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『草間興信所にて〜探偵代行の報告始末 』
来生・十四郎0883)&草間・武彦(NPCA001)

 だいたい一週間くらい前…の事になるかと思う。

 好き好んで常から仕事に追われている某五流雑誌の記者兼カメラマンである来生十四郎の元に、予期せぬ傍迷惑な電話があったのは確かその頃。相変わらずの誰にも邪魔をされたくない日常の仕事の最中、怪奇探偵草間武彦から結構切羽詰まっていると思しきSOSの電話を受け…渋々ながらも「とある廃旅館」に出向く羽目になった事があった。

 そして出向いた先には廃旅館の二階から落ちたとかで腰を打って動けなくなっていた草間が居り、十四郎の兄(ちなみに幽霊)と共に心霊現象の噂について調査の途中だった…とか言う話を聞いた。それにしてはその場に兄の姿が見えなかったり(幽霊だからと言う意味では無く不在と言う意味で)、草間も草間でどうにも後ろめたそうなと言うか多大なる引け目がある様子ではあったのだが(こちらは実際に顔を合わせた十四郎の様子も大きく関係したかもしれない)――取り敢えず細々したその辺の建前や事情に経緯はさて置いて、まずは腰を痛めたらしい草間を医者に連れて行くだけは行った。
 …ちなみに細々した建前や事情に経緯の方をいちいち思い返すと十四郎としては頭に来るだけなのでそこについては今更何も意見は言わないし蒸し返さない。ただ、なるべく早く自分本来の日常――仕事に戻る為、その「細々した建前や事情」でウダウダやる事になった当の原因を手っ取り早く片付ける方法――二人がしていたと言う調査の代行もついでに引き受け、とっとと結果を出す事にした。

 …つまり、その調査結果の報告が、「今」になる。



「で、だ」

 草間興信所、応接間。そこを訪れていた十四郎は前置きも何も殆ど無いまま、調査の結果だけを探偵に伝える事にする。所長の定位置ことデスクの前に直接向かい、場にあるボロけたソファに座りさえしない――何と言っても時間が惜しい。
 とは言えまぁそもそも、十四郎の方でもこの一週間探偵代行にかかりきりだったと言う訳でも無いのだが。当然、自分本来の仕事の合間を縫っての調査である。…だからこそこれだけ時間がかかったとも言えるのだが。…ついでに言うなら草間の腰の具合の方も目処が付いたところを見計らった、とも言えるか。単に、その辺りの諸々をひっくるめて一番都合が良かったのが今だった、と言うだけの事。

 ともあれ、本題。

「兄貴が言うにはあの廃旅館に特に霊的なものは感知されなかったそうだ」

 調べられるだけ調べた結果。
 約一週間前、あの場で草間を置いて姿を消したまま行方知れずになっていたと言う十四郎の兄。十四郎としては何かヤバい事態が起きてる可能性もあるか、とあの時あの場では多少心配と覚悟もしたのだが、結局のところ何でも無い理由――つまりただの兄貴の「極度の方向音痴」――が行方知れずの理由でしかなかったと比較的すぐに判明してこちらもまぁ、ほっとした。…つまり探偵を医者に運んだあの後、廃旅館に取って返して暫し、何だかんだで兄貴とも無事合流できた訳である。…兄貴も探偵も二人揃って人騒がせな話。…いやむしろ二人揃ったからこそ人騒がせなのか。どっちだ。
 まぁいい。…考えれば考える程頭に来るだけだ。…いや、むしろ怒りを通り越して呆れが来るかもしれない。…どちらにしても愉快では無い話。なら改めてわざわざ突き詰める必要も無い。

「…事前に調べた周辺情報通り、特に本物の心霊現象は無さそうだ、って事か」
「ああ。噂は完全にロケーションの問題だろうな。幽霊見たり枯れ尾花、って奴の典型も典型だろ」
 ちょっとした見間違いで幽霊話が幾らでも楽しめる、って事だ。
「…楽しめる、か。そんな奴の気が知れないが」
「そんな奴が居てくれるからこそ「その筋」の記事も需要があんだよ。「怪奇」探偵サマにゃ釈迦に説法だろうが…まぁそりゃ今はどうでもいい」

