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『騎士達よ、円卓に集え 』
ベドウィルaa4592hero001)&クーaa4588hero001)&グワルウェンaa4591hero001)&ベネトナシュaa4612hero001)&エクトルaa4625hero001)&ガレシュテインaa4663hero001)&ボーフォートaa4679hero001)&アークトゥルスaa4682hero001)&トリステスaa4806hero001

●勇敢なる騎士の受難、その始まり
「苺食いに行かねぇか?」
 親友の声だとベドウィル(aa4592hero001)は思った。ここはHOPE。彼はある任務の報告を終え、帰宅するところだった。同じ任についていたはずのアークトゥルス(aa4682hero001)の姿は見当たらない。できれば今日の反省会を兼ねて一緒に帰りたいと思っていたベドウィルは、彼を探していた。
(あちらの部屋だろうか?)
 進路を変える。談話室を覗いてみると、グワルウェン(aa4591hero001)がいた。そして、探し人も。
「もう旬の時期なのだな。喜んで付き合わせて頂こう」
 アークトゥルスは答える。
「じゃあ今回は俺の奢りで」
「それは悪い」
「でも誘ったのは俺だし」
 ベドウィルは当初の目的も忘れて叫んだ。
「私も行きたい!」
 彼の目はきらきらと輝いていた。グワルウェンは一瞬目を丸くしたが、すぐに順応したようだ。
「仕方ねぇな」
 ベドウィルに振り回されるのは慣れっこなのだ。彼一人くらい増えたくらいなら平気だろうと、尚も無駄な懐の深さアピールを続ける。結局アークトゥルスが折れることとなった。
「……っと、そろそろ時間だな。じゃ、そういうことでよろしく!」
 グワルウェンは慌ただしく去って行く。彼はこれから仕事だったのだ。
(皆でスイーツか。楽しみだなぁ)
 心ときめかせるベドウィル。グワルウェンの受難はここから始まった。
 グワルウェンが就いた任務は命にかかわるほどの案件ではなかったものの、耐久力に優れた従魔のせいで大いに気力と体力を削がれた。ろくに携帯も確認しないまま、眠りについたのも仕方ない。しかしグループトークのログを確認しなかったのは少々うかつだったかもしれない。

●騎士達の盛況なグループトーク
 何気なく携帯端末を起動したベネトナシュ(aa4612hero001)は、メッセージが何件か来ていることに気付いた。見れば、ベドウィルとクー(aa4588hero001)が会話しているらしい。
『皆さん、苺食べに行きませんか!!』
『何なんだ、急に』
『ケイも行くだろう? グワルウェンのおごりなんだ! アーク様もいるよ!』
 そこに飛び込んできたのはグループ最年少の少年、エクトル(aa4625hero001)だ。
『ぼくもいくー!』
『僕も行きたいです! クー卿はどうなさいますか?』
『ボーマン、お前もか。仕方ない。保護者役は必要だろう』
 ガレシュテイン(aa4663hero001)は相変わらず邪険に扱われている。世界が変わっても上司と部下だったころの関係のままなのだ。
『トリステス卿はいかがです?』
『魅力的なお誘いね、ベドウィル卿。私も参加させて頂きたいわ』
『まとめると、俺、ベディヴィア、アーク、グワルウェン、エクトル、トリス、ボーマンか?』
 旬の苺と気心知れた仲間たち。トリステス(aa4806hero001)の言う通り、この会は抗いがたく魅力的だ。
「兄上の、奢りで、皆様と、いちご……!!」
 ベネトナシュの手が震える。頭の中を駆け巡るのは、皆の笑顔と談笑の声。そして広いテーブルを埋め尽くす苺のスイーツ――。
『確認遅れてごめんなさい。参加希望よ』
『クソオカマ、お前も来るのか?』
『もちろん。あたしだって、みんなとお茶会したいもの』
 クーが悪態をつく相手はボーフォート(aa4679hero001)だ。こちらもおなじみの光景。これでベネトナシュ以外は全員集合となる訳だが。
『べネトは来ないの?』
