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『春告草と、わたしとあなた 』
ザラーム・シャムス・カダルja7518)&カーディス=キャットフィールドja7927


 ――す、すきかもしれぬ

 この感情を恋と呼ぶのなら。

 ――……私も……ザラームさんの事が好きかも……しれない、です

 そのひとの可愛い姿を誰にも見せたくないという、この感情を。



「……お付き合い、しましょうか」
「ん? 買い物の予定はないが」
 カーディス=キャットフィールドの決死の申し入れを、ザラーム・シャムス・カダルはお約束で切り返す。
「ではなく」
「ではなく……という、と」
「いうと」
 カーディスがザラームを真っ直ぐ見つめ、彼女の両の手をギュゥっと握る。
「…………も、もうすぐクリスマス、じゃな!」
「そそそそそそうですね! 美味しいケーキを作る予定なんですよーーーーー」
「それは楽しみじゃ」
「ええ、ですので」
 イヴの夜、私の家へいらっしゃいませんか。

 ぎこちなくぎこちなく、そうして二人の交際はスタートした。




 ザラームにとって、カーディスは傍にいて安心できる友人の一人だった。
 そのこと自体が『特別』なのだと気付いたのは、ささやかなきっかけ。
 カーディスも同様だったようで……二人そろって、恋愛初心者である。
 体ばかりが大人になってしまった。心は少年少女らと変わりない。

 難しいことさえ考えなければ、抱き心地の良いクッションを買い求めて昼寝をしたりカーディス手製のケーキでお茶をしたり、今までと大差なく過ごせる。
 少しでも意識してしまうと、そこへドキドキが加わって呼吸が苦しくなって『今日は帰る!!』などという日もあるけれど。
 だからといってどちらかが怒ることは無く、もちろん浮気なんてこともなく、二人らしいペースで日々を送った。


「あっ」

 春を待つ季節の、コタツと抱き枕という組み合わせの破壊力は強烈だ。
 完全に倒れ伏していたザラームは、カーディスの緊迫した声によって目を覚ました。
「んん……どうした、カーディス?」
「私としたことが…… !!? いえいえいえいえいえ、ザラームさんこそ大変なことに!!」
「?」
 グラマラスなザラームは薄手の私服でカーディスの家を訪問していたが、それは寒かろうとシャツを羽織らされていた。
 露出の多さは見慣れているはずなのに、羽織ったシャツが肌蹴ているという要素が加わることで非常にけしからん絵面になっている。
「何を今更、そんな」
「大事です! ザラームさんは、女の子なんですからね!!」
 プンスコしながら、カーディスは彼女のシャツのボタンを留めていく。
「そ……そうか」
 友人だった頃は、そんなこと言わなかったのに。
 何とも言えないくすぐったさを感じ、ザラームは上手く表情を作れない。
「あ。それでですね。ザラームさん、来週なんですが週末の予定は空いてます?」
「特に何もないのぅ」
 これでよし、と最後に彼女の両肩をポンと叩いて、カーディスは笑顔で問うた。
「梅の花が綺麗な公園があるんです。今年からライトアップを始めるから、是非来てくれと友人から案内をもらっていたのですよーー」
「そんな季節か。良いの、行ってみたいのじゃ」
 カーディスはコタツから本格的に脱出し、棚へ挟み込んであったポストカードを探し出す。
「こちらは昼間の様子なんですけど。綺麗ですよねぇ」
「ほうほう……」
 青空を背景に、匂い立つような梅の花。小道に並ぶ姿は圧巻だ。
「……夜か」
 そこで、ザラームが神妙な面持ちに変わる。
「カーディスの弁当は、食べられぬかのぅ……」
「温かいスープを用意しますよ〜〜」
 青年は、緑の瞳を弓なりに細めて幸せそうに答えた。




 待ち合わせは、駅の前で。
 充分に余裕をもって到着したカーディスとは逆に、コートを引っ掛け慌てた様子でザラームが姿を見せた。
「す、すまぬ……30分だけ、と思うていたのだが……その」
「大丈夫ですよ〜〜。ザラームさん、頬にシーツの跡が」
「!!!」
 ほんの少し昼寝をするつもりがガチ寝になってしまった。そう謝罪する恋人の頬へ、笑いながらカーディスが指を伸ばす。
(うう……服装やらなにやら、徹夜したのが痛いのぅ…………)
 ガチ寝の理由はそんなところにあることだけは、死守するザラームである。

