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『公開ファイルNo.1 オトナシ_オウコ 』
音無 桜狐aa3177

「さぁどうぞ、遠慮せずかけてほしいっすよ」

 フードに隠れて窺い知れぬ表情の下、ちらりと覗く口元に人好きのする笑みを浮かべた占者は、そう言って音無 桜狐(aa3177)に席を勧める。

 音無の向かい側に腰を据えた占者は、何ら気負いない様子で「何か飲むっすか?」と笑うのみ。
 それに「油揚げはあるかの」と答える辺り、マイペース極まっている音無。それに笑顔で対応した上、指パッチンひとつでどこからともなく油揚げを用意してくる占者。

 まさか本当に用意されるとは思っていなかった音無は、若干面食らいつつも躊躇なく油揚げを口に入れた。なかなか豪胆な性格をしている。
 油揚げはほどほどに味がしみておいしかった。

「もうちょっと驚いてほしかったっすかな」
「?」

 とてもファンタジーなことをしたのにこれと言った反応をもらえなかった占者は若干残念そうであった。

「コホン。さて、じゃあ、占ってみるっすか。私に、きみの可能性の一端を見せてほしいっすよ」

 にぃ、と歪んだ唇からころがる声音は、とてもとてもたのしそうなもので。

「……む、せっかくじゃし占って貰うかのぉ……。当たるも八卦、当たらぬも八卦というが……。これも縁じゃ……」

 なんとなく不穏な気配を感じながら、音無は相変わらず油揚げをはんでいるのだった。



 『楽にまったり過ごすためにどうしたらいいか』。

 気負いなくそう言い切った音無に対し、占者はただ笑みを深めただけだった。

 どこからともなく取り出したカードをつまびらかにして、卓上でシャッフルしたあと、軽くまとめて三つの塊に分けた後、再度ひとつの山にして軽く整える。

 その間中、占者は音無に様々なことを訊いた。
 面倒くさがりの音無は適当にしか答えなかったが、占者はその少ない情報で満足したらしい。

「さぁ、きみのことを教えてほしいっすよ」

 気がつけば、音無の目の前には7枚のカードが置かれていた。
 六芒星を描くように6枚、そして真ん中に1枚。
 散々ファンタジックなことをしてきたわりに、一連の動作は手作業で、丁寧な所作で行っていた。

「まず、きみの過去から現在、そして続く未来の可能性を」

 ぺら、と、六芒星の頂点、右下、左下の順に開いていく占者。
 示されたカードには、それぞれ「THE WORLD」、「THE EMPEROR」、「THE MAGICIAN」と記されている。

「んー……。きみは今、決断の時にいる」

 流麗なイラストの描かれたカードを見つめていた占者は、ふとそう言って顔を上げた。

「過去、きみは何らかの望みを叶えたんすな。それまでの、まるで己を縛る呪縛のような状況から抜け出して、とてつもない開放感を得たはずっす。でもそれは同時に、新たな不安の種を産んだ……」

 つ、と世界のカードをなぞる占者。

「その不安は、思っていたのと違う形で芽吹いたみたいっすね。掲げた理想を実現するために、きみは何か行動を起こさなければならないみたいっす。きみにとって、すごく決心のいる決断」

 つい、ついとカードを指差し、占者はに、と笑みを深くして。

「この先、きっときみは『奇跡』を願うときが来る。自分の手には負えない、だから神さま助けて! って。けど、その望みはとても独りよがりなものみたいっすね。今のままでは、とても聞き入れられない願い。ああ、大丈夫っすよ。きみは、どうしようもない現実に直面して絶望することになるだろうけど、そこは『終わり』ではないんすよ」

 魔術師の描かれたカードに指をあて、トン、と軽く叩く。

「未来は『希望』に満ちてるっす。希望が見えないなら、それはちょっとばかり、きみの瞳が涙でかすんでるだけっす。どうか忘れないで。奇跡は、最後の最期まで諦めなかった者にだけ、起こるんすよ」

 畳み掛けられるそれに面食らった音無を、占者はただ笑みを湛えて見つめていた。

「さぁ、次はきみの内面を見ていくっすよ」

 言いつつ開かれたのは、六芒星の下、左上、右上のカード。
 それぞれに「STRENGTH」、「THE MOON」、「THE HIGH PRIESTESS」の表記がある。

