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『鬼さん達の大掃除 』
鎬鬼ka5760)&マシロビka5721)&風華ka5778)&ユキトラka5846)&アクタka5860)&一青 蒼牙ka6105)&美風ka6309


 そろそろ暮れも押し迫った師走のある日、世間では新しい年を迎える準備も終わりを迎えようかという頃。
 鬼達の住まいでも、一年の締めくくりとして大掃除が行われて――いなかった。

「冬はやっぱりコタツでミカンだよな!」
 ぬくぬく。
「そうそう、こたつむりサイコー!」
 ぽかぽか。
「このまま冬眠してもいいよねー」
 うとうと。

 鎬鬼(ka5760)とユキトラ(ka5846)、そしてアクタ(ka5860)の三人は、コタツの魔力によってすっかり骨抜きにされていた。
 それどころか、寒さに負けず庭を駆け回るはずの、ユキトラの飼い犬サスケまでが猫のようにすっぽりと潜り込んでいる。
 動きたくないでござる、修行なにそれ美味しいものなら修行が来い、コタツの餌食にしてやろう。

 しかし、この家にはコタツの誘惑を無効化する能力の持ち主がいたのだ――しかも一人ならず。
 そのうちの一人、マシロビ(ka5721)はにこやかに言い放った。
「さあ、大掃除を始めましょう。一年の汚れを落として気持ちよく新年を迎えましょうね」
「えー、掃除ぃー?」
 ダラけきった声で鎬鬼が答える。
「俺はいいよー、いつもちゃんと片付けてっから……それよりマシロビ姉もこたつむりになろうぜー」
 ほら、まだ一人分の空きがあるから。
 しかしマシロビはそんな誘惑を手にしたハタキで一刀両断。
「片付けていると言うなら、片付いていないものは捨ててもいいということですね?」
 わかりましたとにっこり頷いて、マシロビは去って行った――鎬鬼の部屋がある方へと。
 大丈夫、片付いてると言ったのは嘘じゃないし、見られて困るものはちゃんと隠してある。
 隠してある、けれど。
 嫌な予感。
 鎬鬼はコタツの誘惑を振り切って立ち上がり、足早にマシロビの後を追いかけ、追い越し――

 しかし時すでに遅く、目に入ったのは風華(ka5778)の背中。
「風姉ダメ! 其処は開けちゃダメ!」
 お願いだから開けないでーーーっ、という叫びも虚しく、風華は「あけるなきけん・見た人はのろわれます」と張り紙された行李の蓋を開け放つ。
「鎬鬼さんも成長期ですから、もう着られなくなったものも多いでしょう? 誰かに譲るか、仕立て直しが出来ないかと思って」
 それはとても有難い申し出だし、リユース・リサイクルが大事なのも知ってる。
 でもそこに入ってるのは衣類じゃなくて――
「なんですか、これ」
 折れた木刀、空き瓶、錆びた金属、ボロ布、木の枝、どんぐりの残骸に、虫の死骸……
「ゴミですね」
「ゴミじゃない!」
 せめてガラクタと言って!
「行李はゴミ箱ではありませんよ? ゴミ箱として使うなら、せめて定期的に中身を捨てるようにしてくださいね」
 そう言うと、風華はゴミ袋として用意された大きな麻袋に行李の中身を流し込もうとした。
「やめてー風姉ーー! 捨てないで俺の秘蔵コレクションー!」
 ゴミじゃないってわかれば捨てないでくれる?
 じゃあ説明するよ!?
「木刀はそのうち修理しようと思ってたやつ!」
「そのうちとは、いつのことでしょう?」
「空き瓶は飲むと大きくなれる魔法の薬が入ってたんだ、なんか蒸発しちまったみたいだけど」
「ではゴミですね」
 錆びた金属はどこかにある秘密の部屋を開ける魔法の鍵で、ボロ布は未完成の透明マント。
「魔法の材料が手に入れば完成するんだぜ!」
 木の枝はなんか形が面白くて、虫の死骸は……多分、どんぐりから出て来たやつが成長して、でも外に出られなくて。
「可哀想なこと、しちまったな」
 項垂れる鎬鬼の頭を優しく撫でて、しかし決然と風華は言い放つ。
「つまり、それほど長い間一度も開けていなかったということですね」
 一年使わなかったものは次の一年も使われることはないと言う。
 一年開けられなかった行李は、次の一年どころか永久に開けられず、遂には黒歴史と呼ばれるものに進化を遂げるかもしれない。
 そうなる前に捨てたほうが安全だし、一年の締めくくりには今年にケジメをつけるべく捨てるべきものは捨てる、それが大掃除。
「だったらせめてこれだけでも! いつかちゃんと直すから!」
 鎬鬼は折れた木刀を手に取った。
 しかし、その背後からマシロビの声が刺さる。
「いつか直すものは絶対に直さないものです。いつか使いそうなものはいらない物です。この際きっちり処分しましょう!」
「マシロビの言う通りですよ」
 風華は容赦なく、にっこり笑って取り上げる。
 敵わない、マシロビと風華それぞれ単独でも敵わないのに、二人がタッグを組むなんて無理ゲーだ。
「それに百歩譲っていつか直したとして、使うのですか?」
「え、いや……」
 それはまだ鎬鬼が今の半分くらいのチビだった頃、剣の練習に使っていたものだ。
 直すと言っても接着剤でくっつけた位では実用に耐えないだろうし、今では鍛錬用のちゃんとした武器もある。
「思い出の品であることはわかりますが、思い出は心の中にずっとしまっておけるものです」
 壊れることも、なくなることも、誰かに捨てられてしまうこともない。
 直したとしても、使ってもらえなければ道具も寂しいだろう。
「ですから、このまま供養してあげましょうね」
「供養……だったら、墓作って埋める。そいつも」
 しゅんと項垂れた鎬鬼は、折れた木刀と虫の死骸を手に庭へと出て行った。
 穴を掘り、二つを埋めて、その上に石を載せる。
「お前らのことは忘れない、縁があったらまた会おうな」