 次は、依頼人についてだな。



「…調べたのか」
「お前が随分と胡乱な話しかしねぇからだろうが」
「…あの時点ではそこまで掘り下げる必要があるとは思わなかったんだ」

 依頼人の心証として。…草間からそう言われ、まぁ、それもそうかと十四郎の方でも軽く納得はする。…実際に突付いて調べた結果出て来た依頼人の素性や見た目に立ち居振舞い、雰囲気…と言った直接の心証に関わるだろう要素からして、確かにまぁ真っ当な人種に見えた。…そう、話が多少いいかげんでもまぁ大丈夫だろうと思えてしまう程度には。何かしらの裏があるようにも見えなかったし、事実調べてみれば名刺から辿れる通りの仕事をしている真っ当な会社員で間違いは無く、真偽不明だった「旅館経営者の親類」と言う方もどうやら本当にその通り、とはっきり確認も取れた。

「…元旅館経営者の甥、に当たるのか」
「らしい。それも、殆ど家族同然だったらしくてな。特に息子…従兄とは仲が良かったそうだが、肝心のその従兄一家は多額の借金を抱えて行方不明になっちまってたらしい。で、よくよく依頼の話を聞き直したら――「先祖代々の由緒ある旅館の再建が夢だった」って話でな」

 つまり旅館の再建については特に具体的な予定がある訳でも無かったらしい。…こっちが穿って考え過ぎていたのか単に向こうの言葉が足りなかったのかその両方かもわからんが。結論としてはまぁ、心配していたような胡散臭い裏は無かった。

「…とにかくそんな訳でな。この依頼人は…バブルが弾けた後、長年放置されて不明になっていた土地や建物の管理先、債権者等を探していたらしいんだが…そんな中で「例の噂」を聞いて、心配になっちまったんだとよ。…噂になってる幽霊の正体が、行方不明の従兄一家じゃないか、ってな」
「ああ…それでか」





 草間興信所への――「怪奇探偵」への依頼。
 他の事ならまだしも、幽霊の事を調べたいとなれば――それは、自力では無理だと思うだろう。藁にも縋る思いで、その筋で知られる探偵に頼る事もするかもしれない。





「…つまり廃旅館に本物の心霊現象は無い――イコール依頼人のその心配は晴れた、と言う事で依頼は綺麗に解決か」
「依頼はな」

 言いつつ、ほらよ、とばかりに十四郎は草間へと折り畳んだメモを差し出した。当たり前のようにそうされた草間の方はきょとんと目を瞬かせる。何だ? とも思うが、取り敢えずそのまま素直にメモを受け取り、開いて中を見る。
 と。
 …そこに書かれていたのは、住所。兵庫県K市XX区OO――…と、そこまで目を通したところで、依頼人に渡してやれ。と十四郎の声が被された。

「…?」
「知り合い中に声かけて捜してみたんだよ。依頼人から聞いた名前や特徴とほぼ一致するから、間違いねぇだろ。両親は数年前に亡くなって、今は従兄一人らしいけどな。教えてやりゃ安心すんじゃねぇの」

 つまり、当の従兄の居所。
 今回の依頼を噛み砕いて考えれば、これこそが「依頼人が本当に頼みたかった事」になるかもしれない。そのくらい、依頼人の気持ちを汲み取り先回りした繊細な調査結果。

「…お前」
「皆まで言うな。…こいつはサービスだ、俺が勝手にやった事だからな」

 後は好きにしたらいい。書きかけの大事な原稿が待ってるんでな、帰らせて貰うぞ――十四郎は当たり前のようにそれだけを残すと、引き止める間も無くもう踵を返して応接間から出て行ってしまった。…早い。

 後には草間だけが残される。…結果的に碌な挨拶も礼もしないままになってしまったが、十四郎の方は全く気にする様子が無い。
 来生十四郎、相も変わらず本当に自分の仕事以外はどうでもいいらしい。





 とは言えまぁ、今回の件では色々世話になった分、後で改めて確り礼はしよう、とは草間も思う。
 …ただ、したらしたで、仕事の邪魔だ余計な時間を取らせるな、と逆に怒り付けられる気もしないでもないが。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年03月09日

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