▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『オヤジの会』は無駄・無軌道・無計画に!? 』
天狼心羽紗音流aa3140hero001)&榊 守aa0045hero001)&ユエリャン・李aa0076hero002)&比蛇 清樹aa0092hero001)&シュネー・エルフェンバインaa1101hero001)&ラドヴァン・ルェヴィトaa3239hero001)&鵜鬱鷹 武之aa3506

●参上、殿と愉快なオッサンたち!
「清樹く〜ん、あっそびっましょ〜!」
 ある冬の晩。自宅にて心穏やかに過ごしていた比蛇 清樹(aa0092hero001)の元に、珍客が現れた。無駄にでかい声には聞き覚えがある。ありすぎる。殿様THE無責任オヤジ天狼心羽紗音流 (aa3140hero001)である。
「遊ばん。帰れ」
 清樹は隙間に足など挟まれないように、玄関の扉越しに告げる。
「さねる……帰る、のか?」
(今の声は誰だ。しかも、人の気配が多すぎる)
 嫌な予感がした。清樹はすりガラスの向こうの景色を確認するため、思い切って戸を開け放つ。紗音流の隣には、角の生えた大男――シュネー・エルフェンバイン(aa1101hero001)がいた。そして清樹が知った顔やら知らない顔やらは総勢6名。
「紗音流、貴様……」
「おぬしん家が広いってことは調べがついてんだよ! 酒と材料買ってきたから鍋しよ鍋!」
 清樹の眉間に深いしわが刻まれる。
「……貴様はともかく、客を帰すわけにはいかん。少しここで待て」
 家の者を手早く二階へ避難させ、客人たちを水屋の傍の部屋へ案内する。文句を言いつつも暖房器具やらグラスやらの準備を整えてくれる清樹を見て鵜鬱鷹 武之(aa3506)が言った。
「働き者だなぁ。養ってくれないかなぁ」

●宴の始まり
「え〜……」
 水墨画の掛け軸の前に立った紗音流がグラスを掲げ、咳払いする。外の池で何かが跳ねたのか、ぽちゃんという音がした。来る途中に縁側から見た庭も見事なものだった。「あの池で金魚飼ってんだろ!」と騒いだ紗音流は「うるさい」と叱られていたが。
「本日はお集りいただきナントカカントカかんぱーい!!!」
 野太い声たちによる「乾杯」の復唱。景気良くぶつかるグラス。むさくるしくも楽しい宴会の始まりだ。
「かんぱーい?」
 シュネーは首を傾げつつも紗音流をまねて、グラスを掲げる。ラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)はシュネーに応えるようにグラスをぶつけると、彼の肩をばしばしと叩いた。
「ははは、上手いぞシュネー。これがジャパニーズ呑みニュケーションの作法だ!」
「覚えて置こう。日本には興味深い儀式や呪文が多い」
「うむうむ、ヤオヨロズの神がいる地だからな! 懐の深い国なのだ」
 溢れんばかりのラドヴァンのパワーは、為政者という枠組みから解き放たれた今、はっちゃけのステータスに全振りされている。良く言えば豪胆、悪く言えばはた迷惑なオッサンである。
「ラドさんも懐の深さはなかなかのものだよ。俺を養うくらい、なんてことないよね」
「たけゆきのそれも何かの詠唱か? ここに来るまでにも何度も『ヤシナッテ』と言っていた」
「まぁ、そんなとこ。いつか効果が出ると信じてるよ。何ならシュネーくんが養ってくれてもいいし」
 初対面でもちゃちゃっと砕けた雰囲気になってしまうのは、オッサンの良いところかもしれない。紹介が遅れたが、これは中年男が集まってはしゃいでしまうという『オヤジの会』なのだ。