「シノのやつ、何やってんだ?」
 コタツから顔だけ出したユキトラが、庭先を見て首を傾げる。
 そこからだと、鎬鬼の姿は地面に膝を折って打ちひしがれているようにしか見えなかった。
「断捨離の嵐に巻き込まれて、心が折られたんじゃないかなー」
 同じく首だけ出しながら、アクタが他人事のようにくすくすと笑う。
「あー、そう言えばさっきすげー悲鳴が聞こえたよな」
 あれは鎬鬼の断末魔だったか。
「あいつコレクター癖あるからな、マシロビやカザハナの姉さんにとっちゃ良いカモだろ」
「部屋が汚いのはねー、心が汚い証拠なんだよー」
 アクタが他人事のように茶々を入れる。
「そんなこと言ってアクタは大丈夫なのか? モノとかなんかすげー溢れてんじゃね?」
「ボクの部屋はキレイだよー」
 女子力の高さは女子にも負けない、むしろ女子が手本にするほど。
 部屋だって女子力高く、物が多いながらも可愛らしく整えてあるのだ。
「オシャレと同じで部屋も統一感って大事だよねー」
「統一感……そっか、一部分だけキレイに片付けてもダメってことだな! ゴチャゴチャなら全部ゴチャゴチャにしねーと!」
 違うそうじゃない。
「そう言うゆーはどうなのさー」
「オイラの部屋だってキレイだぜ! なんたって、なんにもねーからな!」
 自分で言う通り、ユキトラの部屋には殆ど何もない。
 片付ける必要どころか、そもそも片付けるべきモノがない。
 むしろ誰かが要らないものを恵んでくれそうな勢いで何もない。
 なのに、まだ捨てる気だった。
「そうだ、せっかくだしオイラも断捨離してくっか! 身軽が一番ってな! いくぞサスケ!」

 目的があればコタツの魔力も効力を失う。
 サスケを連れて自室に戻ったユキトラは、ほぼ唯一の家具である行李を開けて中を覗き込んだ。
「これは……髪紐か。古くなったし、なんかこんがらがって解けねーぞ、なんでこんな無造作に放り込んどくんだよ昔のオイラ!」
 かつての自分に文句を言いつつ、ぐちゃぐちゃに絡まった髪紐をポイ。
「この着物も丈が短くなったなー、あ、これ虫食ってる……」
 手当たり次第にポイポイしているうちに捨てることが楽しくなって、遂には他に何か捨てるものはないだろうかと物色を始めるユキトラ。
「そうだ、サスケの首輪も古くなってるよなー」
 外してポイ。
 潔く処分して気分もすっきり、これで気持ちよく新年を迎えることが――
「あ、そうだ。晴れ着も用意しとかねーとな!」
 だがしかし、すっきりしすぎて行李の中は空っぽだった。
「アルェ?」
 もしかしてオイラ、ボロしか持ってなかった?

