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『ループ・オン・ザ・アイス 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192)&和紗・S・ルフトハイトjb6970

 聞こえる、聞こえる。
 聖夜の訪れを告げる、ジングル・ベル。
 今宵は誰もが、あのひとを待っている。
 そう、幸せを運ぶ――

「なんじゃこりゃああああ」

 砂原・ジェンティアン・竜胆は窓ガラスに映る自分の姿を見て、唖然となっていた。
「え、なんで頭にこんなもん生えてんの?」
 頭部から伸びる二本の角を、まじまじとみつめる。しかもよく見たら手足にもふさふさとした毛が生えていて、明らかにケモノ、否、トナカイっぽいのだ。
「ぼーっとしないで下さい竜胆兄」
「ごふうっ」
 背後からどつかれ振り向くと、そこにはミニスカサンタ姿の樒 和紗が立っている。
「か……和紗!? その格好どうしたの」
「何言ってるんですか。早く逃げないと捕まりますよ」
 彼女がそう言った次の瞬間、激しい閃光と共に爆発音が鳴り響く。咄嗟に彼女を庇ったジェンティアンは、襲いかかる爆風に巻き込まれていった。
「あるぇえええええええ」
 そのまま思いっきり吹っ飛んだが、かろうじてモミの木にひっかかりフェイドアウトを免れる。
「ちょ、洒落になってないんだけど!?」
「もう見つかりましたか。さすがは掃除屋兄妹ですね」
 和紗が僅かに眉根を寄せたそのとき、上空からやや鼻にかかったような声音が響いた。

「造反者二名、発見」

 現れたのは、サンタ衣装に身を包む小柄な少女。見覚えのあり過ぎるその姿を見上げ、ジェンティアンは目を見張った。
「え……あれってリロちゃんだよね……?」
 桃色のボブヘアーに、紫水晶のような瞳。どう見てもリロ・ロロイに間違いない。
「気をつけてください竜胆兄。たぶん近くに兄がいるはずですから」
「え。じゃあカーラちゃんまでいるってこt」

「あー。みっけ」

 これまた聞き覚えのある声が近くでしたと思った瞬間、すぐ近くで何かが爆発する。
 咄嗟に身をかわして避けたものの、尋常じゃない破壊力にジェンティアンのもふ毛がちりちりになった。
「ああっひどい! 僕の自慢の毛並みが!」
 彼が抗議する先でトナカイの着ぐるみを着たカーラが、表情ひとつ変えず立っている。それを見た和紗はどこかおかしそうに。
「その姿、清々しい程に似合ってませんね」
「え。やっぱそう思う? 俺もさーコアラの方がよかったんじゃないかって思ってたんだよね」
 ジェンティアンがハイハイ僕の抗議なんて無視だよね知ってたとなる中、和紗はくすりと笑った。
「サンタ組織の裏側を、俺達が知らないとでも思ってるんですか」
「……どういうこと」
 怪訝な表情を浮かべる相手に、彼女ははっきりと言い切った。
「世界中の子供たちにプレゼントを運ぶサンタ……その組織の実態は、プレゼントを隠れみのにコアラ教を広めるカルト組織でしょう」
「な、なんだってー! ……いやでもそれ、大して問題無くない?」
 ジェンティアンの言葉に、和紗は何を言っているんだと返す。
「正気ですか竜胆兄。世界中の子供達がコアラファンになってしまったら、秩序は崩壊します。長年に渡る犬派猫派論争が終結し、万民の興味はきのこたけのこ戦争に集中するでしょう。その結果、第三次世界きのこたけのこ大戦が勃発して、世界は滅びるかもしれないんですよ」
「うんちょっと何言ってるかわかんないけど、危険らしいことはわかった」
 そのとき、頭上から再び淡々とした声が響いた。

「ばれたんなら仕方ないね」

 背に翼を広げたリロは、特に弁解をするでもなくじっとこちらを見つめている。
「キミたちのことだから、証拠も握ってるんだろうね」
「ええもちろんです。ここにあるコアラの形をしたお菓子が何よりの証拠」
 掲げられたマーチ的スナックを見て、ジェンティアンは驚いた表情を浮かべる。
「まさかその国民的お菓子が、奴らの手口だったとはね……っていうか和紗、そればらしちゃって大丈夫なの」
 刹那、リロが担いでいたサンタ袋から、巨大な鎖が飛び出してきた。和紗はそれをすんでのところで避けると、逃走を再開。
「さあ逃げますよ竜胆兄!」
 雪道を一気に駆け抜けるふたりの背後から、声と爆撃が追いかけて来る。
「兄様、お願い」
「んー。とりあえず全部爆破すればいいか」