「オヤジの会に何故我輩が呼ばれたのかいまいち理解できぬ」
 そうぼやくのは自称25歳、だが実年齢は36歳の男の娘(?)・ユエリャン・李(aa0076hero002)だ。
「まぁ面子に華が欲しかったのはわかるがな! わははは!」
「そうそう! オッサンなのに別嬪とかいう奇跡の存在だからね、リャンリャンは!」
 オッサンという言葉に反応したユエリャンが紗音流を睨み付けるが、彼は気にする様子もない。ついでに清樹にも怒られている。
「確かに材料は揃っているが、ダシをとるものがないぞ」
「えー? あ、守ッチ執事でしょ? 何とかしてチョ」
「は? 今日はプライベートだから。俺は食べるの専門」
 完全にくつろぎモードの榊 守(aa0045hero001)が気だるげに答える。清樹の眉間のしわが増えた。
「あー、スルメ入れときゃ出汁出るだろ」
 ため息を吐きつつ、昆布を一枚拝借するかなどと清樹は考える。
「それと、家の中は禁煙だ」
 守は名残惜しそうに煙草とライターをしまう。
「材料切ったら帰ってこいよ。卓上IH持って来たから」
「なぜそういう準備だけは良いんだ、貴様らは……」
 守は去りゆく背中を見て思う。文句は多いが、面倒見の良い男のようだ。
「王様ゲームすっか!」
 紗音流は言ってから、「やっぱ違うな」と思った。
「いや、ラドがマジになるからダメだわ! やめよ!」
「というか……誰も得しないという意味では、最初から勝者の出ない勝負だよな」
 守は苦笑いをする。ここには可愛い女子や美少年や、守好みの色っぽいお姉さまはいないのだから。――と言うと赤髪の麗人が異議を唱えそうだが。
「シュネーとリャンリャンは飲んだことねーよな! おぬしら何してた系なの? こっち来てどのくらい?」
 そう問う紗音流は英雄歴20年のベテランだ。
「赤いの、貴様は確か戦乱の世から来たと言っておったな」
「そーそ。こっちの世界でいう武士だな。わりと有能だったような気がすんだよな〜」
 ユエリャンはからっと気持ちよく笑う男に微笑を返す。紗音流とは対照的な陰のある表情だった。
「では我輩の元居た世界と似ているかもしれぬな。今は武器を手に戦場を駆ける立場となったが、かつての我輩は武器を生む立場であった」
 彼が『我が子』と呼んで愛した兵器たちは数多くの勝利を生み出し彼を『英雄』にしたが、彼が子らに与えたのは殺処分と言う運命だった。――と、この話は場に相応しくないだろう。
「ユエリャン?」
 守が気づかわしげに声をかけて来る。
「つまり――我輩が武器の扱いに天賦の才を見せるのは、かつても今も同じということだ」
「なるほど、ワシも殿っぽさなら誰にも負けないしね」
「生きる世が違っても、人の本質は変わらんだろう。俺は今の気楽な暮らしも気に入っているがな」
 紗音流とラドヴァンが何やら納得顔で頷き合っている。たぶん適当である。
「ここいらで出番を譲るとしよう。我輩は君の出自が気になるぞ」
 ユエリャンは色っぽい流し目をシュネーに向ける。
「立派な角であるな」
「……ありがとう。これは……俺の種族に特有のものだ」
 嬉しさのせいか、尾が大きく揺れる。腕を枕に寝転んでいた武之がくしゃみをした。ふさふさとした尾の先が鼻の頭をくすぐったのだ。
「種族というと?」
「バフォメット……この世界ではそう呼ぶのだと、俺の相棒が教えてくれた」
 美しい曲線を描く山羊のような角を、シュネーは一撫でする。バフォメットは悪魔の一種と言われているが、彼の瞳は子供のように澄んでいる。純粋な好奇心のなせる業だろうか。