 兄のガレシュテインが気遣ってくれる。自分も見ているということは、グループトークの機能のせいでバレているのだ。
「参加……はっ、いやいや、私は学生で裏切りの騎士!」
 後ろ髪を盛大に引かれながら、送信ボタンを押す。
『いいえ! 私は多忙な身ゆえ辞退させていただきますぞ!』
 はあっと大きなため息が漏れる。それは安堵か落胆か。彼が二律背反たる思いの間をたゆたっている内に、約束の日はやってきた。

●騎士達の優雅な苺ビュッフェ(予定)
「遅い」
 クーが低い声で言った。彼の腕に抱き着いていたエクトルが何事かと彼の顔を見上げる。見事なしかめっ面だ。
「申し訳ありません。約束の5分前に合わせてきたのですが……」
「交通機関の遅延や渋滞があったらどうするんだ。だからお前は半人前だって言うんだよ」
 ガレシュテインは肩を落とす。厳しすぎるようにも聞こえる言葉はスパルタ教育なのか、それとも照れ隠しなのか。多分どちらも正解である。
「まぁまぁ。今日はグワルウェンの男気に免じて、仲良くお茶会と行こうよ」
 まるで動じない様子でベドウィルがとりなす。様子を伺っていたボーフォートはひそかに微笑む。クーはぷいとそっぽを向き、口をつぐんだ。
「おはよう。待たせたようだな」
「おはようございます、アーク様!」
 ボーフォートは真っ先に挨拶する。他の者もアークトゥルスと、彼の隣にいたグワルウェンに声をかける。
「グワルウェン?」
 約束の地に集った面々を見回して、グワルウェンは眼を瞬いていた。
「え、何で?」
 今日は3人の筈じゃ? 彼が言い終える前に、エクトルが満面の笑みで言う。
「お兄ちゃんありがと! 御馳走になりますっ♪」
 ぺこり、と元気よくお辞儀をする。絹糸のような髪がさらりと落ちて、ぴょこんと跳ね上がった。
「さすがは兄様、太っ腹ですね」
 尊敬の眼差しで兄を見るのはガレシュテインだ。
「どうしたのよ?」
 ボーフォートも、珍しくグワルウェンが全員分を奢るのかと少し感心していたのだが、どうやら様子がおかしいことに気が付いた。哀しいかな、気が付いてくれたのは彼だけである。
「それが……」
 刺客はまだいた。
「ごきげんよう」
 麗しき声に振り向けば、愛しき元恋人トリステスの姿。
「グワルウェン、お招きありがとう。今日は好意に甘えさせて頂くわ」
「……おう、任せとけ」
 彼が他に何を言えただろうか。グワルウェンは財布を強く抱きしめるのであった。
(流石グワルウェン。太っ腹だなあ)
 ちなみに無自覚に親友を窮地に立たせた張本人は、のほほんと感心していた。お財布に余裕があるものだと疑いもしていない。ひとえに強い信頼ゆえである。
「俺も出そうか……?」
 アークトゥルスはこっそりとグワルウェンの側に寄る。財布の危機のきっかけとなった責任は多少ある。
「……アタシ少ししか持ってきてないんだから助けられないわよ?」
 反対側にはボーフォート。言葉足らずが重なった結果の事故ならば仕方ないだろうと微笑む。
「いや、男に二言はない」
 何を食べたいかと尋ね合う面々を前に、言い放った言葉は――。
「……ATM寄ってきていいか」
 その顔に浮かぶのは覚悟を決めた男の表情であった。

●騎士たちの甘い円卓
 その店には円卓があった。正確には楕円と呼ぶべき卓には、真っ白なレースのテーブルクロスがかかっている。受付を担当したウェイトレスは9名の大所帯と聞いて、迷いなくその席を選んだ。
「ベディお兄ちゃん、どのケーキがオススメ?」
 エクトルがベドウィルの袖を引いて一番槍を務める。
「やはり定番のショートケーキでしょうか。苺のたっぷり乗ったタルトもいいですね」
「僕がお取りします!」
 ガレシュテインが申し出る。「ベディを監視しとけ」とクーからの命を受けたのだ。とはいってもお目付け役とは名ばかりのもの。彼も先のふたり同様はしゃいでいる。スイーツは苺をメインとしたものが数十種類。その他のものも10種類以上はある。圧巻の品ぞろえだ。
「ベディ卿、これも美味しそうですよ」
 光沢ある黒でコーティングされたケーキは、断面だけが鮮やかな紅梅色に染まっている。
