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『 虹色に輝く翼を背に。 』
柳生 楓aa3403

プロローグ

 悪夢から覚めた夜。
 『柳生 楓(aa3403) 』は温もりに包まれて泣きじゃくったのを覚えている。
 まだ心の整理がつかなくて、踏ん切りがつかなくて、傷が生々しく痛んで。
 でも、それでもずっと傍らに、その温かさが、その柔らかさがあったから楓はその夜を乗り越えることができた。
 じきに朝が来る。鈍く痛む頭を抱えてタオルケットを纏い、上半身を起こすと鳥の鳴き声が聞こえた。 
 涙で晴れた瞼をこすり、洗面台に立つとひどい顔だなと、鏡に映る昨日までの自分を笑えた。
「ありがとう」
 振り返り楓は告げる。
 自分のために泣いて、自分と一緒に苦しんで、自分を癒してくれた最愛の相棒に。
 これから何度もこの言葉を送ろうと誓う。
「ありがとう、あなたのおかげで私は。生きられる」
 心はいまだに痛むが、つっかえた感じはなくなった。
 今ならそれができるかもしれない。
 そう楓はアルバムから一枚の写真を取り出す。
 そこに映るのは自分と、妹、裏面には住所。
「行ってくるね」
 楓の過去を巡る旅が、始まった。

【帰郷】

 楓の実家は現在住んでいる場所から電車で二時間程度。半日あれば行って戻れる範囲ではあったが、英雄が目覚めたらいらない心配をしそうだ。
 なので朝ごはんと置手紙をのこしてきた。
《探さないでください、夜までには戻ります。お肉が食べたいです》
 きっと、豪勢な料理を用意してくれるに違いない。そんな想像をして少し笑う楓である。
 やがてたどり着いたのは、実家。
 もう売りに出されているが買い手はいない。だから埃をかぶって放置されていた。
 扉は当然開かなかった、けれど、瞼を閉じれば思い出す。
 家族、その思い出。
「お金がたまれば買い取るのもいいかもしれませんね」
 そう楓は一人心地につぶやいた。
 そしてそのまま町を奥へ進む。
 人気のない道路を歩くが足に疲労感はたまらない。
 冷たい金属の足でこの道を行くのは初めてだ。
 お盆時期になれば家族全員で上った坂。
 そしてお寺。
 楓はそこでお参りのために必要な一式を買いそろえた。
 桶と柄杓を借りて、そして。
「ずっと、来られなくてごめんね。みんな」
 そう柳生家の墓の前に立った。
 最後に来たのはいつだったろうか、そう思いをはせる、草だらけで手入れがされていない墓に楓は水をかけ、綺麗に掃除をしていく。
「聞いてください、私の物語」
 その中で、楓は夜にテーブルを囲って話すような気軽さで。
 沢山の想い出を語り始めた。
 住む場所が変わり、仕事ができた。
「最初の任務は、女の子の愚神を倒すことでした」
 自分はすごく嫌だった。無邪気な子供とはいえ愚神に手を差し伸べるなんて考えられなかった。
 結果的に死人が出て、それが胸にまだ残っている話。
「大切な人ができました。その人は私のことを真剣に考えてくれて」
 彼と一緒にたくさんの物を見た、彼にたくさんのことを教えてもらった。
「友達もたくさんできました、戦場で仲間と呼べる人たちもできました」
 こうして振り返ってみると、失うばかりの人生で無かったと思える。
 けど、失ったものが大きすぎて楓は、前を向けなかった。
「今、すごく、幸せで。私は……」
 そして楓は墓石に水をかける、線香をあげてそして。祈った。告げた。
「ごめんなさい。ごめんなさい助けることができなくて」
 あふれる涙。けれど、これがきっと最後。そう思えた。
「必ず、そちらに行きます。だけどそれは私がやるべきことを全て終えた後。その時沢山謝るから、だから。待っててね」
 その直後である、ポケットの中でスマホが震えた。
 楓はそれを取り出す、すると目に映ったのはカロンの文字。
 楓はその画面に指を滑らせた。
「手紙の返事……」
『ごめんなさい、助けることが出来なくて』
 その一文から始まる文章を楓はカロンに託して天国の妹へと送った。
 その文面は自分の中にもはっきりと残っている。
 妹に向けた懺悔の文章。しかしそれは今になってみれば迷いの塊だと思えた。
 そのメールに対しての返事、それを恐る恐る開く。

『私は、お姉ちゃんが大好きだったよ。
 でも、私がお姉ちゃんを苦しめてるなら、私をどうか忘れてください。

 ……なんて、今嫌だって思った?

