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『いつでも君は可愛く 』
ステラ=XVIIka3687)&ハマル=アルカナka6300

 去年が終わり、今年が始まる。いわゆる世間一般では新年というものを迎えたその日、ステラ=XVIIはあいにく仕事場で書類の前にいた。というよりは結社にとってもともと関係なく、昨日の仕事が終わり今日の仕事が始まっただけに過ぎない。

 様々なランプが吊るされ本で溢れる部屋に篭って、ただひたすら書類との戦いが続く。

(1人だったらただ気が滅入る一方だったね)

 顔をあげ、目を休めるついでに一瞬だけ、もう1人の様子をうかがった。

 柔らかく癖のある黒髪に大きな眼鏡をかけた、地味な印象を受ける風貌の、少年というほどでもないが青年という言葉もあまりしっくりこない、部下のハマル=アルカナが背筋を伸ばし、綺麗な姿勢で黙々と書類をこなしている。不満げな表情をしているのは新年なのにこんな状況だからではなく、それが彼の地顔なのだ。

 こっているわけでもないが、肩をほぐしたり首をほぐしたりする間も、ハマルの顔を眺めていた。

「仕事してください、ステラ様」

 顔も動かさずに叱咤してくるハマルではあるが、あいにくステラより書類の残っている量が多い。

(馬鹿正直に1枚1枚、全文に目を通すからああなるんだろうね)

 真面目ではあるが、真面目すぎる――だがそこに可愛げがあるとも言える。

「するよ。するさ――でもあれだね、これだけかわりばえが無さすぎるというのは停滞しているような錯覚に陥るものでさ」

 せっかくだから新年らしく、新しい事でもしたいものだねと呟き、書類に目を落とすステラ。

 だが気まぐれは過ぎるが仕事はちゃんとする比較的常識的な上司の口から出た呟きに、書類からやっと目を離したハマルが気まぐれ上司を真っ直ぐに見る。

「新しい事、ですか。ルーティンワークは必要な事とはいえ、確かに停滞の代名詞でもありますからね。一考の余地はあるかもしれません」

 あくまでも冗談でしかない気まぐれな呟きに、予想以上の食いつきを見せるハマルが腕を組んで考える仕草をする。その間にもステラは書類を片付けるのだが、ハマルは一向に手が動かない。同時に2つの事を考えられるほど、柔軟にできてはいないのだ。いや、考える事は出来るのかもしれないが、真面目に考える彼の事だから、1つの物事に対して向き合い集中して考えるべきだと考えているのかもしれないと、手を動かしながらもステラはそんな事を考えていた。

「……待てよ、確か学校で……うん、試してみる価値はありそうです」

 席を立ちあがり、「ステラ様、少々お時間をいただけますか」と言って、珍しく了解を得る前にハマルが動き出す。唐突な思い付きはいつもの事ではあるが思わぬ展開に目を丸くするステラはクスクス笑いながらたまには悪くないかなと、「ハマルの好きにしなよ」と小さく手を振った。

「小一時間ほどかかるかもしれませんが、できる限り早急に戻ってきます」

 コートの袖に腕を通し、ばたばたと部屋から出ていく。部屋の外から「ああ、すみません!」と謝るハマルの声を聞き、口元に笑みをたたえたままステラも立ち上がると、可愛い部下の書類を下から一束ほど抜き取って、ハマルよりは低い自分のまだ処理していない書類の山に乗せるのだった。

「何が来るのかお楽しみ、だね」




 積み上げた分の書類が片付こうかという時に部屋の外が騒がしくなり、また「すみません!」という声が聞こえてきた。それほど狭くないはずだが、時々、なにかを壁に当てながら近づいてくる気配がする。

 小一時間よりだいぶ過ぎてしまってはいるが、ステラは気にせず口元に笑みをたたえる。

「帰ってきたようだけど、ずいぶん賑やかなご様子で」

 いったい何を持ってきたのかなと楽しみにしていると、戸が開いて息を切らせたハマルが戸口で頭を下げる。

「ただいま戻りました! お時間いただき、申し訳ありません」

「いや、構わないよ。それで、何を持ってきたんだい?」

 戸口に立てかけられた、思っていたより大きなものに目を向けるステラへ、ハマルが「はい、コタツというものです」とラグマットと丸いテーブル板を持ち上げ、中へと入ってくる。それだけでなく手には何か色々と重そうなものをぶら下げていた。

