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『道しるべの先は未定 』
十影夕aa0890)&雨堤 悠aa3239


 年末の慌ただしさ。
 年始のかったるさ。
 それぞれを乗り越え、世間は少しずつ『日常生活』へ戻りつつある。
「あ」
 真新しいカレンダーを見て、十影夕は小さく声を漏らした。
 暦の上では、あと何日間かだけ『正月』だ。
(そういえば、行ってなかったな……)
 正月である間に行っておきたい場所がある。
 十影夕、17歳。
 春になれば、高校3年生だ。




 ポン、とパソコンが新着メッセージを告げる。
 雨堤 悠は朝食の後片付けをしていた手を止めて相手を確認した。
「夕君? めずらしいな、こんな時間から」
 夕はオンラインゲーム仲間。友達……だと思っている、悠は。
 でも向こうはどうだろう? ……という、ネット社会の弊害とも言える微妙な間柄。

『おはよ。ハルさんは受験生のとき、初詣どこ行った?』
 
 唐突な質問であった。
 受験生? 初詣??
「受験生の時……。あー、どこだっけ? あの有名なところ」
 首を捻りながら、返答を打ち込む。
 ぼんやりとしか覚えていないが、『受験生はみんな行くから』と親に連れ出された記憶はある。
『お正月だし、リアル神社いっしょに行かない?』
 リアル神社。
 その単語に、変な笑いがこみ上げた。
(ああ、そうか。夕君も今年から受験生か)
 彼も神頼みなんてするのだろうか。
 それとも外の空気を吸う理由付け?
 いずれにせよ、そのお供に声を掛けてくれたことは単純に嬉しい。
「いいよ、暇だし」
 ゲーム内の正月イベントも一通りは終わったし。とは言わずもがな。
 悠は細いフレームの眼鏡のブリッジを押し上げ、表情を和らげる。
『それじゃあ――……』
 待ち合わせの場所と時間を決めて、通信を終えた。
「実に健全だな」
 ゲームが不健康だなんて今更いわないが、ここしばらく自室を満喫しっぱなしだったことは事実。
 悠は大きく伸びをすると、窓の向こうに広がる青空を眺めた。
 カラリとした、とても良い天気だ。




 正月三が日を過ぎ、幾分か減ったであろうに参拝客の姿はそこかしこにある。
 学業の神様を祀った神社というだけあって、青少年や保護者と思われる組み合わせが多い。
 参道の人混みの中から夕を見つけ出し、悠は名を呼んだ。
 俯いていた金色の瞳がこちらを認める。
「ハルさん」
「明けましておめでとう、夕君。待たせてごめん、寒かったよな」
「おめでとう、今年もよろしく。んん、平気だったよ」
 鼻先まで上げていた水色のマフラーを下ろしながら、夕は軽く首を横に振った。
「あ。これ、貰ったやつなんだ。クリスマスに」
「? うん、良い色だね」
「……子供っぽくない?」
「そうかな、気にならないけど」
(気にしているのか)
 こちらが何を言うでもないのに先制の言い訳をしてくるのは、そういうことなのだろう。
 気にしているのに、貰ったものを身に着ける夕は優しい。悠はそう思う。


(ハルさんは、今日もオシャレだよな……。大学生だからなのかな、ハルさんだからなのかな)
 対する夕は、そんな目で悠を見ていた。
 袖にデザインが入った黒のコートも、それに合わせたマフラーも、悠だから着こなせる。
 自分の容姿を知った上で、何が似合うかを選んでいる。オシャレでカッコいい大学生。
 年はそんなに違わないのに、身長だって同じなのに、自分とはまるで違うのだ。
 そう思うと、巻いてきたマフラーが子供っぽく感じてしまって、夕は慌てて自ら話題にしてしまったけれど……
 悠は馬鹿にするでなく穏やかな表情で受け止めてくれた。
 こういった切り返しの上手さが、彼に友人が多い理由なのだろう。
 ――貰い物の、子供っぽいマフラー。
(マフラーなら他にもあるけど、だってこれは暖かいんだ。……使い心地が良いんだ)
 それまで少しだけ恥ずかしかったマフラーも気にならなくなり、夕はゆっくりと歩きはじめた。
「ハルさん、冬休みどっか行った? 俺は初売りに連れてかれた」
 実は初売りの帰りにもお参りはしていたが、勉学の事を祈るほど穏やかな状況ではなかった。
 だから、今日は仕切り直し。
「初売りかぁ……俺は寒いの苦手だから」
「え」
「今日は暖かくていいよね」
 外へ誘って、悪いことをした? ――そんな考えが夕の胸を過ったタイミングで、悠は気にしないでと言葉を繋ぐ。
「最近うちの英雄、外に友達だか知り合いだかできたみたいで家を空けることが多くてさ。ずっと家でごろごろしてたよ。だから、たまには外の空気を吸わなくちゃ」
 誘ってくれてありがとうと、悠が微笑する。
「……ハルさん、結構外で遊ぶ人なんだと思ってた」
「え。どうして?」
「誘えば、いつも来てくれるじゃん」
「ああー。夕君とこうして遊ぶのは楽しいから」
 オンラインではコミュ充の悠だが、ネットから離れてしまえば相手を選ぶ必要が出てくるということだろうか。
 夕はネットゲームではクエストを助けてもらったり、プライベートで勉強を教えてもらうこともある。
 兄が居たなら、こんな感じなのだろうか。それともちょっと違う? 肉親の居ない夕には上手く例えられないが、悠が憧れの存在であることは確かだ。
「でも……そっか。ハルさんの英雄はひとりで出かけられるんだ」
「新鮮な解釈だな」
 夕も悠も、我の強い英雄に振り回されがちではある。
 ただ、タイプは違った。
 可愛い少女とオッサン、その差は大きい。
「…………」
「ハルさん、英雄と一緒に初売りに行くの想像した? 顔が青い」
「夕君は? 英雄が毎日のように外で遊び歩いてたら、どう?」
「…………」
 今度は夕が押し黙る。
「今日は、新年の空気を満喫しようよ」
「そうだね」
 死んだ表情のまま、二人は頷きあった。




