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『体温吉日 』
春都jb2291


 ひゅぅん、ひゅぅん。
 ――ぽぽぽ。

 白練の色が空を飛んでいた。
 燥ぐ雪玉。
 操るのは可憐な“橙花”――春都(jb2291)

「ついに私の必殺技をご披露する時がきましたか……。行きますよー、ダイ先生! ウルトラサンダーローリングクラッシュハートフルファイヤーダイナマイトマカダミア――」
「長ぇわッ!!!」
「Σナッツーーー!?」

 慈悲のないスピードで空間を滑ってきた雪玉が、春都の顔面でクラッシュ。彼女が握り締めていた雪玉が、ふよよよ〜〜〜ん、と、ダイナマ 伊藤(jz0126)の頭上を鈍く走り抜け――、



「春都君。と、そのオマケ。そろそろ休憩したらどうだい? 温かいココアを持ってき、」



 ぺしょっ。

 藤宮 流架(jz0111)の前髪でその動きを停止した。一瞬、春都とダイナマの心臓も停止した。
 口許に薄い笑みを置いたまま、視線を落とした流架は前髪を掻き上げる。そして、ふっと白い吐息を零すと、翡翠色の瞳が二人を捉え――嗤った。

 そののち、春都は雪玉マシンガンに何度もダウンを奪われながらも全力で雪合戦を楽しんだ。





 それは、“犬”になった翌日――白く縁どった寒い冬の日、X' masの想い出日和。




 ――翌日。

 清く穢れのない青。
 小鳥が空で宙返りをした。





 とある処の隅に建てられた純和風な平屋。
 庭に茂る葉の筋から朝露が涙した。

「(……?)」

 朝な吐息が春都の唇から漏れる。

「(……あっつい……)」

 目覚めた春都の意識は、靄がかかっているようであった。目覚めの香は何時もと変わりのない藺草の香り、そして――身体には不自然な暑さが纏っている。

 ぼんやりと天井を見つめながら、数分。

 ――気だるい。
 それは思考だけではなかった。まるで、鉛を抱えているかのような感覚が春都の動作を鈍らせる。漸く上半身を起こしてみれば、意識の朧げは目覚めの時より酷くなっていた。

 春都は睫毛を細波のように揺らしながら、琥珀な双眸を緩やかに閉ざす。細い指先が無意識に額へ触れた。その“違和感”に、ふっと睫毛が上がる。

「(……手が、冷たくない……?)」

 平素より冷えた手先に、感じ慣れない熱を覚えた。嫌な予感が春都の胸底へ沈んでゆく。四つん這いで、のそのそ、戸棚の前へ移動すると、取り出した体温計を脇の下に挿した。

 ……。
 …………。
 ………………。

 ――ピピピ。

「……わ」

 気鬱に視線を落とせば、やはり――表示画面に“風邪”と告げられていた。その理由は大方予想がつく。先日の雪上がりの遊戯が主な原因だろう。

「うぅ……情けない……。私の体力ってどうしてこんなに低いんだろ……」

 しかし、後悔はしていない。
 自分の形を成しながら笑い声を奏で、全力で遊んだのだ。弾む鼓動を雪玉に乗せ、互いにぶつけ合った本気の時間。彼の笑顔が瞬いていたのを憶えている。

 ダイナマの“陽射し”に沢山の元気と笑顔をもらった。見えないけれど、温もりを繋いだ――そう思いたい。

「(あったかい物と薬飲んで、寝てれば治る……かな?)」

 春都は布団の上に掛けていた着る毛布を指先で引き寄せると、乏しい気力を腰で持ち上げ、力ない足取りで御勝手へと向かった。





 薬缶にとぽとぽ水を注ぎ。
 コンロに置いて、火をつける。

 向日葵の柄を纏いながら、水面が揺れる音をぼんやり聞いていると――、



 ぴんぽーん。



 訪問を告げるチャイムの音が春都の意識を「おろ……?」と、浮かせた。
 ひよこ型のキッチンタイマーに目をやれば、時刻は10時45分。こんな中途半端な時間に誰であろうか。

 マスクの紐を耳にかけながら、春都は億劫そうに玄関のサンダルに足を掛ける。そして、がらがらと音を立てて引き戸を開けると、



 ――昨日と同じ笑顔の彼がいた。

「よっ、おはようさん」
「……ダイ先生?」
「お前さん、昨日マフラー忘れてっただろ」
「え……?」
「雪合戦に熱くなって外してたじゃねーか。公園のベンチに置きっぱだったぜ。帰り道、寒かっただろ。へーきだったか?」
「ベンチに……ああ、あー……そうでしたか。すみません、お手数かけました……」

 春都は差し出された蒲公英色の紙袋を徐に受け取ると、ぺこり。伏し目がちに頭を下げた。

 ――次ぐ言葉が見当たらないのは何故だろう。
 何時ものように、彼の京紫な双眸を見上げることが出来なかった。

「……あんまへーきな感じじゃないわね」

 不意に、ふっ、と、春都の額に大きな掌が触れてきた。

「(……冷たい)」

 外の冷気を含んだダイナマの温度が、熱を持った額に心地良い。春都の目許が一瞬、安堵に緩む。だが、頭上から聞こえた彼の苦笑に、春都は項垂れた。
 ――情けない。
 彼は学園の保険医であり、又、医者でもあるのだ。春都の風邪など当に見透かされていた。

