それは正しくもあり、ある意味では間違いとも言えるだろう。ここ久遠ヶ原学園のような小学校から大学まで一貫教育を行なっている、しかも撃退士養成という極めて特殊な環境下にある学園では、進級も進学も結局は同じ敷地の中で行われ、面子も大きな変化がある訳ではないのだから。
 とはいえ、全学生数は軽く3万人を超えるこの学園では、ただのクラス替えと言えども新たなクラスメイトは全員見知らぬ他人、ということだって珍しくはないわけで。そして進級試験だって決してお飾りめいたものではなく、毎年お祭り騒ぎのように――この学園では何だってお祭り騒ぎになってしまうことが多い――大々的に行われるから、確かに乗り越えた達成感はなくはない、のだけれども。

「何の話ですか?」

 まずはあしらうように冷たくそう返したのは、結自身の性格も多分に影響していたけれども、大半は日頃の英雄の言動に起因していたと言えよう。何しろ日頃から英雄ときたら、付き合ってもないのに婚約指輪を渡してきたり、積極的なアプローチと言えば聞こえだけは良いものの、普通に考えても常軌を逸しているとしか表現しようのない行動や言動を繰り返しているのだ。
 そんな相手の言うことを、素直に受け止められるかといえば非常に難しい。というか多分、大半の人間は信じないし、そもそも相手にもしないだろう。
 だから、己の気持ちをストレート過ぎるほどストレートに伝えてくる英雄に対して、結があしらうような態度になってしまうのは、仕方のない事で。でも今までがそうだったように、今日もまた少しもめげた様子を見せない英雄は、浮かべた笑顔を1ミリも揺らがせないまま、まぁ聞け、と脳内プランを語り出した。

「機嶋は今日から高校生、学生としても人生という意味でも大きな節目だ。それに他の生徒だって、進級試験を終えて1つの大きな山場を乗り切ったわけだ。だからここは1つ、屋上でも貸し切ってみんなで盛大に祝おうじゃないか」
「盛大に、ですか……」

 滔々と流れるような英雄の言葉は、聞いただけならひどくもっともな言い分で、けれどもどうにも不審を拭い切れはしない。だがそれにさえ目を瞑れば、悪くはない提案だ。
 何より、聞けば単に集まってお菓子を食べながらわいわい騒ぐだけではなく、ちょっとした食事も用意するという。ならば、と結局考えた末に、英雄の提案するパーティーとやらに足を運ぶことにした。
 そうか! と満面の笑みを浮かべた英雄の告げる場所と時間に頷いて、また放課後に、と約束して別れる。――最後に振り返った時にちらりと見えた、英雄の笑顔にそこはかとない不安を覚えながらも。





 首尾よく(?)結の確保に成功し、英雄は上機嫌で五限の休憩時間を迎えた。歩いているのはまたしても、勝手知ったる中等部の廊下だ。
 最大の目的である結との『放課後デート』の約束は取り付けたが――まぁ正確にはデートとは少し……いや割と……かなり違うが、男女が共に過ごすのだからデートと呼んで差し支えあるまい――もちろん、ここで終わるつもりは毛頭なかった。結に「皆で祝おう」と言った手前からではない――否、理由の幾何かはそれもあるけれども、せっかくの祝い事なのだからみんなで賑やかに楽しむべし、というのは英雄自身の考えでもある。
 ならばあとは結と英雄の共通の友人を、それも出来るだけたくさん誘うのが良いだろう。となると、真っ先に呼ぶべき相手は――

