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『繋いだ手 』
輝夜aa0175hero001)&朔夜aa0175hero002


●プロローグ

 その姿にあこがれた。
 白く、彼女の背中から広がる白い翼。その美しさに心を奪われた。
 妹。
 根源を同じくする自身の片割れ。しかし後に生まれた方。
 最初はそんな物が存在したところで、自分には全く関係ない。
 他人が一人増えるだけ。
 そう思っていた。
 けれど……。
 その姿を一目見て、彼女の笑顔を始めてみて。
 そして心を奪われたのを覚えている。 
「わらわは初めて、失いたくないと……思ったんじゃ」
『輝夜(aa0175hero001)』は屋根の上でぽつりと言葉を漏らす。
 その隣で幽霊が。わかるわと言いたげに首を振った。

●本編

「いい話と悪い話どちらが先に聞きたいです?」

 唐突に『五條文菜(NPC)』はそう切り出した。
 時刻は夕暮れ時、場所は家の近くのファミレス。
 突如この時間に呼び出され、『輝夜(aa0175hero001) 』は迷いつつこの場所にたどり着いてみると、そこで『朔夜(aa0175hero002) 』はデラックスパフェなるものを食べていた。
 朔夜の顔が隠れてしまうほどに大きいパフェだ。
「ぬぅ、ずるいんじゃ。わらわも、わらわも食いたかった……」
「輝夜ちゃんも好きなものを食べていいですよ」
 そう文菜は輝夜を席に座らせるとメニューを手渡す。
「ところで文菜、どういう風の吹き回し? 私たちにご飯をおごるために呼び出したわけじゃないでしょう?」
 そう朔夜が文菜を見つめると、文菜は引きつった笑みを浮かべる。
「これは、わいろというか、ご機嫌取りというか。これから二日間一緒に過ごすので、好感度を上げておこうかと」
「ん?」
 首をひねる朔夜。そして輝夜は運ばれてきたカステラパフェにもはや食らいついている。
「どういうことなの?」
 その朔夜の問いに文菜は問いで返す。
「いい話と悪い話どちらが先に聞きたいです?」
「そうね、こういう場合の定番はいい話からなんでしょうけど。私は定番というものが嫌いだから、悪い話からききたいわ」
 輝夜が、白けた視線を朔夜に向ける。
「でも、いい話をしないと悪い話の意味が分からないと思うので、いい話からします」
「私をおちょくってるの?」
 朔夜が睨むと文菜は息をのんだ。
「違います違います。私はただ……」
「朔夜の不機嫌に付き合っておっては身が持たんぞ、文菜よ。話の続きをするがよい」
 そう輝夜が告げると、文菜は咳払いを一つして話を始めた。
「えー。みんなで温泉旅行に行きます!」
「おお!」
「悪くないわね」
 朔夜も輝夜も喜びの声を上げる。
「ちなみにこれは輝夜ちゃんの買ったテレビの福引券で当たったものです」
「うむ、わらわに感謝せい」
 輝夜は胸をはった。
「温泉旅行が当たったのはあの子の運のおかげだと思うけどね」
 朔夜はその喜びに水を差す。
「あの子は自分は幸が薄いくせに、他人のためとなると幸運を発揮するから……って。あれ? そうなると。あの子……まさか悪い話って」
 さすがの朔夜である、察しがよい。
「そうです、先輩は温泉旅行に行けません」
「えー」
「なんと」
 落胆する二人である。
「なんとこの前の期末試験で、追試、追試、追試の嵐。今から勉強しても間に合わないんじゃないかって勢いです。当然リンカーの仕事もお休み。そしてお休みの間に、私達は温泉へ」
「あなたも行くの?」
 朔夜は問いかけた。
「引率が必要じゃ、ありませんか?」
「え、まぁ」
「ふふん、基本人にぷれいべ〜とを見せるのが苦手なお主じゃ。文菜と一緒に旅行に行くのが不安なのじゃろう?」
「そ、そんなことないわ、こんな下等な虫くらい別に」
「むし……」
 地味に落ち込む文菜である。
「どちらにせよ、無しにするにはもったいないですし、三人で行きましょう? そしてお土産を買って帰りましょう?」
「うむ、よい、楽しみじゃ」
「……っていうか、それいつ出発なのよ」