 \ぼかーん/

「待って待って、いくらなんでも無茶苦茶すぎるでしょ!」
 手当たり次第爆破してくるカーラに、ジェンティアンは焦りの色を浮かべる。
「さすがはサンタ界きっての破壊力ですね。このままではふたりとも捕まるどころか、消し炭になりますよ」
 その間にも爆撃は繰り返され、自分たちが通る道が次々と焦土になっていく。たまらず物陰に身を潜めたジェンティアンは、和紗へ先に行くよう告げる。
「和紗、ここは僕に任せて先に」
「危ない!」
 飛んできた爆弾を、彼女はジェンティアンを盾にして避けた。
「躊躇ないね!?」
「何のことですか(」

 その後もふたりは(主に和紗がジェンティアンを犠牲にする形で)助け合い、追跡をかわし続けた。
 しかし逃げても逃げても終わらない逃走劇に、ジェンティアンの心は折れかけていく。
「僕はもうダメだ……」
「弱音を吐いてるヒマがあったら走ってください、竜胆兄。もう少しでクリスマスが終わりますから、それまで証拠を守り切れば俺達の勝ちです」
 だかしかし、度重なる爆撃でジェンティアンの頭は激アフロになってしまっている。これ以上アフロ度がますと小鳥が住みはじめ、自慢の角が止まり木になってしまうだろう。
「周囲を和ませるとか僕のキャラじゃないし!」
 直後、巨大鎖が飛んできて、彼の足を捕らえようとする。なんとかかわしたところへ、カーラの爆弾が降り注いだ。
「竜胆兄!」
「兄様ナイス」
 少女が微笑する先で、カーラがジェンティアンの目前に迫っていた。
 絶他絶命のピンチ。
(こうなったら……!)
 さらにアフロ三割増しになったジェンティアンは、覚悟を決め自ら飛び出していった。

「待ってカーラちゃん! ここはさ、話合わない?」

「えー。別に俺、話すことないんだけど」
 まるで興味なさそうなトナカイ悪魔に、彼は畳みかけるように言葉をかけていく。
「あ、じゃあ妹のリロちゃんのこととか。彼女かわいいからさー、兄としてもいろいろ心配なんじゃない?」
「え。なにきみ、あいつのこと狙ってんの?」
 死ぬの? 跡形もなく消し去られたいの?
「違う違う! 僕も和紗のことがあるからさ、カーラちゃんの気持ち結構わかるんだよね」
 聞いたカーラは、ほんの少し考えるような素振りを見せたあと。
「ふーん。つまり、俺とあいつの関係に対抗しようってわけ」
「ああうん、なんかもうそれでいいかなって」
「あまりの曲解に面倒臭くなりましたね。竜胆兄」
 和紗がさらりと図星をついてくる中、悪魔はほんの少し小首を傾けた。
「てかさー。その”はとこ愛”っていうの? ちょっと引くよねー」
「いや、カーラちゃんだけには言われくないから!」
 それを聞いた和紗とリロが、真顔でかぶりを振って。
「竜胆兄、五十歩百歩かと」
「え、まじ!? 僕あんなにヤバいの!?」
「割と」
「割と」
 なんてことだ、あのシスコン野郎とだけは違うと信じていたのに。がっくりと膝を着くジェンティアンに、和紗が声をかけた。
「大丈夫ですよ。よくある”自分だけは違う”という思い込みです」
「全然フォローになってないからね、和紗……?」
 まあでも、と和紗は微かに笑んでみせる。
「竜胆兄が俺を大切にしてくれているのは、わかってますから」
 それを聞いたジェンティアンの表情が、見る見るうちに活力を取り戻していく。
「だよね、やっぱ和紗には僕がいないと」
「物理的にはまあそうですね」
 おもに盾的な意味で。
 ジェンティアンはカーラの前に立ちはだかると、高らかに宣言する。
「和紗へのはとこ愛は誰にも負けない! 悪いけどカーラちゃんの思い通りはさせないから」
「ふーん。じゃ、手加減はいらないってことね」
「望むところだっつーの!」
 刹那、盛大な爆発が起きまくる。
 激しいバトルを繰り広げ始めたふたりを見て、和紗はひと言。
「だんだんどうでも良くなってきましたね」
「奇遇だね。ボクもそう思ってたところだよ」
 いつの間にか隣に立っていたリロに、彼女は微笑みかけた。
「ではせっかくですし、ご一緒にお茶でもどうですか」
「ふふ、いいよ。淹れるのは得意だから任せて」
 サンタ女子達が仲よくお茶しに出かける中、トナカイ男子達は死闘を繰り広げている。
 ふとここで、ジェンティアンは気づいた。
 これってどう見ても爆破オチにいく流れ。
 このままでは激アフロどころか焦げアフロになって、和紗から「イメチェンするならせめてレインボーアフロにしてください」と言われる未来しか見えない。
「くっ……なんとかしないと!」
 意を決したジェンティアンは、カーラに向かって叫んだ。
「ねえカーラちゃん! レインボーカラーのスプレー持ってない?」
「あー。持ってるけど」
「ナイス! じゃあそれを渡しt」
「あ、手が滑った」

