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『ぬくもりをわけあって 』
ウィル・アッシュフィールドjb3048)&スピネル・アッシュフィールドjb7168

 言い出したのは、ウィル・アッシュフィールドのほうからだった。
「折角の冬休み、一緒に温泉にでも行かないか?」
 普段は寡黙な青年であるウィルの言葉だったものだから、恋人であるスピネル・クリムゾンも僅かに目を見はる。というのも、付き合いだしてもう二年になるが、ウィルは大抵において『寡黙で無表情な青年』という評価をされがちで、実際スピネル本人もそう思うところがあったからだ。
 そんな彼が温泉旅行なんて、一体どういう風の吹き回しなのか。
 不思議に思いつつも、スピネルは二つ返事で了解する。
 しかし、スピネル自身もこの旅行に、ほのかな期待を持っていた。
 なにしろ付き合いだしてちょうど二年程になる現在だが、彼の部屋に泊った経験はあるがせいぜいがキス止まりだったのだから。オクテ、というか、臆病、なのかも知れない。
 実際ウィルは臆病と言っていいだろう、スピネルと付き合うまでは交際経験もなく、それが彼に二の足を踏ませているのだから。
 それでももう二年。月日の経過はゆっくりなようで、早い。
 そろそろ、腹を決めていかないと――だからこそウィル自身が、一歩歩み寄ったのだ。
 それはちょうど、タイミング的にも良かったかも知れない。
 天界、魔界、そして人間界――三界の事情が大きく動き出してきた昨今、この先どんな結末が控えているかもわからない現実の中、少年と少女が絆を深めたいと思うのも、道理と言えるのかも知れない。
 お互い、知り合ったばかりのころは人間と天使、という間柄に生まれる時間の感覚の違いや、いつか訪れるであろう永劫の別れに恐怖を持ち、怯えを持っていたが、今は少し――いや、かなり違う。
 お互いを心から愛し合う二人にとって、そんなことはきっと些細なことでしかなく、ネガティブに考えるよりもポジティブに捕えていきたい、そう思ったのだ。そんなことよりも、お互い寄り添っていたい、そう想い合っているのだから。
 そんな折のお泊まりデート……恋人との関係の変化に、なにがしかの期待と不安を持たない方がおかしい。
 スピネルも、高鳴る胸を押さえつつ、頬を僅かに染めて微笑んだ。
 
 
 予約した宿は、人里から少し離れた、どこか隠れ家めいたところのある宿だった。しかし格式はそれなりに高く、とおされた部屋の窓から見える光景は文字通りの風光明媚。きっとウィルも言いこそしないものの、それなりに奮発したのだろう。
 ウィルの運転する車で宿にたどり着いたのは、折しもクリスマスイブの朝。雪は降っていなかったが、近くの山々はすっかり雪化粧を纏い、源泉掛け流しの温泉はしっかり露天風呂も準備してあるのだという。
「ウィルちゃん、凄く綺麗な宿だね! 景色も素敵!」
 スピネルが目を輝かせて、ウィルにそう訴える。言われたウィルも鋭い双眸を僅かに細め、
「……スピネルが気に入ってくれて、良かった」
 そう言うとそっと頭を撫でてやれば、ふわっと周囲も柔らかくなるような気がした。まあスピネルからすれば、ここへ来るまでの運転をしてくれたウィルの真面目な横顔にもどきどきさせられていたのだけれど。
「お客さん達、お食事もこのあたりの地元ならではの味を用意してますよ」 宿の女性がそう言ってくすりと笑う。
「それに、このあたりは迷いさえしなければ、いいハイキングコースもありますしね。今の時期だとチョイと厳しいですが、是非またいらしたときには、そちらもご覧なさいな。ハイキングしなくとも、風景を楽しむだけでもとてもいい場所も多いですしね」
 ぴんと背筋を伸ばしたその女性、どうやらこの宿の若女将らしい。和装のよく似合うひとで、格式の高い宿の美人若女将、という表現がしっくりくる風体だ。
「お夕飯は呼びに参りますので」
 それではごゆっくり、と若女将は微笑みながら立ち去っていく。
 