 思うよね、私も同じ気持ち』

 楓は目を見開いて微笑んだ。

『ねぇ、お姉ちゃん。私幸せだったよ、お姉ちゃんと一緒にいられて、生きられて、最後にお姉ちゃんが生きてくれて。
 そんな私の気持ちがきっとお姉ちゃんはわかってないから。
 だから、今のお姉ちゃんには会いたくありません』

 楓は頷いた、今ならわかるかもしれないそう思えた。

『誰かの犠牲になって死ぬのはいいよ、でも、その人が生きててよかったって、笑えるように生きてください。
 それはとても幸せなことと同時に。
 すごく悔しいことでもあります。
 一緒に生きたかった、もっと隣でその笑顔を見ていたかった。
 私は死ぬときそうは思ったけど。
 でもお姉ちゃんを恨んだことはありません。
 そしてこの気持ちをいつかお姉ちゃんが理解してくれたなら、その時は大切な人の話、沢山聞かせてね』


『幸せそうにしている、お姉ちゃんをもっと見せてください、沢山生きて、なにが楽しかったか辛かったか、私に教えてください。
 待ってるから。遥か未来の天国で』


 スマホの電源を落とすと、楓は小さくつぶやいた。
「知ってました、聞きましたから、これはカロンさんの優しい嘘だってこと」
 相棒から聞いたのだ、カロンはエリザの一歩手前、不完全ではあるが知性であり、受け取ったメールの内容からかけられたい言葉を推測して、記す。
 そんな機能であると。
 そしてそれは、優しい誰かの残した遺産であると。
 楓はその文面を読み返すとデリートし空を見上げる。
「それを穏やかに受け止められるってことは、私が思っている以上にあの子の言葉に答えたいと思っているからでしょうね」
 帰ろうと思った、相棒が待つ家に。愛する人の隣に、友達がいるカフェに。仲間がいるH.O.P.E.に。
 自分は今確かにここにいる。
 ここにいるなら自分は消えてはいけない。
 相棒と同じように、楓を大切に思ってくれている人は、沢山、本当にたくさんいるのだから。
 楓は空を見上げた。雨の晴れた空には大きな雲と太陽。
 またいつか、雲が空を覆い、雨が降ることもあるだろう。
 だけど、自分が傘をささなくても、傘をかけてくれる人がいる。
 それが今とても嬉しいと思える。



「私は、こっちで大切な仲間や家族と呼べる人たちが出来ました」

 楓は最後にお墓を振り返る。

「私は、その人たちと生きたい、共に歩みたいんです。今は紛れもなく自分の意思でそう思います」

 そして微笑んで告げた。

「だから、まだそっちには行きません。私は、まだ歩き続きますから」

 その目には涙は無く、明日を見つめる強い意志が感じられた。
 風が強く吹く、頬を撫でる。
 妹の笑い声が聞こえた気がした。
 今はそれを祝福だと思うことができる。

「帰ります。みんなのところに」

 こうして少女を中心とした物語の一端は幕を下ろす。
 救いだとか、希望だとかそんな大仰な話ではなくて、ただ単純に歩いていくと言うだけの話。
 これは少女が、歩いていくと心に誓ったお話し。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『柳生 楓(aa3403) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 OMCご注文ありがとうございました。
 今回は一つの物語が終わる、エピローグ的な気持ちで書かせていただきました。
 思えば楓さんはこの世界に現れた時からのお付き合いで、ずっと見続けているPCのひとりなんだと改めて思いました。
 その楓さんの成長を見守る機会も多く、こうしてノベルを書いていると感慨深い気持ちになります。
 ただ、もしかするとこれは楓さんにとって物語の序章の可能性もありますよね。
 まだまだ回収していない伏線もあるかと思いま(守護の聖女とか、エリザとか)
 なので、これからもリンクブレイブお付き合いいただけると嬉しいです。
 それではながくなってしまいすみません。
 鳴海でした、ありがとうございました。
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リンクブレイブ
2017年02月23日

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