「お前だ、只野」
「まったく意味がわからんのだが」

 開口一番そう言った郷田に、言われた只野黒子(ja0049)は器用にも疑問と不快を同時に示して見せた。彼女のまとうミリタリー調ワンピースの裾が、そのしぐさに合わせて微かに揺れる。
 む、と不思議そうな顔になった英雄に、ともあれまずは何の話か説明しろと促せば、おォ、と驚いた様子で手を打った。これは彼なりのポーズなのか、それとも本気で自分が一切何の説明もしていないことに気付いていなかったのか。
 どっちでも構わんが、と眺める黒子に『実は』と英雄が語り出したところによれば、なんでも結の進級祝いパーティーをするという。それで、彼女とちょっとした知り合いで、よくつるんでもいる黒子にも、参加しないかと白羽の矢が立ったらしい。
 ふぅむ、と黒子は面倒くさそうに腕を組んだ。ちろ、と前髪の下から英雄の顔を観察するように見上げる。
 確かに結とは試験勉強したりする仲でもあるし、先般は一緒にコスプレなども嗜んだりして、友人といっても差し支えはないだろう。だが、結とよくつるんでいるということはすなわち、結になにかとアプローチをかけている英雄との攻防のあれこれも知っているということで。
 つまる所、面倒事に巻き込まれるのならまっぴらごめんだ、と言わんばかりの表情を一切隠そうともせずに浮かべた黒子に、何を言っている、と英雄は大真面目な表情を浮かべた。

「主役は機嶋だが、全員の進級祝いも含めている。盛大にしようじゃないか」
「全員の進級祝い、ねぇ……」
「無論だ」

 疑わしい、といった口調で復唱した黒子に、英雄はニヤリと笑って力強く断言してみせる。その様子には、主に日頃の言動行動からもたらされる不審はあれど、提案そのものから感じる不満はさしてない。
 しばしその表情を無遠慮に、だがもちろん最低限の礼節はもってじろじろと眺め回してから、ならばまぁ良いか、と黒子は頷いた。もし英雄が結に良からぬ事をするようならぶちのめせば済むことだ――胸の内で静かにそう考えながら。





 楽しみが待っていると思うと、いつも以上に時間が早く過ぎていくものらしい。あっという間に放課後をむかえ、英雄はパーティーの時間まではあと少しだと、せっせと準備に走り回っていた。
 いまも、学園内の商店街までお菓子の買い出しに行って来た所。もちろんその間も行き合った知人に声をかけることは忘れない。
 そうしながら近道となる中庭を通り抜けようとした英雄は、向こう側をとてとて歩いている愛須・ヴィルヘルミーナ(ja0506)を見つけて、おや、と瞬きして足を止めた。
 そちらへと足を向けながら、愛須、と呼ぶ。

「こんな所でどうしたんだ?」
「あ……」

 両手にお菓子を一杯に詰めた袋を下げたまま声をかけた英雄に、かけられた愛須はひょいと振り向いた。柔らかな民族衣装に包まれた腕に抱いているのは、途中で出会った猫だ。
 そうして振り向きはしたものの、それからどうしようかと考えていた愛須は、おいでおいでと手招きされたので、とことこと英雄に歩み寄った。そうして改めて何をしていたのかと尋ねられて、猫を連れて散策していたのだと告げる。
 そんな愛須に、そうかそうか、と英雄は何度か頷いた。そうして、なら、と両手のビニール袋をガサガサさせながら、にやりと愛須に笑いかける。

「お菓子をやるから、一緒に遊ぼうか」

 そうして向けられたのはそんな、どこの誘拐犯でも今時は使わないであろう陳腐な誘い文句。だが愛須はそれを聞くと、え、と嬉しそうに瞳を輝かせ。
 こっくり頷いてからそっと、腕に抱いた猫を降ろす。そうして見上げてきた猫を見下ろし、その前にちょこんとしゃがみ込むと、小さくふわふわの頭を撫でた。

「またね」
――ンなァ……

 そうして手を振った愛須に応えるように一声鳴くと、猫はゆったりと尻尾を揺らして茂みへと消えていく。それを見送ってからぱたぱた駆け寄ってくる愛須の顔は、いつも通りながらもどこか嬉しそうだけれど。
 ふむ、と買い物袋をガサガサ揺らし、英雄がひょいと首を傾げる。

