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『宇宙最強の二人 』
烏兎姫aa0123hero002)&ユエリャン・李aa0076hero002

 冬の晴れた日は美しい。
 陽光を一身に浴びながら、ユエリャン・李は素直にそう思った。
 花も咲かないのに、どこか清水にも似た爽やかな香りのするこの季節特有の空気をゆっくり吸い込んで。
 ――生きるとはこうしたものか。
 色褪せていた全てが黄金色に包まれる街並みを好ましげに見遣れば、何やら口元がほころぶ。
 自然と機嫌も好くなり、頭には楽しい事や好ましい者の事が次々と浮かんだ。

『ユエさーーーーん!』

 やがて大通りに差し掛かった頃、
 どこからか元気一杯に自分を呼ぶ耳慣れた声が聞こえる。
 少し辺りを見渡せば、向かいの歩道で手を振る娘の姿が認められた。
 二人の間を車両が通るたび、桃色の長い髪さえさらさらと遊んでその人柄を顕しているかのよう。
『……おお、姫ではないか』
 互いの呼び名はもちろん、遠目にもそれと分かる程度には既に親しい。
 姫――こと烏兎姫は信号が変わるや否や弾むようにこちらへまっすぐ駆けて来た。
『今日も美しいな』
『えへへへへー。でもでも、ユエさんにはかなわないんだよ!』
『確かに我輩の美貌は全宇宙きってのものに相違ないのであるが、きみと甲乙つけるのは難しい』
『よく分かんないけど……二人とも最高の美人って事でいいのかなッ』
『その通りッ』
『お揃いなんだよ!』
 宇宙一の二人は今日も絶好調だ。

 閑話休題。

『ユエさんもお休み?』
『うむ、とは言え特段する事もないのであるが――』
 何気ない問いにふと思い立ち、ユエリャンは隣り合わせに歩く烏兎姫を改めて上から下まで眺めてみた。
 今日の装いはスタジャンにパーカーを重ねたボーイッシュなアメカジ系。
 他方プリーツスカートと柄物――どうやら中に着込んでいるらしいパーカーから裾がはみ出たネルシャツと同系統の――のニーハイソックスと、髪色に合わせたハイカットスニーカーのコーデに少女らしさを主張する事も忘れていない。
 極めつけのロングマフラーは全体の調和を保ちながらアクセントをも兼ねた色味。
 遊び心旺盛と見せかけて手堅く隙のないコーデは――なるほど、トレードマークのヘッドホンやうさ耳カチューシャにもよく合っている。
 だが、ユエリャンには予てより思うところがあった。
 即ち、もっといっぱいお洒落させてみたい! ……と。
 幸い先方も休日のようだし、こちらも暇を持て余していたところ。
 更に僥倖な事に、同輩からクレジットカードを借りてきた事であるし。
 ――機なり。
 烏兎姫と対面するたび想い焦がれたこの情動、解き放つのは今をおいて他にあるまい。

 と、いうわけで。

『ひとつ買い物に付き合っては貰えぬだろうか』
『もっちろん! 行こう行こう!』
 何がどういうわけなのか一切説明のない申し出に、しかし烏兎姫は何の疑問も抱かず意気の好い二つ返事で応えた。
 何を隠そう烏兎姫は烏兎姫でユエリャンをちらちら覗き見ては、その美しさとセンスに憧憬の念を抱いていたのである。
 憧れの人は今日、ストライプで統一していた。
 ロングシャツにロングベスト、ロングキュロットをトーンの異なる色味で組み合わせ、ロングブーツは真逆の色調のレザーを切り抜き貼り合わせた流線模様、袈裟を思わせるポンチョコートには縦横に一本だけ走るラインが左胸でクロスしており、同様のリボンがあしらわれたキャベリン帽に手袋、バッグのポケットとストラップに至るまでの徹底ぶり。
 総じて色調を押さえているがゆえに、燃えるような紅い髪とのコントラストが際立ち、一気に派手なものに仕立てていながら、伊達眼鏡がそれらを親しみのあるものに和らげ、仕上げに随所のカフスに中華風の花意匠を用いる事で持ち前のエキゾチックな存在感を保っている。
 ――格好いいな。
 いつも思う事だが、こうやってしっかりチェックすると、やっぱり素敵だ。
 通行人とすれ違うたび、視線を感じる。
 姉妹のように見えているのだとしたらちょっと――かなり嬉しく思う。
 いつも明るく楽しく振舞っているけど、今はもっと自然に、笑みが零れる。
 幸い、烏兎姫にはパパという(この場合経済的な面で)強い味方がいる。
 そう、世の中には財布の心配なんかより、もっと大事な事がある筈だ。
 ――こんな綺麗なお姉さんとデートできるなんて断る方がどうかしてるよね!
 嗚呼。

 かくして、魔物――いっそ邪英とすべきか――が二匹、野に放たれた。

『そういえばグロリアモールに新しいショップができたんだよ!』
『ほう、興味深いな。まずはそこからあたるとしようか』
『だけどいつものお店も外せないよね。そろそろ春物押さえておかなくっちゃ!』
『無論である』

 さあ、頭のてっぺんから爪先までお洒落しまくろうぜ!

