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『牝獣と霊鬼兵、再び 』
イアル・ミラール7523)&エヴァ・ペルマネント(NPCA017)


 エヴァ・ペルマネントは、かつてイアル・ミラールに蹂躙された。
 今は、イアルを蹂躙する側に立っている。
「素敵な格好よ、お姉様……」
 パイプベッドに四肢を束縛された牝獣の有様を、エヴァは嘲笑って見せた。
 イアルは、言葉では応えない。ベッド全体をガタガタと揺らし鳴らしながら、獣の咆哮を張り上げるだけだ。
 1度は、この状態から救出された。虚無の境界・盟主によってだ。
 だがイアルは、その救出を拒んだ。盟主に借りを作る事を、忌避したのだ。
 だから、元の状態に戻された。
「本当に、馬鹿なお姉様……盟主様の御慈悲を、拒むなんて」
 思いきり顔面にぶちまけられたものを舐め拭いながら、エヴァは嘲った。
 これを浴び、あるいは飲まされ、無様にも石像と化してしまった者が2人いる。物言わぬ女人像となって、部屋の隅に放置されている。
 1人は、エヴァと全く面識のない女教師。
 1人は、エヴァとは面識があるどころではないIO2エージェントの少女。
 ここは、彼女が活動拠点として使っているビルの一室なのだ。
「ねえビルトカッツェ、気分はどう? ユーの見ている前で私、お姉様にこんな事や、こぉんな事まで」
 石像に語りかけながらエヴァは、イアルを蹂躙し続けた。かつて自分が、そうされたように。
 牝獣の叫びを響かせながらイアルは、女としては有り得ない、おぞましいものを屹立・痙攣させ続ける。
 そこからドピュドピュと際限なく噴出し続けるものが、エヴァの全身を汚す。
 これに含まれた石化あるいは水晶化の呪いも、霊鬼兵の超回復能力に対しては全くの無力だ。
「ふふっ……無様よ、お姉様」
 イアルの上から、エヴァは微笑みかけた。
「ここまで無様な姿を見せてしまった以上……もう、私のものになるしかないでしょう?」
 その言葉にイアルは応えず、ただ吼えた。
 それは悲鳴であり、怒りの絶叫であり、獣欲の咆哮であった。
 牝獣のしなやかな四肢が、ロープを引きちぎって躍動する。そしてエヴァを押し倒す。
 パイプベッドの上で、女2人の上下がぐるりと逆転していた。
「そんな……いっ、嫌よ! 私が、私がお姉様を自分のものにするの! 私の方が……ッ……」
 弱々しく悲鳴を上げながら、エヴァはまたしても蹂躙される側に回っていた。
 否。蹂躙と言うよりもエヴァは今、イアルに喰われていた。


