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『プレゼント 』
Robin redbreastjb2203

 誰かが雪だと、呟いた。
 Robin redbreastがつられて見上げると、厚い雲の合間から白い結晶が、音もなく舞い降りてくる。
「――今年は早いな」
 いつの間にか隣に立っていた天使が、ひとりごとのように呟いた。ロビンはほんの少し考えたあと、相手を見上げ。
「そっか。シスは雪を見慣れてるんだね」
「あそこは毎年のように降るのでな」
 そう答えたシス=カルセドナは、窓から見える四国山脈を見やった。
 ツインバベルがある石鎚山は標高1800mを超えるため、冬になると山頂付近は深雪に覆われてしまう。地球に来るまで雪を見たことが無かった彼らも、今ではすっかり慣れてしまったのだろう。
「あたしはあんまり見慣れてないからかな。雪が降ると綺麗だなって思う」
 今にも泣き出しそうな空が、ぎりぎりまで宝物を閉じこめて、ついに我慢できず最初のひとひらを落とす。
 この瞬間が、ロビンには大切な儀式のようにも思えるのだ。
「俺様も見事だと思うぞ。あの色は俺様にとって真命宿りし色(訳:テーマカラー)でもあるからな」
 にやりと笑むシスの額で、雪のように白い斜め前髪が揺れた。翼も衣服も真っ白な天使を見て、ロビンはふと思う。
 まるで雪の国から来たみたいだ、と。

「こんにちは、ロビンさん」
 背後からかけられた声に振り向くと、そこには銀の瞳を持つ少女の姿があった。
「アテナも来てたんだね」
 ロビンの言葉に、天界の姫は嬉しそうに頷く。
 ここは石鎚山に近い四国のとある場所。撃退士との交流を兼ねたクリスマスパーティが、お忍びで行われているのだ。
「立場上、長居はできないのですが……。少しでも参加できればと、お願いしました」
 彼女はいまだ追われる身であるため、ツインバベルを長く離れられないのだろう。それでも顔を出してくれたことを、ロビンは嬉しく思う。
 自分もアテナと会いたいと思っていたからだ。
「これを皆さんでどうぞ」
 天姫が差し出したのは、乳白色のリボンで結ばれた薄水色の箱。銀色の縁取りがなされたそれは、洒落た心づかいを感じさせる。
「私は地球の文化に詳しくないもので、ベロニカに見繕ってもらいました。喜んでもらえるといいのですが」
 開けてみると、中には花を象った色とりどりのお菓子が納められている。
「キレイなお菓子だね、ありがとう。じゃあ、あたしからはこれをあげるね」
 彼女が取り出した包みをアテナやシスが開くと、中からは長さ20cm弱の筒が出てきた。
「万華鏡っていうんだ。回しながら覗いてみて」
 千代紙で装飾されたそれを、ふたりは興味深そうに覗く。中で踊るビーズやスパンコールが、鏡の反射で美しい模様を作りだしていった。
「わぁ綺麗ですね……!」
「ほう……これはまさにスペクタクルイリュージョンだな…!」
 ふたりの反応を見て、ロビンはプレゼントしてよかったと思う。
「星空みたいでキレイだって思ったから、作ってみたんだ」
「ありがとうございます。大切にしますね」
 アテナが大事そうに万華鏡を箱に収める一方で、いつもより明らかに口数が少ないシスを、ロビンは不思議そうに見やり。
「そう言えばさっきから大人しいね、シス」
 それを聞いたシスは、ちらちらとアテナを気にしながら、身振り手振りで伝えてくる。
(殿下の前ではしゃげるわけないだろう!)
「そう言えばシスは何を持ってきたのですか?」
 アテナの問いかけに、天使は急に慌てた様子になり。
「ぬっ…! 俺はその……」
 しどろもどろで出してきたのは、白いリボンがかけられた赤い箱。
 包みを開けると、中には小ぶりなシロクマのぬいぐるみが入っていた。つぶらな黒目が愛らしく、見るからに手触りが良さそうで。
「ふうん。シスってこういうのが好きなんだね」
「ちちち違うぞ! 貴様らに合わせてエル(妹)に見繕ってもらったのだ! 断じて俺様の趣味では」
「ふかふかしてて、あの時のシスみたい」
 ロビンは民族祭でのクケリ姿を思い出していたのだが、それを知らないアテナはきょとんと小首を傾げ。
「シスはふかふかしているのですか?」
「いや誤解です殿下」
「手とか、もふもふして温かったんだよ」
「おいロビン、誤解を招くようなことを言うな!」

 プレゼント交換が終わったあとは、皆でお菓子屋ケーキを食べたり、ちょっとした余興をやったりと、和やかな時間が過ぎていった。
「クリスマスってとても楽しいですね」
 アテナは初めて見るツリーや食べ物に興味津々と言った様子だった。ときおり浮かべる笑顔は、彼女が大きな使命を背負った王女であることを忘れさせてくれるもので。
「もっと一緒に遊べるようになるといいね」
 ロビンの言葉にアテナはゆっくりと、どこか確信めいたように頷いた。
「皆さんのことはツインバベルで聞いています。いつかそういう日が来ると、私は信じています」
「うん。あたしもそう思うよ」
 この世界には綺麗なものがたくさんある。
 一緒に観に行ける日を想像して、ロビンはほんの少し胸が温かくなるのを感じるのだった。