「コタツ」

「はい。学校で習ったのですが、東方地域ではこのコタツというものに皆で入るそうなのです」

「不思議な表現だね。入るというのはどいうことかな」

「今、お見せします」

 自分のデスクを壁に寄せ、床に置かれている本もデスクへ積み上げて場所を確保するとラグマットを広げ、口の広い大きな花瓶のようなものに小石と灰を入れるとその上に炭を置いて火を熾し始める。その作業に興味津々といったふうにステラも手を止め、じっと見入っていた。

 火付きのいいものらしく、ずいぶん早く火が点いたなと思ったところで別の炭を乗せると、脚の低い枠組みだけのテーブルを組み上げ、火鉢を中心にしてそれを置く。そしてずいぶんと厚手の毛布を掛けてその上に丸いテーブル板を乗せるのだった。

「これで完成しました。あとはこうして、足を入れて温まるという話です」

「なるほど、ベッドに入ると同じような感覚ではあるね。これはつまり暖房器具、ということだね」

「はい、東方の伝統的なものだそうです。どうぞお入りください、ステラ様」

 促され、立ち上がったステラがこれは靴を脱ぐべきかと、靴を脱いでラグマットの上に。そしてしゃがんで毛布を手で持ち上げてみると、中からは程よいぬるさの空気が漂ってくる。

 毛布の側で膝を立てて座り、膝から毛布を被せてみる――温かい。

 それほど寒いとは思っていなかったのだが、こうして足を入れてみるとこのじんわりとした温かさがなんとも心地いい。

「どうですか、ステラ様」

「ハマル、君も入ってみると良いよ」

 そう言われるのが意外だったのか、ハマルは不機嫌そうな目を少し釣り上げ「よろしいのですか」と遠慮がちな様子だった。

「これは皆ではいるものなのだろう? 僕だけが独占する必要はないからね」

 上司のお許しがあるならばと言い訳染みた言葉を呟きつつ、「失礼します」とステラの斜め横に座り、コタツの中へ足を入れる。その途端、「おお……」と吐息を漏らしてしまった。

(考えてみれば外はそれなりに寒いかな。それを考えれば、このコタツとやらの温かさはたまらないものがあるかもしれないね)

「それで、他には何かあるのかな」

 蕩けそうになっているハマルがハッとして、「そうでした」と小さな網込みの籠をコタツの上に置いて、そこに蜜柑を乗せていく。

「これが伝統的スタイルだそうで――ステラ様の分もちゃんとあります」

 固形物を食べるのが苦手なステラのために、ちゃんと蜜柑のジュースを用意するあたり抜かりはないのだが、伝統的スタイルはどこに行ってしまったのだろうと思いながらも、「ありがとう、ハマル」と受け取るのだった。