「良いのか、愛須?」
「うん……大丈夫……」
「そうか。じゃあ行くか」

 気づかわれたことに胸の内で感謝しながら、愛須はふる、と小さく首を振った。そうしてちょこんと隣に並ぶ、彼女の頭をぐしゃりと撫でてそう促した、英雄が心の中で『今度は猫の格好かな……』などと考えていた事には、あまり気付いていなかったのだけれど。
 何しろ英雄と愛須はよく駄弁っている仲で、そうして彼女をマスコットのように可愛がってもいる。だからその親愛の表現(?)の一端として、愛須に時々コスプレをさせていたりもしたりして。
 もちろん、決してロリコンではないのだけれども。ああ、誓って英雄が片想いをしているのは結ただ一人なのだけれども。
 そんな風に、誰にともなく胸の内で断っている英雄の隣を、とことこ歩く愛須の表情には、警戒の色は少しもなかった。というのも、彼女にとって英雄はいつも何かくれる『いいひと』だったし、時々警察の人を呼ばれそうになっているのも、きっとそっち関連の人なんだろうな、と思っていたからだ。
 ゆえに愛須は今日も素直に、疑いもせず英雄の後ろについて行く。そんな様子を誰かが見ていたとしたら、やはり誘拐犯に見えた……かもしれない。





 結と黒子がやって来たのは、手配したピザやオードブル、ケーキにお菓子を英雄と愛須が手分けして並べ終えた頃のことだった。
 せっかくのパーティーだ、少しはめかし込んで来てくれるかと期待しないでもなかったが、現れた黒子は相変わらずカーキ色ベースのミリタリー調ワンピースの上に、今は防寒用にか同色ベースのケープを羽織ったのみ。さらにその隣の結に至っては、中間服の制服に黒手袋とニーソックスを身に付け、腰には太刀まで佩いている。
 だがまァそれも似合っているから問題はない、とあっさり思考を切り替えた英雄は、2人を用意した席へと案内した。
 そうしていささか芝居がかった仕草で開始を宣言したのは、見晴らしの良い屋上で秋色の学園を一望しながら、進学・進級を祝うパーティー。

「3人とも、今日はよく来てくれたな。遠慮なく好きなものを食べてくれ」
「もちろん遠慮なんてしません」
「その必要がないな」
「あ、あの……頂きます……」

 英雄の言葉に三者三様、返しながらもすでに両手は紙皿とフォークをしっかり持って、各々狙いを定めた食べ物をさっそく取り分け始める。その様子から察する限り、どうやら彼女達のお気に召す内容と量だったらしい。
 よし、と英雄はそれを見て満足そうに頷いた。全員が楽しめるような1日にしたい、という目的は、今のところは順調に進んでいる。
 ならばますます盛り上げていこうと、英雄は積極的にテーブルを動き回り、皆に声をかけて回った。さらには今日の記念にと、準備したカメラを構えて写真もどんどん撮りまくる。
 ――もちろん、記念なのだから最初は意識して、全員の様子をあれこれと撮って回っていたのだ。が、ふと気付けばそのレンズはいつしか、結だけに向けられていて。
 それでも今日はパーティーだからと、努めて気にしないようにしていた結である。だがついに英雄が至近距離から動かなくなると、その我慢もあっさり限界を突破した。
 おもむろに腰に佩いた太刀を鞘ごと抜き取り、心の衝動に任せて予備動作ゼロでぶん殴る。
 ゴキッ!! バキッ!!

「――何をしているんですか」

 そうして凶器の刀を握り締めたまま、問い質した口調は秋の爽やかな空とは裏腹に、ブリザードのように冷たかった。ちなみによく見れば、鞘にうっすら血の跡も残っていて、その攻撃の容赦のなさが伺える。
 だが、はッ!? と我に返ってシャッターを押し続けていた手を止めた英雄には、なぜか殴られたダメージはほとんどなさそうで。これだけは結の攻撃から死守したカメラをしっかり握り締めながら、ごくごく真面目な顔でこう言った。

「記念に写真を残さないか。可愛く撮ってやるぞ」
「もう撮ってるじゃないですか」

 だがその表情に反して、口から出て来た言葉は予想通りというべきか、至って不真面だ。自然、結の眼差しはますます冷たくなり、太刀を握る手にも力がこもっていく。
 その空気が、あまりにも不穏と感じたのか。急いで手にしていたピザを紙皿に戻した愛須は、ぱたぱた駆けてくるとかばう様に結と英雄の間に割って入った。

