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『繋ぎゆくもの 』
月居 愁也ja6837)&加倉 一臣ja5823)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901

 雪がちらちらと舞い落ちる、12月24日。
 西橋旅人が訪れたとあるマンションの705号室では、今年も馴染みの顔が集まっていた。
「わー旅人さんや! 久しぶりイェーイ!」
 一際テンション高く迎えてくれるのは、小野友真。その後ろには加倉一臣に加え、家主である月居愁也と夜来野遥久の姿も見える。
「半蔵も久しぶり、元気やったかー!」
 旅人が連れてきた黒鷹をもふりながら、友真は奥で隠れるように立っている人影に気づく。同じく存在に気づいた一臣が、奥へ向かって呼びかけた。
「お、隼人君も来たな」
「いらっしゃーい! ほら入って入って」
 愁也に促された桂木隼人は、躊躇いつつも渋々部屋の中に入ってくる。
「直接お会いするのは初めてですね。夜来野と申します」
 遥久が差し出した手を、隼人はぎこちなく握る。続いて友真も、すかさず手を握って握手ぶんぶん。
「俺はぴちぴちイケメンヒーロー小野ゆうまでっす★仲良うしてくださいー!」
「ああ、うん……」
 想像もしていなった歓迎ムードに、隼人はわけがわからないといった様子だった。

 メンバーが揃ったところで、パーティーの準備開始。
 皿や箸をテーブルに並べていく中、中央で湯気を上げる鍋を見て、友真が目を輝かせた。
「おお、これは石狩鍋やな! めっちゃ楽しみ!」
「煮えるまでにはもうちょい時間かかるかなー。味付けは家政婦さんにお願いしたから大丈夫!」
 愁也達が和気あいあいと準備するさまを、隼人は複雑な表情で見つめていた。
「あのさ……旅人」
「うん?」
「なんで僕がここに呼ばれたわけ」
 それを聞いた一臣がああといった様子で答える。
「俺が連れて来てくれって頼んだんだ」
 困惑と警戒が入り混じった瞳に、一臣は笑いかける。
「あれからどうしてるかなって気になってたしね」
「……どういうつもりだよ? 僕がこいつに何やったかあんた知ってるよな?」
「ああ。俺もあの場にいたからね」
 あっさりと認めた一臣に、隼人はますます混乱しているようだった。
「もちろん過去は消えるものじゃないんだろうけどさ」
 でも、と旅人をちらりと見やり。
「隼人君はちゃんと罪を償ったんだし、タビットと同じようにずっと過去のことで苦しんでいたのも知ってる。俺達にできることなんて大してないんだけど、こうやってたまには一緒にわいわいやるのも、いいんじゃねえかなって」
「そうそう。俺達が話したいのは今の隼人さんなんだからさ、それでいいじゃん」
 いつの間にか話に加わっていた愁也の言葉に、隼人は驚いたような、戸惑っているような複雑な表情を見せた。しかしそれはすぐに不機嫌なものへと変わり。
「そういうの余計なお世話だってわかんない? あんたらみたいな撃退士と僕なんかが話して、何の意味があるんだよ」
 そう口にしてから、言い過ぎたと思ったのだろう。一瞬気まずそうに黙り込んでから、小さく呟いた。
「……やっぱ帰る」
 足早に出ていこうとする背を、旅人が慌てて呼び止める。
「待って隼人」
「なんだよ、もう放っとけよ!」
 それでも譲ろうとしない相手に、隼人は苛立ちを隠せない様子で言い放った。
「どうせ僕がいたって、空気悪くするだけだし。そういうのもうたくさんなんだよ!」
 
「あーもーそんなんいうてるうちに、鍋煮えてきたで! ほらはよ食べよ!」

 突然発せられた友真の言葉に、隼人はあっけにとられているようだった。遥久は海産物がこんもりと乗せられた大皿を手に、問いかける。
「北海道から直送されたカニとウニ、帆立やイクラもありますよ。桂木殿は何がお好きですか?」
「いやだから帰るって……」
「えーなに聞こえねえなー。ここ俺ん家だから家主の許可なく立ち去るの禁止だから。はい、これ焼きたての帆立!」
 愁也が差し出した皿からは、香ばしい匂いが立ちのぼってくる。それを見た隼人の腹がぐうと鳴った。
「くく……嫌がっても胃袋は正直だぜ?」
 にやりと笑う一臣を、隼人はばつが悪そうに睨む。遥久もグラスを差し出しながら、微笑んでみせた。
「せっかくの機会ですし、楽しんだ者勝ちですよ」