「あした……」
 
    *    *

 その後二人は家に帰ると大急ぎで荷物を忘れた、足りないものは買い足して。
 バックに詰めると能力者の悲しそうな視線が背中にささる。
「これに懲りたら、勉強しなさいな」
 さすがの朔夜もそんな憐みに満ちた言葉を向けるしまつ。
 そして旅行当日。
 家まで文菜が迎えに来てくれて、タクシーでバス停まで。
 バスに乗り込むと昨日からのわくわくが爆発したのか、朔夜と輝夜は騒ぎ始めた。
「お姉さま! それ私のお菓子!」
「ぬふふふ、食わずにとっておくほうが悪い」
「まだ、バスが出発して十分なのに、お菓子を食べきれるわけないじゃない」
「あまいのう、朔夜よ、わらわであれば、十分でカステラ十個程度余裕じゃ」
「うわー、病気になりそう」
 そしてバスに揺られること三時間。
 辿りついた料亭は百年以上の歴史がある老舗だった。
 外観も立派で思わず朔夜はそれを見あげる。
「見事ね……」
「さぁ、部屋まで行きますよ」
 そう文菜が先導して割り当てられた部屋へ。
 襖をあけると、自宅とは違う畳の香りが鼻腔を駆け巡る。
「おお、眺めもよい」
 そう窓を開けると輝夜は身を乗り出した。風で髪を洗いながら豊かな自然と、大きな川を見つめる。
「うむ。こういうところに来たかったのじゃ」
「ねぇ、文菜」
 朔夜は荷解きをすると文菜に尋ねる。
「なに? 朔夜ちゃん」
「ここで私たちは何をすればいいの?」
「え? ゆっくりするのよ」
「ゆっくりするって、何をすればいいの?」
「え。だから体を休めるの」
「え? 暇じゃない? お姉さまがただ大人しくして体を休めることができると思ってるの?」
「どういう意味じゃ!」
 輝夜が拳を振り上げる。
「わらわとて、わびさびの心くらいわかるんじゃ!」
「えー、どうかしら。それにバスに揺られてた時点でもう落ち着いていられなかったじゃない、暴れたいんじゃないの?」
「お主と拳を交えてもいいんじゃぞ」
 輝夜が眼光鋭く告げる。
「いいわよ、二日間嫌でも動けないようにしてあげる」
「すとおおおおおおおおおぷ」
 文菜の声が旅館内に響き渡る。
「なによ」
「なんじゃ……」
 不服そうな二人。
「ケンカしてもいいけど、まずはおひるごはんの用意があるからそれを食べて、食べた後に温泉に入って、デザート食べながら涼んでから決めて。あと今日は土曜日だから」
「は! 今日は劇場版『名探偵フムフム』がテレビ放映される……」
 朔夜はあわててテーブルの上の番組表を手に取る。
「なるほど、わかったわ。あなたの考えに乗るのは癪だけど、大人しくしてあげる、文菜……」
「あ、ありがとう」
 文菜はそんなふたりを見つめながら陰で涙した。
「先輩、こんなに大変だったんですね」
 そして三人は食堂へと向かう。

    *   *

 旅館の料理はさすがと言うべき、絶品具合だった。
 ただお子様たちからすると量のめんで不服だったらしく、その後の売店でアイスやお菓子を買いこんでいた。
「ぬぅ、朝から夜までだらだらできるというのもよいのう」
「いつもしてるじゃない」
 そんな朔夜と輝夜の声が反響する。
 ここは大浴場、二人は並んで髪を洗っていた。
 ちなみに朔夜がつけている尻尾も角も着脱式。装飾品なので風呂に入る際には全て取り外していた。
(うわぁ、それとれるんだ。取っていいんですねそれ)
「二人とも大変そうですね」
 文菜も隣に腰を下ろす。
「なにがじゃ?」
 輝夜は首をかしげる。
「髪を洗うのがですよ」
「ああ、これね」
 二人とも流れるような美しい髪をしている、手入れにはそうとう気を使っているのだろう。
「でも、わらわ等が住まう世界よりは楽じゃぞ。しゃんぷー。もどらいやー。もなかったからのう」
 そう輝夜は頷いた。
 文明の利器は素晴らしいと。
「文菜、それ貸して」
 その時である、朔夜はおもむろに文菜の持つ石鹸に手を伸ばした。
 その瞬間。
「ひゃっ」
 文菜は短く悲鳴を上げて、身をちぢこませる。石鹸を取り落とし、それが朔夜の足元まで滑った。
「文菜?」
「ご、ごめんなさい」
 そう謝る文菜の体は震えていた。
「文菜、あなた……」
 そんな文菜へ輝夜は歩み寄り、その頭を撫でた。
「おうおう、こんなに震えおって、まぁ、朔夜は怖いからのう、仕方ないんじゃ」
「違うの、良い子なのはわかってるの。ただ」
「わかってるわ。恐怖っていうのはすぐにぬぐえるものじゃない」
 朔夜は腕を止めてうつむいた。泡が髪を伝って、床に落ちる。
「それは私が一番わかってるもの、わかっていて利用したんだもの」
 朔夜は具体的に何が彼女の心の傷になっているのかはわからなかった。
(だって、ひどいことは沢山したもの)
 朔夜はそう肩を落とす。
 恐怖がぬぐいきれないのと同じくらいに。罪もまたぬぐいきれないものだからだ。
「寒かろう、風呂に入ろうぞ。露天風呂があるらしい」
 そう文菜の手を引いて、湯気の向こうに導く。
「輝夜ちゃん、気を使えるんだね」
「どういう意味じゃ……お主時々ものすごく失礼じゃな」
「親愛の証ですよ」
「それは……どうなんじゃろうなぁ」
 その背中を見て、朔夜はぽつりと告げた。
「いつもそう、お姉さま、あなたは私をおいていく……」
 朔夜は温泉の蛇口の使い方がいまいち解らず、泡だらけのままその場にのこされた。

