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『桜狐の日常 』
音無 桜狐aa3177

 古びた神社の奥深くで眠っている音無 桜狐(aa3177)は、銀狐の人間の姿をした神社の巫女だ。絹糸のような銀髪に、同色の狐の耳。自然界には存在しない狐の青い瞳を持つ。

 いささか落ち着きすぎている、けだるげな様子が平時の彼女である。しかしながら、巫女の制服とも言える、白い小袖に緋袴の巫女装束をきちんと着用しているところに、伝統に対する敬意が伺える。

 その容姿ゆえにか、俗事を超越したような雰囲気のせいか。神社にお参りに来る者たちは、桜狐を神社の守り神・お稲荷様だと認識する。そして、桜狐を拝み、お供え物を置いていくのだった。
 桜狐は困惑しながらも……それをありがたく拝受する。
 
 そして、古びた小さな神社に立ち寄りあるいは迷い込み、桜狐と交流した者は、彼女のことを穏やかで懐が深く情のある人物だと評するだろう。それに桜狐は意外と面倒見が良かった。まるで小さな神社の守り神のように、そこに集った者たちを、ささやかにもてなすのである。寂れた神社で一人で暮らしているものの、桜狐は人間のことは好ましく思っているのだ。
 なにやらゆったりとした時間が神社には流れており、気ままに集う者たちをやさしく迎え入れる。
 
 これは、そんな桜狐の英雄と契約する前の日常である。貴重な桜狐のぷらいべーとなのじゃ。



「…ぬぅ…眠いのじゃ…」
 鳥たちがさんざめく早朝に、桜狐は目覚める。もそもそと寝巻着を脱いで、下着として着ている白装束のみの姿になり、朝の禊に向かう。泉まで裸足で歩く。白装束がヒラヒラと心許ないが、禊の時の正装であるので、桜狐は何も思わない。

 禊は近くの神社の小さな泉でおこなう。古びた神社だけあり、奥まった自然の多い立地にある。そのため、泉の水は透き通っており、禊にふさわしい清々しさでたたずんでいる。

「……まだ少し冷たいの……」
 裸足の足を冷たい水に少しずつ差し入れ、ある程度水位があるところまで一歩一歩、歩を進める。すでに水を吸って素肌に張り付いたようになった白装束を脱いで、水を手で身体や頭にかける。水浴びの要領だ。

「……清まった感じがして、すがすがしいのじゃ……」
 さっぱりしたところで、水分を吸って重くなった白装束を着なおし、神社へ戻る。人々が朝、歯を磨いたり顔を洗ったりでもするかのように、少女は毎朝泉で禊をする。習慣である。

 桜狐がその足で向かった先は、お風呂場である。濡れた白装束をきちんとたたんで籠に入れて、昨夜タイマーでセットしておいた温かいお風呂に入る。すがすがしいなどと言ってみたものの、やはり寒かったらしい。すかさずお風呂で温まるのだった。

「ぬぅ……いいお湯じゃ……」
 湯温は熱すぎることもなく、ゆっくりと入っていられる。
 お風呂を済ませると、新しい白装束を着た上に巫女装束を着、透明な素材でできたとても軽い羽衣を纏う。これが彼女の普段着である。
 髪を乾かしたら、丁寧にクシで梳く。赤い帯で髪を結い、場を清める意味を持つ鈴を付けて、身支度は完了だ。

 朝餉には、油揚げの入った味噌汁、玉子焼き、あまじょっぱく煮た四角い油揚げ、白飯、を簡単に作り済ませた。油揚げが多いのは、それだけお供えの油揚げ率が高いということを示している。そして、桜狐の好物でもある。これが一番大きな要因だ。

「……さて……日課をこなさなくてはの……」
 朝日はとうに昇っている。桜狐は日あたりの良い縁側へ行き、ぽかぽかとした日光を浴びて、丸まった。狐が眠るとき、尻尾に抱きつき丸くなるように、寝転がってまぶたを閉じた。昼前ではあるが、お昼寝である。すぐに静かな寝息を立てて、眠りについてしまう。このときばかりは彼女も、ただのちいさな少女あるいはこぎつねのように見えるだろう。
 すやすやと、何も不安のない赤ちゃんのように。

