▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『プリンセスデート 』
大門寺 杏奈aa4314)&レミ=ウィンズaa4314hero002

●デートはお洋服選びから
 クリスマスから数日後。運良く休みが取れた杏奈は、いつもよりゆっくり起きる予定でいた。
「な、何ですのこれはー!?」
 半覚醒だった彼女の意識は、レミの悲鳴によって一気に現実へ連れ出された。
「レミっ! どうしたの?」
 掛け布団を跳ね上げて飛び出すと、俯くレミに寄り添う。
「い、今……写真が送られてきまして」
 それはハピネスランドの写真館で杏奈が撮った写真だった。写っているのは騎士と姫。姫の方が杏奈である。レミはどうやらもう一人の恋人と写真交換をしていたようだ。
「わたくしだって一緒に撮りたかったです。ずるいですわ」
 この発言は予想通り。レミはふらりと炬燵に突っ伏す。
「可愛すぎますわよ、アンナ! こんなのずるいです!」
 実はこっちも予想通り。
「決めましたわ! デートに参りましょう、アンナ!」
 この3撃目は予想外。
「でも、明日からは依頼が……」
「今から行きましょう! アンナにはわたくしだけのお姫様になってもらいますわよ!」
 杏奈はきょとんとして言う。
「王女ならレミの方でしょ?」
「わたくしは杏奈のお付きの者になるのです。面白いそうではありませんこと?」
 行き先は、スイートパークに決まった。恥ずかしがる杏奈に免じて、服装は街中を歩いても違和感がない程度のドレッシーさを目指す。と言う訳で。
「……どう、かな?」
「とってもお似合いです! 背が近いとお洋服をシェアできるのが良いですわよね!」
 レミは自分の服の中から、いつも好んで着るようなフリル多めのワンピースを選んだ。
「次はアンナの番ですわよ? わたくしに似合うものを選んでくださいまし」
 杏奈はシックな色味が多い服の中から、濃い青の服を選ぶ。一番のお気に入りだ。
「レミの髪……太陽みたいに綺麗な金色だから、こういう色もたまにはいいかなって」
「ありがとうございます! ……うふふ、ちょっぴり照れてしまいますわね」
 胸元には杏奈から贈られた太陽のペンダントが光る。何度見ても、思い出を鮮明によみがえらせてくれる宝物。レミは思わず微笑んでから、コートを着込んだ。
「レミ? それは私のコート……」
 なぜか杏奈のコートまで確保するレミ。彼女はふふ、と笑いを漏らすと、杏奈の背後に回ってコートを広げた。
「さあ、袖をお通しくださいませ、お姫様?」
「……今から始めるんだね? じゃあ……お願いします」
 杏奈はおずおずと腕を伸ばし、レミが動き回ってコートを整える。
「ちょっと恥ずかしいな……」
「まだまだこれからですわよ? わたくしの姫様ならもっと堂々と胸を張ってくださいまし」
 冗談めかして言うレミに苦笑しつつ、杏奈は背筋を伸ばした。

●外遊、スイーツ王国にて
「こんな場所があるなんて、夢みたい」
 杏奈のスイーツ好きは筋金入りである。そしてレミが何より愛するものの一つが、スイーツを食べる時の杏奈の表情だ。
「右も左もスイーツですわね。姫様、まずはどちらに?」
 杏奈の気持ちを慮ってだろう、レミは『姫』と呼ぶときだけは、耳元に口を寄せ小声で話す。
「レミ、顔が近いよ……」
「それは失礼いたしました♪」
 側近は、姫の希望を聞くと案内板に従って歩き出す。手の平を上に向けて差し出されたレミの手。杏奈が揃えた指をそっと載せる。恋人繋ぎとは違う感触や、いつもより少し遠い距離感に戸惑う。
(……私、ドキドキしてる?)
 杏奈は空いている機械の右手を頬に当て、熱くなる頬を冷ました。
「こちらがクレープエリアでございます。わたくしがお作りすることもできますが……」
「一緒に作ろう。その方が楽しいでしょ?」
「うふふ、仰せのままにっ」
 杏奈がレミのクレープ、レミが杏奈のクレープを作ることに決め、材料を選んでいく。
「あら、こんなところにレアチーズケーキが? お店の方のミスでしょうか?」
「これもクレープに入れていいんじゃないかな? ブルーベリーソースとか合うと思うよ」
「流石アンナ、詳しいですわね。私はそれに致しますわ」
 レミは近くに人がいないのをいいことに「姫様はいかがなさいます?」と微笑む。杏奈は平常心を装うが、やはり少し顔が赤い。
「今日はイチゴの気分。生クリームはたっぷり入れて欲しいな」
「お任せくださいませ!」
 心を込めて慎重に、皮を破かないように巻いていく。しばし無言の時間が続くが、隣にいる恋人のことを思えばちっとも寂しくない。
「……できた」
 皿に置いてデコレーションしたクレープ。材料を包んだ皮の上にまでたっぷりとソースをかけ、隣にはアイスを添える。これをフォークとナイフで食べるのだ。
「紅茶もそろそろ飲み頃ですわ。お席へ参りましょう」
 クレープと紅茶の乗ったトレーをレミが運ぶ。お姫様扱いに少し慣れ始めた杏奈は、黙って後についていくことにした。
「甘酸っぱくて美味しいですわ!」
「こっちも……!」
 クレープ作りは大成功だったようだ。
「レミ……」
「ふふ、わかってますわ。あ〜んして下さいませ、お姫様?」
「あ〜ん」
 クリーミーなチーズとブルーベリーソース、そして香ばしいクレープ皮のハーモニーに杏奈はうっとりする。
「もう! 可愛すぎですわ、アンナ!」
 レミは思わずぎゅっと杏奈を抱き締める。
「もう、レミ。アイスが溶けちゃうよ?」
「だって、アンナが可愛すぎるんですもの」
「レミったら……」
 杏奈は抵抗するが、その声はむしろ甘えているようにも聞こえる。
「ほら、従者は姫に抱き着いたりしないでしょ?」
「う……これは一本取られましたわね」
 レミは苦笑して身を引くが――。
「はい、あ〜ん」
 間もなく聞こえた声。レミが視線を送ると、杏奈がフォークを差し出していた。
「どうしたの?」
 反応のないレミに杏奈は首を傾げる。
「お姫様のご機嫌を損ねたと思っていましたから、名誉挽回の策を練っておりましたの」
「怒ってなんていないよ。レミの作ったいちごクレープが美味しかったから、レミにも食べて欲しくて」
 アンナの言葉とクレープの美味しさにレミはほっとした表情になる。
「あのね……。確かに恥ずかしさもあるけど……レミに抱き締められるの、すごく嬉しいんだよ?」
 段々と小さな声になりながらも、杏奈は素直な想いを伝える。
「アンナ……! 本当に、本当に、大好きです……!」
「うん、私もレミが大好き」
 机の下で手の平を重ね合い、微笑みを交わす。
「溶けないうちにアイスも交換しない?」
「賛成ですわ」
 まわりの声なんてもう聞こえないくらいの二人の世界。
「次はどちらに参りましょうか?」
「迷うけど……まずはチョコフォンデュのコーナーに行きたいな」
「お供いたしますわ、お姫様」

