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『共に生きる覚悟 』
皆守 恭也ka5378)&綿狸 律ka5377

 迫る年の暮れ。行き交う人々はどこか忙しなく。
 空を覆う雲に吹き抜ける冷たい風。今にも空から白い雪が零れて来そうだ。
 隣を歩く主に元気がないような気がして、皆守 恭也はそっとその顔を覗き込む。
「どうした? 律。寒いか?」
「え? いや。そうじゃなくて……やっぱり驚くだろうなーと思ってさ」
 小さくため息を漏らす綿狸 律に、そうだろうな……と呟く恭也。
 2人は今、律の実家である綿狸家の本屋敷に向かっている。
 綿狸家は東方にある由緒正しい武家で、律はその本家の長男。
 恭也は綿狸家の分家の出であり、皆守家は永く綿狸家に仕えて来た。
 今回の里帰りは、故郷にいる両親に新年の挨拶をするという名目だが、真の目的は――綿狸家と皆守家両家族に、自分達の婚姻の許可を貰ことだった。
 自分達のしていることは、周囲から見れば『許されない恋』なのだろうと、思う。
 それでも――。
「……今更引けない。諦めることも出来ない。そうだろう?」
 恭也の指先を握って、こくりと頷く律。
 ――そうだ。幼い頃から自分に仕え、ずっと傍にいた恭也。
 この人が男子であっても女子であってもきっと変わらずに惹かれていたと思うし、離れ離れになるなんて考えたくないし、考えただけで泣きたくなる。
 後にも先にも、こんなに人を好きになることはないだろう。そう思えるから。後悔はしたくない……。
「……行こ。恭也。親父と母さんに、オレ達の本気を見せてやろーぜ」
「ああ。いざとなったら2人で逃げればいい」
「うん。そうだよな。駆け落ちも悪くないよな」
「それに……何があっても俺が守るから安心しろ」
 恭也に髪を撫でられて、律は笑みを零した。


「……この度、皆守家嫡男、恭也は綿狸家嫡男、律と婚約の運びと相成りました。婚姻のご許可を戴きたく足を運んだ次第です」
 年が明けて間もなくの綿狸家本家。
 新年の挨拶もそこそこに、真顔で切りだした恭也に、2人の両親である綿狸家当主夫妻と皆守家当主夫妻は笑顔のまま固まった。
 ……主と家臣。男同士。
 条件や状況を鑑みても、即時に理解するのは難しいかもしれない。
 続く沈黙。それを破ったのは恭也の父だった。
「恭也。……それは本気で言っているのか?」
「我儘は百も承知。ですがそれ程に律を愛しているのです」
「己の立場と役目を忘れた訳でもあるまい?」
「それは勿論。己の使命を忘れたことなど1秒とてありません」
「……使命として傍にあるのと、恋慕して傍にあるのとでは違う。思い違いをしているのではあるまいな」
「それは……そのようなことは決して。……俺も悩み、考えました。この想いは何なのか。持ち続けていいものなのかと、ずっと」
 弟として可愛がっていたはずの存在が、西方での日々を通し、いつの間にか自分の中で大きなものになっていた。
 この想いは、綿狸家当主として生きなければならない律の未来を閉ざすものになるかもしれない。
 律の懐刀という立場にありながら、彼を傷つけるものになるかもしれない――。
 悩んで悩んで。主から離れた方が良いのではないかというところまで考えて……その果てに、律は自分と同じ想いであったと――その気持ちに触れたらもう、気持ちを止めることも、引き返すことも出来なかった。
「……懐刀としての役割も夫婦としての生活も、必ず両立させてみせます。ですからどうか、我らの関係を認めて頂きたい……!」
 頭を下げる恭也に、ため息を漏らす皆守家当主。
 綿狸家当主である律の父が、息子を見つめる。
「恭也はこう言っているが、律。お前はどう考えている」
「オレは……恭也の事が大好きなんだ。家臣としてじゃなくて、ちゃんと、人として」
「恭也はお前が赤子の頃から世話をしてくれている忠義者だ。お前も散々甘やかして貰って居心地が良かったのだろう。それを愛と思い違っては恭也に失礼だぞ」
「違う! 違う……!! オレの気持ちはそんなんじゃない!!!」
 確かに恭也は物心ついた時から一緒だったけれど、それはただの切欠に過ぎなかった。
 どんな時でも自分を励まし、時には叱り……その優しさと心の強さに惹かれて行った。
 主と従者という関係性ではなかったとしても。きっと自分は恭也に惹かれていた。そう断言できる。
「……綿狸家嫡男としての務めはどう考える」
「親父の跡継がなきゃならねぇのはわかってる。跡取りを授からねぇといけねぇのもわかってる。だけど、オレには恭也しかいねぇんだ……。だから、頼む……」
 震えて、涙目になっている律から目線を外した父。律の母がころころと笑う。
「やっぱりでしたのね。そうじゃないかと思ってたんですのよ。律、昔から恭也が女子に話しかけられるだけでオロオロしてしょんぼりしてましたものねえ」
「なっ……!? 母さん今それバラさなくてもいいだろ?!」
「あら。知られて困ることでしたの? 『恭也はオレのなのにー』って良くわたくしに言ってましたのにね」
 うふふと笑う母。恭也からの目線を感じて律は耳まで赤くなる。
「あら。律ちゃんもそうだったの? うちの恭也も『律がかわいい』って、普段からしつこいくらいに言ってたわよ」
「えっ。おばさんそれマジ!?」
「ええ。マジよー。大マジ」
 母から思わぬ発言が飛び出して噴き出す恭也。詳しく聞き出そうとする律を慌てて止める。
 その様子にもう一度ころころ笑う律の母。恭也の母がお茶を淹れ直して皆に配る。
「はい、お茶。これを飲んでちょっと落ち着きましょ」
「……ねえ、あなた。わたくしはこの結婚、認めてあげても良いと思うんですのよ」
「しかし……」
「恭也がどんなにいい子かは、わたくし良く知っておりますわ。律の配偶者としてここまで理想的な方はいないと思いますの」
「……奥方様。息子の我儘で綿狸家を混乱させる訳には参りませぬ」
「この程度で混乱するような家でしたら絶えて当然ですわ。……親であれば、子の幸せを願うものです。……綿狸家当主と皆守家当主は違うのですかしら?」
「この娘には勝てないわねえ。流石綿狸家を切り盛りしてる奥方様なだけはあるわ」
 律の母にピシャリと言われて言葉を失う父達。
 恭也の母がくすくすと笑い……律の父はもう一度ため息をつくと息子と恭也を見る。
「……分かった。お前達の婚姻を許そう。ただし条件がある」
「条件って何だよ?」
「……どんなものであれ謹んで承ります」
「……律の性格的にも器量的にも妾を迎えるのは難しかろう。養子でも構わん。きちんと次代の綿狸家と皆守家の人間を育てよ。それが条件だ。お前もそれで構わないな?」
「ご当主殿がそれで良いというのであれば是非はない」
 綿狸家当主の言葉に厳かに頷く皆守家当主。
 律はへなへなとその場に崩れ落ちて……その目から、次々に涙があふれて来る。
「良かった。オレ、ダメだって言われても諦めるつもりなんてなかったけど……それでも怖くて……。親父、母さん。おじさんおばさん、ありがとう……」
「……俺と律にとっては願ってもない条件です。温情に感謝致します」
「いい、いい。気にするな。ダメなんて言って奥方達に恨まれたら後が怖いからな」
 くつりと笑う律の父に、恭也は真の男を見た気がして……深々と頭を下げた。