「……触れて、みるか?」
「何と!? 苦しゅうないぞ!」
 角を両手で優しく包み込まれると、尻尾がぺたんと弛緩する。角に感覚があるのかはわからないが、リラックスしているようだ。
「動物好きなら先に言ってよ。ほら尻尾。ね、養って」
「断る」
 即答したユエリャンだが、シュネーの元居た世界の記憶を興味深く聞きながら、武之のボリューミーな尾だけはしっかりと触っておいた。
「ふむ、これはなかなか」
「この耳と尻尾が触り放題。今なら俺もついてくるよ」
「お、扶養が成立したら酒奢ってくれるよな、武之?」
 守が口の端を上げる。
「だから養わんと言っているであろう。もふもふはするが」
「守くんこそ、集るくらいなら養ってよ」
 今でこそ、そこそこ真面目に働いているが、かつては守も扶養願望を持っていた。武之のある意味潔すぎる生き方に「これは勝てない」と諦めたまでは良かったのだが、彼が新たに採ったのは「自分は人に酒を集って生きる道を選ぼう」というスタンス。それ以来彼らは挨拶代わりに「養って」「酒奢って」の応酬を行っている。
「おお、もうできたのか清樹!」
「まだ火が通っていない。そこをどけ」
 両手で鍋を持った清樹が首の動きでラドヴァンを操る。
「それはミソか? ミソスープは好きだぞ!」
「もう少し声を落とせ。近所迷惑だろうが……!」
 今回の鍋はみそ仕立ての土手鍋だ。
「悪いな」
「本当に思っているなら手伝え」
 守は鍋を受け取ってIHに置いたが、それ以上手伝う気はないらしい。持ち込んだビニール袋をガサゴソやってつまみを探している。
「鍋作れるなら養って」
 武之はいつもの調子。他のメンツはと言うと。
「変なもの入れるなよ! 絶対入れるなよ!」
「紗音流、それは『フリ』だな?」
「さっすがラド! わかってるぅ!」
 こんな感じ。
「……これは何だ」
「チーズの一種だ。つまみとして持ってきたのだ」
「リャンリャン、それも鍋に入れようぜ! チーズ入れたらだいたい何でも美味くなるじゃん!?」
「確かに……。やってみる価値はあるか」
 真剣な面持ちで顎を撫でるユエリャン。清樹は低く言った。
「やめんか」
「ふむ……美味なのだがな」
 ちなみにユエリャンが持っているのは、よりにもよってブルーチーズだ。シュネーは独特の香りと見た目に興味を示したようで、さっそく口に入れている。
「まあまあ、怖ぇ顔してないでおぬしも飲めって。ハイ、清樹くんの〜! ちょっといいトコ見てみたい〜!」
 紗音流の太い腕が清樹の首に巻き付く。
「ヨッ、日本一!」
 ラドヴァンと二人、両の耳元ででかい声を出されてはたまらない。
「鍋も来たし、改めて乾杯だな!」
 紗音流が言うと、武之がぽんやりと返す。
「別にいいけど、なんか乾杯するようなことあったっけ?」
「何だ? 我輩の美に乾杯するか?」
 ユエリャンが一切の気後れなく言い放つ。
「タダ酒に乾杯だな」
 無駄に良い声で守が言った。早くも目が据わっている。
「守くん、それただの願望だよ。それなら俺もラドさんの扶養にかんぱーい」
「俺の番か? ゲイシャガールにカンパーイ!」
「え、何それ楽しい。美少年にもカンパーイ!」
 ここまでくると最早『マッチ売りの少女』状態である。シュネーだけは好奇心に満ちた目で様子を伺っている。
「そういえば清樹、この家にゲイシャは」
「いる訳がないだろう」
 鍋からは既に良い香りが漂い始めている。何か思いついたらしいラドヴァンが立ち上がった。
「では今宵の牡蠣鍋と、我が友・清樹の功労に乾杯!」
