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『花実を咲かす死などなく(1) 』
水嶋・琴美8036
 忍び寄る靴音に少女は足を止める。彼女の身体を、殺気の込もったいくつもの視線が無遠慮に撫でた。黒く長い髪を持つその少女、水嶋・琴美は目にも留まらぬ速さで隠し持っていた武器を取り出す。
 闇夜に浮かぶ月が、彼女の衣服である両袖を半袖程の長さに改造した着物を照らしている。ミニのプリーツスカートから覗くスパッツは少女の形の良い臀部にフィットしており、黒色のインナーもまた艶やかな体のラインをなぞるように彼女の肌へと密着していた。女性としての魅力に溢れた身体を包み込むその衣服は琴美によく似合い、彼女をより一層可憐に見せている。
 そんな美しくもありながら機能性にも優れた戦闘服を身に纏った彼女は、突然の襲撃にも動じる事はない。それもそのはずだ。琴美にとって、このような事は日常の一部に過ぎない。彼女は代々忍者の血を引き継いだ家系の生まれである、生粋のくの一なのだ。少女の手に構えられたクナイもまた、琴美が忍である事を語っている。
 そんな彼女を囲むのは、十数人の男達。その一人一人の顔を確認する事もなく、気配で相手が何者であるかに気付いた琴美はすでに状況を把握しているらしく、彼等へと誰何の声をかける事もなく戦闘の構えをとった。
 かくして、今宵もまたくの一は戦場を駆ける。一斉に琴美へと刃を向けた男達の攻撃を跳躍する事で瞬時に避けた琴美は、その内の一人の背後へと華麗に着地すると同時に相手の首へと手刀を落とした。
 彼女の興味がその一人へと注がれている隙を狙おうと、別の男が琴美の死角から刀を振るうが、その刃は宙を斬るだけに終わる。相手の行動を読んでいた琴美は、瞬時にかがむ事で姿勢を低くし攻撃を避けたのだ。そして、息を吐く間すら相手に与えぬ内に反撃を繰り出す。相手の足元へと、そのすらりとしたしなやかな足を振るい、流れるような仕草で足払いを決める。
 遠くから琴美の事を吹き矢で狙おうとしていた男は、しかし次の瞬間には吹き飛ばされ背後にあった壁へと叩きつけられていた。男の服の至るところに刺さっているのは、何本ものクナイだ。琴美は一瞬の内にクナイを放ち、男を壁へと縫い付けたのである。
 一人、また一人と確実に琴美は男達の事を戦闘不能へと追いやっていく。男達も諦めずに何度も攻撃を繰り出すが、彼等の振るう刃は空を切るばかりだ。
 圧倒的な実力差を前にし、男達は動揺を隠す事が出来ずにたじろいだ。それでも、今更退く選択肢など彼等には残っていない。
 その身体どころか髪の毛の先すら他者に触れる事を許さぬ少女は、まるで風と踊っているかのように自由に戦場を駆け回る。
 とうとう最後の一人となった男は、少し距離を取り琴美の様子を伺おうとする。そんな男の眼前に、次の瞬間迫りくる何か。それが瞬時に距離を詰めてきた少女の履いたロングブーツの靴底だという事に気付く間すら与えられず、顔面に強烈な蹴りを受けた男はその場へと倒れ伏した。たとえ気付けていたとしても、避ける事は叶わなかっただろう。今この場において琴美よりも素早く動き、琴美よりも素早く場を理解出来る者などいないのだから。
 倒れていた男達を見下ろし、琴美はふぅとその桃色の唇から吐息を漏らす。そして、髪をかきあげるとどこか呆れた様子で呟いた。
「お疲れ様ですわ。けれど、少し腕がなまってるのではなくて? 訓練だからといって手を抜く事は許されませんわよ?」
 その言葉を合図に、倒れていた男達がゆっくりと起き上がる。しかし、その顔にはもう戦意などは残っておらず、彼等の纏っていた殺気も消えていた。
 そう、先程の戦いは彼女の所属する特殊部隊の実戦訓練だったのだ。男達は、琴美と同じ部隊に所属する仲間なのである。
 その証拠に、男達の体に目立った外傷はない。力を持つ者はその力の制御すらも上手い。琴美は男達を的確な一撃で倒しながらも、致命的な傷は与えぬように上手く力を加減していたのである。
 もし琴美が本気の力で戦っていたら、今頃男達の命はなかっただろう。彼女の実力を知っているがゆえに、男達はその事を思うとひやりとした気持ちになる。そして同時に、この美しく強い少女が味方である事に安堵の息をこぼすのだ。
 たった一人で十数人の、しかも同じ部隊に所属する実力者達を相手にしたというのに、琴美に疲れの色はない。そんなところもまた、彼女の圧倒的な実力を物語っている。
 それでも、琴美はこうした訓練を欠かさない。日々訓練に励み、彼女は自らの力を更に高めていく。この世界の平和を守るため。そして、悪しき強敵といつか対峙した時に、徹底的に叩きのめすために。
「さて、次は個人訓練ですわね」
 まだ見ぬ次の任務に備え、意気揚々とした足取りで彼女は部隊のアジトにある訓練場へと足を向けた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年03月13日

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