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『● 』
不知火 轍aa1641)&レティシア ブランシェaa0626hero001
「よう、お前がこんな人ごみにいると違和感あるな」
 スクランブル交差点の信号をぼんやりと眺めていた不知火 轍(aa1641)の耳にどこか聞き覚えのある声が届いた。
「……いきなり出てきて希少動物扱いされてもね」
 振り返り声の主に向かって言い返す。薄く積もる雪の中に赤髪が鮮やかに映える青年、レティシア ブランシェ(aa0626hero001)がそこに立っていた。
「お? 珍しく機嫌が悪そうじゃねぇか。何かあったのか?」
「……新年早々に希少動物がこんなところに立ってる時点で察してほしいね」
 吐いたため息が白く曇る。
「なるほど、仕事か。まあ、俺もその帰りなんだけどよ。フリーランスは休日が関係ないのが辛いところだよな。相方はどうした?」
「……新年の準備が終わってないからって帰った。そっちは」
「子供はもう寝る時間だ。ましてや飲みに行こうって時はなおさらな。そっちもそのつもりなんだろ?」
「……まあね」
 ちらりと時計を見る。時刻は9時過ぎ。これから飲みに行くのは多少遅い時間だが、ここはかつて眠らない街と呼ばれた事もある都市である。探せば入れる店はいくらでもある。
「ここであったのも何かの縁だ。一緒に飲みに行かねぇか。希少動物を見れた記念に少し多めに払ってやるよ」
「……異論なし。僕の行きつけでいい?」
「ああ、いいぜ。寒いから近いとこな」
「はいはい」
 軽く体を震わせるレティシアに先行し歩き出す轍。
 一人酒の予定が急きょ変更になったが、これはこれでと希少動物は思うのであった。


「なかなかいい雰囲気の店じゃねぇか」
 羽織っていたコートを壁に掛けながらレティシアが呟く。
 来た店は純和風の居酒屋であった。二人はその小上がりに腰を下ろす。
「……ここはね。酒の揃いが凄くいいんだ」
 感情の起伏が薄い轍にしては珍しく、明らかに嬉しそうな顔を覗かせる。
「お前のそういう顔初めて見た気がするよ」
「……まあ、仕事先で会う事が殆どだしね」
「まあな。っても、一緒に飲むのも初めてじゃないだろ」
 H.O.P.E.のエージェントとして働く二人は同じ現場で顔を合わせる事が多い。
 とはいえ、一緒に飲みに行った事も無いわけでもないはずだが、それでも今のような表情は初めて見たような気がする。
「……普段は人が多いからね。それはそれで嫌いじゃないけど……どちらかと言うと静かに飲むタイプ」
「そういや二人で来たのは初めてか」
 レティシアは飲み方にあまりスタイルというものはない。強いて言うなら相手に合わせる方で、楽しく飲む奴とは楽しく、静かに飲む奴とは静かにという風である。
 人数が多いとどうしても場は騒がしくなりがちだ。静かに落ち着いた雰囲気でこうして轍と顔を合わせるのは確かに初めてかもしれない。
「……どうする? 日本酒でいい?」
「いいぜ。っつってもそんなに飲めねぇからキツ過ぎないので頼む」
「……ん」
 メニューに視線を落とす轍が小さく頷く。
 注文には下手に口を出すよりこの店に慣れた轍に任せることにした。
「……さて、それじゃあ新年のお祝いってことで」
「おう、あけましておめでとう」
 ほどなく運ばれてきた日本酒のコップの端と端をチンと合わせる。
 新年の祝いにしては控えめな乾杯を済ませ、レティシアがちびりと日本酒を喉に通す。
 さらりとした口触りで飲みやすい酒だ。日本酒にはそれほど詳しくはないがそう感じた。
「飲みやすくて旨い酒だな」
「……ふぅー。あ、もう一杯お願いします」
 レティシアが一口飲んでコップを置いた時には既に次の注文がなされていた。
「……うん、このお酒は飲みやすくて結構お勧めかな」
 満足そうに息を吐きながら轍がレティシアの意見を肯定する。
「本当に美味しそうに飲むよなぁ。こっちまで楽しくなる」
 感情が薄いと思っていた轍が見た事のない表情を見せるのに当てられて、思わずレティシアが笑みをこぼす。
 レティシアは酒にあまり強くないが、飲むのは好きな方だ。
 加えて顔を合わせて飲むと相手の普段窺い知れない様な顔が見れるのも好きだ。
 今日の轍などはその好例である。
「……楽しくなさそうに飲んでも仕方ない」
「そりゃそうだ」
 また一口、酒を口に運ぶ。喉元を爽やかな刺激がスッと抜けていった。
「ん、美味い。……日本酒は割と嫌いじゃないんだが、どうも漢字が覚えられなくてな。また頼もうと思ってもすぐ忘れちまう」
「あー、そうかもね。ちなみに今飲んだのはこれ」
 轍がメニューの一つを指差すが、メニューに書かれている漢字は覚えるどころか読む事すらできない。
「シュージだったか? アートとしては嫌いじゃないが、文字としては視認性が悪すぎる」
「……まあ、確かに日本酒のラベルはほとんどが筆文字だからね」
「俺からすればアラビア文字と同じくらい読めねぇ」
「英語の筆記体……ともまた違うか。僕でも読めないのたまにあるしね……」
 特に日本酒のラベルなどに使われている文字はロゴとしての役割も兼ねているため、なおさら読みにくいものも多い。
「……いっそ、マークだと思って形を覚えたら?」
「せめて色が黒一色じゃなければもう少し目に残るんだがな」
「……なるほどね。日本人だとなかなか思い至らない弱点だね。考えたこともなかった」
 改めてメニューを見ると確かに黒い文字がズラーっと並ぶ酒瓶はなかなか覚えにくそうだ。
「……となると、音で覚えるのが一番かな」
 クッとグラスに残っていた酒を一気に飲み干し、轍が言う。
「……飲みながら色々銘柄教えてあげるよ。今日は奢ってもらうし、授業料って事で」
「言っとくが全額は奢らねぇからな。7割だ」
「……十分十分」
 空のグラスを持ち上げて見上げながら轍はそっと笑みを浮かべた。