 日も高くなる頃、桜狐は目を覚ます。「……むにゃむにゃ……」寝起きはあまりよろしくないらしい。
 桜狐が眠っている間に来訪者があったようだ。縁側に、お盆に置かれたお昼ご飯がお供えされていた。

「……む、お供え物か。しかしおいしそうじゃの……」
 せっかくの作りたてのご飯。感謝していただくとする。献立は、やはり油揚げが多い。

 油揚げのお吸い物――透き通った汁の中に肉厚の油揚げが浮かんでいる。小松菜の緑が上品だ。出汁が丁寧に取られているのか、香りがとても良い。

 おいなりさん――油揚げに包まれたご飯は、五目寿司だ。味の染みたシイタケやニンジンが柔らかく、おいしい。

 餅巾着――油揚げの巾着の中に、餅と舌触りの良いホロホロとした具材が入り、しっかりと煮られている。やさしい味だ。

 ホウレンソウのおひたし――色鮮やかな緑にゆでられたホウレンソウが、立っている。シャキシャキ感が残っていて、素材の新鮮さを味わうことができた。

 透明な小さなガラスのコップに入れられた清酒――清廉な香りがする。良い物なのだろうそれは、舐めるとまるで甘い蜜のように感じられる。

「む……これは美味じゃの……」
 油揚げと清酒のお供えからは、狐神に対する敬意。丁寧でやさしい作りのメニューからは慈しみが感じられる。そんな昼餉に舌鼓をうち、桜狐はもそもそと食べた。

 一度食器を台所へ持って行ってから、軽く境内の掃除にとりかかる。頻繁に使う場所を掃いて雑巾をかける。今日は窓の内側を拭いておく。古い神社ではあるが、そのように掃除が行き届いているので印象は暗くない。
 縁側もきれいにしてから、桜狐は食器を洗い清めると、ホコリがかからないように布をかけ、元の場所へ置いておく。
「……いつもお供え感謝しておるぞ……」特に油揚げ。

 一仕事したので、神社の正面でまた丸まる。お賽銭箱まで張り出した屋根が、ちょうど眩しい光を遮って、木陰のように心地良い場所なのだ。すやすやと寝息を立てて、白い少女は眠る。

「……ぬぅ?……」
 まどろみの中で半目を開けると、老婆がひざまずき、両手を合わせて桜狐を拝んでいる。そしてお賽銭を投げ込みまた拝み、去って行く。
 気が付くと、またお供え物が増えていた。籠に入った新鮮な桃や、綺麗な包装紙に包まれた和菓子、お皿に載せられた三色団子などなど。そして油揚げ。

「…む、またお供え物が…。…わしは別にお稲荷様とは関係ないのじゃがの…」
 日は傾いてきている。夕飯としてお供え物をありがたく食む。食べ終わると、桃の皮や種は土に返し、包装紙は綺麗にたたみしまっておく。お皿は洗ってまた元の場所へ。

 日も落ちた。あたりは紺色に染まり、静まり返る。神聖な静寂を保っている。
 桜狐はお風呂にお湯を溜めている間、髪を洗い、身体を洗う。湯船にちょうど良くお湯が溜まったので、ゆっくり湯船に浸かった。
「……うむ……」
 温かいお湯はやはり良い。常にリラックスしているような桜狐であるが、さらにホッとするのであった。
 お風呂場から出て、タオルで水気を取り、寝巻きに着替える。

 布団に入り、掛け布団をかけると、天井が見える。
「……いつもと変わらぬ一日じゃったの……。…ま、特に不満はないがの…」
 それから今日もいつもどおり、目を閉じた。

 これが桜狐の日常。
 彼女は、代わり映えのしない平和な(?)日々をずっと送っていた。

 ……英雄と契約するまでは。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa3177/音無 桜狐/女性/14歳/ワイルドブラッド/回避適正】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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音無 桜狐様

はじめまして、今回執筆させていただきました櫻井律夏と申します。
このたびは、たいせつな過去のお話をお預けくださり、たいへんありがとうございました!

桜狐さまの一日、平和でおだやかで素敵な日常だなあと思って執筆しておりました。
彼女の暮らしのイメージに合っておりましたら、幸いです。

また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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2017年03月06日

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