   *   * 
 
「むぅ、文菜よ。すまぬ」
 そう輝夜は顔を半分お湯に鎮めながら、文菜を上目使いで見つめた。
「いえ、私こそ、楽しい雰囲気に水を差してしまいました」
 そう文菜は視線を伏せた。
「いや、あれはあ奴が悪いからのう」
「先輩に謝られました。あの子を許してあげて欲しい。そう頭を下げられました。いい子だからって。私最初は反対して。でも今はなんとなく先輩の気持ちわかります」
 その言葉に輝夜は頷いた。
「あ奴は、最初純真無垢な天使として生まれた。じゃが今は」
 傷だらけで、自分の体からしみ出した血で翼を赤く染めている。
「でも、根っこの部分は綺麗なんだと思います」
 でなければ間違いを後悔し、それに傷つき苦しむわけがない。
「あやつにはそう言う物とは無縁であってほしかったのじゃが」
「どういうこと?」
 文菜は問いを返す。
「あ奴は最初の頃、美しい翼をもち、生命をはぐくむ力を遺憾なく振るっておった、歩けば花が咲き乱れ。慈しみと優しさを湛える奴は。天使と呼ばれていたんじゃ。悪魔の群にいつつ天使と」
「それはきっと綺麗だったんでしょうね」
 輝夜はその言葉に心の中で頷いた。
「汚れてほしくはない、そう思う程度にのう」
 だから輝夜は多くの戦場に出た。妹の分まで戦果を挙げた、ぼろぼろに傷ついても、彼女の追うべき傷を自分が負えているのなら。そう思うと、満足感すらあった。
 だがある日その思いは粉々に砕け散ることになる。
 輝夜が大切にしていた。宝石と共に。
「じゃが最後にわらわはあ奴を手にかけた。あやつと向き合うことなく、わらわに立ちふさがった他の者と同じように、殺した」
 それを輝夜は後悔しているのだが、後悔するだけの資格があるのだろうか。罪を改めることが、自分にはできるのだろうか。
「それを悔やむ気持ちがあるなら、苦しんでるなら。きっといつか許される日が来ますよ」
 そう文菜が告げた瞬間。その時、露天風呂に風が吹いた、湯気を攫うように吹いた風。
 その向こうに、岩に腰掛けて銀糸の髪を梳いている少女の姿見えた。
「朔夜よ……お主、翼が」
 その白い湯気が、彼女の今は無い翼に見えて。
 輝夜はその時思い出した。
 血まみれで身を振るわせる彼女の姿。
 その瞳には怒りと怯えが浮かんでいて。
 朔夜はその時告げたのだ。輝夜の目を見て告げた。

『これで、私も悪魔になれた?』

 そして朔夜は振り返る。そして朔夜は告げた。
「私はお姉さまと同じ、悪魔になりたかった」
「うぬ」
 輝夜はその言葉を黙って聞く。
「一緒にいるためには自分のままじゃいけないと思った」
「うぬ」
「宝石を壊して、ごめんなさい。お姉さま」
 輝夜は頷いて、朔夜へ手を伸ばした。
 それこそ、天上の天使に向けて手を伸ばすように。
 その手に朔夜は自分の手を重ねた。
 その瞬間である。
「え?」
 輝夜は強く手を引いた。朔夜は見事にお湯に引きずり込まれ、頭から温泉に突っ込むことになった。
「おねええさまああああああああ!」
 髪を振り乱して浮上する朔夜。
「バカめ! 甘ったるい表情をさらすからじゃ!」
「食後の運動がまだだったわね、殺してあげるわ!」
「望むところじゃ!!」
 その光景に文菜は頭を痛ませる。
 
●エピローグ
 姉の姿は鮮烈だった。
 戦場を駆け。返り血を浴び、振り乱す髪は美しかった。
 その姿に心を奪われた。
 話しかけたかった、一緒にいたかった。
 最初はただ、それだけだった。
 その思いはすでに変質し、思い出すのも少し難しいけれど。
 これだけは覚えている。
 戦場で傷だらけになる彼女の姿を見て。
 苦悩のうちに剣を振るう彼女を見て。
 思ったのだ。
 彼女こそ癒すべきなのではないかと。

「あら、仲良しじゃない、やっぱり」 

 文菜の声が暗闇に響く。 
 だが朔夜は寝たふりを続けた。
 左手の温もりを笑われようとも、今はいい。
 ただ、彼女のそばにいる。
 昔出来なかったその幸せを噛みしめるように。朔夜は深いまどろみへ落ちていく。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『朔夜(aa0175hero002) 』
『輝夜(aa0175hero001) 』
『五條文菜(NPC)』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 今回は姉妹の根幹と言いますか。すれ違いの根っこにある部分に触れる回ということで、心情描写強めにかいてみました。
 そして朔夜さんと輝夜さんの掛け合いは、なんというか。書きやすいですね。
 口げんかしている場面がポンポン目に浮かぶようでした。
 二人がいつか完全に和解できる時を期待して書かせていただきました。
 気に入っていただければ幸いです。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。
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2017年03月06日

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