「はいはいみんな座って座って! 飲み物は何にする? ビールもワインも日本酒もあるよー」
 愁也の呼びかけで、各々好きな飲み物を注文していく。
「あ、俺お酒飲めるようになったし、ワイン挑戦するー!」
「ハイハイ、飲み過ぎて即効潰れんなよ友真! 俺と遥久と加倉さんはとりあえずビールでいいかな。旅人さんは日本酒? 半蔵はお水でごめんね! あ、隼人さんは何がいい?」
「……りんごジュース」
「りんごジュース」
「好きなんだよ、文句ある?」
 不機嫌そうな隼人に、遥久はかぶりを振って。
「いえ。青森県産、山形県産、長野県産のものを用意しています。もちろんすべてりんご果汁100%のものですが、どれがお好みですか?」
「何その充実したラインナップ」

 全員に飲み物が行き渡ったら、乾杯の合図。
 一臣はグラス片手に立ち上がると、皆を見渡し。
「じゃあ改めてタビット、お帰り。そして隼人君、いらっしゃい」
 今年もこうして集まれたことに、感謝しつつ。

「男だらけのクリスマスパーティ、飲んで食べて楽しい一夜にしようぜい! 乾杯!」
「かんぱーい!!」

 いざパーティが始まれば、まずは美味しいものでお腹を満たす。
「さあ鍋や刺身やカニウニ帆立!」
 手当たり次第頬張っていく友真に、一臣は笑いながらカニを取り出した。
「ハイハイ、毛ガニ剥いてやるから食え食え。後で甲羅酒もやろうぜ」
「ああ。カニみそと日本酒は正義だからな」
 遥久が同意する隣では、愁也が半蔵にご馳走のおすそ分け。
「半蔵には地鳥の生ササミとお刺身ね! たっぷりお食べ!」
「クエ!(このつや、照り…まさしく上物!)クエエ!(かたじけない!)」
 滅多に食べられないご馳走の数々に、半蔵のテンションはMAX。その姿を微笑ましく見守りながら、一臣はカニと奮闘中の旅人に話しかけた。
「おおさすがの食べっぷりだな半蔵……ってタビット、カニの殻をスキルで割るのはどうかと思う(まがお)」
「えっみんなやらないの!?」
「阿修羅の俺でもさすがにそれはしないかな……」
 愁也が苦笑したところで、突然の悲鳴があがる。

「ちょおおおおお」

「なっ…どうしたんだよ?」
 ぎょっとなる隼人の目前で、友真が涙ぐんでいた。
「この帆立マジうまいんやけど隼人さん俺が一番美味い食べ方教えたるからちゃんとみとくんやでってほんま美味しくて涙出る」
「友真落ち着け。あと遥久俺の分の刺身まで半蔵にあげてるの気づいてんだからな!」
「ゲストをもてなすのはホストの務めだろう」
「クエエクエエ!(美味い!美味い!)」
「そうだタビット聞いてくれ。俺ミスターからクリスマスプレゼントもらう夢を見たんだけど、あれって本当に夢かどうかいまだに疑ってるんだけどどう思う」
「オミー君クリスマスは明日だよ」
 だんだんとカオス化していく状況に、隼人は唖然とした様子で口を開く。
「……いつもこんな感じ?」
「ええ。大体は」
 遥久の返事を聞きしばらく成り行きを見守っていたものの、やがて大きくため息をついた。
「なんか考えるのアホらしくなった」
 その表情は、来たときよりも幾分和らいだものとなっていた。