 一方コタツに残ったアクタは、のんびりぬくぬく冬眠中。
 しかし、そこにも迫る大掃除の魔の手。
「毎度ご利用ありがとうございます。本日の営業は終了いたしました、またのご来店を……っと!」
 よいしょー!
 一青 蒼牙(ka6105)が、こたつむりの殻を勢いよく引っぺがした。
「やーだーさーむーいー」
 剥き出しになった中身が手足を縮めて抗議するが、蒼牙は聞く耳を持たなかった。
「夏は暑いとゴロゴロ、冬は寒いとゴロゴロ、だいたいこんなにモコモコ着込んで何が寒いの」
「寒いものは寒いのー、そーコタツ返してー」
「そうはいかないよ、サボってないで掃除しな……そうやってじっとしてるから寒いんだろ、動けば暖かくなる」
「じっとしててもコタツがあればあったかいよー」
 若いのに覇気がないと蒼牙が天井を仰いだその時、背後から穏やかな声がした。
「でしたら、いやでも動きたくなるようにしてあげましょうか」
 にっこり微笑んだのは、鎬鬼の部屋を片付け終えた風華だ。
「蒼牙さん、コタツをそこに置いてくださいますか?」
「え、うん……でも風華、いったい何を……」
 まさか、その拳で真っ二つにするつもりでは――晴れやかなその笑顔が怖い、怖すぎる。
「待って、ちょっと待って、これは皆で使うものだから……!」
「壊されたくなければ、サボらずに早く終わらせましょうね」
 知ってる、それがただの脅しじゃないってことは。
 ぷぅっと頬を膨らませつつ、アクタはのそのそと動き出した。
「もーしょーがないなー、じゃあコタツの代わりになるもの探してくるねー」
「コタツ剥がされてもまだ諦めないの、今は大掃除の時間だって……」
 呆れたように呟く蒼牙に、振り返ったアクタがかくりと首を傾げる。
「えーなにー皆もお掃除中ー? 大掃除って部屋が汚れてる人だけがするものじゃないのー?」
「ここは皆の家でしょう? だから全員で頑張るのですよ。皆でやれば早く済むし、それだけ早くまたコタツに潜れますしね」
 そう言いながら、風華は畳の縁に手をかける。
「さあ、これも天日に干しましょうね」
 そうして、重い畳がまるで紙切れのように次々と剥がされて行くのであった。

 ばしん!
 ばん!

 先程から廊下の一角で聞こえる、何かを叩くような音。
 一体何事かと見てみれば――
「あ、蒼牙さん!」
 濡れ雑巾を手にした美風(ka6309)が、ジャンプしながら廊下の壁をしきりに叩いている。
「大掃除お疲れ様なのです!」
「ああ、うん、美風もお疲れ。でも……何してるの?」
「何って、見てわかりませんか、掃除なのですよ!」
 それはわかるけど、ぴょんぴょん跳ねているのは何故?
「掃除もまた鍛錬の一貫なのです! ですから!」
 ばしん!
「こうして!」
 べしん!」
「高いところを!」
 べちっ!
「拭いているのです!」
 低いところはスクワットしながら上下に、高いところはこうしてジャンプで。
「叩いた瞬間、素早く拭き取るのがコツなのです!」
「そうか、うん、頑張ってるね」
 それで本当に綺麗になっているのか、疑問ではあるけれど。
 と、それで思いついた。

 蒼牙は断捨離の嵐に巻き込まれて魂まで捨ててしまったかのように、庭先で萎れている鎬鬼に声をかける。
「鎬鬼様、今こそ身体を鍛える良い機会じゃないかな!」
「……え?」
 その声に、鎬鬼は「おもいでのはか」と書かれた木の札から顔を上げた。
「掃除を極めれば強くなれる! 進め! 誰が掃除界のトップになれるか競争だ!」
「蒼牙さんの言うとおりです」
 その脇で、美風がふんすと胸を張る。
「掃除を極めれば強くなれます」
「強くなれる!? 競争!?」
 そのキーワードに、鎬鬼の中で何かのスイッチが切り替わった。
「やるやる!」
「オイラも! オイラもやるぞ!」
 鎬鬼がやるなら自分もやらねばと条件反射的にユキトラも手を挙げる。
「もちろん、わたしも参加するのです」
 美風が真剣な表情で頷く。
「でも何を競うのでしょう、窓拭きでしょうか」
「どんだけ素早く綺麗に仕上げるかって……うーん、なんか地味だな」
 もっとこう、派手にどーんと、いかにも競争っぽいものはないだろうかとユキトラが首を捻る。
「よし、雑巾掛け競争しようぜ!」
 そう言ったのは鎬鬼だった。
「おお、さすが鎬鬼様! 素晴らしいアイデアだね!」
 手放しで褒める蒼牙は今日も完璧にブレない鎬鬼様贔屓。
「じゃあ外の廊下でやろうか」
 彼等の家は昔ながらの和風建築――と、蒼の世界で呼ばれているものだ。
 畳を敷いた部屋と庭の間には、建物をぐるりと取り囲むように、回り縁と呼ばれる廊下が延びていた。
 廊下の室内側は障子や襖で区切られ、庭に面した側にはガラス戸と雨戸がある。
 その端から端までが競争のコースだ。