 ――乾杯! 立派な日本家屋を揺るがしそうな大声の斉唱。先ほどより大きく聞こえるのは酔いのせいだろう。清樹が二階をちらりと見遣る。幸い、未だクレームの類は来ないようだった。
 
●できあがったものがこちらになります
「者ども、牡蠣だー! 牡蠣を食うぞー!」
 ラドヴァンが勇ましい声で宣言する。が。
「で、どれが牡蠣なのだ?」
 彼は片眉を吊り上げて鍋を見つめる。誰かが答える前にゅっと伸びてきたのはまさかのフォーク。
「これであろう?」
 ユエリャンの口の中で海のミルクがじゅわりと広がる。
「うむ、美味いぞ」
「これがカキか……」
 シュネーが持っていたのは、スプーン。この世界において、彼が知っている数少ないことの一つがスプーンの持ち方である。流石に取りづらいだろうと、清樹は皿に牡蠣を盛ってやる。勿論、白菜や春菊やネギ、肉もバランス良く。湯気と共に立ち昇る香りに、シュネーが目を輝かせる。表情こそ無表情に近いが、一口食べるとまた尻尾がぱたぱたと喜びを伝えた。
「清樹くん、俺のも取って。ついでに養って」
「養わん。他の奴らは自分で取れ」
 にべもない言葉にオッサンたちは重い腰を上げる。
「ラドヴァン、散らかすな! 紗音流は肉や牡蠣ばかり取るな。野菜も食べろ」
 ツッコミがちょっとお母さんのようになっているのはご愛敬。片付けはどうせ99%くらいが清樹の仕事になるのである。
「っかぁ〜! やっぱ冬は鍋だな! 守ッチ、酒まだある〜?」
「ほらよ」
「え? 注いでくんないの?」
 大瓶を抱いた紗音流はきょとんとして首を傾げる。可愛くはない。
「男の酌で呑む酒が美味いのか?」
「うん、まぁいいんじゃね? 美少年なら特にウェルカムだぜ!」
「紗音流くん、お酌するから養ってよ」
「ははは! 武之は美少年じゃねえから養わねえ! あ、リャンリャンは酒足りてる?」
 障子をわずかに開けて冷たい空気を呼び込んでいたユエリャンが振り返る。
「ああ、問題ないぞ。こちらの大瓶も開けて良いのだろう?」
「お、その瓶一人で干した感じ? 綺麗な顔してイケる口だねぇ」
 ユエリャンは涼し気に微笑む。まだ酔いも回っていないようで、頬は今宵の月のような白のままだ。
「まもる……これは何だ?」
「さきいか。食ってみろよ」
 シュネーは素直に従う。
「……硬い……。ん、うまい」
「噛めば噛むほど味が出るだろ?」
「まるで俺様のようだな! いぶし銀というやつか!」
 ラドヴァンは大きな口を開け、金髪をかき上げて笑う。いぶし銀――見た目は地味だが中身が優れている――を名乗るには派手すぎである。
「はは! ラドヴァンとサネルっちが仲良いの、すげぇ納得」
 守は良い気分で酒を一口呷る。
「ユニャ……すまない。ユエリャンも……さきいか、食べるか?」
「頂こう」
 発音しにくい名前だったらしく盛大に噛むシュネーに場が和む。
「そういえば誰か浮いた話とかある奴いねぇの?」
 紗音流の言葉に、一同は水を売ったように静まり返る。一瞬ののち、爆笑。彼らが冬の宵を男だらけのバカ騒ぎに費やすのも道理であった。
「なかなか養ってくれる人がいないんだよね。ストライクゾーンは広いつもりなんだけど」
「その一点が厳しいんだよな。俺は応援してるけど」
 守は苦笑する。
「応援する気持ちがあるなら養ってよ。守くんのケチ。守銭奴」
「ああ、よくわかってるじゃねぇか。懲りずに他を当たれよ。いつか奇跡がおこるかもしれねぇし」
 どうやら、オッサンのオッサンによるオッサンのための恋バナ大会はお預けとなったらしい。好みのタイプ談義で少々盛り上がりを見せたものの、やがて別の話題へと移っていった。

●男たる者、旅に出よ!
