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『勇者の心 』
ミュシャ・ラインハルトaz0004)&エルナー・ノヴァaz0004hero001

 諍いというものは、関与した全ての者の中に根を張り、あるいは蝕んで。
 表向き終結した後も末永く、多くは何らかの“痛み”を齎す形で、密やかに息づいている。
 たとえば、この世界のどこかでとある一家が惨殺された事件も、【卓上戦戯】と呼ばれたあの奇妙な戦いでさえも。
 そして、規模、性質、理念、利権、勝敗――根差した一切の事と次第を問わず、いつかそれは芽吹く。
 だが、どのように育まれ、いかなる色彩の花を咲かせ、なにが実るのかは、結局のところ当人次第だ。

 願わくばそれが、美しく健やかなものであらん事を。


「はッ!」
 H.O.P.E.本部内のトレーニングルームでは、気合いの声と剣戟の金切り音が木霊する。
 毎日のように起こる悲劇を食い止める為に、この世界に蔓延る邪悪の禍根を根絶する為に。
 言うまでもなく、愚神や従魔に対抗するには、いかに多くのライヴスを効率良く扱えるのかが前提となる。
 だが、フィジカル面がどれほど優れていようと立ち回りが伴わなければ宝の持ち腐れだ。
 中でも直接切り結ぶに際し、敵を観察して冷静に、かつ即座に最適な動作ができるよう普段から慣らさなくては、実戦など覚束ない。
 ここでは、そのように考える――特に真面目であったり正義心の強い――エージェントが技を磨く光景が、よく見られた。
 もっとも、今日の利用者は一組の男女のみだが。

「はぁっ――はぁっ――……」
 開始から五分と待たず、ミュシャ・ラインハルトは相手に翻弄され、早々に肩で息をし始めていた。
 格上に稽古をつけて貰っているのだから遊ばれるのは当然とも言えるが、今日は特に酷い。
 辛うじて剣は落とさずにいるものの、既に汗だくで肩も上がらないほど脱力していた。
『……今日は止めにしようか?』
 気遣い気な言葉に荒い息のまま顔を上げた。
 声のするほう、三歩ほど先に切っ先が見える。
 それは樹の枝のようにしな垂れていて、迷いやてらいといった無駄な力みとは縁遠い、穏やかな構えの端。
 その向こうには、枝の元たる樹、エルナー・ノヴァの人となりを顕す姿勢。
 異界での呼称は不明ながら、西洋剣術ではアルバーと呼ばれる構えと酷似した、一見して鷹揚なそれ。
『あまり調子が良くないみたいだ。稽古は大切だけど、身体あってのものだよ』
「はぁ、はぁ――」
 ――冗談じゃない。
 息も整い切らぬうちからミュシャはふらつく足取りを堪え、諸手で剣の柄を握り締める。
 エルナーの澄んだ緑色の瞳を真っ直ぐ、睨むように見据え。
 こちらはフォム・ダッハという名の、ちょうど日本剣術の八双と同様の構えを以って切っ先を前方へ向け。
「――っ、まだまだ!」

 意気好く突進した刹那、去来するのは“あの日”の弱さ。
 払拭すべきは己の未熟。

 踏み足に、背中に、肩に、腹に、諸手に。
 眼差しにさえ――全てに力を込めて、ミュシャは大上段からの無骨な一撃を振り下ろした。
『なるほど、“まだまだ”だ』
「!?」
 だが、エルナーは自らも半歩進むや否や、弟子の渾身たる剛剣を事もなしとばかりいなす。
 次いで剣身を絡め取り、あらぬ向きへと放り上げてしまった。
 そしてミュシャの剣があえなく床に突き刺さる頃。

