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『確たる明日を見る(6) 』
白鳥・瑞科8402
 揺れる純白。彼女が舞うたびに、白いヴェールはたなびく。戦場を駆ける瑞科の姿はまるで天使のようであり、彼女が通った後に白い羽が舞わない事にかえって違和感を覚える程だ。
 地下室に灯るのはランプの灯りのみであり、太陽の光は差し込んではこない。だというのに、瑞科の周りだけが不思議と眩しく輝いて見えた。まるで、彼女自身が光を体現しているかのように、その姿はどこか神々しく、感情を持たないはずの怪物ですら畏怖の念を覚える。
 対して、彼女の前に立ちはだかるのは黒だ。ローブを纏った闇は、影のように黒い腕を巨大化させるとコルセットによりキュッと締め上げられた瑞科のスタイルの良い細腰を掴もうとする。襲い来るまさに魔の手である相手の攻撃に怯む事もなく、瑞科はその腕を足で蹴り上げた。華麗な足技が決まり、一瞬相手の動きが止まる。その隙を逃す事なく、聖女は更に追撃。彼女の放った拳が、怪物の腕に直撃しその影のような体の一部を霧散させた。
 痛みなど感じぬのか、怪物は怖気づく事はなかったが、それでも瑞科の予想以上に力強い一撃に動揺を示す。再び、怪物は口を開けば呪文を唱え始めた。
 空中に現れた魔法陣から、無数の漆黒の矢が召喚され瑞科を狙い撃つ。数え切れぬ程の矢が、翼なき天使に向かい一斉に放たれた。
 けれど、瑞科の肌が血に汚れる事はない。瑞科は剣を振るい、矢を弾き返した。襲い来る全ての矢を、だ。全ての攻撃を見切り、的確に矢を叩き落としていくのは並大抵の動体視力や反射神経では出来ぬ芸当だろう。他者の追随を許さぬ強さを誇る瑞科だからこそ、なしえた事であった。
 怪物は、それでも果敢に瑞科へと攻撃を繰り返す。彼の中の飢えや欲が、手を止める事を許さないのだ。極上のご馳走であり、美女である瑞科を前にして、正気を保っていろという方が酷な話であろう。人々をさらいその魔力を食らってきた怪物だが、魔術師でも何でもないただの人間からとれる魔力の量は彼には物足りず、常に飢えを感じてきていたのだ。少しでも多く、少しでも良質の魔力を持った者を探しさらっても、彼の飢えが満たされる事はなかった。
 そんな彼にとって、瑞科は初めて彼を満たすに足りる極上の獲物なのである。故に、怪物は瑞科を欲する。彼女に手を伸ばす。極上の魔力を、その魅惑的な身体ごとむしゃぶりつきたいという欲望のままに。
 ……彼が偽物の占い師で未来など見えやしない事は、ある意味幸運な事だったのかもしれない。勝ち目のない未来を見て、絶望する事がないのだから。
 一閃。
 その一撃を、怪物は目で追う事は叶わなかった。あまりにも、彼女は速すぎたのだ。まるで手本のように正確な、それでいて歌劇のように華麗な動作で瑞科は剣を振るい、その闇へと突き刺す。
 光を体現したような聖女の、文字通り光速で繰り出された一撃を受け、闇は静かに消滅していった。

 ◆

 一つの悪が潰え、街は再び平穏を取り戻す。連続失踪事件は解決し、人々が謎の犯人の影に怯える事はなくなった。被害者達も、今はすっかり以前の生活を取り戻している。
 あの事件で奇跡的に死亡者が出なかったのは、瑞科の行動が迅速だったおかげだろう。早急にアジトを突き止め、諸悪の根源である怪物を討伐した。それだけではなく、彼女は被害者達に適切な応急処置まで施していたのである。
 罪なき彼等の命を救えた事を、ただただ嬉しく思い瑞科は神へと感謝の祈りを捧げた。
 占いの館があった場所には、今はもう何もない。まるで最初からそこには何もなかったかのように、怪物を倒すと同時に店は消えてしまったのだ。街の人々も、その事を気にかける事もなかった。

 そんなある日の事である。お気に入りの店でショッピングを楽しんでいた瑞科に、店員はサービスだと何かを差し出してきた。
「よかったらどうぞ、美味しいですよ」
「あら、フォーチュン・クッキーですわね。ありがとう、いただきますわ」
 中に占い結果が書かれた紙が入っているクッキーを手に取り瑞科が微笑めば、「まぁ、あんまり当たらないって評判なんですけどね」と店員は苦笑をこぼす。
「ふふ、占いなんてそんなものですわよ」
 瑞科は、おかしそうにそう笑って、クッキーを大事そうにカバンへとしまった。そう、別に当たらなくてもいいのだ。不確定な未来など、瑞科には必要ない。
 瑞科には見えている。自身が勝利を掴み、街を守る……そんな未来が。誰であろうともその未来は変える事が出来ない。日々悪を倒し続けている彼女のおかげで、今日もその未来は守られている。
 街の人々が、悪に怯える事なく笑い合える未来。それは、瑞科によってもたらされる、確たる明日なのである。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年01月12日

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