「さて、どこからゆく? 西から東か、東から西か」
 流れ流れて、議題はオッサンたちの恒例行事へ。すなわち次回の旅行計画だ。ラドヴァンが意気揚々と広げるのは、世界地図。こちらの世界に来たばかりの頃に、「地形の把握なく侵略を成すことは難しいから」と能力者の少年に買わせたものである。現在はというと単純に旅行を楽しみたいだけのようだ。
「俺様はこう行くのがよいと思うが」
 かつての野望の残滓なのか何なのか、彼が指でなぞるのはどう見ても世界一周計画。
「いやいや、2日3日で回れる距離じゃねぇって」
 守が苦笑する。ワープゲートを使えばできなくもないだろうが、そんな癒し要素のかけらもない旅は嫌だ。
「海外は心配しか残らん」
 清樹も首を振る。
「温泉行きたいな……。雇い主が人使い荒いから家の風呂だと疲れとれねぇんだよ」
 守の提案に、紗音流が同意を示す。
「温泉行きたくなるよな、冬は! どこ行く!? 草津とかスキーもできるよな!」
 答えたのはユエリャンだ。
「何も休みの日まで運動をせずとも良いだろう。ただでさえイギリスだのロシアだの駆け回っているのだから、ゆっくり湯に漬かりたいものだ」
 大の運動音痴と言うのもスキーを渋る理由のようだ。
「海外でもスキーでも養ってくれるなら何処でもついていくよ」
「海外も悪くないが、雪の積もった日本庭園は心惹かれるものがあるな」
 ラドヴァンは言う。
「うむ。それは美しい光景であろうな」
「温泉で雪見酒か。いいかもな」
 ユエリャンと守もふむふむと頷く。反対者なし。意外にすんなり決まりそうな予感。シュネーは『オンセン』について清樹から説明を受けている。
「アラサーくらいの美女もついてきたら最高なんだけどな。……旅行先でナンパするか」
 遠い目をした守が付け加える。欲望駄々漏れである。
「じゃあじゃあ混浴できるトコロ探しちゃう〜?」
 紗音流はスマホを操作し始め、ラドヴァンがそれを覗き込む。彼は結局のところ、行ったことのない土地ならどこでも良いらしい。「皆で楽しめるところがいいだろう」と鷹揚な構えを見せている。
「温泉なら少しは静かか? いや、どこでも変わらんか……」
 清樹は小さな期待が膨らむ前に自ら打ち砕いた。このメンバーに平穏や静寂を求める方が無理な話である。それでも「行かない」という選択肢はないらしい。
「あ、清樹ツマミ作って!」
「おつまみを作ってくれたならもう養うしかないね」
「貴様ら……」
 睨みつつも、頭の中にはレシピが駆けまわる。まず、余った水菜はゆでて辛子和えに。しらたきとたらこを軽く炒めて一品。焼き豆腐と間違えて買ったらしい厚揚げに納豆を挟んで焼いてもう一品――。なんだかんだで彼もこの会を楽しんでいるのだ。

●シメのお時間です
 鍋の具は綺麗になくなってしまった。
「お酒ないよ、養って」
 呂律の回らない口調で武之が言った。律儀に「養わん」とツッコんだ清樹は呟く。
「そろそろシメを作るつもりだったんだがな」
 死屍累々の様相を呈していた一同はむっくりと起きた。ユエリャンだけは酒の強さからか、美意識からか、ずっと座ったままだったが。
「……それは、何だ?」
「こら、まだ食べるな」
 シュネーが冷やご飯を食べようとするのを押し止め、鍋に投入する。
「洗い物を片づけて来る。かき混ぜるくらいはできるな?」
 他の者が返事をする前にシュネーがピンと尻尾を立てて答えた。
「……任せろ。わからなければ……皆に聞く」
「頼んだ。焦がさないようにな」
 味方の登場に少し上機嫌になった清樹は、水につけておいた皿を取り出して洗い始める。火照った体には、冷たく冷えた水が心地よい。仲間たちが騒ぐ声さえ悪くないものに思えた。彼も酔っていたのだ。その酔いは数分とたたずに覚めることになるが。
「……これは何だ?」
 シュネーではない。清樹の発言である。彼は盛大にむせながら、出していた水を止めた。――この臭いは何だ?
