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『某日聖夜 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&オリヴィエ・オドランaa0068hero001

 十二月某日。
 ガルー・A・A(aa0076hero001)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の能力者、そして第二英雄は同じ任務で英国ロンドンへと旅立った。
 彼らが不在のその間、日本にて留守番を任されたのはそれぞれの第一英雄。

 これは、この冬一番の寒波がやって来た日の物語……。

「拗ねてる頃じゃねぇかなと思ってな、一緒に飯でもどうだ?」
 冬の早い夕暮れ。古本屋「金木犀」の扉を開けるなり、ガルーは店番をしていたオリヴィエへと朗らかに笑いかけた。
 が、対するオリヴィエはというと。
「間に合っている」
 言うなり扉を閉めようとする。が、寸でのところでガルーは足を差し込んで、扉に足を挟まれることを代償に閉め切られることは阻止できた。
「ちょーっとちょっとちょっとォ、仕事帰りの人間に冷たくしないで頂戴よ」
 今日だって頑張ったんだから、とガルーは足を挟まれた痛みを苦笑で噛み殺す。その言葉を裏付けるように、ガルーの姿はスーツにコートと社会人然としていた。オリヴィエは彼のそんな姿を一瞥し、相手に他に用件はないか眼差しで促した。やれやれと一間の後、ガルーは言葉を続ける。
「リーヴィ、折角だから外に食いに行こうぜ。あ、あと今晩泊まってもいーい? 良いよな」
「……俺の意見を聞く気はないのか」
 立て続けの言葉にオリヴィエの眉間のシワが深くなる。「だってお前の相棒ちゃんに頼まれてるし」とガルーが悪びれない顔で言えば、少年英雄はハァと溜息を吐いて観念した。「戸締りをしてくるから少し待っていろ」と。

 ぱたぱたぱた――店内に引っ込んでいった足音を見送って。ガルーは暖房の効いた古本屋の中、一息を吐く。オリヴィエの相棒に、彼のことを頼まれたことは事実。だがそれ以上に、ガルーにとってオリヴィエに孤独の夜を過ごさせることは気が引けた。
(まぁ、それに二人で過ごすのは嫌いじゃないし、な)
 そうして間もなく、戸締りを終えてコートを羽織ったオリヴィエが戻ってくる。さぁ、出かけよう。







 出かけた先は近所の――ではなく、電車に乗って大通りへと。電車内の広告も町の装飾もクリスマス一色で、改札の向こう側はもう日もとっぷり落ちていて、星よりも煌くイルミネーションがそこかしこに賑わっていた。

「別に近くの店で良かったのに」
 半ば強引に連れ出されたようなものだ。オリヴィエはぐるりとクリスマスの町を見渡した後に、マフラーの奥でモゴモゴ呟いた。
「ファミレスとかはもう新鮮味もないでしょうが」
 はぐれるなよ、とガルーが付け加える。「小さな子供でもあるまいし」とオリヴィエは視線を逸らした。何人もの人と擦れ違う。通り過ぎる店々からはクリスマスソングが流れていた。

 歩いた時間はほどなく、二人の間に特に会話はなく。されど気まずい雰囲気では決してなかった。オリヴィエが饒舌なタイプではないことをガルーは知っていた。オリヴィエとしても「喋って間を持たせねば」と気負いする必要がなく、クリスマスソングを漫然と耳に流す。
 そうして到着したのは、上品な印象のビュッフェレストランだった。
「偶には大人力を見せとかねぇとな」
 奢るからさ。そう言ってガルーはドアを開く。オリヴィエをエスコートする。少年英雄が小食であることを知ってビュッフェを選んだことに果たしてオリヴィエは気付いたかどうか。

「こういう所に来るなら、俺じゃない方がいいんじゃない、か」
 料理を取って席に戻って来るなり、オリヴィエはガルーへそう問うた。卓上に置かれた皿には、まるで几帳面に、そして綺麗に料理達が小盛りに並べられていた。
「例えばどんな人と?」
 オリヴィエの言葉に、ガルーがニヤッと笑う。薬屋という医療職らしく、ガルーの前の皿には栄養バランスを考慮した品が並んでいた。
「……」
 少年英雄はフンと鼻を鳴らすのみ。黙々と、言葉を吐くのではなく料理を口に押し込むのであった。料理の味は、悪くはなかった。







「拗ねるこたないでしょぉ」
 店を出るなりの第一声、ガルーは苦笑を浮かべた。
「別に、拗ねてなんかない」
 オリヴィエはそう答えたが、吐き捨てるような物言いがなによりも雄弁だ。
 というのも……店を出る際。オリヴィエは店員からこう言われたのだ。「ただいま小学生以下のお客様に対してサービス中でして」――つまりガルーとは親子に間違えられたということで。それがオリヴィエには引っかかったようだ。