「これ、ザッハトルテっていうんだよね。僕も食べたいな」
「エクトル君、よくご存じですね」
 ふわりと笑い、ガレシュテインが尋ねる。
「この前、アークお兄ちゃんに教えてもらったんだよ。アークお兄ちゃんってお菓子作りがとっても上手なんだ!」
 エクトルは一足先に席に戻ったアークトゥルスを指し示す。彼は視線に気づいて鷹揚に手を振った。アークトゥルスの勤め先はカフェバー。バイトとはいえ、パティシエのような仕事をしているだけあって、お菓子の作り方や盛り付けを研究しながら食べるつもりらしい。
「ふむ。このフォンダンショコラ、柑橘系の酒を染み込ませてあるのか? さわやかな香りが良いアクセントになっている。これは参考になるな」
「ふふ、やりがいのあるお仕事を見つけられたのですね」
 柔らかな笑みを湛え、彼の隣に腰掛けたのはトリステスだ。
「とても良い表情をなさっています。私まで嬉しくなりますわ」
「トリステスは優しいな。おや、いい香りだ」
 白苺の紅茶が卓に置かれる。ケーキは苺とビターショコラを使用したものだという。
「ただ甘いものよりも、少し苦味が効いたものが好みですの」
「ならばティラミスも試してみるといいぞ。エスプレッソコーヒーを使用した大人の味だそうだ」
「素敵ですね。次はそちらに致しましょう」
 アークトゥルスの傍らに背筋の伸びた偉丈夫が立った。
「アーク様、お飲み物をお持ちしました」
「ありがとう」
 歯切れの良い敬語を話す男の正体は、ボーフォートである。その様子を卓の向かい側からクーが見ていた。いつもはオカマだなんだとからかっているが、本来ボーフォートは誰もが尊敬するような騎士である。
「なぁに、ケイ卿。アンタもお砂糖とミルク欲しいの?」
「間に合ってるよ。お前な、いつもブラックだって知ってんだろが」
 悪態をつくと、ボーフォートは茶目っ気たっぷりに笑う。
「あら、ごめんなさいね?」
 ひとりでケーキをつつくクーを見かねてのちょっかいだったのだろう。クーは少しほっとする。メンバーが彼らだけだったなら、きっと穏やかなティータイムを過ごせただろう。
「すまん、ケイ。ちょっと皿寄せてくれねーか」
「ああ、構わんが」
 クーは渋皮付モンブランの載った皿とコーヒーカップを横に動かす。空いたスペースに、どん、と置かれる皿。
「な」
 どん、ともう一枚。四角くカットされたプチケーキがタワーのように積まれた皿がクーの鼻先に置かれた。
「品のない盛り方をするな。食欲がなくなるだろう!」
 グワルウェンは度を越した甘党であり健啖家である。これでもまだ足りないくらいなのだが。
「そうか? ああ、こっちは綺麗だぞ」
 タワー越しに覗き込むと、大皿にはホールケーキが。否、よく見ると、バラバラの種類のケーキを複数並べたために円になってしまっているのだ。
「白いのがショート、隣は苺クリームのショートで、苺レアチーズ、苺スフレチーズ、苺ミルフィーユ、苺とバナナのチョコケーキ、イチゴジャムのゼリーが載ったムースケーキ、最後が苺タルトだ」
 嬉々として紹介したかと思うと、生地までピンクのミルフィーユにさくりとフォークを突き刺す。
「誰がグラデーションしろと言った……」
「ガレスが並べてくれたんだ。ベディと一緒にこっちのタワーも手伝ってくれたぞ」
「ボーマン……ッ!」
 戻ってきたらお説教決定である。1カット平均2〜3口でケーキを平らげながら、グワルウェンは会話を続ける。
「ケイは甘いの苦手だったな。むこうにパスタとかスープもあったぞ」
「知ってる。甘味を売りにしている店なんだから、一つくらい食べるのは礼儀だろう」
 と口では言うが、評判になっているケーキを食べて見たかったのだ。
「このケーキを食べたら、そちらに切り替える」
 モンブランに人格があったなら、ほっと胸をなでおろす場面だろう。クーは食物を無駄にする行為を嫌っているので、無用な心配なのだが。
「ただいま戻りました」
「ああ、ご苦労だったなボーマン。随分と熱心に仕事をこなしてくれたらしい」
 いかに素直なガレシュテインでも、上司の顔色から察して嫌味を言われているのはわかった。
