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『白とルピナス 』
草薙 白ka3664)&ルピナスka0179

●序章
 矢野白は買い物途中でふと気が付いた。
 そう言えば今歩いているところの近くには、最近できた偏屈――と言うにはちょっと口が達者な友人が居る。

「折角だし顔の一つでも見に行こうかしら?」

 この思いつきがまさか、空腹で倒れていたルピナスを救出することになるとは……。
 そんな想像もつかなかった、これは或る日の昼下がりの話である。


●部屋の中の惨状/空腹で力尽きていた友人
 白が見たもの――それは惨状だった。
 部屋中に大量の楽譜が散漫しており、更によく見てみると人がひとり埋もれている。その人物こそがルピナス。白の友人だった。
「ルピナス?!」
「あれ。白ちゃん……?」
 吃驚した白とは対照的に、ルピナスは落ち着いているようで、倒れたままの状態から緩やかに手を振った。
「ねぇちょっと、なによこれ。一体どうしちゃったの?」
「力が出ないというか。実は昨日から何も食べて無くて……」
「えぇ!? なんで何も食べてないのよ?」
「仕事が詰まってたから――かな?」
 ルピナスは白に、事の経緯を話す。
「散らばってる楽譜は全部没なんだ。なかなか、思うような音が生まれなくてね……。でも納期までには完成させたいし、つい没頭しすぎてしまって」
 その所作も、声も、まるで穏やかに吹く風のよう。
 たとえ空腹で倒れていようが飄々としている彼の振る舞いは、普段と全然変わらない。
「もう……。仕事熱心なのもいいけど、ごはんはちゃんと食べなさいよね? 空腹で倒れてたんじゃ、元も子もないでしょ?」
「ん……そうだね? そうかも」
「ひとまず仕事は中断! ほら、早く立って。なにかお腹に入れなさい」
「……分かった」
 しかし白が、ルピナス以上にルピナスの事を気に掛けて何か食べる様に促す為、ルピナスは素直にのそりと腰を持ち上げた。
 ――が。
 何を食べよう?
 肝心の食糧は、此処にあっただろうか。
 ルピナスは首を捻る。
 そうしてなんとか発見したのは、缶詰一缶だった。
「どうして缶詰しかないのよ?」
 白が眉を潜めながら、じっと見つめる。
「便利だよ、缶詰。すぐに食べられるし、長期保存もできるし」
「そりゃあ便利だけど……。でも1缶だけじゃ、お腹は満たせないわ」
「まぁ、確かにね?」
 ルピナスが相槌を打った。
 だが本人にとってその問題は、さほど重要な事では無かったようで――。
「でもこれでいいよ。腹に少しでも溜まるなら、なんだっていいからさ」
 けろっとした顔で言い切ったのだ。
「……」
 すると白は眉尻を下げていた。
 そしておもむろに缶詰を開けようとするルピナスを見つめながら、ふと思う。
 ――彼が食べるもの。本当に缶詰1缶だけで良いのだろうか。
 ルピナス自身はそれでいいのだという。
 だが白としてはどうしても引っ掛かるのだ。
 ――もっと、ちゃんと食べるべきではないだろうか?
 悩んだ末に、白はルピナスの缶詰を取り上げた。
「やっぱり放っとけないわ。さっきまで空腹で倒れてた人が、缶詰1缶だけなんて」
「!?」
「行くわよ、ルピナス」
「えっ。行くって、どこへ?」
「食べに行くの!」
「あ、ちょっと……!」
 ルピナスが拒む隙もなく、白は彼の手首を引っ張った。
 面倒見の良さが炸裂。
 斯くして白は、何かをつまみに行くべく、ルピナスを引きずり出したのであった。

●食べに行こう
「ま、眩しい……」
 暫くずっと部屋に閉じこもっていたルピナスにとって、久しぶりの日光は効いた。それに部屋に残してきた仕事が気掛かりである。――が。
(まぁ、気分転換が今は必要なのかもしれないな……)
 と、歩きながら空を見上げていた。
 しっかり者の白には引っ張られ気味だが、でも不思議と悪い気はしない。
 むしろ友人としての心地よさを、覚えている。
 すると白は振り返り、前方に指をさした。
「ねぇ、食べ歩きでいい?」
 ルピナスを引きずり出したのはいいもののご飯を食べるところの宛てがあった訳でもないし、とりあえず食べ歩きでいいか、と。白は思ったのだ。
 ルピナスが白の指す方向を見つめると、長く続く屋台が見えた。
「屋台通りか……。ん、そうしよう」
「じゃあ決まりね」
 屋台は身近なものから珍しいものまで、様々な飲食が立ち並んでいる。
 近付くにつれ濃厚に、そして前を通れば益々、食べ物の匂いが漂っていた。
「それにしても、どこも美味しそうね……」
 屋台通りを見渡す白は、目移りしているようだった。
 しかしルピナスにとっては何処もそんなには変わらなくて、ゆえに屋台に並ぶ飲食に心踊ったりする訳ではない。だが、白の反応を眺めるのは飽きなかった。
 ルピナスは、白が『おいしそう!』と言った食べ物を二人分買ってくる。
 そして、
「美味しいわね」
 と、白はにっこり笑顔を浮かべている――
 そんな彼女の顔を、ルピナスはじーっと見つめた。
 さすがに凝視されていると気付いた白は、戸惑うように見つめ返して――。
「な、なによ……人の顔じろじろ見て」
「ん? いやぁ。凛とした表情が美しいと思ってね。人形みたいだ」
「人形?」
 この言葉はルピナスにとって最大の賛辞――100%の褒め言葉である。
「あ、ありがとう?」
 内心益々戸惑う白。
 しかし眉尻を下げ、和んだように微笑みを浮かべた。
「でも私を見てるだけじゃなくて、ルピナスもそれ食べなさいよ」
「ああ、うん。そうだね。いただきます」
 ルピナスは促されるまま、手に持っていた自分のものをかぶりついた。
 味は……。
 案の定というか。
 ――ちっともわからない。
「ね? 美味しいでしょ?」
 ――そう聞かれたが、やはり分からないのは変わらず。
 でも白が美味しいというのだから、美味しい味なのだろう。
 ルピナスは彼女の言葉に相槌をうった。
「美味しいね」
 すると「でしょ?」と白が笑った。
 そうして満足した様子でまた、もぐもぐと食べ始めている白の姿を見ていたルピナスは、思わず微笑みが零れる。
(缶詰も、外のご飯も、俺にはそんなに変わらないけど……)
 一緒に食べ歩くのは悪くない。
 味はよくわからないけれど、彼女<友人>と食べる食べ物は美味しいかも。
 そう心の中で呟きながら、白と共に食べ歩きを楽しむルピナスなのだった。

