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『確たる明日を見る(5) 』
白鳥・瑞科8402
 普段は一般の女性には想像もつかない程の危険な任務をこなし、戦場で戦いに身を投じている瑞科だが、それでも年相応の女性らしくファッションには興味を抱いている。それどころか、そこらの女性よりもずっとお洒落なくらいだ。彼女が着る服はどれも彼女によく似合い、人々を魅了した。センスもある上に美しい彼女なら何でも着こなせてしまうが、それでも瑞科は少しの妥協も許さない。数ある商品の中から、一番自分に似合うものを選びとる。そのこだわりが、ただでさえ美しい彼女をますます魅力的にしていた。
 そして、それはファッションだけに限った事ではない。
 瑞科が今手にしているこの剣もまた、彼女のこだわりが詰まった最高の品であった。最先端の技術を用い製造されたそれは、瑞科のためだけに造られたまさに彼女のためだけの剣。まるで、この手の中にあるのが当然であるかのように、その手触りの良い柄は彼女の手によく馴染む。瑞科の常人を超越した戦闘能力に合わせて造られているため、目にも留まらぬ速さで彼女が剣を振るう衝撃にも耐え、全力で振り下ろされたとしてもヒビ一つ入る事がない。強い彼女の事をますます強くする、瑞科が持つに相応しい剣だ。
 故に、何の気兼ねもなく瑞科はその剣を振るう事が出来る。神速で全力の一撃を、相手へと叩き込む。
 それを真っ向から食らってしまえば、悪魔といえど耐えきれるわけがない。悲鳴をあげる事も許されず、一体の悪魔が聖女の裁きの剣により消滅した。
 異形が召喚した悪魔達とは、すでに学校の廊下で戦った事がある。けれど、ここは異形の本拠地だ。この現世において、最も異形が力を出せる場所。その異形によって喚び出された悪魔の強さも、あの時の比ではない。
 しかし、瑞科の顔に怯えの色はない。彼女は穏やかな微笑みを浮かべ、余裕を孕んだ優雅な動きで的確に悪魔の数を減らしていった。
(あの時よりも強いからこそ、遠慮なしに本気を出せますわね)
 そう思い、ますます彼女は笑みを深める。のびのびと自由に戦える事に、聖女は喜びすら感じていた。
 一体の悪魔が、魔術を唱え瑞科を狙い撃つ。その魅惑的な身体を狙い襲い来る脅威を、瑞科は体を翻す事により避けた。
 放たれた魔術は、まるで術者である悪魔の心の色をそのまま映しているかのようにどす黒く濁り、見る者を不快にさせる。標的を見失った魔術はまっすぐと飛んでいき、壁に当たり霧散した。爆発等が起こる事はなかったが、魔術に侵された壁は一瞬の内に腐敗し溶けていってしまう。
 その悪意の塊のような魔術が、今度は何十体もの悪魔の手からほぼ同時に放たれた。四方八方から、たった一人の標的に向かって。標的とは無論、瑞科である。
 壁を瞬時に腐敗させる、まさに悪魔の好みそうな残忍な魔術だ。もしこの魔術が人の肌に触れてしまったら、たちまち肉を腐らせてしまう事だろう。想像を絶する痛みに悶え苦しむ事は、必至――。
「けれど、当たらなければ関係のない話ですわね」
 女の口唇がそう言葉を紡いだ時には、瑞科の姿はそこにはなかった。動揺しながら悪魔は周囲を見渡す。ただそこにいるだけでも自然と人々の視線を惹きつけるのが瑞科だ。たとえ姿を見失ったとしても見つける事は容易かと思っていたのに、どうしてかあの美しい聖女はどこにも見当たらない。
「こちらでしてよ」
 その声は、遥か上の方から聞こえた。
 器用に片手で天井へとぶら下がった瑞科が、そこにはいる。彼女は悪魔の魔術を跳躍する事で避け、彼らの死角である頭上で悪魔達を一度に屠る機会を伺っていたのだ。
「そろそろ、とどめといかせていただきますわ。あなた達には少し眩しすぎるかもしれませんけれど、ごめん遊ばせ!」
 瞬間、眩い白が辺りを埋め尽くした。室内を、光が支配する。
 そして、まるで落雷のように瑞科の放った電撃はまっすぐに悪魔達に向かい落とされた。神の鉄槌の如きその攻撃に身を焦がされ、悪しき配下達は一斉に消滅する。
 黒幕である異形はすぐさま次の悪魔を召喚しようと呪文を唱え始めたが、もう遅い。その時にはもう、相手の背後へと華麗に着地した瑞科は、異形へと攻撃を仕掛けていた。流れるようなその動きはあまりにも完璧で隙がなく、速い。もし彼が本物の占い師で未来を読む事が出来ていたとしても、その攻撃を避ける事は叶わなかっただろう。ふわり、とブラウンの髪から香る女性らしい甘く心地のいい香りが異形の鼻孔をくすぐった時には、すでに異形の体は彼女の蹴りにより吹き飛ばされていた。
 瑞科の動きの後を追うようにシスター服が揺れ、スリットから覗く脚はますますさらけ出される。戦場で舞う彼女の姿は、優美であり華麗だ。まるで映画のワンシーンをこの場に合成しているかのように、闇と悪意に塗れたこの戦場で瑞科だけが気高く美しい。
 その美しさは、異形ですらも見惚れさせる。ただ食欲のためだけに行動していた異形に、新たな欲が生まれる。この女を手に入れたい、自らのものにしたい、という、欲。
『気に入ったぞ、女。食べてしまうには少し惜しい。我の傀儡にし、可愛がってやろう』
 闇が笑う。異形の腕が、究極のご馳走であり極上の女である瑞科へと向かい無遠慮に伸ばされた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年01月06日

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