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『甘え下手な母子達 』
ka5673)&帳 金哉ka5666

(この時期はいつどこで何時まで呑んでも楽しいものじゃの)

 連日、空が白やむ直前まで酒場に入り浸っている帳 金哉が酩酊気分で酒場の並ぶ道を歩いていた。すでに一軒に顔を出して少しひっかけ、次の店を探して歩いていたところだった。

 そんな時、店先がむき出しの屋台で1人、知った顔を見かけた。見かけはしたが、ああいう時に声をかけるとたちまち機嫌を悪くし、「殺すぞ」しか言わなくなるのを知っているだけに、声をかけないでおこうと決めた。

 だが気にはなる。

(もしかして1人でいるのじゃろうか)

 この時間、閏が家で晩飯を作って待っているはずで、なんだかんだ言いながらも飯を食いに帰る時間のはずである。

 気になってしばらく見ていると、その屋台で顔と愛称くらいしか知らない飲み仲間が席を立ち、こちらへ向かって歩いてくるのでもしかすると何か知っているかもしれないと、「久しぶりじゃな」と声をかけた。

「あやつ、こんな時間から1人で呑んでいるおるようじゃが、家に帰らんのかの」

「ああ、あの人? なんでも頼んでもいないのにカミさん、いや、通い妻なのかな。とにかくその人に掃除の邪魔だとかで家を追い出されたそうだよ」

 通い妻とは閏のことだろう。詳しく知らない人が聞けば、そう言う風に聞こえたのだろうなと金哉は内心で頷き、そして詳しく知る金哉ならば2人にどんなやりとりがあったか、見てきたかのようにわかる。

「それで今日は帰らず飲み明かすなどと言っておらんかったか?」

「そうそう」

 やはりと笑う金哉は情報をくれた呑み仲間に礼を言って、その場を離れた。そしてしばらく歩きながらこれは良い機会なのではないかと思い始め、ぴたりと足を止めるときびすを返す。

 日頃から独占されているのだ、たまにはいいのではないかと、金哉の歩調は早くなるばかりであった。




 掃除も終わり、最後に雑巾を洗って絞っていた閏がそれほど深くはないが、溜息をついてしまう。

「この時間に帰ってこないのでしたら、言ってたとおりに今日は帰ってこないんでしょうね」

 追い出したのは自分なので、仕方ないと言えば仕方ないが、ただやはり、掃除がとてもはかどったのは事実である。いつもいるわけでもなく居ない時も多いので『すぐ』に寂しくなるとかは、さすがにない。

 居てもだいたい横になっているのでわりと静かだが、居ないとやはり静かだ。それに今日は大みそかで外から聞こえる音も、いつもよりはるかに少ない。

 いつも占有されているスペースにぺたりと座り込み、ぼんやりとしてみる。

 する事はもうほとんどなく、せいぜいが自分のご飯を何か適当に済ませるくらいで、ただゆったりと時間が流れていくのをこうしているだけであるが――悪くはない。

(1人で過ごすのも悪くないかもしれませんね)