●満喫したふたり
「いっぱい食べたわねー」
「あぁ。もうお腹いっぱいだ」
 白とルピナスは満腹になるまで満喫し、帰路につく最中だった。
「そうそう、白ちゃん。君はなんでここまで世話してくれるんだい?」
「え?」
 ルピナスが問い、白は首を捻った。
「なんで……って」
 ――そもそもそういう性格だから、というのはあるかもしれない。
 元々面倒見が良いのだ。
「世話を焼く方というか、なんというか」
 しかし、それだけかと言われると、そうじゃないかもしれない。
「似てる、のよね……」
「似てる?」
 ルピナスが聞き返した。
 すると白は頷いて、
「ルピナスと、私の恋人」
 ――と、零す。
「白ちゃんの恋人さんに?」
「そうよ。妙なところで自分に無頓着なところとか、ね」
 この間とうとう想いを受け入れて恋人になった、白の幼馴染。
 恋人の事を話をすると、恋人のそんな一面を思い出して……
 どこか穏やかな微笑みが零れていた。
「――白ちゃんも。俺の気の置けない友人に似ているなあ」
「あら、そうなの?」
 今度は白が聞き返し、ルピナスが頷く。
「あ、でも白ちゃんの方が落ち着いている、かな」
「へぇ……」
 どんな子かしら、と白は想像している間。

 ――今日は楽しかった。
 そんなふうに心満たされていたルピナスは、ふと、何かを閃く。
 今、とてつもなく。まるで頭の中の霧が晴れた様な。美しい音が鮮明に流れ出したのだ。
 それは今朝までずっと、彼が求めていたメロディ。

「〜♪ 〜♪」

 ルピナスは鼻歌をうたった。
 白は突然のことに、きょとんと目を丸くしたが。
 ――でも。
(なんて綺麗なメロディなのかしら)
 滑らかで聴き心地の良い歌にうっとりと聞き惚れていて、ルピナスが歌い終えると、首を傾げた。
「綺麗な歌ね。なんて曲なの?」
 訊ねられたルピナスは目を細める。
 そして感謝を謳うように、彼女へと紡いだ。
「ずっと俺が求めていた曲――今思い浮かんだ曲だよ。ありがとう。白ちゃんとお出掛けして気分転換が出来たおかげだね」
 ルピナスが穏やかに微笑みながら云うと、白は瞬きをした。
 彼の腹を満たす為の誘いだったが……。
 まさか同時にスランプだった仕事の方も、解決するなんて。
 しかし解決するという事は良い事だ。
「そう? お役に立てたなら何よりよ」
 白はにっこり笑顔を返す。
「さあ、て。帰ったらすぐに取り掛からないとね、っと」
 仕事の目処が立ち、ルピナスは上機嫌だった。
 そして振り返り――
「また遊ぼうね」
「!」
 ルピナスが言った。
 その約束を、白が交わす。
「ええ、また遊びましょう?」


 ふたりは楽しそうに、笑い合っていた。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka3664/矢野 白/女/27/しっかり者の友人】
【ka0179/ルピナス/男/21/飄々とした友人】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変長らくお待たせしてしまったことを深く、お詫び申し上げます……。
 完成までお待ちくださり、本当にありがとうございました。
 少しでも楽しんでいただけていたら、幸いです。

 お二人は出逢ったばかりの友人だと聞いて、お互いが友人としての初々しい関心を持ちあっている様子や、心持ちセリフを多めに!と心がけ、執筆致しました。
 私はどちらかといえばセリフは少な目な方だったのですが、友人との楽しいお出掛けのシーンなら会話が大事だと想い、アドリブが全開です。
 なので、もしも違和感があるところや気になるところなど御座いましたら、遠慮なく御申しつけくださいっ。
 何気ない日常のシーンになごみつつ、書いていてとても楽しかったです!
 ご発注頂き、ありがとうございました!!




白銀のパーティノベル -
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ファナティックブラッド
2017年02月13日

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