 彼女の顎には師の、デーメーテールの剣が、突きつけられていた。

「ま――……参りました」
 ミュシャが消え入りそうな声で降参を告げると、エルナーはすぐに剣を退いて溜息混じりに言った。
『力み過ぎだし、型も踏み足も剣筋もめちゃくちゃ。間合いだって、僕が前に出なかったら掠りもしなかった』
「…………」
 怒るでも嘆くでもなく、最前の一撃についてただただ至らぬ点を並べる師の言葉を、弟子は胸に刻む。
 ――分かってる。
 普段だってエルナーから一本たりとも取る事はできないが、自分なりに彼の教えに背かぬよう気をつけている。
『相手の踏み込みを誘って攻め手を急に変化させよう――とか、そんな駆け引きを狙っていたわけじゃ、もちろんないよね』
「……………………はい」
 仮にそうなら迫真の演技だったろう。
 けれど、ミュシャにそんな器用な立ち回りが可能だったなら、そも、エルナーに師事もしていまい。
 エルナーは得物を鞘に収め歩み寄ると、『何か悩み事?』と心配そうに尋ねた。
「…………」
『思い詰めるのはきみの悪い癖だよ、ミュシャ』
 この気のいい青年は、危なっかしい自分の事を常に慮ってくれている。
「……」
 だからこそ、今は口を開きたくなかった。
 強くならなければと思った。


 卓上遊戯のみぎり、エージェント達の前に現れた愚神イルミナート。
 彼は自らを“勇者”と称しながら、金と女と名声にばかり腐心する下劣な輩に他ならなかった。
 それが許せぬあまり冷静さを欠いたミュシャは敵の手に落ち、操られてしまった。
 後に他のエージェント達の活躍で救い出され、イルミナートが討たれた今も、許せないという気持ちは変わらない。
 なぜなら、ミュシャにとって“勇者”とはエルナーに他ならないから。
 同じ二つ名を掲げた者が悪徳を重ねるたび、エルナーが馬鹿にされたように感じられるから。
 そう、エルナー・ノヴァは共鳴を通じて今際の際の自分を救ってくれた命の恩人であり、剣の師。
 何にもまして大切な無二のパートナー――彼こそが真に勇者。
 だが、先の戦いではその事に固執するあまり、勇者の勇者たる所以を傷つける寸前に迫る結果となった。
 ――弱い。
 あれ以来幾度となく、痛いぐらいにそう思った。
 否、無力感に苛むという点では、ミュシャの運命が狂ったあの日からずっと続いている。
 家族を理不尽に、単なる快楽目的で皆殺しにされた、あの日から。
 ――チカラ。
 事ある毎、件のヴィランへの憎悪が募るたび、脳裏に浮かぶのはその言葉。
 先日、あるエージェントが発動させた、あのリンクバーストのような圧倒的な、力。

 アノチカラガアレバアンナゲスヤロウカンタンニコロ死殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――

「――!」
 ――駄目っ。
 首を振り、危うい思考をかなぐり捨てた。
 能力者として、エージェントとして、確かに力は必要だ。
 だが、己の中には今や家族の仇に留まらず、最早ヴィランという存在そのものに対する憎悪が渦巻いている。
 そして、きっとそれは背中の傷と同じで、いつまでも消える事はない。
 だから、少なくとも今、自分の心さえままならぬ体たらくで頼っていいものではない。
 先ほどの稽古然り、先の戦然り。
 いかなる力と技も、心が伴わなければたちまち乱れてしまう。
 ――強くならなければ。
 力を得る前に、何よりもまず、心を。
 力(エルナー)の為の心を育まなくてはならない。
 彼に相応しい自分である為に。


『少し落ち着いた?』
「え? ――ぅわっ!?」
 ふと気がつくと、すぐ目の前にエルナーの優しい笑顔があって。
 思わず仰け反ってしまった。
 本当は飛び退こうとしたのだが、どうやら思索に耽っている間に腰を下ろしていたらしく、思うように動けなかったのだ。
『ははっ、いい反応だね』
 青年は屈託なく笑うと、やはりいつの間にか取りに行っていたらしいミュシャの剣を『はい』と差し出す。
「あ……ありが、とう」
 辛うじて礼を述べ、おずおずとそれを受け取って。