「それとですね、少々お待ちください」

 立ち上がり、コタツから出たハマルがわずかに身震いするのだが、それでも部屋の外へとまた出ていく。少々お待ちくださいというだけあって、今度はすぐに戻ってきた。

 その手には首のない寸胴な小さな花瓶のようなものを持ち、そこから湯気が立ち上っている。

「これが日本茶、というものです。加減が分かりませんでしたので、これで正しいのかわかりませんが」

 ステラの前に置かれたそれは緑というよりは黄色に近い色をしていて、紅茶のような華やかな匂いではないが、なんとも心安らぐ匂いである。

 その湯気具合から相当熱い気はするのだが、厚く作られた陶器を両手で包み込むと、少し熱くはあってもこれもまた、指先をじんわりと温めてくれて、堪らないものがあった。

 その味はと少し舐めるように確かめてみるのだが、薄いのか、わずかな苦みと甘みを感じるくらいだった。ただ鼻を通るその香りは紅茶のそれと似たようなものを感じる。

「あとはここに『センベイ』というものがあればいいそうですが、だいぶ探し回っては見たものの、発見できずでした」

「いや、十分だよハマル。ただね――飲み物に飲み物という組み合わせはどうなんだろうね?」

「――ああ、すみませんでした。こうするものだという頭しかなかったもので……」

 抜かりはないのだが真面目すぎてどこかに抜かりのある可愛い部下に、ステラはクスクスと笑う。

「さあこれで少しは気分も一新できたことでしょう。滞ってしまった仕事を再開しましょうか」

 気を利かせたハマルがステラの書類をコタツで座るステラの前に運び、自分の少なくなっている書類に気づきもせず、自分の前へと置くのであった。

 はいはいとステラは肩をすくめ、書類に目を通し始める。ハマルも書類に目を通し始めるのだが、目を通しながらも口が開いた。

「こういう形だけでも学ぶというのはやはり、大事ですね……異文化圏からの流入者が多い時代ですから…………これから先は文化の多様性を…………」

 口から出たのは眠くなりそうな真面目な話だったが、時折、中断される。書類を読みながら話す事はできるようだが、書くことまではできないようである。

 眠くなりそうな話で相槌こそは適当なものではあるが、ステラはちゃんと部下の話を聞いているのだった。唐突な思い付きでこれだけの事をしてくれた、可愛い可愛い部下の話を。

 ただ思うことところがあるとすれば――

(部屋の雰囲気と比べると、ミスマッチとしか言わざるを得ないのだけどね)




 ハマルの長い長い話はまだ続くが、ステラの仕事は終わってしまった。チラリとハマルの書類に目を向け、お茶のおかわりを申し付けていなくなった隙に、半分ほどを抜き取った。

 戻ってきたハマルが「あれ」と気付いた様子を見せたので、「どうかしたかい?」とステラは唇の端を持ち上げてハマルを真っ直ぐに見た。

「……すみません」

「いいさ。時間を取らせたのは僕だし――さあ、終わったらなでなでしてあげるから早く終わらせようか。もう結構遅い時間になってきたからね」

「なでなではともかく、早く終わらせますか」

 宣言したハマルが続けていた話を止め、書類に集中する。そして残りの仕事を2人で分けたのでたいした時間もかからずに終わるのだった。

「うん、良い子良い子」

「……どうも」

 ステラが腕を伸ばしてハマルの髪を撫でると、ハマルは子ども扱いされているような気分になるのか少し嫌そうな顔はするものの、されるがままだった。

 そして撫でられているハマルの頭が徐々に下がっていき、テーブルに顎を付けて目を閉じたかと思えばもうすでに寝息をたてはじめていた。書類を書きながらカクリカクリと頭を揺らしていたなとは思っていたが、まさかここにきて瞬殺されるとは思ってもいなかったステラがくすっと笑った。

 明かりとりのはずだがほとんど機能していない天窓から見える頭上の星たちが、ずいぶんとその存在をはっきり示している。それにこのコタツには魔力というものすら感じ、仕方ないかとステラは立ち上がり、毛布を引っ張り出してきてハマルの肩にかける。

 そして可愛い可愛い部下の耳元で、「今年もよろしくね」と囁き笑う、ステラ。

 きっとこの先も唐突な思い付きで行動するだろう。そのたびに笑ってどんなことになるのか楽しませてもらおうと、ステラは可愛い部下の頭をもう一度、優しく撫でるのであった――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3687 / ステラ=XVII    / 女 / 22 / まさしく正位置の星 】
【ka6300 / ハマル=アルカナ / 男 / 18 / 堅物だからこそ面白い 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ギリギリまでお待たせいてすみません、やっと完成いたしました。この度のご発注ありがとうございます。
メンコやベーゴマなども盛り込もうかと思っておりましたが、仕事の最中で遊びに興じるはずもないですねという事でこのような感じにコタツ、蜜柑、日本茶にあとは煎餅をちょっと混ぜさせてもらったくらいですが、ご満足いただけたでしょうか?
またのご依頼、お待ちしております。
八福パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2017年02月09日

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