「ふむ。きみは今、まわりに頼らないで生きているんすね」
「ふぇ?!」

 唐突な言葉に、音無は素っ頓狂な声をあげた。

「あれ? そんな反応するっすか? まぁどうせ『占い』っすから、話半分に聞いて欲しいっすよ」

 音無の素直な反応がうれしいらしく、占者の声が弾んでいる。

「きみのまわりには、きみを助けてくれるヒトがたくさんいるみたいっすよ。でも、きみはその人たちに助けを求めようとはしない……ううん、これは頼るのがこわい、んすかな。きみの心が頑なになって、『自分のチカラではこの環境を変えられない』と思ってる。うんうん、変わるのは怖いことっすね。でも、じぃっと蹲ってるだけじゃ、なにもはじまらない。まわりに手をのばすことも大事っす」
「……見てきたような口を利くのじゃな」
「占い師っすからね!! 信じ込ませてナンボっすもん!」

 いやに断言する口調に、訝しげな視線を送る音無。対する占者は「たはー!」と笑って真意を見せない。

「まぁまぁ、私はきみの未来をより『輝かしいもの』にしたいんすよ。そこは信じてほしいっすね」

 唇で弧を描き、肩をすくめるひょうきんな仕草に似合わず、占者の口調は真剣だ。

「そういうわけで、きみの『願望』も明言してしんぜませう」

 言いながら、占者は「月」のカードへ重ねるように、一枚のカードを並べる。
 提示されたのは「JUSTICE」。正義を司る大アルカナだ。

「なるほど? きみ、過去に信じていた女性に裏切られたりしなかったっすか? ああ、答えなくていいっすよ、だってこれ占いっすもん」

 ひら、と正義のカードを二指に挟んで、たのしそうにひらめかせる占者。

「かなり根深いトラウマがあるみたいっすね。たぶん、自分では気付いてない類の。きみの信頼と期待を裏切ったのは、かなり親しい人間だったんすかな? で、だ。きみは今、そのトラウマから来る焦燥にかられている」

 ぴ、と音無に正義のカードを突きつけ、占者はいっそ不気味なほどにっこりと笑んだ。

「もう裏切られたくない。それがきみの望みっす」

 そして、そう、断言する。

「きみはいい出会いに恵まれたんすな。だから、どうすればいいかも、たぶん、なんとなく気付いてる。違うっすか?」

 六芒星の中央。窺うような言葉と共に開示された最後のカードは、「THE FOOL」。

「さぁ、『質問』に答えよう。その暮らしを望むなら、そのまま自堕落に、日和見主義で過ごせばいい。だって今、とても『ラク』だろう?」

 にぃ、と、唇が弧を描く。

「そうやって現実逃避していれば、きみの『質問』は達成されるっすよ。けど、それでいいんすか? きみは、今を変える勇気がほしいんじゃないんすか?」

 女にしては低く、男にしては高い声が、反響する。
 視界の端がじわりじわりと歪みに侵食されているようだった。
 音無はたまらず、卓上のクロスをぐぅっと掴む。

「さぁ、私はきみに『可能性』を開示した。あとはきみ次第。私は信用ならないだろう? そう、行きずりの辻占なんか信じちゃいけない。こういうのは話半分に聞くものさ」

 ローブの奥の闇が侵食する。気持ち悪いわけではない。けれど、身体を支えきれなくて、音無はクロスを引きずり落とすように椅子からくずれおちる。

「なん、じゃ……?」
「大丈夫、きみはきっと望みを叶えられるっすよ。信じろなんて言わないっすよ、どうせここの記憶は残らない。ま、要するに、きみは変わる時が来たってことっす」

 ひら、と、占者が見送るように手を振った気がした。

「……わし、は。ただ、まったり過ごしていたいだけ、なのじゃが、の?」
「んふふ、そうっすねぇ。きみは、もっと自分に素直になるべきだと思うっすよ」

 暗転する視界の端に、散らばったはずのタロットカードが、まるで音無を祝福するかのように光の粒子となって消えていくのを捉えて。なるほど、気障なやつじゃと思わず笑う。

「油揚げ、馳走になった。それなりにうまかったのじゃ」
「それはどうも、ありがとうっすよ! ではでは、またいつかの機会に。お気をつけてお帰りくださいませ〜!」

 楽しそうな声を聞いた気がしたのを最後に、音無の意識はふっと浮上した。

 これは、『忘れらるべき空間』で起こった、『誰も知らないのおはなし』である。

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【aa3177/音無 桜狐/女性/14歳/ワイルドブラッド/回避適正】
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2017年02月27日

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