「じゃあ雑巾をよく絞ったら、三人とも位置について……」
 横に並んだ三人は「用意」の声で一斉に尻を高く上げる。
「――どん!」
 各選手、合図と共に一斉にスタートを切った!
 しかし!

 ずべしゃ!

 美風選手、気合いが入りすぎたかスタートと同時に足を滑らせた!
「うぅ……、でも負けないのです!」
 素早く体勢を立て直し、先を行く二人の尻を追いかける!
「俺は風になる! フウーー!」
「っしゃあ、オイラ強くなるぞォォォ!」
「負けないのですうぅぅぅ!」
 猛スピードで雑巾を滑らせる三人、しかしその速さで角を曲がり切れるのか!
「ふぉぉぉぉーーーっ!」
「どりゃあぁぁぁっ!」
「えぇぇぇぇいっ!」

 ずだごろどっしゃんばーーーん!

 子供は急に止まれない。
 方向転換も出来ない。

 それでも何とか角を曲がろうとした鎬鬼は直前で柱を蹴って無理やりに方向を変える。
 しかし、そこに突っ込んで来たユキトラにぶつかり、団子になって廊下を転がって行った。
 僅かに遅れた美風は巻き添えこそ免れたものの、曲がりきれずに端からテイクオフ、庭の隅まで飛んでった。

「痛ってー……」
 気が付けば、鎬鬼の首はすっぽりと何かに嵌まっていた。
 目の前には部屋の壁らしき絶壁。
「んががが抜けねえっ!」
 その声に首を回すと、ユキトラと目が合う。
 鎬鬼は把握した、どうやら二人で仲良く襖を突き破って部屋の奥まで突っ込んだらしい、と。
 そこに降って来る、マシロビの声。
「あなた達は何をしているのですか?」
 やばい、逃げなきゃ。
 本能がそう命じているけれど、首は抜けない動けない。
 振り向こうとしたけれど、二人で逆の方向に行こうとするものだから、やっぱり動けない。
「とにかく逃げるぞユキトラ」
「おう、マシロビに捕まるとこえーからな」
 襖に首を突っ込んだまま二人三脚ならぬ一首四脚。
「そっちじゃないだろ!」
「なんだよシノが俺に合わせろよ!」
 喧嘩しながらそれでもどうにか歩調を合わせ、二人はその場から一目散に逃げ……られるはずがなかった。
「今は大掃除の時間、で・す・よ?」
 マシロビのにっこり笑顔が怖い、めっちゃ怖い。
 美風は気付かれないように、その背後をそーっと横切ろうとしたけれど、やっぱり見逃してもらえるはずがなかった。
「あーぁ、そーが煽るからぁー」
 通りすがりのアクタがしれっとチクっていく。
 しかし、もとより蒼牙も大人しく叱られる覚悟――いや、その前にバレていた。
「蒼牙さん、あなたもですよ? 四人並んで、そこにお座りなさい」
「……はい」
 にっこり笑顔で名指しされ、蒼牙も大人しく列の端に正座する。
「鎬鬼さん、ユキトラさん。あなた達が突き破った襖は、たった今、私が張り替えたばかりのものです」
 にこにこ。
「美風さんは、自分の足元をよく見てください」
 言われて視線を落とすと、そこには庭から続く泥の足跡がくっきりと残されていた。
「蒼牙さん、お掃除は遊びではないのですよ?」
 四人それぞれお小言をいただいて、あとは真面目に掃除をすると約束し、その場はひとまず解放される悪戯っ子達。

「なんか今日のマシロビ姉すごい楽しそうだよな」
「そうそう、なんか生き生きしてるっつーか」
 破いた襖を張り替えながら、鎬鬼とユキトラはひそひそ話。
「掃除が楽しいのか」
「いや、楽しいのは小言じゃねーの?」
「ますます風姉に似てくるよな」
「ああ、もう誰にも止めらんねーな……」
 二人でガクブルしながら破れた紙を剥がしているうちに、その心に魔が差した。
「なあ、これどうせ張り替えるなら――」
「だよな、オイラもそう思ってたぜ!」
 二人で顔を見合わせ、ニヤリと笑うと……せーの!

