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『ハンターの一般的恋愛指南 』
ラティール・ロセリka6488)&No.0ka4640

 この世界の片隅に、一軒の家があった。家と言っても、簡素であり小屋を少し大きくした程度といえる。そっけない印象を受ける調度品の中で、一際目を引くのは食事の用意をする女性の後姿だ。
 彼女の名は、ラティール・ロセリ(ka6488)。
 背中側で赤褐色の肌を晒し、銀色の髪を広げていた。ラティールは、楽しげに鼻歌を歌っている。ことり、とお皿を並べて彼女は窓の外に視線を移す。
 そこには、ペットのパルムを世話する背の高い青年の姿があった。特徴的な兜を被り、立ち上がれば2メートル以上の身長になる。青年、No.0(ka4640)の姿をパルムたちは見上げていた。
「あぁ、そういえば……」
 パルムの視線に同調するように、自分が彼を初めて見上げたときのことを思い出す。それはラティールとレイヴェンの出会いにもつながる。
「見上げると、本当に大きく見えるんですよねぇ」
 微かな嘆息を交えて、思い起こす。
 あれは……ほんの一月前のことだった。


「さて、どうしましょお?」
 ラティールは、たわわな胸の下で腕を組んで悩んでいた。林の中で息を潜めて、木にもたれかかる。ちらりと木の陰から見やれば、明らかに異質な者の姿があった。
「うわぁ……」
 一言では形容し難い、独特な人物……あるいは人でないのかもしれない。それは、ラティールより頭一つ分ほど背が高かった。身の丈ほどありそうな銀色のハンマーを携えていた。
 だが、何より奇妙なのは頭部だ。
 不明な金属でできた巨大な三角錐の頭部を、そいつは持っていた。顔に当たるであろう部分が、薄っすらと光っている。
 異形――と一言で例えられる姿に、ラティールは逡巡していた。
 覚醒者として目覚めたラティールは、自分を変えたいと強く願ってエルフの森を出た。メイクも覚えたし、新しい言葉遣いにも挑戦している。
 次はしっかりとした仕事を行う準備を整えなくては!
 そう意気込んでいた最中、雑魔が出現したという話を泊まっていた村で小耳に挟んだ。
「これは……天啓ですぅ!」
 ぐっと拳を握って、ラティールは宿を引き払うと真っ直ぐに近くの森へ出向いた。ハンターとなる前に、力試しをしようと思ったのだ。
 そして、現在に至る――。

 あの異質さは、絶対に歪虚だと思う。異質すぎて気圧されてしまったが、そんなことではいけない、とラティールは奮起していた。
「これも、試練!」
 宿を出る時に握った拳を思い出す。刀に手をかけて、相手の様子を伺う。こちらに気づいた様子はなく、頭の薄く光る面は他所を向いている。
 一気に駆け出して、一撃で決める。
「ふぅううう……」
 はやる気持ちを落ち着かせて、ラティールは木の陰から身を乗り出した。不意をついて、死角と思われる方向から刀を振り切る。
 短い風切り音につづいて、肉を断つ感触が手に乗る――はずだった。見れば、刃は宙を舞ってきた盾によって防がれていた。
「あ……」
 やばいと思ったときには、ラティールの身体は弾かれていた。体勢が崩れた瞬間を狙って、そいつは巨鎚を持ち上げた。
 悲鳴を上げることすらできず、怯えた風に目をつむる。
 まさか、潰されて死ぬなんて――。
 身体の震えを感じながら、死の瞬間を待つも、痛みはおろか圧すら感じられない。
 代わりに降ってきたのは、

「……いきなりどうした?」

 落ち着き払った青年の声であった。
 目を開けると、不思議そうに揺蕩うそいつの姿。鎚は肩にかけられ、不思議そうに頭の光面をラティールに向けている。
「あ、えと……」
「雑魔なら俺が倒した……それじゃ」
 困惑している間に、青年はそれだけ告げると踵を返す。よくよく見れば、傍らには魔導バイクが置かれている。
 エンジン音を響かせて、青年は去っていく。風がそよぐ中、一人残されたラティールは勢い良く立ち上がった。
「謝らなきゃ!」


 ハンターオフィスで登録を終えたラティールは、事務員に例の青年について尋ねた。
「あぁ、それならレイヴェンさんですね」
「レイヴェン?」
「えぇ、間違いないと思いますよ。仰る格好をしているハンターは、一人しか思いつきません」
 なるほど、とラティールは頷く。確かに異質な格好というのは、目立つに違いない。住所を聞いてみたが、事務員からは個人情報保護の観点からとかわけのわからない言葉ではぐらかされて、聞き出せなかった。
 街を少しぶらぶらして聞き込みをしてみれば、よほど目立つのかレイヴェンの棲家はすぐに知れた。
「よし!」
 意気込んで駆け出したラティールは、謝ろうという気持ちの他にもう一つ思いが芽生えていた。だが、その気持ちに気づいたのは……彼を、レイヴェンをもう一度目にしてからである。


「どう思われたのでしょおか」
 ほとんど押しかけ女房だったはずなのに、レイヴェンは迎え入れてくれた。あるいは、無表情で黙っていたのをラティールが好意的に解釈したかのどちらかである。
 どちらにせよ、追い出されてはないのだ。ラティールにとっては、それだけで十分だった。レイヴェンが彼女を受け入れてくれた理由はわからない。わからなくても、いいかなと思う。
 じゃあ、ラティールがここにいる理由はなんだろうか。淹れたてのお茶を一口飲む。んーと唸るように考えをめぐらして、外を見る。
 レイヴェンはまだ、パルムの世話を焼いていた。
「一目惚れ? 一撃惚れ? どっちでもいいか」
 小さな笑い声を漏らして、ラティールは窓を開く。
「レイヴェン、ご飯にしましょお!」
「……ん」
 一言答えてレイヴェンは立ち上がり、こちらを向いた。相変わらず無口だが、不思議と暖かみをラティールは感じていた。
 今が楽しいのが、何よりも嬉しい。
「さぁ、手を洗ってから食べましょお!」
 ラティールは笑顔を浮かべて、レイヴェンに言うのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ラティール・ロセリ(ka6488) / 女性 / 18歳 / エルフ/ 舞刀士】
【No.0(ka4640) / 男性 / 20歳 / 人間(リアルブルー) / 機導師】
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2017年02月15日

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