 そう思い始めていたころ、玄関が開いてどきりとした。

「おるかえ、閏」

「金哉くんですか。こんな時間にどうかしましたか?」

「いやなに、1人でいると小耳に挟んでの。何も正月を1人で過ごさんでもいいじゃろう」

 あがりこんで「土産じゃ」と、子袋を渡す。

 閏がそれを開けてみると、中には色鮮やかで鞠のような麩がコロコロと押し合いへし合いしていた。

「これで雑煮も少しはハイカラになろう」

「雑煮ですか、いいですね。1人でしたから、おにぎりにたくあんで済ませようと思っていたところでしたよ」

 おにぎりという言葉に金哉がピクリと反応を示したが、閏は全く気付いていない。

「金哉くんも食べていきますか?」

「食うともさ。今日はせっかくじゃ、朝まで一緒に過ごそうではないか」

 そう言われるのが意外というような顔をする閏が金哉を正面から見据え、くしゃりと顔が崩れる。今にも泣きだしそうな顔をしながらも「うん、うん」と嬉しそうに頷いていた。

「それなら一緒に餅もつきましょう。ご飯も一緒に作ってくれますか?」

 その申し出に「言わずもがな」と腕をまくる金哉に、またも閏は泣きそうになるのをこらえていた。

「いい子に育ってくれて、俺はとても嬉しいですよ」

「よさぬか、照れくさい……さあ早うせんと、時間が足りなくなるぞ。もち米を蒸してる間に雑煮の準備と、閏の事じゃからどうせお節の用意もするんじゃろ?」

「さすがですね、金哉くんは。時間のかかる物は先に作ってあるのですが、それ以外がまだ手つかずです」

「ならそれも作ってしまおうかの。一緒にゆっくりと年を越したいものじゃろうしな」

 金哉の言葉に閏は目頭を押さえ、天を仰ぐ。完全に、泣く一歩手前である。

「去年は共に過ごせなかったのですが、今年は一緒に過ごせるようでとても嬉しいです……彼も一緒だったらもっと賑やかだったんでしょうけど――」

「賑やかかどうかはともかく、居なければ寂しい思いをするだけじゃろ。大方、1人も悪くないと思っておったかもしれんが、それも束の間よ。数時間もすれば寂しいと嘆いておるのが、目に見えておるわ。
 寂しい時、寂しいと言わないのは如何なものかの。溜め込む性格なのは知っておるが、たまに心配になる――あまり無理するでないぞ」

「大丈夫、金哉くんが居てくれるだけでも寂しくないです」

 不意をつかれた金哉が一瞬、きょとんとした顔をして、「そ、そうかの」と閏に背中を向けて台所へと急ぐのだった。顔は見えていなくともそれが彼の照れ隠しなのだと閏はクスリと笑い、後を追って台所へ向かうのだった。




「これで全部詰めたかの」

 曲げていた腰を伸ばし、箸を持っていない手で腰を叩く金哉。台所のテーブルには色とりどりで縁起の良い食材を使用したおせち料理が重箱にきっちりと並べられている。こういったセンスは閏よりむしろ金哉の方が昔から得意としていた。

「金哉くんとは昔もこうやって、一緒に台所で作りましたね。
 もっと小さい頃から、『俺も手伝う』と言っては踏み台を出してきて、こうしてお手伝いしてくれましたね」

 流しの下に置いてある二段くらいの階段状の踏み台をちらりと見た閏は少し涙ぐむと、今の金哉に当時の金哉を重ねる。

「今となってはあの踏み台も要らない位に大きくなって……俺よりもすっかり逞しくなって、嬉しい限りですよ」

 涙ぐむから完全に涙をこぼして感激する閏に、歯がゆそうな顔をしながら金哉が背中をむずむずとさせている。このむず痒い空気をどうにかするために何かを探していると、蒸し器が目についた。

 すでに蒸らしてから十分な時間が経っているはずだと、蓋を開ける。

 篭りに篭ったもち米の甘い香りが蒸気とともにふわりと広がり、ツヤツヤで透明感のあるもち米が総立ちして金哉を出迎えてくれた。そこへしゃもじで縁から引き剥がすと、十字に切って底からまんべんなく空気を取り込むようにほぐすその手つきは慣れたものである。それこそ、酒を呑みに行ってしまった誰かさんにはできない手際であった。

「そら、熱いのがお通りじゃ!」

 蒸し器を持って台所を横切ると、少し広い所に用意された臼の中へともち米をひっくり返した。そして閏が杵を持ち上げる――持ち上げるが、途中までしか持ち上がっていないし、プルプルと震えている。

 手に水を付けて待ってしまった金哉だが、苦笑いを浮かべ「俺に代わろうかの」と半ば無理矢理に閏の手から杵を奪い取る。

(手を叩かれては、たまったものではないからの……)

 杵を持ち上げ、いきなり力一杯叩かずにまずは重みだけで米を潰していく。それから「ゆくぞ」と声をかけてから振りかぶる。

 そこからはさすが母子と言わんばかりに息を合わせ、打ち下ろす、持ち上げる、もち米を返す、打ち下ろすと、テンポよくもち米をついて行けば、あっという間に柔肌の餅へと成長するのだった。

 杵についた餅をむしり閏へと渡すと、自分の分もむしって口へと運ぶ。

 付きたてのお餅特有の強い香りと自然な柔らかさ、そして口の中でいつまでも残り続けようとする圧倒的存在感と甘みの連続に金哉と閏が身を震わせ、忘れていた腹の虫が目を覚ました。