 ひととおり腹が満たされると、ここからはトークタイム。
 今夜は男子ばかりということもあって、普段は聞けないような本音も飛び交いそうな雰囲気だ。
 帆立からポテトチップスに移った友真は、そういえばと旅人を振り向く。
「ずっと気になってたんやけど、旅人さんがいない間って半蔵のお世話は誰がやってるんです?」
「ああ、以前は猛禽類専門の獣医さんに預けてたんだけどね。最近は真咲が代わりに面倒見てくれてて」
「なるほどな。じゃあタビットがいなかった間、真咲ちゃんも半蔵も心配だったよなー」
 言いながら一臣が半蔵の胸毛をもふると、気持ちよさげに瞳を細めている。
「クエクエ……(こやつはすぐに無茶をするので難儀しておるのだ…)」
「ええ。お気持ちはよーくわかります。お互い歯止め役はなかなか卒業できませんね」
 しみじみと頷く遥久と半蔵を、隼人は同じ人種を見るような目で見ている。
 ここで愁也がチャンスとばかり問いかけた。
「ところで旅人さん! 真咲ちゃんとの進展具合はどう?」
「ああ。この間みんなのおかげで”目”が解放されたからね。ようやく安心して出かけられるようになったみたいだよ」
 その返事に、隼人が呆れ顔で言いやる。
「いやお前、そういうこと聞かれてんじゃないだろ……」
「え?」
「やっぱり通じてなかったか……」
 苦笑する一臣の隣で、察したらしい友真が瞳をきらきらさせた。
「えっもしかして、旅人さんついに彼女できたん? そういうことなん?」
「えっ!? あっ…そういう…………………」
 言葉に詰まった旅人を見て、愁也はにやにやしながら追求。
「その沈黙が怪しいな〜。旅人さーんもう全部白状しちゃおうよ!」
「まったくお前達は……絶対楽しんでるだろう」
 遥久がやれやれとたしなめるも、愁也と友真の勢いは止まらない。
「ええーだって気になるじゃん。俺旅人さんにも真咲ちゃんにも幸せになってほしいし!」
「俺も気になるー! 旅人さんせっかく久しぶりに会えたんやし、話聞かせてぇやほらほら!」
 促された旅人は視線をさまよわせながら、言葉を探しているようだった。やがて気恥ずかしそうに、頷いたあと。
「えっと……うん、そうだね。今さら自分の気持ちに嘘つくつもりもないし、彼女さえよければ……」
「はあ? お前らまだそんな段階なの? 中学生かよ歳考えろ」
 すかさず入ったツッコミに、一臣がおもわず笑みを漏らす。
「隼人君が厳しい!」
「だってこいつら10年以上もうだうだやってんだよ? 間近で見せられてる身にもなれっつーの」
 うんざりと愚痴る姿に、一臣はああといった様子で。
「そうか、隼人君はずっとふたりを見続けてきたんだもんな」
「ご、ごめん。心配かけて」
 恐縮する旅人に、隼人はそっけなく返す。
「謝るとかいらない。さっさと責任果たせよ」
「そうだよー真咲ちゃんだって絶対待ってるはずだからね」
 愁也の言葉に続いて、遥久は問いかけた。
「西橋殿の気持ちは、まだ相手に伝えていないのですか」
「えっ…そうだね…直接伝えたことはないかな」
「遥久、意外とストレートに聞くよな……」
 そうほほえむ一臣に、遥久は「必要に応じてだ」とあっさり答えてから。
「おそらく東平さんは西橋殿の気持ちはわかっているとは思いますが。ときには言葉で伝えなくてはならないこともあると思いますよ」
「そうやで。いつでもなんて思わんと、言えるときにちゃんと言っとかな」
 いつか、伝えられなくなる前に。
 旅人は友人たちの言葉を聞き遂げた後、しっかりと頷き返した。
「うん……そうだね。明日のクリスマス、真咲に会ってくるよ」
 その決心を聞いた一臣は、いつものように拳を突き出してひと言だけ告げた。
「頑張れよ」

