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『 Silentとは程遠い聖夜に 』
フィオナ・アルマイヤーja9370)&グリーンアイスjb3053)&ブルームーンjb7506


 夕方から空を覆い始めた雲は、夜になって厚みを増したように見えた。
「これは雪になるかもしれませんね……クリスマスイブにはふさわしいのでしょうけれど」
 フィオナ・アルマイヤーが白い息を吐く。
 冷え込みも増しているようだ。
 フィオナは一つ身ぶるいすると窓を閉めた。

 フィオナの自室は暖かく、静かだった。
 オーディオセットのスイッチを入れると、角度を計算して設置したスピーカーから、柔らかな讃美歌が流れ出す。
 フィオナはオーディオマニアだった。
 いつもはその響きを身体全体で楽しむのだが、今日は音量を絞り、その『音がある故の静けさ』をしばし楽しむ。
 ――と、ここだけを抜き出せば、ストイックかつ高尚な御隠居のようであるが。フィオナの姿はそれとは全く異なっていた。

 暖かそうなパジャマはボトムが濃い赤色で、少し長めのトップスはピンク色の花々が咲き乱れるようにプリントされている。襟ぐりにも袖にもズボンの裾にもそしてポケットにも、白いレースの縁飾りが巡らされていた。
 普段のシンプルな服装からは想像もつかないほど、乙女チックなパジャマ姿なのだ。

 実はこちらのほうがフィオナの憧れに近い。
 だが『こうあるべき』と幼少時から思いこんできた(あるいは、思い込まされてきた)姿を変えるのは、なかなか難しい。
 家を離れてひとりで暮らすようになって、誰も咎めることはなくても、自室でちょっとだけ願望を解放するのが精いっぱいなのだ。

 そんな中にも、小さな変化はあった。
 フィオナはベッドサイドに並んだ立派な箔押しのアルバムを引き出す。
 ベッドにもぐりこみ、肘をついてページを開いた。
「ふふっ……」
 端正なフィオナの顔に照れたような笑みが浮かぶ。
 アルバムには豪華なドレスを纏って、お姫様のように微笑むフィオナの写真があったのだ。
「ドレスってやっぱり素敵ですね……」
 フィオナは溜息のように言葉を発し、しばし自分の写真に見入る。
 友人の誘いでとある貸衣装店に通うようになり、フィオナは『本当に望むことをする』ことに少しずつ慣れてきた。
 写真はその記念なのだ。
 フィオナはひとり静かに、ドレスを身につけた時の気分に浸っていた。


 そんなフィオナは、妖しい視線に全く気づいていなかった。
 良く見れば、漆黒の窓にふたつの頭が並んでいる。
「ちょっと。もうちょっとそっち詰めなさいよ」
 妖艶な青い瞳が横目で睨んだ。
「あたしが先に来たんだから。邪魔しないでくれる?」
 睨まれた方の金の瞳は全く意に介さず、じっと室内を見つめている。
「ああんもう、フィオナったら。部屋ではあんな可愛いパジャマを着るんだね!」
 ――聖夜に降臨し、人の子を見守る天使にしては、ちょっとアレな感じのこの天使。
 グリーンアイスは身をよじるようにして嬉しげに囁いた。
 青い瞳は窓にぐっと近づき、爛々と輝く。
「ふふっ、良く似合っているじゃない。夏にはもっとゴージャスなフリルのネグリジェをプレゼントしてあげなくちゃね」
 天使と並んでフィオナを見守る(?)悪魔はブルームーン。
 ふたりとも、誰がどう見てもストーカーである。

 なお、ここは一階ではない。
 だが天使と悪魔にとって、飛行制限時間までそれは問題にはならない。
 ふたりは翼を重ね合わせるようにして、フィオナの部屋の窓に張り付いているのだ。
「あっベッドに入っちゃったわ……もう寝ちゃうの?」
 ブルームーンが残念そうに唸ると、グリーンアイスはぐぐっと窓に寄る。
「あれ、何か持ってる……あっ、アルバムだよね!」
 ふたりにも見覚えがある。というか、同じものを持っている。
 貸衣装屋でドレスアップした記念に作ってもらったものだ。
 ブルームーンが思わず口元を緩めた。
「うふふ、可愛いわね本当に。ベッドの中で思い出に浸っているのね」
 ふたりは息をひそめてフィオナの観察を続ける。