 \ぼかーん/

 意識が薄れゆく中、ジェンティアンは思う。
 ああ。せめて和紗に三色アフロくらいは見せてやりたかった――

 …

 ……

 …………

 …………………

「うわあああああああごふうっ」

 溝落ちに強烈な痛みを感じて目覚めると、目の前に拳を握りしめた和紗が立っていた。
「あれ…かず…さ…?」
「こんなところで寝たら死にますよ竜胆兄」
 そう言われて我に返った途端、やたら寒いことに気づく。改めて辺りを見渡してみると、そこは見渡す限りの銀世界で。
「……さっきのは夢か」
 いまだ朦朧とする頭を振りつつ、ジェンティアンは安堵の息を漏らす。その様子を見た和紗は呆れたようにため息をつき。
「マイナス50度の極寒地でよくそんな呑気なこと言ってられますね。冬山舐めないでください」
「い……一応聞くけど、僕らなんでこんなところにいるんだっけ?」
「寝ボケてるんですか。昨年末に竜胆兄が初日の出を見たいと言ったから、元旦登山することになったんじゃないですか」
「僕そんなこと言ったっけ……いやでも初日の出を見るだけなら、何も雪山に登らなくても」
 曖昧な記憶を辿りつつ、ジェンティアンはふと和紗の芋ジャージに目を留める。
「……なんですか。そのもの言いたそうな視線は」
「いやーさっき和紗、僕に冬山舐めるなっていってたけどさ……」
 何度も言うように、ここはマイナス50度の雪山だ。いかに撃退士といえども、万全の装備でなければ死んでもおかしくない。
「そんな装備で大丈夫なのかなーって」
「大丈夫です。芋ジャージは正装ですから」
 あっさりと言い切った和紗は、目前にそびえる壁を見上げた。
「さあ竜胆兄、この崖を登れば山頂です。急がないと日の出に間に合いませんよ」
「ええー……これ登れるの?」
 90度どころかオーバーハングになっている崖を見て、ジェンティアンは冷や汗を浮かべる。どう見ても登山ってレベルじゃねえ。
「何事も気合いです。ほら行きますよ」
 そう言って和紗は岸壁の割れ目にハーケンを打ち込み、器用に岩肌を登っていく。芋ジャージでロッククライミングするさまはシュールを通り越して狂気すら感じさせるが、彼女にとっては通常営業なので問題ない。
「まあ、和紗が楽しそうだからいいか……」
 あまりの寒さにすべての思考を放棄したジェンティアンは、彼女に続いて崖を登り始めた。
 しかしありえない寒さに身体は思うように動かず、吹雪のせいで視界すら危うい。何度も滑落の危険に見舞われながらなんとか頂上付近まで登り切るも、ここで思わぬアクシデントが発生した。
「……あれ何?」
 ジェンティアンの頭上で、今にも落ちそうな岩がゆらゆらと揺れている。恐らく、落ちてきたら直撃必至だ。
「ちょ、やばいでしょこれ!」
「大丈夫です竜胆兄、撃退士はそう簡単に死にませんから」
「いやそういう問題じゃないよね!?」
 その瞬間、お約束のように強風が吹いて、岩が崖上から転がり落ちてくる。これまた狙ったのかってくらいクリーンヒットしたジェンティアンは、はずみで身体が宙に浮くのを感じた。
 
