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『満ち足りた器 』
水嶋・琴美8036
 科学は発展を遂げ、機械化は進む。世の中は人々の研究のおかげで、日々便利なものへと進化していく。
 今では買い物をしたい時は、指でディスプレイをワンタッチするだけで目当ての商品がすぐに家へと届く時代だ。それでもわざわざ彼女が店へと直接向かうのは、しっかりと自分の目で見て触り商品を吟味したいからに他ならない。
(それに、ショッピングは楽しいですもの)
 店の中の商品を見て回るだけでも、女の子の心は満たされるものなのだ。
 長く伸びた艶やかな黒髪に、存在を主張する豊満な胸。女性らしい魅惑的なグラマラスの体を持ち、精巧に作られた人形のように整った容姿である水嶋・琴美は見るからに普通の少女達とは一線を画した存在である。けれども、その胸には年相応の少女らしい感情を秘めていた。久しぶりの休日にお気に入りのブティックへとやってきている琴美の表情は、とても晴れやかだ。
 店内には、琴美以外に人の姿はない。否、人の形をした影は一つだけ存在している。
『イラッシャイマセ』
 機械音でそう口にしたそれは、オーソドックスな店員アンドロイドだ。ロボットの研究は発展を遂げ、今や街でアンドロイドを見かけない日はない。外を歩けば、アンドロイド達が道を清掃していたり、力仕事を手伝っていたりもする。
 琴美は何着かめぼしい服を見繕い、試着室へと向かえば次々に着替え始めた。どの服も琴美によく似合い、ただでさえ美しい彼女をより一層魅力的に彩る。惜しむらくは、このファッションショーを見れる幸運な観客がここにはいない事だろう。
 一通り着替えを楽しんだ琴美は、購入したい服を手に店員の元へと向かった。
『ソウイエバ、コトミ様ニ、似合イソウナ新作ガ入荷シテマスヨ』
「あら……では、そちらもお願いいたしますわ」
 アンドロイドといえど、やる事や話す事は普通の店員とそうかわりはない。人と違うのはその機械音の声と見るからに無機質な肌くらいなもので、仕事はきっちりこなしてくれる。
 奥へと商品を取りに行っているアンドロイドを待つ間、琴美は小物を見る事にした。そして、彼女がストールを手に取った、その時だ。
「きゃあああ! 誰か! 助けて!」
 ――悲鳴が、琴美の耳へと届いたのは。
 慌てて、琴美は声のしたほうへと走る。外に出てみると、道の隅っこで何者かに襲われている女性の姿があった。
「大丈夫でして? 今お助けしますわ!」
 そして、琴美は襲いかかっている人影の姿を確認し、息を呑んだ。
「あれは……アンドロイド?」
 女性を襲っていたのは、普段は道を清掃しているアンドロイドであった。アンドロイドは何よりも安全を重視して造られている。もし何らかの不具合やトラブルが起こった時は、自動的に電源が落ちるようになっているのだ。そもそも、他人に危害を加えるプログラムなど搭載されていない。彼らが人を襲うなど、今まで一度たりともなかった事だ。
(ショッピングは、どうやら一時中断のようですわね)
 なんであれ、今は女性を助ける事が何よりも優先すべき事だろう。琴美は、戦闘の構えをとった。
 水嶋・琴美。彼女は、ただの少女ではない。自衛隊、特務統合機動課という秘密組織に身を置く隊員なのだ。魑魅魍魎のせん滅や、暗殺に情報収集などの特別任務を遂行する事……そして、市民を守るのが彼女の仕事である。
「戦闘用の衣装ではないので派手には動けませんけれど……この程度の事、ハンデの内ですわ」
 瞬時に琴美は疾駆。まずは女性を助け、安全な場所へと移動させる。
 琴美の速度はアンドロイドであっても視認出来なかったようで、突然消えた女性の姿に処理が追いつかずアンドロイドは戸惑うような動きを見せた。
 その隙を付き、相手との間にあった距離をいっきに詰め、琴美は相手の体へと華麗な回し蹴りを叩き込む。衝撃に、アンドロイドは機能を停止し崩れ落ちた。
 瞬殺。彼女が今着ている服が特別な素材で出来ているわけではない私服である事が信じられなくなる程、琴美の動きは機敏であった。それでも、今のは琴美の全力ではない。もし全力で戦っていたとしたら、特別な素材で出来ているわけではないこの衣服は衝撃に耐えきれずに使い物にならなくなってしまっていた事だろう。戦闘用の衣服を身にまとっていたとしたら、それこそアンドロイドを止めるのに五秒もかからなかったはずだ。
 お礼を言ってくる女性に笑顔で言葉を返し、琴美は自らの上司、そしてアンドロイドの製造会社へと先程の件を連絡する。
(それにしても、何故アンドロイドが突然暴走を……?)
 少女は、その整った眉を訝しげにひそめる。何か、裏で大きな悪が動こうとしている……そんな予感がした。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年01月12日

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