 話が一段落したところで、質問の矛先は新ゲストへ向けられていく。
「はいはい隼人さんに質問!」
「……なに」
「隼人さんてさー普段何やってんの?」
 愁也からおもむろに話を振られた隼人は、怪訝な表情を浮かべる。
「そんなもん聞いてどうすんの?」
「えーだって趣味とかいろいろ知りたいじゃん。なあ友真?」
「はいはい! 俺ももっと隼人さんのこと知りたいでっす!」
 ふたりから期待の眼差しを向けられた隼人は、たじろいだまま黙り込む。しかし逃げられないと悟ったのだろう、やれやれといった様子でため息をつき。
「ああもうわかったよ……。別に大したことなんかやっちゃいない。普通に働いて飯食って寝るだけ」
「仕事は何やってはるんです?」
「いろいろ。元々通信関係には強いほうだから、そっち係で仕事請け負ったり」
 その話を聞いた愁也は、依頼でのことを思い出す。
「そういやあの時も、俺らのと通信すぐ繋いでくれたもんなー。よくわかんねえけど、ITとかエンジニア系?」
「そんな大したもんじゃないけど。相手の要望に合わせて雑用こなすだけだよ」
 ここでやり取りを見守っていた一臣が、先日から感じていたことを口にした。
「隼人君てさ、オペレーター向いてるよな」
「……え?」
 虚を突かれた表情の相手に、先ほど愁也も口にしていた新幹線事件のことを例に出し。
「あの時も要点を的確に伝えてくれたしね。ああいう仕事も合ってるんじゃねえかなって、思ったもんだから」
 一臣の話に、旅人もそうそうと同意する。
「実は僕も斡旋所の仕事に何度か誘ったことがあるんだ。通信関係が強いのも助かるしね。でも毎回断られちゃって……」
「桂木殿は斡旋所の仕事を、やってみるつもりはないのですか」
 遥久の問いに、隼人は困惑気味にかぶりを振る。
「いやだって、僕にその資格はないし」
「あーまた。それ隼人さんの悪い癖ね。資格とかさ、そんなん誰が決めるんだよ」
 すかさず入った愁也の抗議に、友真もそうやでと首肯する。
「隼人さんは斡旋所で働くの嫌なんです?」
「そういうわけじゃないけど……」
 その返事に友真はじゃあと笑みを浮かべてから。
「やりたい気持ちがあって、必要としてくれる人がいるってことすよね。それで十分なんやないかなって!」
 同意する彼らに、隼人の瞳は驚きとも、戸惑いとも取れる色を映していた。しかしやがて、どこか気恥ずかしげに視線を逸らし。
「まあ……今度そういう話があれば引き受けてみるよ。それでいいんだろ、旅人」
「了解。今度話持っていくね」



 その後もさまざまな話題で盛り上がる中、愁也はキッチン奥へ引っ込むと、大きな箱を取り出してきた。
「むっその形はクリスマスケーキやな!」
「お前こういうのほんと目ざといよなー」
 いち早く反応した友真に愁也は笑いながら、中身を披露してみせた。
「じゃーん今回はフルーツいっぱいのタルトにしてみたました!」
 苺に葡萄、りんごや洋梨がめいっぱいあしらわれたケーキは、見た目も華やかで食べるのがもったいないくらいで。
「おおー美味そうだな。じゃあそろそろ食後のデサートに移りますか」
 一臣の言葉に賛成の声が上がる中、パーティーも佳境を迎えつつあった。
 ケーキに舌鼓をうちながら、ちょっとした余興をやったり、恒例のサバトをやろうとして遥久に怒られたり。
 一通り遊び倒したあとは、再びまったりとトークタイムへと移る。

「隼人さーん、ちゃんと飲んでる?」
 ビールから熱燗に変わっていた愁也は、既にほろ酔い状態で話しかけた。
「まあ普通に」
「でさー、隼人さんの趣味ってまだ聞かせてもらってないんだけど」
 それを聞いた隼人はぎょっと見返す。
「は? まだ続いてたのかよ……」
「せっかくの機会だからね。今日は根掘り葉掘り聞いちゃうよ!」
 有無を言わさず詰め寄る酔っ払いに、隼人はもはや抵抗する気力を失ったようだった。不機嫌そうなのは変わらず、けれど先ほどよりも幾分素直な調子で口を開く。
「趣味とか別にないし。……まあときどき山に登ったりはしてるけど」
「ほう、桂木殿は登山をなさるのですか」
 遥久の反応に、隼人は肩をすくめつつ。
「そんな本格的なもんじゃない。昔から山には行き慣れてるし、登ってる間は何も考えなくていいから。暇つぶしにやってるだけ」
「なるほど、確かご出身は四国の山間部でしたか。きっと美しい場所なのでしょうね」
 その言葉に隼人は「まあね」と色素の薄い瞳を、ほんの少し細めた。
 春は山桜や山藤があちこちで咲き、夏は眩しいほどの新緑に覆われる。秋になれば目に鮮やかな紅葉で染まり、冬は一面、雪の世界へと変わる。
「新しい季節がめぐるたびに、ここは生きてんだなって」
 まるで悲しい出来事などなかったかのように、命の営みは繰り返されていく。
 それはときに優しく、ときに残酷で。
 山の強さに触れるたびに、自分という存在のはかなさを痛感してしまうけれど。
「自分のルーツはやっぱあそこだし、いつかちゃんと帰りたいとは思ってる。まあ実現するかどうかなんてわかんないけど……」
 そこで我に返ったのか、急に隼人はばつが悪そうに俯いた。
「こんなつまんない話、何語っちゃってんだろ……」
「いえつまらなくなど。故郷を想う気持ちは私もよくわかりますので」
 遥久の言葉に旅人もそうだね、と頷いてから。
「僕も学園を卒業してからのことは、まだ決めてないんけど……。四国に戻ろうかなって思ってはいるんだ」
「え? お前もなの?」
 意外そうな隼人に、再び頷き。
「本当に色々あった場所だからね。天魔との戦いが終わったあとでも、やらなくちゃいけないことがたくさんあるだろうし」
 今までは目の前のことに精一杯で、先のことなど考えたこともなかった。でもいつか、あの地でもう一度始められるのなら。
「ほんとなー。ミスターとかリロちゃんとか、バル様とかさ……ほんとにたくさんの出会いがあったよね」
 愁也はどこか懐かしげに呟いてから、グラスを見つめる。
「今思えば、毎月のように行ってたもんな。実家に帰省するより頻度高いわ」
 そう言って笑う一臣に続いて、友真も感慨深げに。
「半分以上ミスターのせいやった気ぃするけどな……。シツジのこととか色々忘れられへんし、あの花水木の坂もまた絶対行きたいって思ってる」
「ええ。バルシーク公と初めてお会いした道後や、志と魂を継いだ高知も、いずれまた訪れたいものです」
 遥久がそう語るのを、皆頷きながら聞いていた。
 多くの出会いと別れ、そしてそれぞれが様々な想いを抱き、積み重ねていった地。失ったものも多々あれど、それ以上に繋ぎ、生まれていったものも多かったはずだから。
「そんなわけで、タビットや隼人君となかなか会えなくなるのは寂しいけどさ。四国は俺達にとっても思いで深い地だし、いつでも遊びに行くぜ」
「そんときは四国の美味しいものたくさん教えてな!」
 一臣と友真の言葉に、ふたりは頷いてみせるのだった。

