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『―空想世界の屋台骨・1― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 先のクエストが終了し、皆の記憶からあの事件そのものが消え去ろうかという頃合い。
 海原みなもは、久々にそのフィールドマップ上に立っていた。
「……イメチェン?」
「んー、そういう訳でも無いんだけどね」
 少年――ウィザードの問いに、少々バツが悪そうな表情を浮かべながら、みなもは答えた。
「あの『転生』には、外からの……いけない圧力が掛かっていたでしょ? だから、その結果として追加された能力なんかは、ぜんぶ返上しようとしたの。そしたら、お父さんが泣いちゃったから……」
 それを聞いて『あー』と苦笑いを浮かべるのは、ガルダに扮する少女――瀬名雫だった。
「まぁ、良かれと思ってしたことが裏目に出た訳だし? 自業自得ってトコなんだろうけどね。やり過ぎた感はあったけど」
「だから、ちょっと可哀想になっちゃって。実際の能力に関係ないトコと、身を守る為の力をちょっとだけ貰う事にしたんです」
「はー……だから、ちょっとデコった感じになってる訳だね?」
 漸く事情が分かってきた、という感じでウィザードが再び口を開く。それを受けて、みなもは『派手かな?』と自らの身体を見回してみた。
 まず、髪と下半身の鱗が、明るいメタリックブルーに変わっていた。元々青い髪色だったが、更に明るい色調になり、陽光に当たるとキラキラ輝く独特の光沢が織り込まれたものに変わっていたのだ。
 種族もワンランク上の『ハイ・ラミア』となったのを取り消し、その代わりに魔術『ブライトソード』の実装と、それを展開しても通常稼働に支障が出ない程度の魔力増幅だけに留め、あからさまなレベルアップの進呈は不要とし、辞退したという訳である。
「お父さんとしては、かなりガッカリしただろうね?」
「それは……でも、いけない事ですから。こういう事は、キッパリ言わなきゃダメなんです」
「でも、全否定はしないでお父さんの立場を考えてあげてるよね。やっぱり君、優しいよね」
 それはまぁ、同じ家に住んでる家族だし、あまり角が立ってもねぇ……と、みなもはこの折衷案に持ち込むまでの紆余曲折を思い出し、苦笑いを浮かべていた。
 最初は『苦もなくジャンプアップできるのに、何故怒るんだい』と、理解を示さない父に苛立ちを覚え、全てを否定しようとした。が、後に彼がかなりの便宜を図り、運営や開発室に対し頭を下げまくってこのクエストボーナスを貰える事になった顛末を知って、同情する気になったのだ。
 しかし、やはり皆が苦労して手に入れる『力』を、特権の行使によりポンと与えられたのでは気が引ける。なので、実力とは縁遠いファッションアイテムの方が良いという『女の子らしい』希望を出し、父に切り出した。此処までで3週間を要していたのである。
「んで、その申請は君からじゃ出来ないから……」
「そ。お父さんに頼んだの。自分の中では『新しい洋服を買って貰った』って感じに脳内変換してるけどね」
「まぁ、メタリック系の配色はオプション扱いの課金アイテムだからね。アップグレードの方向性を見直して、且つ等価に持って行ったワケね」
 そういう事! と、みなもは笑顔に戻って皆の方に向き直った。その様に、雫は『落としどころが見付かって、良かったね』と、安堵の表情を浮かべていた。しかし、意外な事にウィザードは冷静に『それだけ?』と問い質してきた。
「ファッション要素だけでなく、僅かだけど魔力の確保と『ブライトソード』だけは残したよね。これは何故?」
 その問いに、みなもは『うっ』と詰まったような表情に戻ってしまった。然もありなん、それは彼女がルール違反を承知してでも『欲しい』と思っていた力だったのだから。
「……あのクエストが終わっった直後、ゴーレムさんに襲われかけたでしょ? でも、『ブライトソード』のお陰でダメージを負わずに済んだ。これから先、あんな感じで不意打ちを食らったら怖いと思ったから……」
 成る程、彼女はマイペースを保つのに必要と判断して『自衛』の為の力が欲しい、と願ったのだなと、ウィザードは頷いた。
「ゴメン、責めるつもりは無いんだ。けど、レベルアップは要らないと言っていたのと、この結果が矛盾するからね。ちょっと気になったんだ。そうか、護身の為には必要な事だもんな」
 ウィザードは、うん……と、力なく頷くみなもの肩を、ポンと叩いて笑顔を見せた。そして、久々に3人揃ったんだし、更新されたゲーム内容を確認しよう、という事になった。

***

「長期間のゲーム内滞在を可能にする為、経過時間のカウントを可能な限り圧縮……?」
 まず、目についたのがその項目だった。これを見て、みなもと雫は『あっ』と顔を見合わせた。
「これって、この間の……」
「だね。アレと全く同じだよ」
 一人、置いてけぼり状態のウィザードが『何の事?』と説明を求めて来たので、二人は事の経緯を説いて聞かせた。
 彼女たちが別のゲームで体験した新機軸の世界観と、ゲーム内時間と実時間の大きな差に驚いた事を、順を追って分かり易く。
「へー、要は『魔界の楽園』からバトル要素を取っ払って、人間として仮想空間でのサバイバルを体験できるシミュレーションって感じかな?」
「そうそう。いつだったか、あたし達がゲーム内に閉じ込められて、暫く出られなくなった事があったでしょ? まだ瀬名さんが参加する前に」
 あの時は、ハッカーによるプログラムの書き換えを抑止する為にユーザー管理エリアを隔離し、防壁を張った事が仇となり、結果として多くのユーザーを長時間、ゲーム内に幽閉する事となってしまった。
 その際にユーザーたちはサバイバル生活を強要され、その中でウィザードとみなもは様々な危機を共力しながら乗り越えて、無事に脱出した経験があったのだ。が、不思議な事に、その時も数カ月と云う長期に亘るサバイバル生活を体験した筈なのに、実際には数時間しか経過していなかった……それを、二人は思い出していた。
「あの時、偶然発見されたアルゴリズムが活かされてるのかな?」
「そうとは言い切れないけど、同じ開発チームが作ったものだしね。原理はそこから来てんじゃないかな」
 と、開発に至った経緯はサラリと流され、このアップデートによってゲームの楽しみ方が随分変わってくるね、という話題に切り替わっていった。
「こういう表現は好きじゃないけど、ネット廃人系の人は入り浸るよね」
「うん。あたし達みたいなマイペース派なら、時々キャンプの真似事でもしようか、で済むけどね」
 ひたすら長時間、仮想空間の中で過ごしていられる。しかし実際の時間は僅かしか経過しない。この特徴をネットジャンキー達が放置する筈は無い。それは容易に想像できた事だった。
「そういう人が増えない事を、祈るだけだね」
「そうだね。ま、人は人、俺たちは俺たち。それぞれに楽しめばいいのさ」
 多少、良からぬ傾向も予想されるが、自分たちがそうならぬように気を付けていればいいだけの事。そう結論付けて、彼らはこの新たな機能をどう楽しむかという話にシフトした。
 結局その日は、一泊でどれだけの時間が経過するのかを体感するため、山中に野営してキャンプを楽しむという趣向になったようである。
 結果、ゲーム内での24時間が実際の30分に相当するという事が分かり、以降はそれを目安にして行動する事が彼らの暗黙のルールになったという。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年01月23日

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