「つきたての餅は美味いの」

「美味しいですね。これをいくつか小さく丸めて鍋に入れましょう。あとは金哉くんがくれた鞠麩を浮かべれば雑煮の完成ですから、ちょっと遅いですけれど、ご飯にしましょうか」

「ふむ……」

 腰を下ろして閏が丸めていく様を見ながらも、同じく腰を下ろした金哉は何か言いたそうに口元へ手を当てる。

「雑煮も良いが、俺は閏のあれも食いたいな……こう、白くて、丸かったり三角だったり……」

「お餅を三角にするのですか?」

「そうでなくてな……もっと塩の効いた……」

「汁のお塩、足りませんでしたか。少し足してきます」

 立ち上がろうとする閏へ「違う!」と思わず強く言ってしまった。

「塩加減はあれでちょうど良い――良いか、いつも作ってる、もっとこう、シンプルな……」

「具材が多いとか、ですか? いつもよりはちょっと張り切りすぎましたから」

「ええい、いつもの塩にぎりのことじゃ! 気づけ!」

 見当違いの回答を続ける閏にたまらず自ら答えを叫んでしまった金哉がハッとして、ばつが悪そうにそっぽを向く。今度は閏の方がきょとんとして、そっぽを向いた金哉の横顔をじっと凝視する。

 何か言うまで動かないぞという頑なな意思を感じ、観念して金哉が口を開いた。

「俺にとって閏の味はあれで……アレが一番、好きなんじゃ……」

 金哉の白状に、閏はどこかの大男のように頭をかく金哉へにっこりと笑って「わかりました」と、嬉しそうに台所へ向かうのであった。




 どれくらい話し込んだかわからないが、気が付けば空が白やんでいて、どちらからともなく「初日の出を見よう」という話になって縁側に肩を並べて座りこんでいた。

 切り分け、少し表面が硬くなり始めた餅を軽く炙り、口にしながら今にも顔を見せようとしている日を待った。

「雑煮も良いけど、こうして炙ったお餅も表面がパリッとしていて美味しいですね」

 雑煮の汁を吸って、表面が塩味と出汁の旨みを蓄えた中から出てくる餅本来の甘みもたまらなく美味かったが、これだけでもたまらなくなるほど美味い。

 金哉は思わず「そうじゃのう……」と言って、一緒だから余計に美味いのだと続けそうになった口を餅で塞ぐ。閏の言った通り、歯で噛めば表面の皮がパリッと割れて、柔らかくそれだけでも十分強い甘みを持っている餅が口の中を右往左往する。

 目の前で七輪に焼かれ、膨らみ始めた餅が白く輝き始めた。

「見てください、金哉くん。初日の出ですよ」

「わかっておる――」

 2人してゆっくりと登ってくる日を眺めていると、閏が日へ向かって手を合わせたので、金哉も手を合わせた。閏は孝行息子と大事な親友の無病息災を、金哉は大事な2人の無事を祈る。

 膨らんだ餅が限界だと言わんばかりにぱちんと割れ、そこで我に返った。

「……この後、神社にでも行かんかの」

「いいですね――あ、この声は……」

 家からまだ離れたところで聞き覚えのある「殺すぞ」が聞こえてきて、思わず2人して顔をほころばせてしまった。

「どれ、酔いどれの為にも温め直してやるとするかの――その後で、母子水入らずで神社に行こうぞ。酔いどれはお留守番じゃ」

 もう少しだけ独占したい――金哉のそんな想いが伝わったのか、閏は笑って「そうですね」と頷いてくれた。そして台所へ行こうとする背中に「金哉くん」と、呼び止める声がした。

 首をひねり、頭だけふり返って「なんじゃ」と問いかける。

 閏は真っ直ぐ見たまま、照れもせずにこう告げた。

「これからも、そのままの君でいてください」




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5673 / 閏     / 男 / 34 / 素直に不器用 】
【ka5666 / 帳 金哉 / 男 / 21 / 屈折している器用 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせしました、今回のご発注もありがとうございます。だいぶ勝手知ったる何とやらでしたが、いかがだったでしょうか?
きっとこんな親子関係が羨ましく思えたりするかもしれませんね――またのご発注、お待ちしております
八福パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年01月24日

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