「ぶっは! ラド、めっちゃクサい! 超クサい!」
「納豆の美味さがわからんとは、まだまだだな紗音流!」
 空のパックが転がっていた。つまみに全部使っておけば、と今さら後悔が押し寄せる。
「味は大丈夫であろう。チーズが入っているからな」
「めんどくせぇからナッツも入れるか? ちょっと洋風になったし」
「ちょ! 守ッチ、ピスタチオの皮は剥いてよ〜!」
 響く爆笑。泥酔はしていないはずのユエリャンと料理の心得がある守までこの調子である。
「……これは……形が変化し始めたようだが?」
「うむ、問題ないだろう!」
 問題は大ありだ。大福を雑炊に入れていいはずがない。ラドヴァンの名を叫んで駆け寄ると「だって大福は日本食だぞ?」と斜め上の返答が返ってきた。嗚呼、無情。溶けた皮の方はともかく、拡販され拡散したあんこは悲劇の予感しか与えてくれない。
「自分たちで責任を取るんだな」
 清樹は匙を投げた。むしろ、良くここまで頑張った。英雄と言う存在は食べなくても死なないが、常識外のレベルで大食いすることも可能らしいし、腹も壊さないというからきっと平気だ。
 名づけるなら『納豆ゴルゴンゾーラ大福リゾット〜牡蠣の風味と4種のナッツを添えて〜』。最初から手遅れだった気もするが、大福の投入を阻止できなかったことは一つのターニングポイントと言えた。なお、その味については食べた誰もが静かに首を振るばかりで、決して語ろうとはしなかったという。

●もうちょっとだけ続くみたいです
 そろそろ終電もなくなり始める時間である。
「清樹く〜ん」
「断る」
「まだ頼み事いってないジャン! ワシ激おこだよ?」
 紗音流は気を取り直して言う。
「今日、泊めて!」
「断る。酔っぱらい同士支え合って帰れ」
 足元がしっかりしていそうなのはユエリャンくらいのものだが、能力者と英雄の丈夫さなら転ぼうが道路で寝こけようが命に別状はないだろう。
「そうだ。武之以外は英雄なのだから、能力者に来てもらえば幻想蝶に……」
「我輩のところは厳しいかもしれぬな」
 ユエリャン、守、ラドヴァンの相棒は未成年だったことを思い出す。
「冗談だ。我輩は帰るとしよう。執事、貴様もであろう?」
「しゃーねぇ、帰るか。夜中に一人にするわけにはいかないしな」
 清樹のもてなしに礼を言って、二人は辞去しようとするが。
「おい、これは?」
「って言われても、俺たちじゃ持ち帰れないぞ」
 身長186cmのラドヴァン、180cmのシュネーが床に伸びていた。ともに満足そうな微笑みを浮かべている。
「ねーねー! いいじゃーん、ワシたちちゃんといい子にするからさー」
「んん……この家の子にしてくれても、いいよ……やしな、って」
 武之も壁に背を預け、半分寝ているらしい。発言はブレないが。
「……朝には追い返すぞ」
「よし、じゃあ呑むか!」
「おとなしく寝ていろ! ……毛布を持ってくる」

 帰ってきた清樹は、縁側に腰掛ける男を半眼で見た。供の代わりにグロリアビールを連れ、月を見上げる赤い髪の殿。
「最後に一杯だけだ。おぬしもどうだ?」
「全く……」
 キン、と澄んだ音を立ててグラスがぶつかる。清樹は夜明けに待っている仕事――二日酔いの男たちの介抱と見送り――をしばし忘れることにした。
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【天狼心羽紗音流 (aa3140hero001)/男性/45歳/エージェント】
【榊 守(aa0045hero001)/男性/36歳/色ボケ】
【ユエリャン・李(aa0076hero002)/?/28歳/エージェント】
【比蛇 清樹(aa0092hero001)/男性/40歳/エージェント】
【シュネー・エルフェンバイン(aa1101hero001)/男性/42歳/エージェント】
【ラドヴァン・ルェヴィト(aa3239hero001)/男性/46歳/エージェント】
【鵜鬱鷹 武之(aa3506)/男性/36歳/駄菓子】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
大変お待たせいたしました。高庭ぺん銀です。この度はご発注ありがとうございました!
キャラクターシートを見るだけで圧倒されてしまうような濃いメンツ。皆さんそれぞれに良い意味での隙(ツッコミどころ)があるのが素敵です。これも大人の余裕って奴なのでしょうか。お茶目なおじ様たちの呑み会、楽しんでいただけましたら幸いです。

今回のお話には、かなり多くのアドリブを入れさせていただきました。物足りない点や違和感のある点などありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
それでは、また皆様にお会いできる時を楽しみにしております。
八福パーティノベル -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年01月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.