 * * *

『これなんてどうかな?』
『これなども良いのではないか』
 所変わって某セレクトショップにて。
 グロリアモールの中央十字路の一画を広い間取りで押さえたこの新店舗は、とある大手ブランドが同業他社に営業を掛けて多数の提携を取り付け、トップブランドの高品質な品々を量販店のごとく豊富に取り揃えていた。
 また事前にファッション誌や関連ニュースサイト、各種SNSにも働きかける事によって、“近年の急激な英雄増加により多様化の一途を辿る衣類への需要に応える”というコンセプトと共に認知度を高め、謂わば鳴り物入りでオープンした総合店である。
 セレクトショップが複数のブランドアイテムを扱う事自体は珍しくないが、これほどの規模で網羅した例は少なく、営業開始から間もない事も手伝ってたいそうな賑わいを見せていたのだ、が――。
『こっちの色はもっと濃い方が映えると思うんだ!』
『いや、色味を合わせるならこちらも捨てがたい』
 今、試着室の前には人だかりができていた。
 中心にいるユエリャンと烏兎姫がとっかえひっかえ試着しては、互いに相手が出てきたところへ別のアイテムを勧めにいくという事を繰り返し、持ち切れなくなった分は店員達の手を借りて、更にその様子を物見高い他の客が囲んで眺めていた為に。
 さながらファッションショーだ。
『じゃあ…………仕方ないね』
『…………うむ、やむを得ぬ』
 烏兎姫はフラワーパターンのニットワンピースにブルゾン、ベレー帽とラバーソールシューズ姿で。
 ユエリャンは花のような多層ロングスカートのエプロンドレスにシスターブラウスとロングショール、レースアップブーツ姿で。
 双方神妙な面持ちで、頷き合う。

『全部買うであるぞ』
『賛成ーーーー!』

「あ……え? あの、お客様……?」
『聞いての通りだ。我輩セコセコしたのは嫌いであるからな。あ、支払いはカードで』
『これとこれと……これもすぐ着たいから持って行くね。残りは後でうちに送っといて欲しいんだよ!』
『ちなみに代金引換であるぞ』
 ユエリャンが妙にてきぱきと段取りを伝える横で、烏兎姫は特にお気に入りの品々をひょい、ひょい、と取り上げていく。
 店員達は「はあ……」と困惑し、観衆は唖然とするばかりだった。
『おっと、姫の手荷物分も我輩が持つとしよう』
『いいの!?』
『可愛い妹分の為であろう、惜しむ道理はない』
『やったぁ! ユエ姉大好き!!』
 烏兎姫は喜びに任せて姉貴分の腕に抱きつきながら、その胸中では『こういうところ見習いたい』などと、危険極まりない思想を密やかに育んでいた。

『さて、次であるな』
『どんどん行っちゃうんだよ!』

 二件目はパリ発の老舗ブランド直営店。
 同社のCEOにしてキーデザイナーでもある人物が昨年のコレクションでお披露目したイメージは“ユニフォーム”であり、ことヨーロッパにおいて老舗を「古臭いだけ」と冷遇する傾向の強い若年層をメインターゲットにしたコンセプトであるとされている。
 その風聞のみならば手堅い――ともすると当たり障りのない方針とみる向きもあるが、蓋を開けてみれば、本来万民向けである各分野の制服をベースにした、けれど堅苦しさのない特徴的でのびのびと象られた自由なフォルムはあたかも気鋭の若手デザイナーを思わせ、一方で老舗としての錬度は損われていないというその完成度は、たちまち世界中で評価された。
 今年一番のコレクションではまた異なるコンセプトを打ち出したようだが、ユニフォームスタイルはこのブランドの新たな定番として、現在も主力であり続けている。
 さて、カジュアルライクなセンスの持ち主である烏兎姫も、ユニフォーム、つまり制服は避けて通れない。
 というか、むしろ好きだ。
 そも、お洒落をするという観点から制服を見るならば、そのものが完成されているがゆえに幾らでも自分流にアレンジしたりコーディネートの融通が利く、極めて使い勝手の良い素材として位置づけられる。
 と言ったうんちくはともかく、烏兎姫は“パパ”と誓約を結んで以来このショップの常連であり、シーズン毎のチェックが欠かせないのだ。
 ――それに。
 烏兎姫は二人分の荷物を抱えよたよたしているユエリャンを盗み見る。
 先ほどのエプロンドレスと言い、このお姉さんにはシンボリックな衣装が似合う。
 そんなアイテムが目白押しのお店には是非連れて行かなくては。
『って』
 おもむろに、ユエリャンが息を切らせてしゃがみ込んだ。
『どうしたのユエ姉!?』
『う、うむ……大事ない……である……ぞ?』
『疑問形で平気なわけないんだよ!?』
 烏兎姫は知らない。
 率先して荷物持ちを引き受けたお姉さんが、箸より重い物も持てぬほど惰弱である事を。