 恭也と律の一世一代の大博打がひとまず成功に終わり、そのまま家臣達を含めた祝いの大宴会になって……。
 父達を早々に酔い潰した恭也のところに、ぐったりとした律が顔を出した。
「どうした、律。疲れた顔をしているぞ。部屋に戻るか?」
「うん。母さん達が婚礼衣装の話で盛り上がっててさ……。どっちが白無垢着るのかってしつこいから逃げて来た」
「……俺は体格的に白無垢は厳しかろう」
「ええっ。じゃあオレ!?」
「白無垢姿の律は美しいだろうな」
 真顔で言う恭也に、みるみる顔を朱に染める律。
 その頬を愛しげに撫でて、恭也が囁く。
「……ご当主の言いつけ通り、養子を探さねばならんな。ああ、律が妾を受け入れるというならそれに従うが」
「えっ。オレ、妾とかいらない」
「律の実子というのも悪くはないと思ったんだが」
「やだやだ! 恭也はオレが浮気してもいいのかよ!?」
「……浮気というのとは違う。条件を満たす為の契約だろう」
 ぽかぽかと胸を叩いて来る律を受け止める恭也。
 そのまま、婚約者を引き寄せて強く抱きしめる。
「恭也……?」
「……参ったな。自分を納得させられると思っていたんだが。俺は存外独占欲が強いらしい」
 肩に顔を埋めたまま呟く恭也。律は、彼から漏れた言葉の意味を察して、その背に腕を回す。
「……オレは恭也以外の人なんていらないよ。養子にしよう。恭也に似てる子がいいな」
「すぐに探しに行くか?」
「ううん。もう少し先にしよう」
 ――もう少し、2人きりを楽しんでからにしたい。
 もじもじしながら、小さく呟く律。恭也は、くすりと笑うと主を軽々と抱え上げた。
「仰せのままに、我が君。では早速2人の時間を楽しむとしようか」
「えっ。ちょっ。まっ。恭也!!?」


 今年の正月は何だか大変だったけれど……無事に結婚の許可を貰えて良かった。
 この先も幾度となくやって来る新年。
 見るもの、いる場所は違うかもしれないけれど。
 ――来年も、再来年も、その先もずっと……この人と共に。
 何があっても離れることはない。
 その想いと覚悟を抱えて、2人は時を重ねていく。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka5378/皆守 恭也/男/27/覚悟を背負う狐
ka5377/綿狸 律/男/23/覚悟に寄り添う狸

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間戴いてしまい申し訳ありません。
恭也さんと律さんの物語、いかがでしたでしょうか。
条件を鑑みて、難易度高めで設定して判定しました結果、成功と失敗のギリギリ境目の数値が出ましたのでこのようなノベルとなりました。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
八福パーティノベル -
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2017年02月16日

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