「お前さん、雪で濡れた髪きちんと拭かなかったろ。蒲公英の綿毛みてーなのがくっついてるニット帽、めっちゃ吹き飛ばされてたもんな。オレに」
「まあ……そうですね……」
「それに、その様子じゃお前さん起きたばっかなんじゃねぇのか? まだ朝飯食ってねぇだろ」
「……だったら、何なんですか」
「邪魔していいなら何か作ってやるぜ? 食材がなかったら買ってきてやるしよ」

 ――お願い。

「いえ……結構です。一人で適当に食べますんで」

 聞かないで。

「似合わねぇ遠慮してんじゃねーよ。どうせインスタントのスープとかで済まそうとしてたんだろ?」
「別に……そんなの、私の勝手じゃないですか」

 見ないで。

「どしたんよ、春都。体調が悪い時くらい素直に甘えておくもんだぜ?」

 素気(すげ)ない私を。
 弱い私を。

「……」
「春都?」

 ――心に咲くのは凍てついた棘の花。



「……私が風邪ひいたって、ダイ先生には関係ないじゃないですか……」



 ――。
 体調不良という“言い訳”に意識を任せ、自分の口を衝いた厭らしい言葉。

 唯一の救いは、彼の気配に動揺も不快も感じられなかったこと。
 しかし、春都は当然のことながら自分の言葉に嫌悪する。

「ごめんなさい……今自分のことで手一杯で……だから」

 だから、今だけはさよならと言って。
 私の叫びなど見て見ぬフリをして、また会える約束だけをして。

 氷の棘があなたの心を刺す前に、どうか――。

 ダイナマが短く息を吸った。何かを言いかけようとしたその空気と重なって、玄関の奥から鳴り響く甲高い音が二人の耳を衝く。

「(あ……薬缶……!)」

 火に掛けていたのを忘れていた。
 慌てて振り返った春都がサンダルを脱ぎ捨てて踏み出す。しかし、瞬きをした直後――ゆらり。視界が波打つように渦巻き、足許がぐらついた。

「っ――!」

 床面は歪み、鼓動は乱れ、最後は膝から転がるようにして倒れ――、





「……、……?」

 ――なかった。

 衝撃も、痛みも、意識の失いも。
 唯、在ったのは――“憧れ”。

「わ、わ、わぁー!?」
「人の耳許で騒ぐなっつの。熱も上がんぞ?」
「だ、だって……その、いきなり……お、お姫様抱っことか……」

 彼の腕に軽々と持ち上げられたのは、春都の身体。
 見慣れない視線の位置。
 竦めた肩に、激しくなる動悸。

「廊下とキスしたかったら別に止めなかったぜ? 今からでもすっか?」
「Σちょっ! この高さから落とされたら私の顔面がへこんじゃいますって! 熱上がるどころじゃないですし……」
「おう、だな。――じゃ、風邪ひきの春都は大人しくドクターの言うこと聞いてりゃいいんだよ。OK?」
「……あ」

 互いの視線がぶつかった。頬を傾けて笑むダイナマ。その面を、今日初めてまともに見たような気がして――。目の縁を突き上げてくる感情に春都は一瞬だけ睫毛を細かく揺らすと、息を詰めた。

「その……すみませんでした……」
「あん? コンロの火のことか? ちゃんとスイッチ押して消火しといたわよ」
「ち、違いますって。あ、いえ、違わないですけど……ほら……私、さっき……ダイ先生に酷いこと――」
「別にいーんでねーの?」
「え……?」
「お前さんに余裕がねぇ時は、オレの余裕で受け止めてやんよ」

 ――春都の胸が静かに騒いだ。

「……」
「おい、春都?」
「……ありがとうございます」
「おう」
「それと……そろそろ下ろしていただけると、助かります。本気で熱が上がりそうなので……」
「あ、さーせん」

 裸足でぺたん。
 床の冷温が足の裏から伝わってくる。春都は、火照った身体を「ふぅ……」と、落ち着かせた。
 そして、彼からふいと首を背けることで、“温もり”の未練を無理に断ち切る。――断ち切れる、だろうか。暫くは、思い起こす度に頬に熱を覚えてしまいそうだ。










 目覚めた時にひとりぼっちでも。
 行き場のない寂しさに踏まれても。

 太陽は私の傍にいる。

 この心の奥の渇きはきっと、抱いた憧れ。
 綺麗でなくても、少しずつでも、私の光があなたの“余裕”に差し込むように――。

 だが、今は取り敢えず。










「――ダイ先生、お腹すきました!」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb2291 / 春都 / 女 / 18 / ゆきだまのうた】
【jz0126 / ダイナマ 伊藤 / 男 / 30 / ひざしのしずく】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / ゆきおに】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愁水です。
平素よりお世話になっております。
雪合戦の翌日の出来事――お届け致します。

この後、春都様はダイナマが作った鮭とほうれん草のシチューに舌鼓したとか(
又、お任せ頂いたシーン、ご希望の描写などは如何でしたでしょうか?お楽しみ頂けましたら幸いです。

素敵なご縁とご依頼、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2017年01月20日

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