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『男ふたりのクリスマス 』
A・Kaa0008hero002)&朱葉 宗二aa0027hero002


 時は冬。
 カレンダーが最後の一枚になったと思ったら、あっという間に半分以上が駆け足で過ぎ去り、気が付けばもう明日はクリスマス。
「日本じゃ12月にはセンセイが走るって言うけど、時間まで走るとは思わなかったよな」
 A・K(aa0008hero002)は上着のポケットに両手を突っ込み、首を肩の間に埋もれさせるような格好で師走の町を歩いていた。
 葉を落とした街路樹の寂しげな姿は、普段なら寒い季節をいっそう寒々と感じさせるものだ。
 しかし今日はクリスマスイブ、その枝には色とりどりの煌めくイルミネーションの光が咲き競っていた。
 光の下にはたくさんの笑顔の花が咲いている。
 家族と、友人と、恋人と――
 自分の能力者も、今ごろは家族とあんな風に楽しく過ごしているのだろう。
 それを羨むことはないし、むしろ自らそれを望んで後押しをするのは、自分ともう一人の英雄との間に交わされた暗黙の了解だった。
 先に予定を詰めてしまえば、誘いを断っても互いに気まずい思いはしなくて済むだろうし、彼も英雄達に気兼ねをせずに楽しめるというものだ。
 とは言え、毎度そう都合良く予定が埋まるはずもなく、しかし彼には「予定があるから」と言ってしまった手前、家でゴロゴロしているわけにもいかない。
 というわけで、寒い中を町に繰り出してはみたのだが。
「さすがに目的もなくぶらぶら散歩するには厳しい寒さだよなー」
 物理的にも、精神的にも。
 どこを見ても楽しそうな集団ばかりで、一人で出歩いている者の姿が見当たらない。
 この国にはクリスマスイブを共に過ごす相手が見付からない者には外出を禁じるような法律でもあるのだろうか。

 そう思って、大きな白い息の塊を夜空に放り投げた時。
「……ん? あれは確か……」
 見覚えのある姿が、人波の向こうにちらりと見えた。
 ふわふわの黒髪を揺らしながら、ぼんやりと街路樹を眺めている中年男性。
 イルミネーションに見惚れるあまりか、時折通行人にぶつかっては「すみません」と丁寧に謝り倒している、あの人は――
「アー、あんた、ハロウィンのときの?」
 気が付けばA・Kは自分から声をかけていた。
 持て余した暇や一人の時間を寂しく思うわけではないけれど、互いに連れもいないとなれば、そのまま黙ってすれ違う手はないだろう。
 しかし顔は覚えているが、名前は覚えていない……いや、聞いた記憶がない。
「ごめん、名前なんだっけ……でしたっけ」
 いつもの軽い口調で言いそうになって、A・Kは慌てて言い直す。
 相手は見るからに日本人、そして年上。長幼の序を重んじる日本の文化は知っているし、余程の理不尽でもない限りは素直に尊重するのが彼のスタイルだった。
「やあ、きみは……」
 と、こちらも砕けた調子で言いかけて、朱葉 宗二(aa0027hero002)も口調を改める。
 相手とはほぼ初対面だし、打ち解けるまでは年下相手にも敬語で話したほうが良いだろうという判断だ。
「確かAKさん、でしたよね。俺は朱葉 宗二、ソウジで良いですよ」
「ソージさんか、なんだか美味そうな名前ですね!」
「え?」
「ほら、なんかソーセージみたいで!」
 その言葉に、宗二はふわふわと楽しそうに笑った。
「そんなことを言われたのは初めてですね」
 面白い子だ、それにとても賑やかで人懐こい。
「あ、もしかしてイヤだった、ですか?」
「いいえ、でも……そんな連想をするのは、お腹が空いているからかな、と思って」
 くすりと笑われ、A・Kは思わず自分の腹に手を当てる。
 言われてみれば、そうかもしれない。
「そうだ、俺の家で一緒にチキン食べませんか?」
「えっ」
 チキンと聞いて、口の中に唾液が溢れる条件反射。
「世間はクリスマスですが、能力者の相棒は家族と過ごしているし、もうひとりの英雄はどこかに出かけてしまったので……」
 暇を持て余した結果ぶらりと外に出てみたけれど、ひとりでは持て余す暇が増えるだけだと気付いた43歳の冬。
「仕方がないので、チキンでも買って帰ろうかと思っていたところなんですよ」
「なんだ、ソージさんとこもですか」
 自分のところも似たようなものだと、A・Kは素直に誘いを受ける。
「俺もこれから寄るとこだったんです、ケンタくんのフライドチキン! あれ美味いですよね、油っこくなくてヘルシーだし!」
「そうかな……まあ、アメリカのチキンに比べればそうかもしれませんね」
 本場のチキンをもりもり食べたからこんなに大きくなったのだろうかとA・Kを見上げつつ、宗二はゆっくりと歩き出す。