 ゲシュペンスト・イェーガーたちが、ことごとく斬殺されてゆく。霊気の飛沫が、鮮血の如く散っては消えた。
 それらを蹴散らすように、長剣が閃く。
 鏡幻龍の力を宿した斬撃。
 それをエヴァは、怨霊製チェーンソーで辛うじて受け流した。
「くうっ……認めたくはないけれど、さすが……お姉様の、分身」
 長剣を振るっているのは、イアル・ミラールだった。
 その美貌、瑞々しい肢体を飾るビキニ状の甲冑。
 鏡幻龍の力を発現させたイアル、そのものの姿である。
 そんな姿のイアル・ミラールが、5人いた。
 5色の甲冑をまとう女剣士の一団が、ゲシュペンスト・イェーガーの大部隊を草刈りの如く殲滅し、エヴァに迫る。
 5本の長剣による立て続けの斬撃・刺突を、かわし、チェーンソーで弾き防ぎながら、エヴァはじりじりと後退を強いられていた。背後に回られないようにするのが精一杯である。
 アルケミスト・ギルドの、日本における本拠地。
 防衛戦力として配備されていたのは、ホムンクルスの大群だけではなかった。
 鏡幻龍の力で複製されたのであろう5人のイアルが、疾風のような連携でエヴァを切り刻みにかかる。
「ああもう、お姉様がいっぱい……1人くらい、お持ち帰りしたいところだけど」
 斬撃の1つをかわせず、肩の辺りに浅手を負いながら、エヴァはにやりと笑った。
「本物は1人で充分、よね。お姉様……ゴアヘェーッド!」
 エヴァの声に続いて、咆哮が起こった。牝獣の咆哮だった。
 獣臭い暴風が、エヴァの背後から飛び出して吹き荒れる。そして5色のイアルたちを薙ぎ払う。
 汚れ乱れた金髪が獅子のタテガミの如く舞い、強靭な細腕が鞭のようにしなって閃き、むっちりと力に溢れた太股が猛々しく躍動し、豊麗な胸の膨らみが荒々しく揺れる。
 複製体のイアル5人が、引き裂かれ、食いちぎられ、叩き潰され、ことごとく原形をなくした。
 それら屍を踏みにじりながら、本物のイアルが咆哮する。
「ぐるっ、がぅるるるるる! うぉおおおおおおおおおおっ!」
「よーしよしよし、うふふ。素敵な殺しっぷりよ、お姉様。グッガール、グッガール」
 エヴァが頭を撫でてやると、イアルは甘えてくる。はたから見れば、飼い主と飼い犬だった。
 だが一度イアルが発情すると、この主従関係は逆転する。エヴァはイアルに、喰い尽くされてしまう。
「私、もうね……お姉様なしでは、いられないの……」
 獣臭さの塊となったイアルを、エヴァは抱き締めた。この悪臭すら、愛おしい。
「だから私、お姉様にね……たくさん恩を売るの。まずは、これをね」
 5色の複製体によって防衛されていたものを、エヴァは手に取った。
 2つの、壺。持ち上げてみると、ドロリとした重さが感じられる。
 とてつもなく濃厚な、液体の重さであった。


 不味い。
 イアル・ミラールが最初に感じたのは、それである。
 人間の味覚では耐えられない不味さと、おぞましい舌触り、不快極まる喉越し。
 それらをイアルは、無理矢理に飲み干した。飲まされたので、とりあえず体内に流し込むしかなかった。
「ぐぅ……っぷ……な、何よこれ……」
 人間に戻ったイアルが、最初に発した言葉である。
「お姉様、元に戻ったのね!」
 傍に座っている娘が、嬉しそうな声を発した。何やら微妙な表情をしながらだ。
「いや、まあ……元に戻った、わけではないのだけど」
「エヴァ・ペルマネント! どうしてここに……貴女、私に一体何を」
 そこで、イアルは息を飲んだ。
 エヴァの言う「元に戻ってはいない部分」が、視界に入ったのだ。
 イアルの肉体から生えた、ありえない、おぞましいもの。
「なっ何……何よ、何なのよこれは、これはぁあああああああ!」
「小賢しい錬金術師どもがねえ、お姉様のそこから搾り取ったもの……取り戻して、飲ませてあげたのは私よ?」
 エヴァは言った。
「まあ、その……私の独力ではないのだけど。お姉様の馬鹿力を、ちょっとだけ利用させていただいたけれど構わないでしょう?  御自身の人格を取り戻すためなのだから」
「……そう。私ってば、また獣に変わって……無様な大暴れをやらかして、また貴女に借りを作って」
 イアルは、己の額を軽く押さえた。
 粗末なパイプベッドに、エヴァと仲良く腰を下ろしている。
 壺が2つ、視界に入った。
 1つは空っぽで、床に転がっている。
 中身はたった今、自分が飲み干した。それが何であったのか、イアルは考えない事にした。
 もう1つは、エヴァが膝の上に抱えている。中身が何であるのか、誰に飲ませなければならないのかは、何となくわかる。
 先程から視界の隅にあるものを、イアルは直視した。
 2つの石像。物言わぬ女人像と化した、少女と女教師。
 2人を石に変えてしまったのは、イアル自身だ。
 なのにイアルには、2人を元に戻す手段がない。
 鏡幻龍の力を取り戻す事が出来れば、不可能ではないかも知れない。だがイアルの身体に石化の呪いが根付いている限り、また同じ事が起こる。何度でも、2人は石になってしまう。
「……大元の呪いを、取り除かないと」
 本当にやらなければならない事を、自分は先送りにしていたのかも知れない、とイアルは思った。
「捜し出さなければね……魔女結社の、生き残りを」 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2017年03月21日

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