「ダメ……絶対……」
「愛須さん……?」
「嫌なのは……良くないから……」

 突然目の前に現れた自分よりも小さな背中に、怒りよりも驚きが勝って、結の手からするりと力が抜ける。その虚脱状態のまま、ぽかんと名を呼んだ彼女に愛須は、きゅっ、と決意の眼差しでそう言って。
 精一杯両手を広げて結を守ろうとする愛須に、それは誤解だ、と英雄は首を振る。

「俺はセクハラなどしたこともない。女性の嫌がることなどもっての外だ。誠実誠心誠意をモットーとし、弱きを助け強きを挫く、幼女の味方。それが俺という者だ」
「え……と……」
「最後ですべてが台無しだな」

 そうして英雄が告げた言葉に、きょとんと眼をまたたかせて考え込み始めた愛須の向こうで、本気のため息とともに黒子が冷静に呟く。否、それ以前にどの面下げてそんなセリフを吐けるのか、とでも言った方が良いのだろうか。
 そんな、黒子の無言の言葉が結にも聞こえた気がしたが、肝心の英雄はと言えばどこ吹く風といった様子。となればもう、結も黒子と一緒にため息を吐きたい気分になったのは当然の流れだ。
 だがひとまずはこの状況を何とかしようと、結は愛須の肩に手を置いて、大丈夫です、と声をかけた。

「不快ではありますが、どうしても嫌というほどではありません」
「……大丈夫……なの……?」
「ええ。――庇って下さってありがとうございました」

 そう、小さく微笑んで見せた結を愛須はまだ、心配そうに見つめていた。けれどもクールビューティーな結は愛須の憧れで、心の中ではお姉ちゃんとも呼んで慕う存在だ。
 その結が不機嫌じゃないのなら、と愛須はこっくり頷いた。そのまま大人しく席に戻ると、先ほど置き去りにしてしまったピザを食べ始める。
 そんな結と英雄、愛須のやりとりを、一見すればいつも通り、黒子はのんびり眺めていた。だが、さすがに今は少し視線が冷たいと感じるのは、きっと間違いなく英雄の気のせいではない。
 と言うか、そもそもロリコンと思われてるからか、日頃の風当たりも必要以上に強い気がしていたりもして。

(少し見ない間に急に大人になったな……悲しみ)

 昔はこんな風じゃなかったはずなのに……と己の不遇を(一方的に)噛み締めて秋の空を仰ぐ英雄に、また良からぬことを考えているのだろうかと、結が冷たい眼差しを注ぐ。とはいえ、時に尋常ではない殺意を放つのがちょっと心配になる結だが、その様子を見る限りどうやら良い感じで力が抜けたらしい、と食べる手は止めないまま黒子は胸の内で呟いた。
 もちろん、英雄があれ以上の何か強引なアプローチをしようとするなら制裁しよう、と思案していたのだけれど。これなら彼女が手を出す必要もなく、料理をゆっくり味わえそうだ――何しろ気の利いていることに、今日のオードブルの唐揚げは彼女の好きなカレー味なのだし。
 それは彼女のおかげでもあるな、と眼差しを移した先では愛須が1人黙々と、テーブルの上に並んだお菓子を食べていた。――相変わらず大きな娘だ――いや、何がという訳ではないけれど――
 どこからともなく視線を逸らしながら、黒子はまた1つ唐揚げを口に放り込んだ。ちょっとおとなしそうな娘だから、英雄に振り回されすぎていないか密かに心配していたけれども、案外行動力はあるらしい。
 そんな風に分析している、黒子の視線を感じて愛須は、ええと、と何とはなしに自分の前髪を直してみる。黒子は愛須よりもずっと背が高いお姉さんだけれど、前髪で目が隠れてる仲間、だったりもするし――あぁ、でも黒子にはそう思われていないかもだし、というかそもそも何で注目されているんだろう――?
 そんな風に1人でもじもじ、わたわたする愛須に気が付いて、英雄は「どうしたんだ?」とまるで猫の仔を撫でるようにわしっと頭を撫で始めた。あっという間に髪の毛がぐしゃぐしゃになって、わわ、とそんな英雄を振り仰いだ愛須が、何やら言い訳(?)を始め。
 代わりにようやく英雄から解放された結が、肩で大きく息をしながら――本人なりに激しい攻防戦だったのだ――黒子の所へ戻ってくる。無造作とも取れる仕草で並んだケーキを2、3個新しい紙皿に取り、グサッ! とプラスチックフォークを狙い定めて突き刺した。