 ――オリヴィエは。
 この世界で能力者の次に長く時を過ごしている相手……ガルーに対し恋慕を抱いている。何をどう間違えたのか、刷り込みか錯覚かは分からない。けれども誤魔化しようのない事実である。
 だから、そういった恋情の面から見てしまう心に『親子』という言葉がチクリと刺さったのだった。

 そんな理由を、正直にガルーへ話せるわけもなく……。話さないなら話さないまま、このままガルーが「子ども扱いされたことで拗ねている」と勘違いしてくれるのならそれでいい。オリヴィエはそうとすら思っていた。
(こんな感情、あいつにとって何の益にもなりやしないさ)
 だからオリヴィエは平静を装う。装っている、つもりではある。

「リーヴィ」

 ぐるぐる、考えていた最中だった。急にガルーに名を呼ばれたものだから、オリヴィエは弾かれたように顔を上げる。
「ほら、イルミネーションやってる」
 ガルーのその声と同時だった。オリヴィエの視界に飛び込んできたのは、夜に煌く色とりどりのイルミネーション。先ほど駅の外で見かけたようなものではない、より本格的で大規模なものだ。きらりきらりと光の雫。現実感すら遠くなる幻想的な光景。
「……綺麗」
 寸の間、思考を忘れていたほどだった。オリヴィエの唇からこぼれた言葉は、素直な感動。
「そーか」
 これをオリヴィエに見せたくて、ガルーは少しだけ遠回りをしていたのだ。イルミネーションの美しさはガルーには分からない、けれど……隣にオリヴィエがいると、なぜか景色が変わるのだ。美しいとは思えないはずの人工灯も、ガヤガヤとうるさくて雑多な町の風景も、寒いだけの冬の夜も、不思議と綺麗に見えてくるのだ。
 だから、
「お前さんと見たいと思ってな」
 理由は心の中に、ガルーは言う。「そう」と答えたオリヴィエはスマートホンのカメラで風景を撮影していた。後で相棒に見せるためだ。そんな彼の横顔を、ガルーは漫然と眺めている――。

 信頼のおける戦友で、気の置けない友人で……。ガルーはオリヴィエについて思考する。ガルーは彼の、ハッキリと飾らない言葉が好きだ。今まで『唯一人の英雄』だったんだ、寂しくないはずはない。そんな意味でも気にかけてはいる。好意は多大にある。
 が。
 それが友情なのか、親愛なのか、はたまた……答えが出ないまま、日々が過ぎていた。それと同時に、オリヴィエが己に向けてくる気持ちもまた――そんな気配を薄々感づいてもいた。
(いや、まさかな)
 言い聞かせるように心でくり返す。しかしとある好奇心がガルーの中にはあった。

 自分にとって、彼は何なのか――?

 そう思った直後である。もふ、とオリヴィエが控えめにガルーへと身を寄せてくる。誰も見ていない冬の一角、こっそりと。
「……寒いだけだ」
 理由を問われる前に、ガルーと目を合わさないオリヴィエが呟く。
「そうかい」
 ガルーはイルミネーションへ目を細めたまま、どこかぎこちなく――少し困ったように、少し躊躇うように、それでも優しく、オリヴィエの髪を撫でた。ふわりと細く、柔らかい質感。ただの人間の髪のはずなのに、どうして逸品の絹よりも美しく、いい手触りだと感じるのだろう?
 そして、何よりも。
 この、胸に落ちる――じれったいような、締め付けられるような、それでもどこか甘いような、この愛おしさのようなものは、一体なんだろう?
(なんて、)
 雪の所為だ、冬の所為だ、そんな広告文をふと思い出しただけ。

「……」
 触れ合った部分は温かい。その温かさを享受しつつ、オリヴィエはマフラーに顔を埋める。髪から伝うガルーの手の感触。兵器だったこともあり、どちらかというとベタベタ触れられるのは好きではない方――のはずだ。なのにガルーの手に文句を言うとか、離れるとか、そういう選択肢はカケラもない。
「……、」
 オリヴィエは何か言おうとマフラーの中で口を開く。しかし結局言葉は出ず、出所をなくした言葉は心の中で有耶無耶のまま解けていった。このまま時が止まればいい、そんな表現が古本の中にあったような。ありきたりな感情表現……しかし「馬鹿馬鹿しい」などといった否定の気持ちが出ないのは、不思議であった。
 思考してみたところで、結局今のオリヴィエには『答え』は出ない。それでも、それでも……今の立ち位置も、そう悪くはない。それだけは確かな気持ちだった。

 寒いけれど、共にいれば温かい。誰も知らない二人の聖夜は、静かな煌きの中で過ぎていく……。



『了』


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/31歳/バトルメディック
オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)/男/11歳/ジャックポット
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2017年01月10日

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