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『●空色レター 』
ルナ・レンフィールドka1565)&ユリアン・クレティエka1664

「有り難うございましたー」
 店を出た途端に吹いた空っ風に、ルナは思わず髪を抑えた。
 地面を枯れ葉が逃げ惑うように駆け抜けていく。
 見上げれば青い空。季節は間もなく12月になろうとしていた。
 朝晩は日に日に寒さが増す一方で、天気の良い日中の日差しはまだ暖かく、歩いていればうっすらと汗をかくほどだ。
 ルナは買った荷物を持ち直すと、ゆっくりと歩き始める。
 紅葉も終わり、落葉も済んだ裸の街路樹が冬の町を演出する。
 通りがかった公園でふとルナは足を止めた。
 木陰では少女がフルートを構え、それを見守る少年がいる。
 まだ手にとって日が浅いのだろう。たどたどしい運指で、恐らく肺活量も足りない。それでも一生懸命に易しい童謡を一曲吹ききって、少年から拍手を貰うと嬉しそうに笑っていた。
「いいなぁ」
 思わず溢れた言葉にルナは小さく笑った。そして、吹く風に誘われ空を見上げる。

 ――今、貴方はどんな景色を見て、どんな音を聴いて居ますか?

 今日こそ、手紙を書こう。
 便せんはすでに準備してある。澄んだ青空のような水色の便せん。
 何度も別の紙に下書きをして、そのたびに書き直していたからまだ手付かずだけれど。
 今日こそ、完成させよう。
 そう、心に誓って家路を急ぐ。

 書きたいことは沢山あった。
 【EC】として南方大陸の砂漠地域で戦ったこと、東方まで温泉旅行に行ったこと。
 エルフハイム、沢山の人の想いをのせた魔剣との戦いのこと。
 聞きたいことも沢山あった。
 今、どこにいるのか。元気でいるのか。どんな出逢いがあって、別れがあったのか。
 何を知って、何を思って、何を考えて、何をしているのか。

 読んで心配させるような文章は書きたくなかった。
 早く帰って来てほしい、逢いたいという想いの反面、ゆっくり、本人が納得するまで旅をして欲しいという思いもあるから、あまり詰問するような内容にもしたくなかった。
 机にかじりつくようにして書き進め、何度も何度も書き直して……ようやく纏まってきた。
 変わらずにいるということ。音楽はいつでもここにあって、歌はまだ練習中だということ。
 それでもユリアンの言葉を信じているから――
 『私も、ユリアンさんの想いを、優しさ、力を信じている』
 この一文を書こうか書くまいかで、実はずっと止まっている。
 口にしたことはある、直接本人に告げたこともある。
 なのに、文字に書き起こす、それが何だか気恥ずかしい。
「あぁ、そうか」
 別に直接書かなくても良いのか、と思い当たる。
 丁寧に書けば伝わるはずだ。自分がユリアンのことをどれほど信じているのか。
 だから、今度こそ本番、と最初からゆっくりと丁寧な文字で書き始めた。


 この手紙が、本当に届くかはわからない。
 彼は今も旅の途中で、きっと西へ東へと一箇所に留まってはいないだろうから。
 それでも。
「お願いします」
 ルナは風の噂を頼りに行商人に手紙を託す。
 行商人はその手紙を大事そうに鞄にしまうと軽く会釈した後、ゆるりと馬車を走らせ始めた。
 ルナは徐々に遠ざかり、小さくなっていくその幌の背を、祈るようにしていつまでも見送ったのだった。



 DEAR ユリアンさん
 だいぶ秋風も冷たくなって、冬の気配が迫ってきた今日この頃。
 ユリアンさんはお変わりなくお過ごしですか?
 私達は今年もカサンドラ様の音楽会にお邪魔してきました。
 今年は去年より演奏者が多くてとても賑やかで楽しい時間でしたよ。
 村の子ども達の一生懸命に演奏する姿もとても可愛らしくて、素敵な演奏会になりました。
 あと、王国の酒場で演奏する機会がありました。
 赤の隊の皆さんは本当に賑やかで、とてもエネルギッシュでびっくりしました。
 でも、ちゃんと演奏を聴いてくれたり、歌を、と言って貰えたりしたのは嬉しかったです。
 ……歌うことはまだ上手く行かないけれど、でもユリアンさんに「信じる」と言って貰ったから、
もうちょっと頑張ってみようと思います。
 何だか私の事ばかりになってしまいましたが、ユリアンさんはどんな出逢いがありましたか?
 またお話が聞ける日を楽しみにしています。
 どうぞ道中お気を付けて。貴方の旅がより良きものとなるようお祈りしております。
                                        FROM ルナ



「おぉ、だいぶ進んだな」
 男に声を掛けられ、ユリアンは斧を振るう手を止めた。
「ようやく、ひと山ですけどね」
「いやいや、斧を持てばふらついて、薪を割れば吹っ飛ばしてた最初に比べたら」
 そう男は言うとカラカラと笑った。その口ぶりと笑い声に嫌味はない。もっとも大げさでも無く事実でしかなかったので、ユリアンとしても否定のしようが無く、頭を掻きつつ恐縮するばかりだ。
「そろそろ日が暮れる。出来た薪は一抱えごとに縛って、小屋の裏に。あとはそのままでいいけど、斧だけは小屋の中へな」
「わかりました」