 その後アテナは一足早く会場を後にし、パーティもお開きの時間を迎えつつあった。
 片付けが終わり、各々が帰宅の途につき始めたころ。先日の約束を思い出したロビンは、シスに声をかけた。
「シス、話したい事があるんだけどいいかな」
「ぬ。いいだろう、俺様もちょうど貴様に話があったところだ」
 会場の外はすっかり日が落ち、柔らかな灯が辺りを淡く照らしている。
 ふたりはうっすら雪化粧がなされた道を並んで歩いた。きんと冷えた大気が、暖房で火照った頬に心地いい。

「この間のことなんだけど」
「この間のことだが」

 同時に切り出された言葉に、思わず顔を見合わせる。気まずそうに押し黙るシスをロビンは不思議そうに眺めつつ。
「先にシスの話を聞くね」
「ぬ……承知した。まあ、その、なんだ。この間は怒鳴って悪かった」
 恐らくはアテナを保護したときのことを言っているのだろう。対するロビンはきょとんと小首を傾げ。
「あたしは撃退士だし、怪我をしたのはあたしが未熟だからだよ。シスが怒ったり謝ったりする必要なんてないのに」
「いやそういうことではなくてだな……」
 天使は何ごとか言おうとするも、うまく言葉にできないのだろう。焦れったそうにかぶりを振ったあと。
「ロビン」
「何?」
「貴様がツインバベルを護るために命を賭けたこと、ありがたいと思う」
 だが、といつになく真剣なまなざしが、彼女を捉えた。
「絶対に死ぬな。貴様に死なれると……困るのだ」
「大丈夫だよ。あたしが死んでも、シスに迷惑かけないようにするから」
「そういうことを言っているのではない! なぜ貴様はそんなふうにしか考えられないのだ?」
 困った様子の相手へ、ロビンは表情ひとつ変えず答える。
「だって迷惑かけたら役に立てないし。役に立てなかったら捨てられちゃうから」
「な……」
 彼女の返答に、シスは絶句している様子だった。しかしロビンにしてみれば、なぜ彼がそんな状態になっているのかがわからない。
 黙り込んだままの相手に、声をかけようとしたときだった。
「ああもう!」
 突然大声を出したシスは、ロビンの腕を掴むと自分の方に向き直らせた。
「シス……?」
「いいかよく聞け。俺はそんなことでお前を捨てたりしないし、迷惑だとも思わん」
 両腕を掴む手に、力がこもるのがわかる。

「だから、ちゃんと生きろ」

「……ちゃんと生きるって?」
「それは自分で考えろ。俺様だって散々悩んで、実践している最中なのだ」
 そう言い切ってから、急に気恥ずかしげな調子になり。
「だが、まあ……迷ったときは話ぐらい聞いてやる」
 手を離したシスは、多く身につけたピアスからひとつを取り外す。差し出されたのは、透明度の高い白水晶。
「俺様が小さいときに親父からもらったものだ。貴様に預けておく」
「どうして?」
「これは俺の言葉が嘘ではないという”誓い”だ。お前が”果たされた”と思ったときに返してくれればいい」
 受け取ったロビンは、水晶をじっと見つめ。
「ふうん。なんだか騎士っぽいね」
「いや騎士だからな?」
 ツッコむシスに頷いてから、相手を見上げ、はっきりと告げる。
「わかった。あたしも頑張るね」
 彼女の胸に、いつになく強い感情がわき上がるのを感じた。
 その正体を自分はまだ知らない。けれどこの気持ちを大事にしたいと、ロビンは思う。

「じゃあ、次はあたしの番だね」
 頷く天使へ、ロビンは先日聞かれたことついて話し始める。
「あたしの願いはね、いつか故郷に帰って家族に会うことだよ」
 忘れていた家族への想い。この学園に来て、いろいろなひとたちと出会う中で、少しずつ取り戻していったものだった。
「そう思えるようになったのは、シスが騎士団や家族を大切に想ってるのを見たからでもあるんだ。だから、気づかせてくれてありがとう」
 黙って聞いていたシスは、かぶりを振り。
「礼などいらん。その代わり、今言った願いは何があっても叶えろ」
「うん。約束するね」
 こくりと頷いたロビンを見て、天使はどこか満足したように笑みを漏らした。
「お前ならやれるはずだ。報告、楽しみにしておいてやる」

 夜空を見上げるといつの間にか雪はやみ、雲間から星が見え始めていた。
 並んで歩くふたりの頭上で、綺羅星がひとつ、またひとつと瞬きだす。
 かわされた小さな誓いが、灯となって道を照らしていく――そのさまを見守ってくれているように、ロビンは思うのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/受け取ったのは】

【jb2203/Robin redbreast/女/15/誓い】

参加NPC

【jz0360/シス=カルセドナ/男/16/約束】
【−/アテナ/女/12/希望】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております。
この度は素敵なご依頼ありがとうございました、とても楽しく書かせていただきました。
かなりアドリブも入ってしまいましたが、少しでもいただいたお気持ちにお応えできていれば幸いです。

八福パーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年01月11日

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