 べしっ!
 ぼすっ!

 襖の破れていない部分を目がけて拳を叩き込む。
「これも鍛錬の一環だよな! 唸れ俺の拳、必殺なんかちょーすげーパーンチ!」
「負けるか、オイラの鉄拳受けてみろォォォォ!」
 二人の攻撃で襖は見る見る穴だらけ。
「障子も全部張り替えるんだよな!」
「っしゃ、家じゅうの襖と障子はオイラ達が退治――」
 その時、二人の背筋に悪寒が走った。
「……何を退治するのでしょう?」
 振り向かなくてもわかる、マシロビが超イイ笑顔でこっち見てるって。
「やばい逃げろ!」
 脱兎の如く逃げ去った二人は、恐らく家の中で最も安全と思われる部屋に駆け込んだ。
「匿ってくれアクタぁぁ……あれ、いない?」
 まあいい、とにかくほとぼりが冷めるまで、ここに隠れていよう。

 その頃、部屋の持ち主は湯たんぽを腹に抱えて家の中を物色中だった。
「何か面白いものないかなー」
 そう言えばマシロビと風華の部屋はどうなっているのだろう。
 人に断捨離を勧めるくらいだから、さぞかし綺麗に片付いているのだろうと思ったら――
「うん、かーの部屋はやっぱりきれいだねー」
 と言うか女性の部屋らしからぬ実用一点張りと言うか。
「まーの部屋はー……」
 襖を開けて、そっ閉じ。
「かーに報告しないとねー」
 果たして、アクタはマシロビの部屋で何を見付けたのだろうか。

「違うのです、この子達はただの石ころではないのです!」
 風華の姿を探してふらふらと歩いて行くと、庭から美風の必死の叫びが聞こえてきた。
「その石は腕力鍛える用石で、こっちは脚力鍛える用石で、ちゃんと名前も付いてるのです!」
 他の石も、今は重くて使えないけどパワーアップした時に使う予定で……!
「では、今使っているその石だけはとっておきましょうね」
 風華はにっこり微笑むと、子供の拳大から漬物石の倍はありそうな石まで軽々と持ち上げて、庭の隅にどすんどすんと捨てていく。
「すごいのです、わたしが少しずつ引きずりながらやっと運んだ石を、あんなに軽々と……」
 どうしたらあんなに力持ちになれるのだろう。
 あんな風になるためにも、この石は必要なもので――
「でも、仕方ないのですね。それが断捨離というものなのです」
 美風は切り替えが早かった。
 落とした肩をすぐさま拾い上げて胸を張る。
「石たちはまた拾ってくればいいのです!」
 大丈夫、どこに捨てたかちゃんと見てたから!

 そこにやってきたアクタが風華にご注進。
「ねぇねぇー、あっちに良いものがあるよー」
 そうして連れて来られたマシロビの部屋で、風華は見た。
 天井まで積み上がった本の山を……!

「マシロビさん、これは何でしょうか」
 にこやかに問われて、マシロビは消え入りそうな声で答えた。
「……本……です」
「これを全部読んだのですか?」
「あ、大体は……」
「では、もう読んでしまったものなら捨てても構いませんね」
「えっ」
「まだ読んでいない本は、これからもきっと読むことはないでしょう。ですからこれも処分しましょうね」
「えっ、それは……っ、困ります!」
 本は他のものとは違って、すぐに使わないから不要というものではない。
 読んだらおしまいというものでもない。
「そこに書かれた知識がいつ必要になるかもわからないし、コレクションの中には入手困難な貴重な本も多くて……」
 マシロビの弁明を、風華はにこやかに聞いていた。
 しかし。
「貴重なものなら独り占めはいけませんね、図書館にでも寄贈して多くの人が読めるようにしましょう」
 はい没収。
「既に読んだ本も知識は頭の中に入っているでしょうから、必要ありませんね」
 はいこれも没収。
「わかりました、皆が捨てたものも元に戻して良いです、だからお慈悲を……!」