 このふたり、普段はあまり仲がいいとは言えない間柄だ。
 いつも眠そうで、誰の言うことにも動じないが、自分のやりたいことには異様なパワーを発揮するグリーンアイス。
 誰よりも目立ちたい、みんなにちやほやされたい、いやされるべきと信じているブルームーン。
 ふたりとも姿かたちの美しさを、行動が台無しにする残念タイプである。
 だがどういうわけか、フィオナに対して特別な感情を持っているという共通点があった。
 グリーンアイス曰く「これは愛情表現」なのだそうだが。
 とにかくフィオナは育ちがよく、良くも悪くも世間擦れしていない。
 その初心で可愛い夢見る少女のような内面が、クールな外面のほころびから垣間見える瞬間がたまらないらしい。
 なんといっても自分大好きブルームーンが「自分の次に可愛い」というぐらいだから、相当なものである。

 さて、当のフィオナは、自分をストーキング、もとい、見守る視線にはまだ気付いていない。
 アルバムのページをめくりながら微笑み、素敵な思い出に頬を薄紅色に染めている。
 これが件の天使と悪魔に火をつけた。
「……あーんもうダメ! フィオナ、可愛すぎい!!」
「あ、ちょっと待ちなさいよ! 抜け駆けは許さないんだから!!」
 壁? 阻霊符がなけりゃそんなもの。
 ふたりは透過術でいきなり室内に飛び込んだ。

「「フィオナーーーー!!!!」」

「!?!?!?」

 フィオナは声を上げることも忘れ、目を見張るばかりだ。


 飛び込んだからには、遠慮なんてものを遠くへ放り投げる天使と悪魔。
「なになに、どの写真がお気に入りなの? あっ、イチゴムース風のドレス! すっごい可愛かったよね!」
 グリーンアイスはベッドに寝そべるフィオナの隣にふわりと降り、そのまま隣にもぐりこむ。
 不法侵入を咎める暇を与えず、フィオナを自分のペースに巻き込むのだ。
 この辺りがフィオナに『実は天使じゃなくて悪魔なのでは?』と思われる所以なのだが。
 ブルームーンもどさくさにまぎれ、フィオナを挟んで反対側へもぐりこんだ。
「ほんとうに今見ても、お菓子の国のお姫様よね。素敵よ」
 ブルームーンは『素敵よ』が艶っぽく響くよう、フィオナの耳元で囁く。
「ふわあっ!? あ、ありがとう、ございます……!」

 ――フィオナは初手で完敗した。
 一体どうしてここへとか、そういうことを尋ねる前に会話を続けてしまったのだ。
「で、でも、おふたりもとっても素敵でした」
 耳元をくすぐる囁きにますます頬を赤く染めながら、フィオナは急いで自分の写真から話題を逸らそうとする。
 ページをめくり、三人で長椅子に並んで撮影した写真を開いた。
「私がすみれの砂糖菓子だったわね。フィオナが選んでくれた衣装、やっぱり私に良く似合っているわ」
 ブルームーンは満足そうにフィオナに身体をすりよせてくる。
 それでちょっと押されたフィオナの身体は、反対側からも暖かく柔らかな身体を押しつけられた。
 グリーンアイスが負けてなるものかと押し返しているのだ。
「それであたしがミントチョコ! 緑色と茶色ってすっごくおしゃれよね」
「そ、そうですね。モデルがいいですから、ドレスを選ぶ甲斐もありました」
 こんな不法侵入者にも気を使うのがフィオナである。

「んもう、フィオナったら! あ、でもあたしはほらアレ、えーと……」
 グリーンアイスは本棚に視線を走らせ、覚えのある背表紙のアルバムを取り出した。
「これ! この薔薇の三姉妹、すっごくお気に入りなんだ!」
 開いたページには、少し硬い表情のフィオナを挟んで、グリーンアイスとブルームーンが並んでいる。
 ブルームーンが嫣然とした笑みを浮かべ、フィオナの頬をつついた。
「ふふっ、フィオナがまだ緊張してるみたいね」
「そ、そうですね……」
 貸衣装屋にも、ドレスを身につけることにも、まだ少し遠慮があった頃。
 ふたりにそそのかされて、深紅の薔薇のようなドレスを纏ったのだ。
 最初に見たときから大好きな赤が気になっていたけれど、自分に似合うかどうかも不安だった豪華なドレス。
 今見ても、よくぞ挑戦したと自分が信じられないほどだ。
「ね、次はもっと余裕を持って着られると思うわよ。だからあの時のことを思い出して?」
 ブルームーンが素敵な悪戯を思いついたとばかりにくすくす笑う。
「お姉さまって呼んで?」
「ええっ!?」
 ぐん、と身体にのしかかる圧力。
「あたしも! グリーンアイスお姉さまよ、ほら!」
「えええっ!?」
「呼んでくれないなら、どうしようかなあ?」
 ブルームーンがわずかに開いた花のような唇をぐっと近づけてきた。
 なんともいえないいい香りがして、フィオナは一瞬くらっとする。
「わ、わかりました!! 青薔薇のお姉さま、どうか思いとどまってください!!!」
 ぐい、と乱暴に顔を捻じ曲げるのはグリーンアイス。
「ぐ!? み、緑の薔薇のお姉さま、首が折れます……!」
「ね、赤薔薇のフィオナ。これは何?」
 気がつくと、グリーンアイスはまた別のアルバムを引っ張りだしている。