 笛の音、鈴の音、参道の両脇に設置されたスピーカーから流れてくる。
 雅なBGMとは裏腹に、ずらりと屋台も立ち並ぶ。
「めっちゃいい匂いする。唐揚げ食べたい」
「唐揚げの屋台……さっき通り過ぎなかった?」
「え」
 石段に続く鳥居をくぐったところで悠に指摘され、夕は絶句する。表情は普段と変わらないが、ショックを受けているらしい。
「お参りの後に寄ろう、帰り道なんだし」
「わかった。おみくじも引きたいし、他の屋台もまわりたいな。まずはお参りだよね」
 ポンポンと背を叩かれ、少年は気を取り直す。
 受験のこと。
 大学のこと。
 夕が気になっていたアレコレを話題にして、最終的には息を切らせて、二人は長い長い石段を登っていった。


 神社の境内の、空気の澄んだことよ。
 相変わらず参拝客は多いが、お参りを終えると心も軽くなった。
「おみくじにも種類があるんだ。俺は学業だな。ハルさんはどれ引くの?」
「どうしよう……。こういうのって、あんまりいい結果引いたことない気がする」
 悠があまりに真剣な表情をするものだから、夕は思わず笑った。……顔には出にくいが。
「悪い結果だったら、結んで行けばいいんだって。凶とか大凶だったら、逆にレアだよね」
「末吉とかさ、すごーく微妙だと思わない?」
「……微妙だね」
 内容次第でどうとでも受け止められるような文面だったら、尚更悩む。
 本人には深刻な悩みでも、傍から見れば――
(あ)
 夕はそこまで考えて、水色のマフラーへ手を伸ばした。
(そっか)
 気にしているのは、自分だけなのかも。
 悪い意味ではなくて、他の人から見れば『大丈夫』なことは、少なくないのかもしれない。
「じゃあ、ハルさんはこっち引いて。開運アイテム付だって」
「へえ、それなら面白そうだね」
 袖を引かれ、悠も気を取り直す。

「それじゃあ、開けるよ。せぇの」

 夕、学業おみくじ。小吉。
 悠、開運おみくじ。中吉。

「開運アイテムは熊手、幸運をかき寄せる……か」
 おみくじの紙袋には、小さな金細工の熊手が入っていた。
「よかったね、ハルさん」
「気にするべきは夕君のはずなのに。ありがと。学業……努力実る。うん、いいんじゃない?」
「ね」
 

 お参りをして、おみくじ引いて。悩みごとの相談なんかもして。
 それから――
「あ。たい焼きがある。ハルさん、あんこ派? クリーム派?」
「唐揚げじゃなかったっけ。いいけど、こっちも楽しそうだし」
「土産も、何か買ったほうが良いと思う? クレープとかかな……」
「そういうところ、夕君マメだよね」
 屋台の群れへ向かってゆく少年の背に、悠は目を細めた。
 今日は、遊ぶために一日を開けている。時間はたくさんある。
(受験生になったら、夕君と遊ぶ時間は減るのかな)
 そう考えると悠も寂しい。
 減ったとしてもゼロにはならないと思いたい。

 だから、今日はたっぷりと羽を伸ばそう。
 まだ見ぬ未来は横に置き、今という時間を存分に楽しもう。


 二人を見送るように、笛の音が鳴り響いていた。

 


【道しるべの先は未定 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0890/ 十影夕 / 男 / 17歳 / アイアンパンク 】
【aa3239/雨堤 悠/ 男 / 18歳 / ワイルドブラッド 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
たのしく初詣、お届けいたします。おみくじ結果はダイスで出しました。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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2017年01月23日

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