「食べ物で遊ぶんじゃねぇ!」
「すみません!」
「ベドヴィア、お前もだ!」
「ご、ごめん!」
 エクトルはカットケーキを2つばかり上品に載せた皿を置いて、おとなしく座っている。
「エクトルはもう食べていていいんだぞ。俺は食事のマナーを知らない『クソガキ』たちに用があるからな」
 ガレシュテインの脳天に岩が落ちた。無論、彼の心象風景であるが。エクトルは首を傾げて少し考えたのち、こう言った。
「ううん、お話が済むまで待ってるよ。皆で食べた方が美味しいもん」
 クーは絶句した。鋭き舌鋒をいくら振り下ろしたとてもう遅い。この戦いの勝者は目の前の小さな騎士だ。
 
●反逆の騎士、登場
「美味しーい!」
 エクトルが感激する。
「女の子がお菓子は別腹っていうの、分かる気がする」
 くすりと微笑んだ彼は、ベドウィルにフォークを差し出す。一口食べた彼の顔にも幸せの色が広がる。
「ベディ卿、エクトル君、次はどれにしますか?」
「僕、さっきお皿に載せられなかったミルクレープがいいな」
「私は苺ミルフィーユに致しましょう」
 早くも2週目の冒険に旅立とうとする彼らをクーは呆れ顔で見やっていた。一方グワルウェンはアークトゥルスに食べっぷりを称えられながら、ちらりちらりとよそ見をしている。視線の先にはトリステス。今はボーフォートと共にネイルの話題に夢中になっている。
「……啖呵を切ったのに、皆の後を付けてきてしまうとは!!」
 そして、怪しい視線がもうひとつ。
「バレたら笑われるですぞ、ああでもみんなと、いちご……あー……」
 ベネトナシュは無意識に店の窓に張り付く。ウェイトレスが短く悲鳴を上げた。
「お嬢さん、どうなさいました……あ」
 ガレシュテインの目に移ったのは、他でもない弟の姿。ガラスに押し付けられているせいで整った顔が台無しである。彼は手の動きで弟を下がらせ、窓を開ける。
「こっちに来て一緒に食べよう」
 温かな笑顔にベネトナシュの心が揺れる。
「結局来ちゃったのね。苺のケーキ、一人じゃ食べきれないくらい種類があるのよ。一緒に食べましょ」
 続いたのはボーフォート。エクトル、ベドウィルも口々に彼を誘う。トリステスは微笑みを湛えることでベネトナシュを歓迎している。
「何を遠慮しているんだ? ベネトナシュが来てくれた方が私も楽しいぞ」
 アークトゥルスがおおらかに笑う。兄たちはいつの間にか外まで迎えに来ていた。
「ならば止むなし……じゃないですぞ、ほんとは私もみんなといちご満喫したかったのですぞー!」
「最初からそう言えばいいんだよ。さ、何から食べる?」
「まずは苺のたくさん乗ったケーキがいいですぞ。兄上! あーんしてあげますぞ!」
 ガレシュテインは素早くウェイトレスに人数の追加を伝える。
「ガレス兄さま! 今日は兄さまの隣がいいですぞ!」
 皆が突然の珍客を受け入れる中、クーだけが眉間にしわを寄せ舌打ちをしていた。
「ベネトお兄ちゃん一口どーぞ、だよ」
「ありがとうございます。……う〜ん、幸せですぞ!」
 場はさらに賑やかに。グワルウェンが楽しそうな弟たちを見守りながら食事を楽しんでいると、ついにトリステスに話しかけられる。
「たくさん持って来たわね。どれが一番お気に召したかしら?」
「あ、ああ……えっと……個人的には苺のティラミスがなかなか……。どれも美味いけどな!」
 グワルウェンはしどろもどろになりながらも、なんとか会話を続けようとする。。
「トリスのも美味そうじゃねぇか。何のケーキだ?」
「ええ、こちらもとても美味しくてよ。抹茶という日本のお茶を使ったケーキなの」
 フォークをグワルウェンへ差し出す。間接キスを気にする様子はまるでない。グワルウェンはうっかりトリステスのフォークから直にケーキを食べてしまう。
「……あっ、えっ、悪い、つい反射で……!」
「ふふ、おかしな方。私から差し上げたのに」
 くすくすと笑う彼女はやはり綺麗だ。
「どうかしら? お口に合った?」
「す、すっげぇ美味ぇなあ! 日本すげぇ!」
 カラ元気気味にはしゃいでいると、ふとトリステスとベネトナシュの視線が絡んだ。
