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『―空想世界の屋台骨・3― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 開発チームからすれば、それはユーザーへのサービスとして用意した機能だったのかも知れない。
 しかし、それがユーザー間に於ける格差を発生させ、同じフィールド内に異なる目的意識を持ったプレイヤーが混在する事になろうとは、思いも依らなかったのだろう。
 少なくとも、彼女――海原みなもと、そのパーティーたちはそう考えるようになっていた。
「強い人とそうでない人に分かれてしまうのは、ある程度仕方ないとは思うよ。ゲームなんだしね」
「うん。でも、最早それだけでは片付けられないレベルの問題になりつつあるんだよ」
 みなもの発言に、まず少年――ウィザードが答える。そして、ガルダに扮する少女――瀬名雫が、それをフォローするように言葉を重ねた。
「普通に戦えばまぁまぁのランキングになるプレイヤーが、モブと変わらない扱いになる地域もあるそうだよ? 異常だよ」
 未だ、彼女たちはその実情を目の当たりにした訳ではない。もしかしたらブラフかも知れない。
 しかし、実際に長期間連続でログインし続け、鍛錬して、通常のプレイでは到達できない域にまで力を高めたプレイヤーが、ハイスコアを更新し続けていると云うニュースが、運営から配信されてくるのだ。オフィシャルがそう記録しているのだから、強ち出鱈目という訳でも無いだろう。しかし……その程度がどのようなものなのか、具体例の無い事が問題だった。
「その、『鍛錬したプレイヤー』と云うのが、どの程度の実力なのかは把握しておいた方が良いかも知れないね」
「賛成だな。そういった連中が攻めて来た時に身を守れないようでは、困る事になるからね」
「あたし達は、決して頂点目指して参加してる訳ではないけど……ね」
 全員一致で、その噂の『実態』を検証してみよう、という事になったらしい。
 何しろ、この『魔界の楽園』は、オフィシャルイベントで登場するターゲットキャラを討伐するなどの他に、プレイヤー同士のバトル……所謂ストリートファイトも起こり得る、つまりは『周り全部が敵ばかり』なゲーム世界なのだ。自分の身は自分で守る、これが最低限の参加資格であると言っても過言ではない。
 彼らは今、安全地帯である『街』の中に在る飲食店でその話題を展開していた。が、その店も、長期ログインによる定住者が経営する店舗である。
 嘗ては不可能であったその行為が、安易に実現できてしまう……変わりつつあるルールに辟易しながらも、それを受け容れなくてはプレイを続行する事が困難になる。彼らはその雰囲気を、自らの肌で直接感じ取っていたのだった。

***

 みなも達は、運営からもたらされる新情報を、マップと照合しながら『何処へ行くか』を検討する事にした。
 とは言え、何処を見ても不穏な空気が漂う、恐ろしい『魔境』ばかりであった。
「この、『赤い大地』ってトコが……今のところ一番ヤバそうだね」
 他にも、目を引く場所は数か所あった。が、彼らの目にはダントツで『赤い大地』が『ヤバい』と見て取れたようだ。
「『天空都市』へ至る『白銀の氷壁』、『海底都市』に行き着く『紺碧の大渦』、『地底都市』がある『密林の遺跡群』……か。何処も危険な香りがプンプンするけど、やっぱ此処『赤い大地』だろうな」
 ウィザードが、他の危険エリアを例に出し、その上で改めて『赤い大地』を指定した。これに、みなもも雫も揃って頷いた。
 観光気分で赴いて、無事に帰れるエリアではない。これは分かるのだ。が、彼らがそこを目指そうと決めたのには、確固たる理由があった。
「……此処も、オフィシャルが作った危険地帯じゃない……んだよね」
 雫の呟いたその一言が、全てを物語っていた。
 確かに、その土地に強力なエネミーが配置された背景はある。が、それは飽くまで『異様な力量を誇るユーザーが上陸した故、対抗するためにエネミーのレベルも上昇した』のであって、最初から『上級ユーザーの為の戦場』であった訳ではない。
 それは他の難所にも共通する事ではあったが、このエリアだけは他所とは異なり、『魔界の楽園』としては初になる『レベル制限』が適用される可能性が高まって来ているのだ。適用されれば、現状のみなも達ではそこへ上陸する事が出来なくなってしまう。
「この街、最初は普通の港町だったけど、戦乱に巻き込まれて、城塞都市になったんだよね」
「うん。元は普通の、長閑な漁港だったそうだ……けど、天然の要塞に成り得る地形だったから、外敵から街を守るために自然と防備を固めて、今の形になったって話だね」
「孤軍奮闘、って感じだけどね」
 そう。その土地は三角州状の低地で、一方は海面に面し、残りの二方は険しい山に面している。依って外部から侵入する為には、海を渡って海岸線から上陸するか、山を越えて来る以外にルートは無いのだ。
 が、当然の事ながら、海岸線沿いは強力な獣人が陣を固め、山頂にも眼下を狙い撃ち出来るトーチカが設置され、文字通りの城塞都市として鉄壁の守りを誇っていた。それはまさに、自分たちの街を守るための、必死の抵抗であったのだ。
「この『赤い大地』に進入するには、この城塞都市を通過するのが最短ルートだけど……」
「そう、そこがまずネックなんだ。そもそも、此処に入港できるかどうかが疑問だからね」
 ウィザードが、マップ上に記された唯一の海運ルートである港を指差し、短く唸る。他にも進入ルートが無い訳ではないが、リスクが高すぎるのだ。
 まず、街が築かれたその場所以外の海岸線は全て断崖絶壁であり、船を係留しておく事が出来ない。
 陸側から進入しようとすれば、恐らくは強力なエネミーたちで埋め尽くされた密林や砂漠を横断しなければならない。
 つまり、先ずは城塞都市に入港し、そこから針路を取る他にルートは無いと考えるのが妥当である。
 この結論に、ウィザードと雫は絶望感を露わにする……が、みなもだけは違った反応を示していた。
「大丈夫、だと思うよ」
「何故、そう思うんだ?」
 みなもの発言に対し、ウィザードがそう答えた。まぁ、当然の反応であろう。だが、彼女は実にアッサリと、その理由について言及してみせた。
 曰く『街を要塞に変えたのは、外敵から身を守る為。住んでいるのは普通の人たちでしょ?』との事だった。
「言われてみれば……そうだな。それに、ただでさえ孤立している連中だ。この上、更に敵を作るような真似はしないだろ」
「楽観的すぎやしない? 確かに住人はそうかも知れないけど、街の外殻を守っているのは屈強なモンスターなんだよ?」
 雫が慎重な判断を下した意見を口にするが、どうせリスクがある事に変わりは無いのだからと説得され、折れる形となった。かくして、一行の『赤い大地』訪問計画はこうして始まったのである。

***

「美味しいっ!」
「流石は港町、魚介類の鮮度は抜群だ!」
 その賛辞に、照れながら笑みを見せるのは、宿屋の主を兼ねたシェフであった。
「有難う御座います。周囲の荒れ方を見て、敬遠する旅人が多くて……」
 みなもの指摘は、見事に的を射ていた。城塞都市とは言え、住人すべてが戦っている訳ではない。元は普通に暮らしていた、一般市民なのだ。
「それで……本当に行くつもりですか? あの山の向こうへ」
「ええ、俺達はその為に来たのです」
 その自信に満ち溢れた返答に、主は祈るような視線を送るのだった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年02月20日

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