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『満ち足りた器(5) 』
水嶋・琴美8036
 夜の世界は静まり返っている。薄汚れた廃ビルの一室には、並べて転がされている何体ものアンドロイドの姿があった。
 そして、それを取り囲むように立っているのは、ローブを着た怪しげな集団だ。
 先日、琴美が対峙した邪教団ではない。けれども、似たような存在ではあるようで、彼等は寝転がっているアンドロイドをまるで囲むように魔法陣を描き、とある儀式を行おうとしていた。
 しかし、その儀式は一時中断される事になる。突然、音が響いたからだ。ただでさえヒビの入っていた窓が、割れるような甲高い音。
 かくして、割れたその窓から侵入者は降り立った。
 その姿を隠そうともせず、堂々と彼等の前に姿を現したのは一人の女だった。今まで人々が手に入れた全ての技術を費やし髪の先まで丁寧に造ったアンドロイドなのではないかと見紛う程に、完成された美しさを持った少女だ。
 ただでさえ魅惑的な身体は、ボディラインをなぞるようにぴったりと肌に張り付く黒のラバースーツを着ているおかげでより一層扇情的に見る者を誘い、プリーツスカートはラバースーツと揃いの色で合わせられていてひどく愛らしい。スラリと長く伸びた脚はロングブーツに膝下まで隠されているが、その美しさまでもは隠し切る事は出来ていなかった。シンプルで動きやすい服装でありながらも、その衣服は彼女に着られるために作られたのだと推測出来る程に少女によく似合い、ますます彼女を魅力的に見せている。
 黒く長い髪を持つ少女は、同じく黒色の瞳で廃ビルにいる者達を睨むように見据えていた。その瞳には、確かな憤怒が宿っている。
「あなた達ですわね。アンドロイドの暴走事件を起こしていたのは」
 少女、琴美は怒りをはらんでいながらも聴き心地の良い凛とした声でそう告げた。
 事件について調査していく内に彼等の存在に行き着いた琴美は、すぐに拠点を割り出し襲撃しようとしたのだが、それは優秀な彼女であっても無理な話だった。なにせ、彼等にはもともと決まった拠点がなかったのだ。点々と、廃ビルや廃工場を移動しそこで活動を行っていたのである。その事に気付いた後は、彼等が次にどこを活動場所に選ぶのかを予測するのは無論琴美には容易な事であったが。
 琴美はまず倒れているアンドロイドを見て、次に彼等を囲む魔法陣へと視線をやる。そして、すぐにその魔法陣が何のためのものなのかに気付けば、不快げにその整った眉を寄せた。
「これは、死者の魂を無理矢理現世へと留める禁術ですわね。あなた達は、アンドロイドの身体へと人の魂を憑依させていたという事でして?」
 琴美の言葉を聞き、一人の男が前へと出てくる。恐らく、この男がこの集団のリーダーなのであろう。彼は何が面白いのか、不気味な笑みを隠そうともせずに「その通りだ」と宣った。そして、未だ見る者を不愉快な気持ちにさせる笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「私達は、神様を作ろうとしているのだよ」
 その言葉に、ますます訝しげに琴美は眉をしかめた。
「神様、でして?」
「アンドロイドは完璧だ。しかし、まだ人には及ばない。それは何故か……。心がないから。魂がないからだ」
「……」
「アンドロイドに人間の魂を入れれば、その空っぽの器を満たしてやれば、人を……否、神すらも超える存在が作り出せるのではないだろうか。私達はそう考えたのだ」
「……狂っていますわね」
 アンドロイドの体に、人の魂を入れれば神を作れる。そんな間違った考えのもとに、禁術を使いさまよう霊の魂を無理矢理アンドロイドへと憑依させた結果が、あのゆったりと動く機械じかけのまがい物のゾンビだったのだろう。だとすれば、先日の戦いで全てのアンドロイドが動き出さなかった事にも納得が行く。
(彼等はあの時、私が倒した邪教団の者達の魂をアンドロイドの中へと入れていたんですわね。だから、あの時アンドロイドは邪教団と同じ数しか動き出さなかった……死者を愚弄する残酷な話ですわ)
 この事件の黒幕は先日の邪教団と対立する組織なのではないか、と予測した事も琴美にはあった。けれど、真実はそれ以上に残虐で心ない。彼等が邪教団を手に掛けた理由は、ただただ新鮮な魂が欲しかっただけに過ぎないのだ。
 自らの信仰のために他者を犠牲にする。そんな奴らに、これ以上好き勝手にさせるわけにはいかない。
 琴美は小さく「許せませんわ」と呟いた。この狂った計画に協力している信者達の視線が、一斉に琴美へと突き刺さる。男の語る妄想を信じ、実行しようとした者がこんなにもいるという事実にぞっとした。
 男は琴美の言葉に気分を害す素振りもみせずに、ただただ楽しげに笑っていた。恐らく、もう正気ではないのだ。
「我らが神を作り出す儀式の邪魔はさせない。女であろうとも、容赦はしないぞ!」
 そして、男のその言葉を合図に、信者達は一斉に琴美へと襲いかかった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年01月30日

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