 その後もときには笑い合い、ときにはしんみりしながら、夜はゆっくりとふけていった。
 窓の外ではいつの間にか雪がやみ、雲間から星が瞬き始めている。
「ところでさ隼人さん……。俺寝落ちる前に、どうしても聞いておきたいことがあるんだけど」
 急に真顔になった愁也を見て、隼人はやや後ずさる。
「なにその顔……嫌な予感しかないんだけど」
「ダイジョウブコワクナイヨー。ズバリ質問! 最近、いい出会いはありましたか!」
「なっ……そんなこと答える必要ないだろ!?」
 あからさまな慌てぶりを見て、友真がわざとらしく問いかけた。
「あっれぇ、隼人さんなんでそんなに焦ってるんです?」
「おっかしいなあ。俺は”いい出会い”って言っただけで、別に女の子とか言ってねえんだけどなあ」
「〜〜〜〜!」
 絶句する隼人の顔がみるみるうちに紅潮していく。それを見た遥久がため息をつき。
「まったくあの酔っ払い(=愁也)ときたら……」
「なんというか、行間読む力があだになっちまったやつだな……」
 苦笑する一臣の目前で、愁也達の追求は続く。
「で、どうなのどうなの?」
「だから答えるつもりはないって」
「ええー旅人さんなんか言うたって!」
「隼人……ここまで来たら白状するしかないよ」
「いやお前にだけは言われたくないから!」
 頑として口を割ろうとしない隼人に、愁也は奥の手を引っ張り出してきた。
「じゃあさ、ここにある高級りんごジュースセットと引き換えってのはどう?」
 それを見た一臣が、いやいやといった調子で。
「おい愁也、さすがにそんな取り引きを隼人君が飲むわけが」
「……しょうがないな」
「随分りんごジュースの重要度高いね!?」
 渋々受け取った隼人は、なんでもないといった風情で口を開いた。
「でも悪いけど、あんた達が期待してるような答えはないよ。彼女なんかいないし」
「でもさっきあんなにうろたえてたってことはさ、気になる子くらいはいるんでしょ?」
 愁也のツッコミが図星だったのか、隼人は一瞬言葉に詰まったあと。
「そんなんじゃない。ただ……」
「ただ?」
「……三月の新幹線事件。あの時救出した中の一人と、この間偶然出会ったんだ」
 話によれば先日、見知らぬ女の子から街で声をかけられたのだという。
「あの時助けた一人一人の顔なんて覚えちゃいなかったけど、向こうは覚えてたらしくてさ。僕なんて大したことやってないのに、随分感謝されたよ」
「そんなことはないさ。作戦時におけるオペレーターの存在は、現場で動く俺達にとって生命線みたいなもんなんだから」
 一臣の言葉に、曖昧に頷きつつ。
「僕みたいなのでも、感謝されることがあるんだってちょっと新鮮だったというか……。その子、事件のあと大学に進学したらしくてさ」
 将来は久遠ヶ原で働くのが夢になったと、告げられたらしい。
「まあなんかそういう縁で、たまに連絡取り合うことはあるよ。でもそれだけだから」
「成る程。良き出会いがあったようですね」
 そういって微笑む遥久の隣で、愁也もどこか嬉しそうに笑みを浮かべ。
「なーんかそういうのっていいよなあ。別に感謝されるために撃退士やってるわけじゃねえけどさ。やっぱ直接お礼言われたりとかしたら、嬉しいもん」
 聞いた友真もうんうんと頷く。
「そうやなー。次も頑張ったる!ってなるしな」
「しかも相手が可愛い女の子だなんて隼人さんうらやま!」
「いや別に可愛いとか言ってないし……」
「え、違うの?」
 曇りなきまなこで見つめてくる愁也に、隼人はうろたえ気味に返す。
「そうじゃないけど…ってああもうなんで僕ばっか暴露させられてんだよ! ここまで話したんだから、今度はそっちが話せよな!」
「え、俺? 俺は遥久がいるしいいんですぅー」
 愁也はそう答えてから、ややしょんぼりした様子で呟いた。
「あー……でも彼女のエスコート役もそろそろ終わりかなーやだなー」
 ぐだりはじめた愁也に、一臣は苦笑しながら酒をついでやる。
「ハイハイ飲め飲め。彼女の歩みを見届けなくっちゃな」
「リロちゃん今何してんのかなー。閣下たちとクリスマス楽しんでんのかなー」
「久しく会うてへんけど、リロちゃん元気してるんやなー。また一緒に遊べたらええなあ」
 友真の言葉に「ほんとなあああ」とわめく愁也に、遥久は膝を貸しつつ。 
「この際だから今度は兄上のエスコートでもしたらどうだ?」
「ああそれもいいかな……って、それオニイサマとデートする未来しか見えねえじゃん!」
 がっくりと肩を落とす愁也を見て、隼人は気まずそうに。
「……なんか…悪かったよ……」
「隼人さんがかわいそうな人を見る目で俺を見てる!」
「クェ(これでも食べて元気出せ)」
「うわああん半蔵スルメありがとうーー!」