「あ、それは……」

 唯一、グリーンアイスとブルームーンがいなかったときのアルバムだ。
「選んでいただいた衣装なんですが……その、少し、かわいらしすぎたかもしれません……」
 フィオナの声がだんだん小さくなっていく。
 そこに映るフィオナはバレリーナのようなふわふわのオーガンジーに、赤いリボンや赤いミニバラをあしらったドレスを纏っていた。
 見立て通りすらりとしたフィオナに良く似合っているのだが、自分で改めて見るとすこし乙女趣味すぎたかもしれないとも思ってしまう。
 隣から覗き込んでいたブルームーンが、フィオナの耳たぶを軽く引っ張る。
「可愛いわ。悔しいけど、良く似合うのを選んでもらったのね」
「いたっ!? 青薔薇のお姉さま、ひっぱるのはやめてください」
 グリーンアイスも少し悔しそうに頭をこつんとぶつけてきた。
「うーん、確かに似合ってる! こんなドレスも置いてたんだね。あたしが見つけたかったなあ」
 ……でもさ。
 と、グリーンアイスはまた別のアルバムを引っ張りだした。
「あたしとしては、フィオナが選んだこのドレスはすっごくいいと思うんだよね」

 ハロウィンに、童話のキャラクターになりきろうという企画で選んだドレス姿だった。
 フィオナが選んだのは、シンデレラ。
 華やかなドレスに遠慮することも既になく。すっくと立つ姿からは、寂しい過去を捨て、希望に向かって歩み出す、そんなイメージすら伝わってくる。
 もしシンデレラが魔法使いのおばあさんを信じず、いじけて家に閉じこもっていたなら、王子と出会う事もなかっただろう。
 童話のお姫様は受け身だと言われることが多いが、少なくともドレスを着て舞踏会に行かなければ、王子に見出されることはなかったのだ。

「フィオナにすっごく似合ってるよ」
 グリーンアイスが念を押すように言って、目を細めた。
 ブルームーンもまた。
「そうね。――でも、もっと似合うドレスもきっとあるわよ。楽しみね」
「そうでしょうか。……楽しみです」
 もっと変わりたい。
 違う自分に出会いたい。
 その切欠になる、素敵なドレスを纏って。

 グリーンアイスがそこで、にやりと笑う。
「安心していっぱいドレスを着てよね。変な王子につかまらないよう、あたしがしっかりチェックしてあげるから!」
「ええっ!?」
 そう、王子以前の問題で。
 クリスマスイブにひとり自室で素敵なドレスに思いをはせるフィオナには、本当のウェディングドレスはまだまだ先のお話。
 ブルームーンの目が憐れむように細められた。
「そういえばあれから、好みのタイプなどに変化はなかったのかしら。ね、お姉さまが聞いてあげるわ。さ、白状して?」
 といいつつ、このふたりもこの日にフィオナ観察会なわけなのだが。
「や、ちょっと待ってください! 私は何も! あ、雪が降ってきました! 窓、ほら、見てくだs」
「「逃がさないわよ!!」」
「あう!!」
 フィオナはベッドから逃げ出そうとして、両サイドのふたりにがっちりガードされてしまう。

 賑やかな笑い声と内緒のくすくす笑いはずっと途切れることなく。
 とてもサイレントとはいえないクリスマスイブは、こうして更けて行くのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja9370 / フィオナ・アルマイヤー / 女 / 23 / ひそかな望み】
【jb3053 / グリーンアイス / 女 / 18 / 気ままな天使】
【jb7506 / ブルームーン / 女 / 18 / 世界は私のために】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもご依頼いただき誠に有難うございます。
お待たせしました、番外編(?)のお届けになります。
これまでの衣装で皆様がどう感じられたか、どれがお気に入りだったのか、かなり好きなように書いてしまいましたが。
イメージから大きく逸れていないようでしたら幸いです。
八福パーティノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年02月21日

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