「ベネトナシュ卿。あなたも一口いかが?」
「おお、黄緑色のケーキとは初体験ですぞ!」
 ボーフォートは友の肩を意味ありげに叩いた。
「まぁ、トリス卿相手じゃあそうなるわよね」
「ボーフォートぉ……」
「ちょっと、大の男が情けない声出すんじゃないわよ! ホットチョコでも汲んでくるわ!」
「すまん、恩に着る……」
 嵐のように周囲を巻き込むベネトナシュ。彼の注意は橋の席で静かにコンソメスープを啜るクーへと移る。
「伯父上も一緒に食べませぬか?」
 クーの目が見開かれた。まっすぐな甥の視線を感じながらも、クーは渦を巻くスープカップから顔を上げない。
「……コーヒーを入れて来る」
「叔父上?」
 ベネトナシュ。叛逆の騎士。――天真爛漫な少年。つゆとも感じられない悪意。一瞬見えた笑顔は、溢れんばかりの好意を自分に伝えているようだ。頭が混乱する。白いカップを満たす漆黒の液体を眺めながら、クーはただ戸惑うことしかできなかった。

●騎士たちの堂々たる帰還
「ベネトお兄ちゃん、いちごプリンも、こっちの桃のケーキもおいしそうだよ!」
「ではどちらも頂きましょうぞ! ケーキは半分こ!」
 ベネトナシュははしゃいだ様子で、ボーフォートを振り返る。
「姐様! 私がケーキお取りします!」
「あら、ありがとう。それじゃあ、レアチーズケーキをお願い」
 苺とベリーが飾られた華やかな見た目に惹かれたのだ。
 席に戻ると、ベドウィルは苺とホワイトチョコのパウンドケーキを、ガレシュテインが苺チョコのガトーショコラを相手へシェアしていた。
「まぁ、美味しそうね」
 ボーフォートもさっそく仲間に入る。ベドウィルのフォークから一口。濃厚なドライフルーツの苺の味がホワイトチョコと溶け合い、思わず感嘆の声が漏れる。
「ベディ卿も一口どうぞ。はい、あーん」
 隣ではグワルウェンがたくさんの皿を次々からにしている。盛り方こそ大人しくなったものの、食欲は健在。いったい何周目なのか、本人にもわからないかもしれない。
「グワルウェンたら、そんなに大きな口で食べて……ほら、クリームがついたわよ」
 ボーフォートは紙ナプキンで口元を拭う。
「ん、すまん」
 とは言ったものの勢いは止まらない。店員の「アップルパイ焼きたて」の声にガタリと立ち上がる。
「僕はついてない?」
 エクトルがぺたぺたと自分の顔を触る。
「……ええ、大丈夫よ」
「よかったぁ。ね、クーお兄ちゃんも食べる?」
 クーは躊躇気味ながらもそれを受ける。ボーフォートは詰めていた息をそっと吐いた。かつての師匠であるエクトルは、なぜか幼い姿でこの世界に来た。記憶すらほとんど失って。ボーフォートの中ではまだ整理がついていないのだ。
「こちらも食うか?」
「うん!パスタも美味しそうだね!」
 クーが差し出したフォークを口に運び無邪気に笑う。愛らしさに心が温まって、けれど少しだけ淋しくなる光景。
「どうした? パイ食うか?」
 グワルウェンが戻って来た。
「いいえ、結構よ。お腹いっぱいになってきちゃったの」
 胸がいっぱい、の間違いだろう。ボーフォートは内心で苦笑する。
「では私が!」
 代わりにベドウィルがいつもと変わらぬ調子で申し出た。
「アークお兄ちゃん、ムースやタルトも作れる?」
「そうだな、次の機会にはタルトをご馳走しようか? ムースの方はまだ経験がないからな。調べてみるから待っていてくれるか?」 アークトゥルスがエクトルの頭を撫でる。
「うん、もちろん! 僕お手伝いもしていい子にしてるね! えへ、楽しみだなっ♪」
「良かったですね、エクトル君。叔父様はすごいですね。私は不器用で、お菓子づくりなんて夢のまた夢ですから」
 ガレシュテインが言う。彼もコーヒーショップで働いているのだが、調理は苦手なのだ。
「ガレスの店にも行ってみたいものだな」
「はい、是非。僕、コーヒーは上手に淹れられるようになったんです! 給仕させてくださいね!」
 ベネトナシュはピンク色のロールケーキをつつきながら言う。
「父上! 今度これも作って欲しいですぞ!」
「そうだな。これならば……」