「――崩れるぞ」
「そんなヘマはしません」

 黒子のセリフに応じる口調は、それでもまだ冷静で、やはり良い意味で力が抜けたようだ。そう、考える黒子の眼差しを察して、大丈夫です、と結は小さく頷いて見せる。
 戦友であり学友である黒子は、結にとっては何を考えてるか判らないが、信頼はできる人だ。それどころか、学年は下なのに自分よりも凄く成長している、と感じることも多い。
 それが、結には少し眩しく、羨ましくて。負けないようにしなければ、と思いながらあっという間にケーキを1つお腹に収めて、英雄と話している愛須を見る。
 小動物のような動きや仕草は、同性の彼女から見ても愛らしい。そんな愛須と自分自身を比べてしまえば、あまりの違いになんだか彼女を遠くに感じる気持ちになったりもする。
 だが、彼女が結に好意を持ってくれているのは解るから。ならば悪い気はしないと、考えながらふと結は、2人の様子を眺めながら呟いた。

「……しかし成長した只野さんより私をイジるとは、郷田さんはやはりロリコン……?」
「……だろうな」

 独り言めいた結の呟きに、そろそろ仕上げにアイスを食べるか、とクーラーボックスに手を伸ばしながら、黒子があっさり頷いた。何しろ先ほども自ら『幼女の味方』と口にしていたくらいなのだから、そういう趣味嗜好だと判断した方が妥当だ。
 そう己の見解を述べる黒子に、やはりそうですよね、と2個目のケーキをもりもり咀嚼しながら結が頷いた。頷き、「ならばもっと育った方が良いのでしょうか……」と新たな悩みに突入し始める。
 それを聞いて、おや、と黒子はアイスを口に運んでいた手を止め、目を瞬かせた。育つというのはどういう意味でとか、具体的にどの部分をだろうとか、埒もない疑問が瞬時に湧き上がってくる。
 だが、しばしの黙考の末に黒子は、それらすべての疑問を甘いアイスと共に飲み込んでしまうことにした。突き詰めたところで答えが得られるとも限らないし――この友人がどんな形であれ年相応になりたいと願うのは、黒子にとっても歓迎するべきことのようにも思われたから。





 そんな風に、時折は大騒ぎをしながらも和やかに、賑やかにパーティーの時間は過ぎていって。そろそろ終わる頃合いかと、みんなで屋上の片付けを済ませた頃にはもう、辺りはすっかり暗くなっていた。
 空を仰げば輝いている、透き通るような月を見ながら何とはなしに皆で歩く帰り道。先頭を歩いていた英雄がふいに振り返ったかと思えば、あたかも詩吟を諳んじるかのように上機嫌に、あるいはそう装って、結ににやりと笑いかけた。

「あァ、綺麗な月だ。極上の女もいる。美味い酒でもあれば最高だったが、まァ、問題ない。結婚しよう」
「相変わらずそんな事を……」

 紡ぎ吐かれた言葉は脈絡もなく軽薄で、そうしてまったくいつも通り。その揺らぎのなさはある意味、奇妙な信念のようなものも感じさせる。
 いっそ感心してしまいそうなその言葉に、結はキッ、と睨みつけて腰の太刀を振り上げた。だが、逃げる素振りこそあれど堪えた様子は欠片もない相手に、結局そのまま手を下ろし、「まったく……」とあからさまな諦めの溜息を吐く。
 ――けれどもその中には本当は、それほど悪感情は入っていないのを誰より、彼女自身が知っていた。そんなことを態度に出したりすればきっと、この男はどこまででも付け上がるだろう事も判っているから癪だと、険しい表情で「付き合ってられません」と冷たく横を向いたけれども。
 結にとって英雄という人は、戦友であり、もっと歯に衣着せずはっきり言ってしまえば迷惑な人だ。というのも、もちろんこれは英雄の責務ではまったくないのだけれど、大柄な男性という容姿から過去を想起してしまい、身体が拒否反応嫌悪を起こしてしまうから。
 だから出来れば近付いて欲しくない、傍にいて欲しくなかった人で。それなのにいつの頃からか、行動を共にしても彼に悪感情は抱かなくなって――むしろどちらかと言えば安心感すら感じる時も、あって。
 最低限、よりはまだ上の方に位置する信頼は、彼に抱いている、のだろう。でも――ふと同じ月を見上げ、瞳をほんの僅か揺らす。