「……雪、か」
 ふと外を眺め夜の街に降る白い雪を見ながら轍が呟く。
「今年は多いみてぇだな」
「雪かきとか面倒くさいのに……」
 情緒もへったくれも感じさせない感想を言う轍。あまりに『らしい』言葉にレティシアが笑みをこぼした。
「雪は嫌いか?」
「……雪自体は嫌いじゃないかな。その後の処理は嫌いだけど」
 レティシアの質問に少し考えてから答える。
「……雪は音を吸い取ってくれるから。静かでいい。普段も、仕事の時も、静かなのは好きだな」
「お前みたいに隠密する奴はそうかもな。狙撃する方からしたら厄介だぜ」
 雪の降り注ぐなか静かに待つ辛さを思い出し身を震わせる。
 狙撃手は忍耐との勝負だ。雪は体温を奪うし、視界も悪くさせる。あんまりいい思い出ないのは確かだった。
「朝には実際雪かきが必要かもな、これは」
 しんしんと降り積もる雪を見上げる。この街でここまで雪が降る事は珍しいだろう。
 もしかしたら交通機関もマヒするかもしれない。
「……それはいいね。大手を振って寝ていられる。やっぱり雪は好きだ」
「おいおい、ここは日本だぜ。考えが甘いんじゃないか?」
「……世の中おかしい。雪が降ったら仕事は全部休みになるべきだ」
 再びグラスの中の酒を飲み干し、轍がため息を吐く。今度のこれは酒の旨さから出たものではない。純粋な憂鬱なため息だ。
「明日からの仕事の為に、そろそろお開きにするか」
「……あー、この世から仕事が消え去ればいいのに」
「ほれ行くぞ。終電が無くなっちまう」
 レティシアが立ち上がり、机に突っ伏す轍の背中に掛かっていたコートを投げ捨てる。
「貧乏暇なし。ま、また機会があれば飲みにいこうや」
「……奢ってくれるなら明日にでも」
「次は割り勘だ」
 苦笑いを浮かべてレティシアがコートに袖を通す。

 この雪が融ける頃にでもまた来よう、などと考えながら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1641 / 不知火 轍 / 男 / 21歳 / 生命適正】
【aa0626hero001 / レティシア ブランシェ / 男 / 27歳 / ジャックポット】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、弐号です。
今回は遅れてしまい多大なご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
せめてお気に召していただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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2017年02月22日

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