 あ、これ死んだわ

「竜胆兄!」
 和紗の叫び声がこだまする中、ジェンティアンの体は地面へまっすぐに落下していく――はずだった。
 何かに腕を捕まれたと認識すると同時、頭上から声が届く。
「おい大丈夫か!」
 思わず見上げた先では、やたら白い見た目の少年がジェンティアンの腕を必死に掴んでいる。
「え、誰……?」
「ぼんやりするな、俺様が引き上げるタイミングで崖を登れ!」
 その言葉で我に返ったジェンティアンは、合図に合わせて岩肌を蹴り上げた。

「ファイトおおおおおおお」

「いっぱあああああああつ!!」

 なんとか難を乗り越えたジェンティアンは、息も絶え絶えしゃがみこむ。
「はあ…はあ…死ぬかと思った……」
「ふ……貴様なかなかやるではないか」
 引き上げた少年が、斜め前髪をなびかせながらにやりと笑んだ。直後、自力で頂上までたどり着いた和紗が駆け寄って来る。
「竜胆兄、見事なファイト一発でした」
「褒めるのそこ!? ま、まあいいや。助かったよ、えーと」
 名前を聞かれていることに気づいたのだろう。相手の少年は赤の目張り入り三白眼をかっと見開き、高らかに名乗りをあげた。
「俺様の名はシス=カルセドナ! 凍てつく玻璃滅士(クリスタルブリザードディザイア)とよばれし我がフォースをその身で感じ取るがいい!」
 うわーこいつめんどくせえと思ったが、ふたりは顔には出さずに挨拶を返す。
「えっと、シスちゃんはなぜこんなところにいたの」
「いい質問だな人間! 俺様はツインバベルへ戻ろうとしていたのだが、その途中で吹雪に見舞われてな。神が挑みの系譜を与えた以上、受けて立つのが選ばれし者の宿命よ!」
「つまり、吹雪で道を見失って立ち往生していたところに、俺達があらわれたと」
「よくわかるね和紗……」
 ジェンティアンが遠い目をするのに構わず、彼女はシスへと向き直った。
「ここで出会ったのも何かの縁です。俺達と一緒に山頂を目指しませんか」
「ぬっ貴様らがそこまで言うなら仕方ないな! 俺様が同行する以上、大船に乗ったつもりでいるがいい!」
 山頂はすぐそこだが、いちいち突っ込んでいては身が保たない。
 三人は互いに頷き合い、ゴールへの一歩を踏み出そうとした――その時。
「……なんか地響きみたいなの聞こえない?」
 どこからか聞こえて来る怪しげな音に、ジェンティアンは眉をひそめた。
「そうですか? 竜胆兄の気のせいでは」
「いや待て。この音は聞いたことがあるぞ」
 シスはそう呟いてから、記憶を辿り始める。
「あれは確か……俺様が初めて見た雪に、高揚の儀式(訳:大はしゃぎ)を行ってたときだ。どこからともなくこの音が聞こえ、その直後巨大な――」
「雪崩だあああああ」
 凄まじい轟音と共に、一瞬で視界が真っ白になる。高速で滑り落ちてくる大量の雪に、三人はなすすべもなく飲み込まれていった。
 意識が薄れゆく中、ジェンティアンは思う。

 ああ。せめて和紗に初日の出くらいは見せてやりたかった――

「うわあああああああごふうっ」

 溝落ちに強烈な痛みを感じて目覚めると、目の前に拳を握りしめた和紗が立っていた。
「あれ…かず…さ…?」
「こんなところで寝たら風邪引きますよ、竜胆兄」
 目を覚ましたジェンティアンは、ここが見慣れた我が家であることに気づく。
 ふと窓に視線をやると、外はすっかり日が暮れ、ちらちらと雪が降り始めていた。
「よかった、今度こそ目が覚め――」
 この0.5秒後、巨大な狼と猫が壁を突き破り、犬猫戦争が勃発(して和紗とどっち派につくかで揉めている間に踏みつぶされる)ことを彼は知らない。

 夢はまだまだ、続く☆


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/夢の中で】

【jb7192/砂原・ジェンティアン・竜胆/男/23/だいたい不憫】
【jb6970/樒 和紗/女/19/だいたい最強】

参加NPC
【jz0368/リロ・ロロイ/女/14/クーデレ掃除屋】
【jz0386/カーラ/男/20/通常営業ヒットマン】
【jz0360/シス=カルセドナ/男/16/唐突に現れる中二病】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、この度は楽しい発注ありがとうございました!
NPCじゃんじゃん登場希望とのことで、遠慮無く出させていただきました。
楽しんでいただけましたら、幸いです。
八福パーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年01月27日

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