 ケンタくんのフライドチキンは、今や「日本のクリスマスチキンと言えばこれ」というくらいの定番、おかげでイブの夜ともなれば行列が店の外に溢れることも珍しくない。
 今日もずいぶんと待たされることになるだろうが、連れがいるならその時間も楽しいものになるだろう。
 ましてA・Kは喋り続けなければ死んでしまうのではないかと思うほどに饒舌だ。
「あ、俺うるさいですか?」
「いいえ、賑やかで楽しいですよ」
「俺のとこ、もうひとりの英雄がすっごい無口で、もう喋ったら死ぬ呪いでもかけられてるんじゃないかってくらい。だからつい俺ひとりで二人分とか喋っちゃって」
「そうですか、AKさんは気遣いの出来る良い子なんですね」
 そんな風に褒められてもA・Kは謙遜などしない。
 相手を褒めるのはコミュニケーションを円滑にするための必須テクだ。
 なのに、日本人はとかく過剰な謙遜で自らネタを潰しにかかるのだから、まったく厄介な民族だ。
 でも知ってる、謙遜の影に「もっと褒めてくれてもいいのよ?」という無言の催促が隠されていることは。

 自分のことや能力者のこと、他の英雄や仕事のことなど、とりとめのない話をする間に行列は進み、二人は無事にチキンを手にすることが出来た。
「冷めないうちに急いで帰りましょうね。あ、うちはすぐ近くですから」
 香り立つチキンの箱を大事そうに抱えて、宗二は足早に家路を急ぐ――が、その途中で何かを思い出し、その足がますます速まった。
「ごめん、片付けるから待ってて! あと、これちょっと持っててくれるかな!」
 ワンルームマンションの玄関先でチキンの箱を押し付けて、宗二は慌てて部屋に飛び込む。
 うっかりタメ口になったことに気付いたらしく、一瞬「あっ」というような表情を見せたが、今はその訂正よりも優先すべき課題があると判断したらしい。
 理由は何となく想像が付いた。
(「男の部屋が散らかってるのは、よくあることだよな」)
 待つのは構わない。
 けれどお願い、このチキンが冷めないうちに――

