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『 親愛なる瑕 』
虎噛 千颯aa0123

 虎噛 千颯(aa0123)には心に致命的な瑕がある。
 『友達』は多くいる。だが『親友』は一人もいない。『親友』というものは作らない。意図的に作らない様にしている。
 とは言え普段はその瑕をおくびに出す事もなく、どちらかと言えば軟派で楽天的な言動で日々を送っているが、それはとある依頼での事。告白するか否かで右往左往するある人の姿に、その記憶は呼び起こされた。心の奥底にあった記憶。千颯が『親友』という存在を意図的に避ける様になったきっかけ。
 高校生の頃に失った、千颯に「好きだ」と告白してきた、親友の。


「付き合って、欲しいんだけど……」
 そう言って視線を泳がせる彼の姿に、千颯が抱いた感情は「驚いた」、それだけだった。まさか男に、しかも親友に、その手の告白を受けるなんて夢にも思っていなかった。『彼』は千颯の『親友』だった。千颯が幼少期の頃からずっと一緒に遊んでいて、学校に行くのも一緒、帰るのも一緒、宿題で悩むのも一緒、家に遊びに行くのはもちろんの事、互いの家に泊まりに行った事もある……この親友の出てこない思い出を探す方が難しい、それ程に一緒の時間を過ごし続けた『親友』だった。
 そんな彼が中学二年生のある日、突然、「好きだ」と千颯に言ってきた。「恋愛的な意味で」「ずっと好きだった」「気持ち悪いと思われるかもしれないけれど」「付き合って、欲しいんだけど……」。驚いた。びっくりした。気持ち悪い、とは思わなかった。別に嫌いではなかったし、どちらかと言えば好きでもあった。そうでなければ『親友』などやっていない。『親友』を好きなのは当たり前だ。
 千颯に告白した親友の目は妙な具合に泳いでいて、たまに千颯の方を見てはばっと顔を逸らしてしまう。それから、またちらりと千颯を見て……ああ、これどっかで見たな。恋愛ドラマで女の子が、好きな人に告白する時こんな風にしていた気がする。ああそうか、俺今、こいつに告白されているんだな。
 「いいよ」、と千颯の唇ははっきりと音を作っていた。「付き合おう」、と千颯の唇はすぐさま言葉を続けていた。『親友』はぽかんとした後、慌てて千颯の手を握った。い、いいのか、本当にいいのか? 嬉しさ、安堵、不安、疑念、色々なものがないまぜになった彼の声に、千颯は笑みながら頷いた。
 それがどういう事かなんて、ちっとも考えていなかった。

 かくして千颯には『恋人』が出来た。たった一人の親友が、『恋人』というものになった。『親友』は喜んだ。『恋人』になった『親友』は、千颯に受け入れられた事を心の底から喜んだ。
 けれど千颯は、千颯には、『親友』を『恋人』にしてみるだけの気持ちも考えも何もなかった。好きだと言われて、別に嫌いじゃなくて、どちらかと言えば好きだったから、だからOKした。千颯の動機はそれだけだった。今までの延長のような感覚だった。『親友』と『恋人』は繋がっていた。朝一緒に学校に行って、くだらない事で笑いあって、授業のノートの貸し借りをして、学校やテストの愚痴を言い合い、一緒に帰り、但し恋人が行う事を『親友』の上に追加して。
 千颯と『親友』の付き合い方はそれだった。それでいいと思っていた。今までの延長のような感覚。『親友』と『恋人』の区別はなかった。
 でも、別に嫌いじゃなかったから。
 どちらかと言えば好きだったから。
 嬉しいと喜んでくれたから。
 喜んでいたはずだから。
 だから、それでいいと思っていた。
 延長上の関係だった。
 千颯だけが、そう思っていた。


「ごめん、疲れた」
 高校一年生の事だった。そんな『恋人』関係を続けていたある日の事、親友はそんな一言だけを遺してこの世から姿を消してしまった。
 理由は今でも分からない。自殺なんてする子じゃないと彼の母親は泣いていた。妻の身体を抱き締めながら彼の父親は震えていた。
 理由は千颯にも分からない。何一つとして聞かされていない。「ごめん、疲れた」、最期に遺されたその言葉以外は、何も。
 疲れたって、何? 一体何に疲れたの? なんで謝るの? 俺のせい? 死んだのって俺のせいなの? 
 なんで言ってくれなかったの? 俺、親友で、恋人でしょ? 今までずっと一緒だったのに、一緒だったはずなのに、
 俺って、お前にとって、一体『何』だったの?
 千颯は『親友』に問い掛けた。心の中で問い掛けて、問い掛けて、同時に自分自身を責めて、自分は彼にとって何だったのか、と答えのない問いをし続けた。もっとちゃんと向き合って答えを出すべきだったのではと、何度もずっと考え続けて、
 いつしか『親友』の思い出は千颯の心の瑕になった。『友達』は多くいる。だが『親友』は一人もいない。『親友』というものは作らない。意図的に作らない様にしている。
 『親友』という存在を意図的に避ける様になった。
 それ程考え続けても、心の深い瑕になっても、一体どうすれば良かったのか、
 それが今でも分からない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【虎噛 千颯(aa0123) / 男 / 24 / 能力者】
【『親友』(NPC)/ 男 /】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。
 注文を頂いた時「いつも明るい千颯さんにこんな暗い過去が……」とびっくりしてしまったのですが、それだけ大事だろうお話を預けて下さったのだと、気合いを入れて書かせて頂きました。
 口調その他イメージと違う点などありましたら、お手数ですがリテイクお願い致します。
 この度はご指名下さり誠にありがとうございました。
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2017年03月03日

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