 ひとまず荷物類は到着するなり店員に預かって貰い、二人はここでも例のごとくファッションショーを繰り広げた。
 あのセレクトショップのように客が多いわけでもなく、店員も乗り良く積極的に協力しては、そのスタイルを賞賛した。
 そんなブティックにありがちな一幕を挟みながら、どちらからともなく手に取ったのはマリーン――海軍をモチーフにしたファッション。
 いわゆるセーラースタイルから礼装に至るまで様々な形態・用途のものをベースに、しかし本体からリボンからボーダーパターンを過分に強調していたり、礼装然とした煌びやかな装飾をあしらいながらそのものはボタンワンピースのドレスであったりと、なかなかの曲者揃いである。
 一方で色調はどれも程よく整えられており、どぎつい印象はなくトータルで見れば癖のないラインナップだ。
『……礼装を模したスーツがあるようだが、その上にあえてこのワンピースを羽織ると言う手もあるか』
『ボクは……まずカーディガンは外せなくて、それからこの雨がっぱみたいなスプリングコートもセーラーチュニックに合いそう』
『ならばコルセットスカートがあつらえ向きであろう』
『ユエ姉には帽子もいいよね!』
『姫にも耳の付いたものが欲しいところであるな』
 などなど、二人はまたしても互いに勧め合い、協議を繰り返し、結局先ほどと同様に候補に挙げたアイテムは全て購入する事にした。


 そして。


『えへへ……お揃いなんだよ』
 共にマリーンの姿のまま店を後にしてから、烏兎姫は憧れの人との連帯感を噛み締めて、小さく微笑んでいた。
 元より同時期にこの世界を訪れた者同士の親近感があり、また気質の通じ合う安心感を抱いてもいたけれど。
 今は、もう少しだけ近づいたような気がして。
『ならばせっかくだ、ここからはエスコートしようか』
『って聞こえてたの!?』
『しかと。さ、姫――お手を』
 ユエリャンは人の悪い笑みを浮かべてから、しかし烏兎姫が慌てる間も与えず、まるで母のような手を差し伸べる。
『じゃあ……じゃあお願いするね!』
 烏兎姫は彼女にしては遠慮がちに、ちょっぴり頬を赤らめながら、その手を取った。
『しかしまだまだ買い足りん』
『あ、そうだ。まだ一度しか行ってない香港系列のショップがあるんだよ!』
『では今度はそこであるな』

 こうして、全宇宙きっての美貌の持ち主にしてお洒落へのあくなき探究心と無限のショッピングソウルを持つ二人の英雄は、日が暮れるまでファッションショーと散財を繰り返した。
 なお、この日の終わりに、ユエリャンはクレジットカードの名義人の、烏兎姫は“パパ”の懐をそれぞれ打ち砕く事になるのだが、それはまた別のお話。
 ついでに、この後エスコート役のユエリャンが早々に息を切らせて逆に引率されたりもするのだが、それもまた別のお話。


 なんにせよ、宇宙最強の二人の旅は、まだ始まったばかり。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0123hero002 / 烏兎姫 / 女性 / 15歳 / ショッピングモンスター】
【aa0076hero002 / ユエリャン・李 / ? / 28歳 / エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 藤たくみです。
 お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
 MSをしている間に取り組もうと思いながら結局果たせなかった服飾関係の題材をいただき、つっこみ役不在のまま暴走するお二人の描写ともども非常に楽しく筆を執らせていただきました。
 しかしながら、楽しみすぎて藤も暴走したのでしょう、あれもこれもと試作を重ねているうちにすっかり内容が膨れ上がり、結果として取捨選択と再構成に時間が掛かる事態となってしまいまして……。
 すみません、本当に楽しかったです。
 お二人にとってもお気に召すものとなっておりましたら幸いです。
 ご指名まことにありがとうございました。
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2017年02月03日

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