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『しなやかなる刃たれ 』
藤林 栞aa4548

●藤林栞という少女
 この技術も知識も、特に役立てる機会もないままきっと一生は終わるんだろうな。
 藤林 栞(aa4548)は今日のこの日を迎えるまで割と本気でそう思っていた。
 栞は戦国時代以前より続く日本の忍者の上忍者家系、藤林家の末裔、である。それ故幼少期から命を懸けた戦いに常にその身を置いてきた……とかいう事は全然なく、命懸けの戦い? なにそれおいしいの? という感じで割と今まで生きてきた。
 とは言えそこはやはり忍者の末裔、カタカナで言うとサラブレッド、家の蔵には忍術資料が山なだれ、幼児の頃から夢には忍者がノーギャラで出現し、栞が頼んだりしなくても勝手に忍者の影響と薫陶は注がれ続け、家で飼っているペットもどんどんそれっぽいものに……。
 こうして望む望まないに関わらず忍者を叩き込まれた栞は、しかしそれを活かす機会など微塵もないまま生きてきた。強いて機会があるとすれば自分アピールネタ扱い。
 今後もそんな感じで月日は流れていくんだろうな。
 栞はそう思っていた。

 そして栞は今現在、みずぼらしい竹杖片手に愚神に単騎駆け出していた。

●話は少し遡る
「無様よのう、このワシと槍を交える兵は何処かにおらんのか!」
 呵々大笑に胸を反らし、得意げに大身槍を振り回す武将風の大男、それが今回栞達が対峙した愚神だった。
 展開されたドロップゾーンの内部は武家屋敷そのもので、栞達は戦国時代にタイムスリップした気分を味わいつつも、与えられた任務を遂行するべくスキルとAGWを振るっていた。
 しかしどうやらこの愚神、ドロップゾーンに特殊なルールを敷いたらしく、程なくスキルも、文明の利器も、幻想蝶もAGWさえもその効力を失った。
 逆に非AGWであればどうやら通用するようなのだが、いずれにせよリンカーの戦力はほぼ殺がれたと言っていい。一先ず体勢を整えるためと、それぞれ散開し様子と機会を伺っている最中だ。
 そして栞はと言えば

(まさか、戦国時代以前の忍術の技法を、実戦で使う日が来るとは思わなかったなぁ……)
 まず栞は状況を把握するや近くにあった小石を投げ、敵が注意を逸らした隙に物陰へと身を隠した(これをようじ隠れと言う)。
 次に煙玉を愚神に投げ付け、仲間達が逃げるチャンスを作り、
 音を立てて気付かれないよう、手の上に足を乗せて板張りの廊下を素早く歩き(これを深草徒歩という)、
 戸の下部についた木細工を作動させて鍵を掛けてブラフを張り(落とし猿)、
 縁の下に入り込み、さらに笠に身を隠しながら屋敷の反対側へと移動し(隠れ笠の術)、
 そして完全に気配と匂いを消すためと、池の水の只中に小柄な身を沈めていた(狐隠れ)。
「……」
 思い起こせば、
 幼い頃からやれ忍者だ、忍術修行を欠かすべからず、藤林流を次の世代へ……と寝ても覚めても何処にいても常に忍者が出没し。
 必要性もよくわからなかった(地味な)忍者の技術知識を毎日毎日教え込まれ。
 友達と遊ぶ時間も少なく、「しーおりちゃーん、あーそーぼー」と誘われては断り続け、……現代人にはハード過ぎる苦味ばしった幼少期。
 幸いと言うかなんというか栞には素質があったらしく、なんだかんだで空いた時間は忍術の稽古に費やすため、その技は得意分野だけに絞れば歴史上の忍者と張り合える程のものとなったが、
(今までやってきたことは、無駄じゃなかったんだなぁ……)
 そう、思えるのはやはり嬉しいもので、我知らず栞の口元には満足そうな笑みが浮かぶ。
 しかし一流の忍者はやはり任務を完遂してこそ。忍び忍んでハイさらば、という訳にはいかないのだ。
 忍び道具は身に付けている。技術も知識もこの内にある。あとは、
  
●心に刃を忍ばせて
「臆病者め。わしの槍の錆となる気概もぬしらには存在せぬか!」
 愚神は大座敷の中心にて槍を豪快に振り回した。ドロップゾーンを展開するだけの力量ありと言うべきか、槍を振るうスピードは速い。何の策もなく単騎で突っ込めば槍の餌食となるだけだ。
 そんなリンカー達の思惑がゾーン内を飛び交う中、薄桃色の小柄な影が、巨大な槍を振り回す大男へと駆け出した。みずぼらしい竹杖一つで飛び込んでくる栞の姿に、愚神はにいと歯を剥き出す。
「そんな棒っきれでわしに敵うか小娘がァッ!」
 愚神の咆哮に栞は竹杖を上下に引き、内部に仕込んだ分銅付き鎖を愚神目掛けて撃ち放った。忍び杖の強襲に愚神は咄嗟に槍を突き出し、栞はさらに下げ緒七法、槍留め――忍び杖の鞘に結んだ下げ緒を両手で横にピンと張り、素早く緒を槍に巻き付けそのまま引き込み自由を奪う。
「な……」
 体勢を崩した愚神の顔に、栞は角手――突起のついた指輪のような形状の武器を、突起が手の内側になるように装着して突き入れた。愚神はその攻撃を上体を逸らして躱したが、これはフェイク。槍留めで体勢を崩した上に、さらに上体まで逸らしたら次は躱しようもない。栞はすかさず鉄輪――輪の内側と外側を刀のように鋭利にした二つ一組の忍具を腕に滑らせ両手で掴み、愚神の背後に回り込むやその両腕を絡め取る。
「みなさん、今です!」
 栞は愚神にしがみつき仲間へ声を張り上げた。栞の役目はあくまで忍び。影に潜み、闇を走り、仲間の、主の、活路を開く。そのために在る要石。頼まずとも注ぎこまれた薫陶が栞の心身を駆け巡る。
 栞の作った好機に仲間達は一斉に駆け出し、各々持ち合わせた武器を愚神の胴へと叩き込んだ。招かれざる異界の来訪者と言え、多勢に無勢。愚神は消えゆく身体で忍びの少女を睨み付ける。
「まさか、忍び風情に後れを取るとは……次に見えた時は必ずや……」
 そして愚神は虚空に失せ、程なく戦国の武家屋敷もドロップゾーンも立ち消えた。栞は忍具を仕舞いつつ、今正に終わったばかりの戦いに想いを馳せる。
 自分がやったことは無駄じゃなかった、という実感を得たとは言え、それで栞の在り様が急に変わる訳ではない。忍術の稽古は欠かさずとも、その技と知識は忍びでも、主君と仰ぐ人がいても、少なくとも今しばらくは栞は栞であるのだろう。
 だが、まあ、とりあえず、
「せっかくまたこういう機会があるのなら、次は別の技術を試せる敵の方が嬉しい……かな?」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【藤林 栞(aa4548)/女性/16歳/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。この度はご指名下さり誠にありがとうございました。
 「その知識と技術は忍びでも、心は現代の女の子」、というイメージで書かせて頂きました。
 忍術等については調べつつ少々アレンジを加えさせて頂きましたが、口調・設定・イメージ等、齟齬がありました場合は申し訳ありませんがリテイクの連絡をお願いします。
 栞さんの今後のご活躍、心よりお祈り致しております。
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2017年01月26日

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