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『【未知数x】星杜焔は思考する 』
星杜 焔ja5378

 新春、真冬。

 この季節になると星杜 焔(ja5378)は思い出すことがある。
 彼には忘れられない事件がある。

 悪魔X、絆と復讐の物語――。

(もう、二年も経つ、のか……)
 教室、窓際、青い空。
 あの事件は焔に一つのことを思い出させる。
 それは彼の原点。
 目蓋を閉じれば、浮かぶのは――

 凍て付く木の枝に貫かれた少女の体。
 ドクドク流れ続ける真っ赤な血。
 溢れる赤から温度が溢れ、小さな体がどんどん冷たくなっていく。
 家の前に待ち構えていた二体のディアボロ。
 散弾銃から飛び散る弾と、飛び散る血肉。
 見覚えのある亡骸に変貌した冥魔の残骸。

「義妹を流れ弾で亡くした。守れなかった。父さんと母さんは幼いころ奪われた。俺を襲い、眼前で倒されたディアボロだった」

 あの日、あの事件の最中、己が吐いた言葉。

「まだ仇は見つかってない。見つかったなら、そいつの望みが叶わないようにしたい。『死んだら楽になるだけ』――天魔の長い寿命、全て苦しみになればいい」

 こんな人間、増えないといいね。
 ――力なく笑みが乾いた感覚を覚えている。
 閉ざしていた目蓋を開いてみれば、暖房に結露した硝子の向こうに鮮烈な青。久遠ヶ原学園の風景が見える。人が、天使が、悪魔が、共に平和に笑い合い、時間を過ごす『理想郷』――。

 そう、学園は天使と悪魔と共に歩む道を選択した。
 焔もその意見に賛同した側である。

 仇である天魔は、未だ――憎い。憎くて憎くてたまらない。
 けれど、その憎悪と復讐心は真の仇に対してのみ。手当たり次第の天魔へは向けられることはない。

 焔は知っている。全ての天魔が悪ではないと。
 事実、焔の知り合いや友人には天魔や、天魔の血が混じった者がいる。あのXの事件だって、天魔、混血、様々な存在の仲間達と解決したのだ。一を見て、その他全てを判断することは愚かであると――焔は知っている。

 だが。焔は知っている。『全』を憎むように教育され、『全』を憎んで生きてきた者がいることを。
 身近な教師にそんな存在がいる。文字通り命を削るほどの戦いの果て、天魔死すべし殺すべしと生きてきた果てに、天魔と共に歩まねばならぬ現実を迎えた彼の心境はいかほどなものだろう。

 そして、焔は知っている。自分の考えを振りかざして、他者の復讐心を否定することもまた愚かであると。
 Xの事件で向けられた、失望と絶望と憤怒と侮蔑の眼差しを覚えている。
 幸い、その時のわだかまりは解消できたけれど――風の噂によると、今もあの彼は、ゆうたくんの父親は、久遠ヶ原学園の撃退士として日々頑張っているらしい。奥さんも快調に向かっているようである。きっと、この学園のどこかにいることだろう。

 過去――復讐――真の仇……。

 焔は漫然と冬空を見、思いを馳せる。
 あらゆる人の、真の仇。おおよそが天魔に向けているモノ、のように思えるけれど。
 要救助対象を見落とした撃退士や、ディアボロにされきる前の人間を元に戻すことができなかった撃退士は、果たして『真の仇』含まれるだろうか。
 撃退士、だけではない。アウル覚醒者が「バケモノ」と恐れられ虐げられた現実が本当にある。ただの人間が、天使でもあくまでもアウル覚醒者でもない『ただの人間』が、誰かの真の仇に含まれている場合だってあるんじゃないだろうか。
 焔は【双蝕】、【ギ曲】の事件を思い出す。悪魔が裏で操っていたとはいえ、あれは人間同士の争いでもあった。人間が人間同士で憎みあっていた。虐げたのも、虐げられたのも、同じ人間だった。互いの尾を噛む蛇のように。

(……思えば)
 随分と遠くへ来たような。そんな心地が、ふと湧いた。
 色んなことがあった。数え切れないほど、色んなこと。
 一般人、アウル覚醒者、天使、悪魔、半血、ありとあらゆる存在に出会った。ありとあらゆる事件に遭遇した。
 今ではもう、自分がアウルに覚醒していなかった頃が前世めいて昔に感じる。
 焔は自分が一般人だった頃のことを思い出してみた。あの頃は――『そういう事情』なんて分からなかった。どこか別世界の出来事だった。テレビの向こう側の世界だった。まさか、自分が『そっち側』の人間になるだなんて、想像だにしなかった。武器を手にして戦うなんてありえないことだと思っていた。あの平和がずっとずっと続くと思っていたのだ。

 そんな平穏が――惨劇と共に終わりを告げられて。
 焔はアウルの力に目覚め、撃退士になって。

 数多の経験、自分なりの『理解』。
 その過程で知った。改めて現実は非情であると。
 一人残らず救うことの困難さ、ゲート破壊や天魔討伐の難しさ。
 ままならぬこと。人の感情は美しさだけではないこと。どろどろとした生々しさ、目を背けてなかったことにしたくなるような凄惨さ、おぞましさ。
 夢と希望とハッピーエンドだけで、世界は構築されていなかった。

 それでも、傷つきながらも、歩みは止めていない。
 そして焔の心に灯る復讐の炎も、消えてはいない。

 焔は見つめ直した。己の復讐という業火を。
 過去を携え、真っ直ぐ見つめ――これからも生きていくのだろう。

 思い返す。ディアボロと化した両親を討伐した『散弾銃の君』。あのひとに助けてもらった命。あのひとのおかげでこうして息をしている命。あのひとのおかげで――経験できた、様々なこと。

 たとえ、復讐を醜い感情と罵られようとも……。
 これが焔の感情の真実だ。
 焔にとっては、この世界に攻め入ってきた天と冥の者が、真の仇。

(果たして、見つかるのだろうか)

 願わくば。その仇が『敵』でありますように。そう祈るばかりである。
 ふ、と息を吐いた。学園の中は暖房が効いていて温かい。
 まもなくチャイムが鳴った。授業が始まる。行かなくては――。



『了』


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星杜 焔(ja5378)/男/18歳/ディバインナイト
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2017年01月26日

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