 そしてさらに、時は過ぎ。
 すっかりと深まった夜は、静けさと穏やかさに満ちていた。
 愁也や隼人がうつらうつらする一方で、友真は旅人の隣にいくとこっそり話しかけた。
「あんな旅人さん」
「うん?」
「旅人さんの大変なときに行けへんくて、ごめんな」
 でも心はいつも傍にありました、と伝える友真に、旅人はありがとうと微笑んで。
「友真君が謝る必要なんてないよ、あれは僕自身が招いたことだしね」
「無事やったって聞いて、ほっとした。あんまり心配かけといてな?」
 頷く旅人の後方では、いつの間にか目を覚ましていた愁也が、寝ぼけまなこで言いやった。
「まあそれは全員に言えることだけどなー」
「お前を筆頭にな」
 遥久の冷たい視線に、愁也は慌てて飛び起きて。
「ま、まあ今年も色んなことがあったけどさ。みんなで新年を迎えられそうでよかったよね」
「来年はどんな年になるんやろな……」
 ふと呟く友真に、一臣が笑みを浮かべながら言い切った。

「きっといい年になるさ」

 繋いできた道は、これからも続いていくから。
 いつかと願った未来へ、彼らはまたひとつ歩んでいく。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/繋ぎゆくもの】

【ja5823/加倉 一臣/男/29/約束】
【ja6837/月居 愁也/男/24/決意】
【ja6843/夜来野 遥久/男/27/信念】
【ja6901/小野 友真/男/21/情熱】

 参加NPC

【jz0129/西橋旅人/男/30/信頼】
【桂木隼人/男/30/記憶】
【半蔵/男/7/スルメ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
いつもお世話になっております。
今年も書き応えのある内容をありがとうございました。
毎年書かせていただいていた冬ノベルも今回が最後かと思うと、寂しくもあり、感慨深いものもあり……!
字数の関係上詰めきれなかったものもありますが、楽しんでいただければ幸いです。

八福パーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年02月06日

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