 結局、今回の大掃除で出たゴミは麻袋に半分にもならなかった。
「お帰りなさい、です」
 捨てられた石達を再び拾い集めて、美風は部屋に運んでいく。
 寂しくなっていた棚の上も、これですっかり元通り。
「最初はあんなに重たかった一番大きな石も、少し軽くなった気がしたのです」
 少しは力が付いたのだろうかと、美風は嬉しそうに微笑んだ。
 その鼻を甘い匂いがくすぐる。
 匂いの元を辿ると、マシロビが台所でお汁粉を作っていた。
「もう少しで出来るからねー」
 その脇からひょっこり顔を出したアクタがにこりと笑う。
 火を使っている台所は暖かいから大好きだ。

 その匂いは隠れている鎬鬼とユキトラのところにも届いていた。
 今ホイホイされたらマシロビに捕まって、お説教の続き待ったなし……とは思っても、食欲には勝てない育ち盛り。
 しかし、マシロビは何故か全てを忘れたように穏やかだった。
「皆さん、良かったら少し休憩にしましょう」
 一時的に復活したコタツの上に、お汁緒の椀が並べられていく。
 目の前に置かれたそれとマシロビの顔を見比べ、困惑の表情を浮かべる二人。
「マシロビ姉、どうしたんだ……?」
「なんか余計に怖いぜ、後でお説教百倍返しとか来るんじゃ……」
 ガクブルする二人の間に潜り込んで、アクタがにこりと笑った。
「そんなことないよー」
 何だかよくわからないけど、アクタが言うならそうなのだろうかと、二人は顔を見合わせる。
「甘酒もありますから、良かったらどうぞ?」
 風華が出してくれた甘酒と、甘いお汁粉で心も体もほっかほか。
「あったかいねー」
 皆のほっこりとした表情を見て、アクタが微笑んだ。

「さあ、休憩が終わったら残りの掃除を片付けないとね」
 再びコタツを片付けて、蒼牙は鎬鬼とユキトラに言った。
「まずは破いた襖と障子をきちんと張り替えて……今度は遊ぶなよ?」
「遊ばねーよ、なあシノ? 言われなくたってオイラちゃんとやるつもりだったし」
「なら良いけど……そうだ、真面目に働いたら後で饅頭をやろう。リゼリオでも有数の菓子屋で一日百個しか作らない限定品だよ」
 あ、鎬鬼様にはサボっててもあげるけどね!
「でも長たるものご褒美だけもらって知らん顔なんて、そんなことするはずないよね」
「ったりまえだろ! やるぞユキトラ!」
「だからオイラは餌で釣られなくてもヤル気満々だってーの!」
 ワイワイ言いながら作業に取りかかる二人。
「そうだ、言い忘れたけど……襖や障子って、紙を破くと剥がしにくくなるんだよね。でも綺麗に剥がさないと張り替えた時に汚くなるから……頑張ってね」
「「ええぇーーーっ!?」」
 それを早く言ってよ、という叫びが家の中にこだまする。
 次いでユキトラには更なる追い討ちがあった。
「丈の短くなった着物は、ほどいて仕立て直しておきましたよ」
「え、カザハナの姉さんが!?」
「ええ、着るものがないと聞きましたので」
 それは有難い。
 とても有難いのだけれど……嫌な予感しかしないのは何故だろう。
「オイラほんとに着るものなくなったかも……」
 不器用さには定評のある風華さん。
 着られるものが出来ていれば良いのだけれど。

「楽しそうですね」
 皆の様子を見て、マシロビが小さく微笑んだ。
 また来年も、こうして皆と楽しく過ごせれば良い――

 もう、断捨離なんて言わないから。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5760/鎬鬼/男性/外見年齢10歳/断捨離こわい】
【ka5721/マシロビ/女性/外見年齢15歳/二代目自爆王】
【ka5778/風華/女性/外見年齢26歳/断捨離女王】
【ka5846/ユキトラ/男性/外見年齢14歳/表具師になるのも良いかもしれない】
【ka5860/アクタ/男性/外見年齢14歳/低温も注意】
【ka6105/一青 蒼牙/男性/外見年齢16歳/鎬鬼様コントローラ】
【ka6309/美風/女性/外見年齢11歳/石ころコレクター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます、今回も楽しく書かせていただきました。

口調等、気になるところがありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
八福パーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年02月03日

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