 男に指示されたとおりに片付け、部屋へと戻る頃にはすっかり陽が沈んでいた。

 ユリアンは手早くランプに火を灯し、暖炉を焚いた。
 ユリアンがここ、帝国の長城近く、移民が住まうこの村に辿り着いたのは3日ほど前。
 その数日前に辺境にある無人の村で倒れ、生死の境を彷徨ったばかりのユリアンは、何とか九死に一生を得たものの、引き替えに驚くほど体力が無くなっていた。
 一人旅というのは体力がものをいう。知人に事情を話したところ快く滞在を許して貰い、この部屋を借り、今は薪割りや冬支度の手伝いなどの雑務を引き受けながら体力の回復を待っていた。
 男と別れ際に「嫁が作り過ぎちまったんだと」と分けて貰ったシチューを軽く温め直す。ゴロゴロと野菜の入ったシチューはよく煮込まれており、野菜の甘みが活きた素朴な美味しさがあった。
 ……気を遣って貰っているのだろうという自覚はあった。だが、今はその好意に有り難く甘えつつ、旅立ちに向けて一日も早い体力の回復に努めなければならない。

 綺麗に平らげると片付けを終え、ユリアンは机に向かう。

 ガタガタと晩秋の風が窓を叩き、どこからともなくすきま風が入り込んではランプの火を揺らした。
 外の冷気は刺すようで、暖炉から離れている机周囲の温度は低い。
 それでも、それすら自分が生きている事を自覚させてくれるようで、ユリアンは上着一枚羽織った状態でペンを握った。
「前略、お変わりなくお過ごしでしょうか……と」
 辺境の村の状態を報告するための手紙だった。
 今は無人のあの村だがユリアン達にとっては今も大切な村だ。
 だが、無人となった村は荒廃するのも早い。少しでもそれを止めたくてユリアンは手をかけているのだが、一人でやるには限界もある。
 客観的な事実を中心に師匠へと現状報告を綴る。

 書き終わり、封をして。鞄に封筒を詰めようとして、もう一通の便せんが指先に触れた。
 便せんを求めて村唯一の雑貨屋に行ったところ、最初に渡されたのがこの淡い水色の便せんだった。
 普通の、無地のが欲しいですと言ったところ、無事欲しい形のものも手に入ったのだが、何となく返しそびれてしまって、結局両方とも購入してきたのだ。
「……どうしようかな」
 そう口にはしたものの、この便せんを見た時に最初に浮かんだ顔は師匠でも妹でもなかった。
 怪我をした自分を見舞いに来てくれた、「信じている」そう言ってくれた、ひたむきな紫の瞳の彼女。
「……手紙、書いてみようかな」
 きっと、心配している。自惚れでは無くて、彼女はそういう人だから、きっと心配している。
 だからこそ、内容はありきたりのことばかりになるし、身体を壊したなんて絶対書けないけれど。
 ……書けない事すら、彼女は察してしまうんじゃないかと思うと、ペンを持った手が止まる。
「それでも、書かなくちゃ」
 連絡が無いままと、あったのでは違うはずだ。そう信じてペンを走らせる。

 オオカミだろうか、犬だろうか。遠く小さく遠吠えが聞こえる。

 ――ルナさんは今、どんな夜を過ごしているだろうか。どんな音を奏でているのだろうか。

 ユリアンの想いと力を信じると言ってくれた彼女の強さを、ユリアンもまた信じている。
 たとえ、立ち止まる日があっても、きっと彼女は笑顔で歌えるようになる。
 そしてその“いつか”はそう遠くない未来だとも、信じている。
 視線を紙から窓へと移す。
 いつか凍てつく北の大地で二人で見た星空よりすこし彩度の低い夜空がそこには広がっていた。
「そろそろ次に……東方に、行こうかな」
 ユリアンは戻ってきた力を確かめるように強く拳を握ると胸に抱いた。



 ルナ・レンフィールド様
 前略
 元気にしているかな? 俺は今、帝国の長城近くにある、とある村に身を寄せてる。
 こちらはリゼリオに比べたら北にあるせいか、寒さがだいぶ厳しい感じだけど、俺は元気です。
 そちらはそろそろ聖輝祭の準備が始まる頃かな?
 こちらは雪が降る前にやらなきゃいけないことがいっぱいあって、それどころじゃないって感じ。
 あまり音楽を演奏してくれる人もいなくて、たまにリュートの音を聴くと、ルナさんの事を思い出すよ。
 そしてそのたびに思うんだ。ルナさんは俺よりずっと先を歩いているって。
 ルナさんは、大丈夫だよ。
 ……いや、もしかしたら、もう歌えるようになっているのかもしれないな。
 そうならいいけど、違ったとしても、焦らなくて大丈夫だよ。
 これから、寒さは厳しさを増すけれど、どうか身体を大事にして。
    草々 ユリアン



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1565/ルナ・レンフィールド/女/外見年齢16歳/魔術師】
【ka1664/ユリアン/男/外見年齢18歳/疾影士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 大変お待たせしてしまって申し訳ありません。
 お二人の歴史、積み上げてきた言葉、一緒に駆け抜けた風景をなるべく取り込みたいと試行錯誤しておりました。
 その結果、二人の距離感やその思いの在り方が描けていると良いのですが如何でしたでしょうか?

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またファナティックブラッドの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
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葉槻 クリエイターズルームへ
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2017年01月20日

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