「お待たせ、さあどうぞ入って!」
 待たされたのは、ほんの一分かそこらだった。
「お邪魔しまーす」
 そう言って足を踏み入れた部屋の中は、案外きれいに片付いていた……ざっと見た限りでは。
 机の上を見れば本や雑誌が山積みにされ、その上にパソコンのキーボードが置かれていたり、ビールの空き缶が放置されていたり。
 部屋の隅には隠し損ねた洗濯物が顔を覗かせていたりするけれど、それはまあごく一般的な光景だろう。
「あ、そこ座ってね」
 宗二は狭い隙間に無理やり押し込まれたような小さな炬燵を指さす。
 いつの間にか口調がラフになっているが、もう開き直ってこのままでいくことに決めたらしい。
「ビールでいいかな、それともジュース? お茶もあるけど湯を沸かさないと……」
 日本人ならここで「何でもいい」と答えるところだが、A・Kはしっかり自己主張。
「ビールがいいな、銘柄は気にしませんけど」
「こないだ安売りしてたやつだから、好みに合うかわからないけど……どうぞ?」
 冷えたビールの缶を開け、まだ湯気を立てているチキンを二人で頬張る。
「あ、俺ポテトも買ってきましたから、遠慮なく食べてくださいね。肉ばっかりじゃ身体に良くないって聞くし、俺こう見えてもヘルシー志向ですから!」
 油で揚げたポテトのどこがヘルシーなのか、それ以前にポテトは野菜なのか、疑問は残るが仕方ない。
 ピザを野菜と言い張るよりはまだ納得がいくから仕方ない。
(「それにしても、よく食べるなあ」)
 瞬く間にチキンを骨だけにして、その骨さえもバリバリ食べ尽くしてしまいそうな勢いのA・Kに、宗二は目を細める。
 食べっぷりがいいのは見ていて気持ちがいいし、よく食べる子はいい子だ。
「俺のチキン、まだあるけど……食べる?」
「いいの!?」
 その申し出に、A・Kは尻尾があったら千切れんばかりに振っていそうな勢いで食いついてきた――文字通りに。
「ありがとう、いただきます! あ、でもいいの? ソージも足りないんじゃない?」
「って、食べてから言う?」
「そりゃそーだけど」
 むしゃむしゃ。
「俺はもうおじさんだから、油っこいものはあんまり、ね」
「そういうの、もう一回りくらい上の世代が言うもんだろ? ソージはまだ若いぞ」
 むしゃむしゃ。
「そうかな、ありがとう。でも、えーくんみたいな若い子の会話にはついていけないし」
「なに言ってんの、ちゃんと会話になってんじゃん」
 まったく日本人は奥ゆかしいんだから。
 シャイで真面目で真剣で……そこが可愛いから、日本人って好きなんだけど。
「俺もうちの能力者とかから見たら充分オッサンだけど、会話に支障はないぜ? まあもうひとりが支障ありすぎってのもあるけど」
「えーくんのところは楽しそうだね。俺もえーくんと友達になれたらきっと楽しいだろうな」
「え、俺らもうダチじゃん」
 すっかりタメ口だし、ソージとえーちゃん呼びだし。
 それに、自然と会話が弾むこの心地よさ。
 自分が喋る量は普段と変わらない気がするけれど、ちゃんと反応が返ってくるのが嬉しいじゃない。
「それもそうだね、ありがとうえーちゃん。あ、ほら……口の周りがすごいことになってるよ?」
「お、Thanksソージ」
 差し出されたティッシュで口と手を拭いて、お腹が落ち着いたら小さなテレビでクリスマスの特集番組を見て。
「これぞ日本流クリスマスって感じだよな」
 炬燵はぽかぽかと暖かく、テレビから流れる音楽は子守歌のように心地良く耳をくすぐり――

 気が付けば、A・Kはぐっすり夢の中。
 その背に毛布をかけてやり、宗二はふわりと微笑んだ。

「また、よかったらうちにおいで。えーくん」
 おじさんで良ければ、話し相手くらいにはなれるから。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0008hero002/A・K/男性/外見年齢26歳/餌付けされました】
【aa0027hero002/朱葉 宗二/男性/外見年齢43歳/ゆるふわダンディ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
ご依頼ありがとうございました。

男ふたりのクリスマスも、なかなか賑やかで楽しそうです。
お二人ともお酒を嗜むのか不明でしたが、この年齢だし問題はないだろうということで、ビールでチキンにしてみました。
問題がありましたら修正しますので、口調等の齟齬やイメージの違いなどと合わせて、ご遠慮なくリテイクをお願いします。

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2017年01月31日

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