 アークトゥルスは手帳を取り出し、滑らかな筆跡で何か書き始めた。レシピ用のメモだろう。
「兄様、私は『かつて』こんな風に菓子を作ったりはしなかったのでしょうか」
 アークトゥルスが持つ記憶。それはとても朧げで頼りない。
「そうだな。そうしていると、『以前』のアークとは別人のようにも見える。だが、気にすることはない。お前はお前だろう?」
「僕、アークお兄ちゃん大好きだよ!」
 エクトルが抱きついてくる。ベネトナシュは自分も大好きだと激しく主張する。トリステスもゆっくりと頷く。
「私もあまり多くの記憶を残してはおりません。けれど、アークトゥルス様が大変魅力的なお方だということは断言できますわ」
 よどみなく答える彼らは間違いなく真意を語っているのだろう。アークトゥルスは顔を上げて、微笑みを返した。
「トリスねえさま! 今度お菓子作り一緒にしたいですぞ!」
「それも楽しそうね。ボーフォート卿もお好きなんじゃないかしら。ご指南役はアークトゥルス様?」
「そうですぞ! ね、父上!」
 楽しい時は過ぎ、そろそろ帰る時間だ。ぞろぞろと退店する一同は、レジ前に残されるグワルウェンに礼を言って過ぎていく。
「出してやろうか?」
 皮肉っぽく笑ったクーが財布を開く。
「……男に二言はないと言っただろう」
「たいした騎士様だな」
「知らなかったとは心外だな」
 外に出ると「ごちそうさまでした!」の大合唱がグワルウェンを迎えた。単純かもしれないが、報われた気分だ。
「またみんなで来たいですね」
 ガレシュテインがしみじみと言う。彼らの胸中に渦巻く思いは様々だ。けれど、彼のささやかな願いに異議を唱えるものはいなかった。

●おまけ
「グワルウェン、これを」
 それから数日後。アークトゥルスからグワルウェンへ贈られたのは、彼の最新作である苺のムースタルトだ。
「この前の礼だ。よかったら感想を聞かせて欲しい」
「あ、アークさん! 一生ついていきます!」
「ははは、大げさだな」
 グワルウェンは思わず膝をつき、頭の上に掲げるようにしてケーキの箱を受け取る。彼をよく知る者には無用の説明かと思うが、ケーキはホールサイズであったという。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ベドウィル(aa4592hero001)/男性/24歳/エージェント】
【クー(aa4588hero001)/男性/24歳/エージェント】
【グワルウェン(aa4591hero001)/男性/22歳/エージェント】
【ベネトナシュ(aa4612hero001)/男性/17歳/エージェント】
【エクトル(aa4625hero001)/男性/10歳/エージェント】
【ガレシュテイン(aa4663hero001)/男性/16歳/エージェント】
【ボーフォート(aa4679hero001)/男性/24歳/エージェント】
【アークトゥルス(aa4682hero001)/男性/22歳/エージェント】
【トリステス(aa4806hero001)/女性/23歳/エージェント】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして。高庭ぺん銀です。この度は、ご指名ありがとうございました。
前の世界でも今の世界でも、戦いの運命に身を投じる皆さん。苺ビュッフェでの和やかなひとときが、明日への糧となりますように。

初めてのお客様と言うことでキャラクターの把握には時間をいただきましたが、イメージの違いなど発生しているかもしれません。何かありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。それでは、また皆様にお会いできる時を楽しみにしております。
八福パーティノベル -
高庭ぺん銀 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2017年03月03日

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