 思い詰めるのはきみの悪い癖だよ。

 五分前か十分前かも知れないエルナーの忠言を思い出し、顔が熱くなった。
 まさしく言われた直後に思い詰めて、我を忘れていたのだから。
 ――でも。
 それでも、彼は待っていてくれた。
 何も打ち明けず、自分の世界に閉じこもっていたミュシャを、黙って見守ってくれていた。
『それじゃ、続けようか』
 彼は立ち上がると、軽く伸びをしながらミュシャと距離を取り始める。
「続ける、って」
『もちろん稽古だよ、稽古』
 そうしてぽかんとする弟子に当然とばかり言ってのけ、怪訝げに片眉を吊り上げた。
『それとも……やっぱり止めておくかい?』
 ――この人は、本当に。
 知らず、笑みがこぼれた。
 そんな彼がパートナーだからこそ、ミュシャは育まなくてはならない。
 だから彼を信じ、彼に学び、彼と共に戦うのだ。これからも。
「……まさか。今度はさっきみたくはいきませんよ」
 ミュシャもまた立ち上がり、あえて不敵に剣を構える。
 エルナーは振り向くと、いつもの落ち着いた眼差しと姿勢を以って、それに応えた。
『その意気だ。――さあ、来い!』
『行きますッ!』

 こうして再び、トレーニングルームには気合いと剣戟が響き渡る事となった。

 エルナーは、ミュシャの剣を受け留めながら、やはり彼女の事を想っていた。
 思い詰めていたのは大方、因縁のあるイルミナート絡みだろう。
 どのような感情なのかは判然としないものの、しかしエルナーはさして悲観してもいなかった。
 卓上遊戯において、H.O.P.E.総力を挙げての大規模作戦が展開された折。
 ミュシャはかの愚神の討伐を他のエージェントに託し、自身はやや戦力の薄い従魔の対応に臨んだ。
 すなわちそれは、彼女が人を信じ、任せて、頼れるようになったという事。
 遡ってエルナーと出会ったばかりのミュシャは、苛烈なまでの恨みに支配されて自分だけを頼りにしていた。
 過去を思えば、目覚しいまでの成長を遂げたと言えるだろう。
 それは嬉しくもあり、反面、
 ――少し、寂しくもあるかな。
 去来する複雑な想いを噛み殺し、そんな自らにも想いを馳せずにはいられない。
 ――彼女といる事で、僕は成長できたのだろうか。
 答えは未だ、ない。
 いつか今と比べて劇的な変貌を遂げたなら、こんな過去を振り返りもするのだろうけれど。
 それこそなってみるまでは想像しようのない、埒もない思考だ。
「隙ありっ!」
『おっと――』
 うっかり考え込んでいてがら空きになった右胴目掛け、ミュシャの剣閃が光る。
 だがエルナーは慌てず自身の剣を納めるような姿勢で踏み込み、鍔元を絡めて無力化した。
『明日は明日の風が吹く――か』
「え……?」
 結果として、“相手の踏み込みを誘って攻め手を急に変化させた”エルナーの独り言に、ミュシャはその意味を図りかねてきょとんとするばかりだった。


 願わくばそれが、美しく健やかなものであらん事を。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【az0004 / ミュシャ・ラインハルト / 女性 / 19歳 / デーメーテールの仔】
【az0004hero001 / エルナー・ノヴァ / 男性 / 22歳 / 異界の勇者】
【NPC / イルミナート / 男性 / ? / 自称勇者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 なんで藤がこれ書い……――失礼、少々取り乱してしまいました。

 お世話になっております。藤たくみです。
 公式NPCからのご依頼という事でしたので、アナザーノベルながらリンクブレイブのスタンダードを心掛けてみたつもりでおりますが、いかがでしたでしょうか。
 ご担当となるMSが、本ノベルをヒントとして生じたなんらかのアイディアを以って新たなシナリオを導き出し、他ならぬリンクブレイブのお客様を楽しませる事に繋がり、それを励みにまた面白いシナリオが生み出され――といった好循環の一助になり得るものとなっておりましたら、幸いです。
 このたびのご指名、まことにありがとうございました。
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リンクブレイブ
2017年01月10日

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