「でも本当に、凄く素敵! あたし、こういう所はあんまり慣れてないけど、だから余計に嬉しいんだよね!」
 スピネルが嬉しそうに言うと、さっそくとばかりに宿を探検しに出かける。子どものようにはしゃぐスピネルの様子を見て、ウィルもなんだか嬉しくなった。
 無論、緊張はしている。だれよりも大切な存在であるスピネルと、二人で外泊ははじめてなのだから。くわえてウィル自身はむかしから人付き合いも得意と言える方ではなく、女性との交際もスピネルがはじめて。緊張するな、と言う方がどだい無理な話である。
 そんなことをぼんやり考えながら部屋でくつろいでいると、
「ウィルちゃん! 庭に積もった雪で、ちょっと遊ぼうよ!」
 スピネルがそう言って庭から声をかけてきた。そんな無邪気な恋人の姿が愛おしくて、ついつられて外へ出る。無論、自分もスピネルも寒くないように、そう言った準備を携えて。
 そこで作った対の雪うさぎは、まるでウィルとスピネルたちのように仲睦まじく見えた。

 それからしばらくして用意された夕食は、じものの山菜や川魚、ジビエなどを用いた野趣溢れる、しかし丁寧かつ繊細に作られた料理の数々が二人の前に並べられた。どれも素材の風味を生かした味わいで、二人は顔をほころばせながら舌鼓を打った。また、食事の折にはウィルは地酒らしい大吟醸をちびちび飲み、スピネルはソフトドリンクで乾杯をする。なんだか二人だけの特別な夜という感じがして、それも二人の気分を心地よくさせた。
 夜は風景が余り見られないかと思ったが、仄かな光のなかにぼんやりと浮かび上がる雪景色は、いっそう美しく見受けられ、よくよく見ればちらちらと雪が舞い始めている。
「来るときに降ってなくて良かったね」
 スピネルがそんなことを笑顔で言うので、ウィルもそうだな、と軽く頷いて見せた。しぜんと二人の顔に笑みが浮かぶ。
 
 ――そういえばウィルの国籍はアメリカである。
 温泉という習慣は余り馴染みが多くない環境で育ったせいか、彼は緊張していた。日本文化には明るいといえど、馴染みのないことにはやはりどぎまぎしてしまう。
 というのも、温泉の露天風呂というのが、所謂混浴だったのである。
 しかも時間が良かったのかなんなのか、今風呂にいるのはウィルとスピネルの二人だけ。脱衣所を抜けてきたら横にはタオルで身体を隠したスピネルが――なんて構図だったものだから、なるべく目を合わせないように、背中合せになって風呂に浸かる。
「……いい湯だな」
「そ、そうだね! 雪空で入るお風呂って、なんか凄くロマンチック!」
 スピネルの声も少しうわずっていて、お互い緊張しているのがわかる。互いの心音が聞こえそうなくらい近くにいて、だけど顔を見ることもせず、言葉を紡いでいく。
「……もうすぐ、天魔との戦いも何らかの変化を迎える」
 ウィルがそう言うと、スピネルの肩がぴくり、と動いた。
「だけど、その後も――、もし、できれば、」
 言葉は最後まで口にしない。いや、照れくさくて口に出来ない。それでもスピネルは納得したようで、
「……うん」
 小さく、しかしはっきりと、そう返事をした。
 
 
 初めての時間、というのはなんだって愛おしい。
 初めての旅行、初めての温泉――そんなどれもこれもが。
 いい湯だった、と笑顔で部屋に戻ってきた二人の目の前にあったのは、一組の布団。
 ドキリ、と心臓が高鳴る。頬が熱く火照る。それはウィルか、スピネルか。
 でもお互いその覚悟は無いわけではない。
 手をとって、二人はゆっくりと口づけを交わす。
 お互いの、ただひとりの最愛の恋人を、間近に感じながら。
 そして、二人だけの――。
 



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb3048 / ウィル・アッシュフィールド / 男 / 大学部5年 / 阿修羅】
【jb7168 / スピネル・クリムゾン / 女 / 大学部一年 / アカシックレコーダー:タイプA】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびはご依頼ありがとうございました。
糖度高めで、と言うことでしたが、ご要望に添えているでしょうか。
甘い時間を過ごす二人と言うことで、こちらもどきどきしながら書かせて頂きました。楽しんで頂ければ幸いです。
エリュシオンもそろそろ佳境。
どうぞ、悔いのないように。

それでは、ありがとうございました。
八福パーティノベル -
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エリュシオン
2017年01月30日

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