(だって)

 心の中の一線を越えてしまったらきっと、彼に自分という重荷を背負わせてしまう。それはとても、とても申し訳ない事だから、叶うならばただ今の時間が、今と変わらぬままに続けば良いと、願わずにはいられない。
 悪魔への復讐も家庭の事情での摩耗も癒されてしまうような錯覚すらある、この穏やかな、穏やか過ぎるほどに穏やかなひと時が。今のまま何も変わらず、永遠に――もしかしたら、そう願うことすら自分の傲慢なのかもしれないけれど。
 そう、想いながら月を見上げて細い息を吐いた結の手を、ごく自然な仕草で英雄がひょいと軽く握った。そうして今度は何も言わないまま、口笛でも吹きそうな素振りでただ月明かりの下を歩いていく。
 ――かと思えば。

 ゴキ……ッ!
「いい加減、調子に乗り過ぎだ」

 鈍い音と共に拳を真っ直ぐ英雄の脇腹にめり込ませ、殴り倒しながら、黒子が絶対零度の声色でそう言った。――手を繋ぐだけで止めておけば良いのに、さりげなく結の肩まで抱き寄せようとしていたのを、パーティーから引き続きセクハラ紛いな動作は予備動作無しで殴ろうと警戒していた彼女が目撃したのだ。
 何ならついでに踏み潰してやろうかと、片足を持ち上げながら冷たく英雄を見下ろす黒子である。まぁいちおう、結の反応次第でと思っていたのだが、予想される事態を避けるのも友情だろう。
 そんな黒子の淡々とした言葉に、己の置かれていた危険(?)な状況を理解した結がピキッ、と大きく固まった。やはりな、と小さく息を吐いた黒子を見上げ、英雄が弁解を試みる。

「まぁ待て。まずは落ち着いて話し合……」
「安心しろ、この上なく冷静だ」
「あの……大丈夫……?」

 そうしてお世辞にも友好的とは言い難い雰囲気で話し始めた2人の前で、まだ固まっていた結に愛須が、きゅっ、と制服の袖を引きながら気遣う声をかけた。その表情には、今度こそ結が不機嫌になってしまったのではないか――と心から案じる色が浮かんでいる。
 愛須は、英雄のことも嫌いじゃないけれど。結のことも大好きなので、お姉ちゃんが嫌な気持ちになるのは嫌だな、と心配になってしまうのだ。
 そんな風に瞳を揺らす愛須を見て、結がようやく――だがまだぎこちなく――動き、彼女に礼を言うように瞳を揺らた。袖を引いた愛須の手に、添えられた手は温かい。
 黒子と英雄の攻防は、まだまだ終わりが見える様子もなく、夜空に高く響いている。――それはきっと特別で変わり映えのない、だからこそいつまでも変わらずに続いて欲しいと願わずには居られない、刹那の時間。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━‥・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名     / 性別 / 年齢 /   職 業   】
 ja0378  /    郷田 英雄    / 男  / 20  /   阿修羅
 ja0049  /    只野黒子     / 女  / 17  / ルインズブレイド
 ja0506  / 愛須・ヴィルヘルミーナ / 女  / 6  / ディバインナイト
 ja0725  /    機嶋 結     / 女  / 11  / ディバインナイト

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご指名頂きましてありがとうございました。
結局お待たせしてしまい、本当に申し訳ございません。

親しい皆様での祝宴の物語、如何でしたでしょうか。
……あの、その、色んな意味で大丈夫でしたでしょうか……;
ご自由に、と仰って頂きましたお言葉にすっかり甘え、色々と暴走してしまったような気がしてなりません、とても楽しかったです(待って
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座

皆様のイメージ通りの、進級・進学を楽しく祝うノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
VIG・パーティノベル -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年12月28日

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