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『ひみつのおはなし 』
ヨルムガンドka5168

「ますたぁー。お酒! もう一杯ー!」
「ヨルムガンド、今日は随分深酒だなぁ。何かあったか?」
「何もないよー。いいからお酒! ちょうだいよ!」
「そろそろ止めときな。お前目据わってんぞ」
「目つきが悪いのは生まれつきーーー! 残念でしたーー! いいから酒持ってきてコロスよ!!」
「相変わらず口悪ィな、お前は……」
 バーカウンターに突っ伏している黒髪の青年に苦笑を浮かべる酒場のマスター。
 ――この管を巻きながら流れるように物騒な言葉を吐いている人物はヨルムガンド・D・アルバ。
 長身で、しっかりとした身体つきをしているし、容姿も整っているのに酒を飲んだ途端残念な人になる。
 ふらふらと顔を上げたヨルムガンド。ぼんやりとした頭で見つめるのはマスターの瞳。
 濃い茶色のそれは、チョコレートのようで綺麗だ。
 
 ――自分が、瞳に執着するようになったのはいつからだっただろうか。

 ――ヨルムガンドは、昔、他人が怖かった。
 正確に言うと、『他人に見つめられること』が怖かった。
 そうなった理由というのも、筆舌に尽くしがたいほどのおぞましい目に遭ったからなのだけれど……。
 そのことがあってから、彼は人目を避けるように――自室に籠って生活をしていた。
 それはお世辞にも健康的な生活とは言えなかったけれど、とにかく外に出るのが怖かった。
 外には人がいる。
 人に見られる。
 それは、ヨルムガンドにとっては耐え難い苦痛だった。

 そんな生活に終止符を打ったのは……育ての親の死。
 外を怖がるヨルムガンドを心から受け入れていたかどうかは分からないけれど、養ってくれていた存在。
 ぬるま湯のような生活を許してくれた人……。
 ――その人を喪ったことは、悲しいよりも恐怖の方が先に立った。
 この先どうやって生きていけばいいのか。
 育ての親は勿論お金を残してくれてはいたけれど……どうしたって足りない。
 切り詰めて生活したとしても数か月がいいところだろう。
 生きていく為にはどうしたって稼ぎが必要だ。
 こうなっては仕方がない。働かなくては……。
 そう考えた時、ヨルムガンドの頭に浮かんだ職は『ハンター』だった。
 幸い覚醒者としての力もあったし、仕事の内容さえ選べばあまり人に会わなくて済む。
 普通に働くよりも稼ぎはいい筈だし。
 一攫千金、大金持ちになった暁には一生引きこもって暮らせばいい――。
 我ながらロクなことを考えないと思うが、当時はそう思わないと外に出ることが出来なかったのだ。

 そんなこんなでハンターになったヨルムガンドだったが、早々に現実の厳しさを知ることとなる。
 そう。ハンターはチームで仕事をすることが多い。
 一人で請け負う仕事なんて極々限られていたし、例えそんな条件の仕事があったにしても依頼人とは会話をしなくてはいけない。
 人と会わずに仕事をするのは不可能だったのだ。
 人を前にすると挙動不審になり、ロクに話も出来ない。
 上手く連携が取れず、失敗しかけたこともあった。
 このままではいけない。自分が怪我をするだけならいいが、同じ依頼を受けている人まで危険に晒すことになる。
 他人からの視線が怖くて、怖くて、怖くて。
 正直逃げ出したいと思うこともあったけれど。
 でも、ハンターになったからには、せめて人の目を見て話せるようになりたい――。

 ――それから彼は、他人と話す時に瞳を凝視するようになった。
 勿論、視線への恐怖が消えた訳ではない。
 でも、数をこなせば慣れてくるもので、段々とだが身構えることなく相手の目を見ることが出来るようになってきて……。
 色々な人の瞳を見ているうちに、ヨルムガンドは気づいた。
 瞳はどれ一つとして同じものがない。
 ……燃えるような赤。猫のような金色。鮮やかな黒。空のような青。宝石のような紫。
 その周囲のある陶器のような白目。
 薄い血管を見つけると、それが生物の一部であると思い知らされて――。
 ……面白いと思った。
 今まで何をそんなに恐れていたのだろうかと思う程には。
 ……瞳は、こんなに綺麗で愛らしいものだったのだ。

 それから、ヨルムガンドは『他者の瞳』の魅力に取り憑かれた。
 今まで怯えていた反動もあったと思う。
 恐怖の感情は、偏執とも言える執着へと変わっていった。
 ――飴玉を手放せなくなったのもこの頃からかもしれない。
 色とりどりの飴玉は、瞳のようにキラキラして綺麗で……それを食べることで、瞳を自分のモノに出来たような気になった。
 瞳をコレクションできない代わりに、色々な飴玉を集めて――。

「おい、ヨルムガンド。寝るな」
「んー……?」
「ほら、彼女心配すんだろ。いい加減酒やめろって」
 いつの間にかウトウトしていたらしい。頭を振るヨルムガンド。
 彼女、という言葉を聞いて――何よりも鮮やかな青を思い出して、フフフと微笑む。

 ヨルムガンドがハンターとしての生活に慣れて来た頃、とある女性に出会った。
 ハンターになったばかりの自分に、色々と教えてくれた心優しい女の子。
 楽しさ、喜び、悲しみ……それに合わせてクルクルと変わる青い瞳。
 目の中に閉じ込めた光が心の清らかさを表しているようで……。
 こんなに美しいものがこの世にあったのかと感動すら覚えた。
 お世辞抜きで、本気で世界一綺麗だと。そう思った。
 何より――瞳を入れる器もまた、可憐で素晴らしく愛らしかった。
 そんな彼女に心を奪われて、何としても手に入れたい、と。
 あの綺麗な青い瞳に、自分だけを映したいと願うようになった。

 ――彼女の『器』を愛している。
 人の見た目に惹かれるのは当然で、悪いことだとは思わない。
 自分のこの感覚は当然で、異常だとも思っていない。
 心が美しくなければ、瞳があんなに美しい訳がない。
 だから、彼女の『心』にも惚れていると言ってもいいのかもしれないけれど……。
 ……でも、この言葉を口にしたら、きっと彼女は悲しむから。
 だから、秘密。
 愛し愛されたいと思うからこそ。
 誰にも言わない方がいいことだってある――。

「おい、ヨルムガンド。だから寝るなら帰れっつーの」
「うるさいなー。人が気持ちよく寝てんだから起こさないでよ。バラすよ?!」
「だから物騒なこと言うなって。ほら、彼女迎えに来てんぞ」
 頭上から聞こえるマスターの声。
 振り返ると、そこには心配そうな顔の彼女がいて……。

 ――ああ。その憂い事に揺れる青い瞳もいいな。
 そんなことを考えたヨルムガンド。
 それは口に出さずに、彼女に蕩けた笑顔を向けた。

 ――これは誰にも、彼女にも言えない。
 彼の昔と今の……ひみつのお話。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5168/ヨルムガンド・D・アルバ/男/22/瞳を愛する男

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

ヨルムガンドさんの秘密のお話、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
酒癖が酷い部分を出してみたりしましたちょっとやり過ぎたような気がしなくもないです。
ヨルムガンドさんは自分の異常性を自覚していない分、罪作りだなと思いました。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2017年01月10日

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