●見えない雪
 ケーキバイキングやパフェコーナーも制覇し、屋台スペースでは期間限定の生チョコを頂いた。すっかり満足したふたりは、西洋風の庭園を歩く。ここにはスイーツこそないが、シクラメンやカトレアと言った冬の花に彩られた美しい景色を楽しむことができるのだ。とはいえやはり寒いので、彼女たち以外の客の姿はない。
「ねぇ、レミ……」
 杏奈は正面を向いたまま、静かに恋人の名を呼ぶ。
「きっとレミは、元いた世界にいたほうが幸せだったかもしれない。それでも……私はずっとレミといたい」
「アンナ……」
「これはお姫様じゃなくて、大門寺 杏奈としてのお願いだよ」
 レミはきゅっと胸が締め付けられるのを感じる。愛しくて、嬉しくて、けれどなぜか切なくて。このまま杏奈が雪のように溶けてしまいそうな錯覚。レミは杏奈の手を両手で強く握る。ふたりの歩みはとまり、ちょうど庭園の真ん中で向き合う形になる。
「わたくしは杏奈をお守りいたします。その決意は、今も変わっていないですわ」
「レミがいてくれるから、私は戦える。そして、これからも強くなれる」
 杏奈は引き合うようにレミの瞳を見つめる。
「一生、私のそばにいて」
 レミは少し大人びた表情で頷く。
「杏奈の幸せが、わたくしの幸せ。これからも……よろしくお願いしますわ」
 冷たく澄んだ空気の中、ふたりは寒さなど忘れて抱き合った。
「今日はエスコートしてくれてありがとう。私からも何かしてあげたいって今日ずっと考えてたんだけど、思いつかなくて……」
「そんな! この時間が何よりのプレゼントですわ」
 レミは微笑む。そして、すっと視線を斜め上に逸らす。何かを思いついた顔だ。
「でもどうしてもとおっしゃるなら……」
 杏奈の唇にあたたかな感触が舞い降りる。それは一瞬で消えてしまって、桜色の唇がまた冷たい空気にさらされる。『あたたかい雪』がこの世に存在するならば、きっとこんな感触だろう。
「レ……レミ」
 遅れて、杏奈は状況を理解する。
「これがアンナからのプレゼント、と言ったら怒りますか?」
「……そんなこと、ない」
 少し遅いだけ遅れたクリスマスプレゼントは、永遠を誓うキスだった。
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【大門寺 杏奈(aa4314)/女性/16歳/輝きの砦】
【レミ=ウィンズ(aa4314hero002)/女性/16歳/朝焼けヒーローズ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご指名ありがとうございました。高庭ぺん銀です。
『【聖夜】リア充よ、ハピネスランドを救え』の後日談であり、八福ノベル『溶けすぎ注意の大晦日』の前日談となります。忙しい杏奈さんとレミさんですが、年末の出来事たちがおふたりの癒しになっていると嬉しく思います。

もし違和感のある点などありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。それでは、またお会いできる時を楽しみにしております。
WTツインノベル この商品を注文する
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年02月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.