「調べたが、ずいぶんと評判になっているらしいのう、その公園は」
「そのようですね。きっと賑わっていますよ〜」
「夜は夜らしく、花にも眠らせてやりたいものだが……この季節だけと許してもらおう」
 電車で20分ほど。降りて歩き出せば、目的地を同じくする人々が周囲には多い。
(……これは、もしや)
 恋人同士も少なくないことに気づいた途端、ザラームの胸が早鳴りを始める。
(わらわたちも、同じように……見えているのじゃろうか?)
 他人の目などどうでもいい、どうでもいいはずなのに、照れくささが込み上げる。
 火照った頬をどうにかしようと両手で挟み込んだ。
「ザラームさん??」
 彼女の変化を察し、カーディスはヒョイと顔を覗きこむ。
「二月も末ですが、夜は冷えますものね〜〜」
「あっ……」
 寒い、と勘違いしたらしい。
「手袋はお忘れで?」
「う……うむ」
 そっと握りこまれ、『おすそわけですよ』なんて言われたら反論できない。
 繋いだ手は、カーディスのコートのポケットへ。
(……あたたかい。顔が熱くてたまらぬ……)
 



 咽かえるような、梅の香りに包まれる。
 ライトアップされた花は、幻想的な姿を見せた。
「夢の世界に居るようじゃのう……」
「桜とは、違う趣がありますよね〜」
 まだまだ冷え込む夜の空気に、香りと光りの存在が鮮明に浮かぶ。
 夢のようでいて、これは現実なのだと訴える。
「なんだか……取り残されそうじゃ」
 鮮やかな世界は、自分には眩しすぎる。
 そう告げるザラームが抱える孤独へ、カーディスは優しく寄り添う。
「ご一緒しますよ」
 急かすでなく、背を押すでなく、そっと包み込むように。
 ザラームという存在をそのまま認めるカーディスの言葉は、心は、正しく彼女が欲するものだった。


 様々な種類の梅が植えられていることは知っていたが、夜になればどれがどれかわからない。
 そのことが、かえって気を遣うことなく純粋に梅を楽しめるように思える。
「梅干しはもちろんですが、甘露煮やジャム、梅酒、……実りもたのしみですね〜〜」
「カーディスに掛かれば、どれも美味そうじゃ」
「今年は、ザラームさんも一緒に作りましょ??」
「!? わ、わらわはやめておく、台無しにしてしまう……」
 料理はもちろん、家事全般がダメなのだ。誘いは嬉しいが、ザラームは全力で首を横に振る。
「教えますから」
「じゃが……」
「台無しになっても、ザラームさんの手作りも食べたいのですよ〜?」
 ふたりなら、きっと楽しいですよ? 楽しければ、美味しいのです。
 独自の持論を展開するカーディスに、ザラームは思わず笑った。
「……楽しければ美味しい、か。言ったな?」
「ええ」
 どんな酷い出来でも恨まぬように。
 トン、とカーディスの胸元を叩いてザラームは彼を見上げた。

 こうして、未来への約束がまたひとつ。




 この香りは――
 この花弁は――
 梅の花の下には、博識な老人も多い。
 問わず語りで流れてくる説明を耳にして、二人は公園にあるベンチでカーディス手製のポタージュスープで暖を取る。
「うむ……美味い。胸の奥がジンワリとするのう……」
「星空と梅の花、贅沢ですねぇ〜……」
 通り行く人々が、時折ぎょっとした顔で振り返ることがあった。
 夜の公園という事もあり、来客は大人が多い。中には老夫婦や若い恋人たちの姿もある。
 その中でも、カーディスとザラームという『美青年と美女』は無駄に目を引くのだ。
 ……けれど、通行人たちは知らない。
 彼らが、まるで小学生のような恋愛をしていることに。その先があるなんて思いもせず、共に在ることこそを一番の幸せと感じていることに。

「カーディスの目は、綺麗じゃのう……。星の輝きにも負けぬぞ」
 春の芽吹きを思わせる、優しい緑色。宝石のようにキラキラとしている。
 星空へ手を伸ばす子供のように、ザラームはカーディスの目元に指を伸ばす。
「それでは、ザラームさんの瞳は太陽の炎ですね」
 彼女の名に『太陽』が含まれていることを込めてカーディスが返す。
「そんな良いものではない。わらわは……」
「太陽ですよ。あなたは、私の」
「…………」
 不安におびえるザラームを、カーディスが優しく包み込む。
 ぎゅっと抱きしめられて、ザラームは一瞬だけ目を見開いて……安心したように、彼の肩に頬を寄せた。
「変じゃの。おぬしのいう事は、全て信じたくなる」
「し、信じて下さいよ〜〜」
 泣きが入るカーディスの声に、ザラームは笑った。
「……」
 言葉の無いまま、視線が交わる。

 ――――、

 どちらからということはなく、ごく自然に、唇は重ねられた。
(星が落ちてきよった)
 ザラームは、そんなことを考えながら伏せた目を開き……

「!!!!!? どどどどどどうしましょう私ったら! こんな不埒な……ザラームさんの同意も無しに、なんてことを…… はわわわわわわ」
「乙女か」
 ベンチの端まで一気に後退し、口元を両手で抑えて目を白黒させているカーディスへ、ザラームはバッサリと言い放っては笑った。
「同意じゃ。嫌がらなかったじゃろうが」
「ザ……ザラームさん?」
「おぬしには、もらってばかりじゃ……。どうすれば、嬉しさをお返しできるかのう……」
 カーディスが焦らなければ、きっと自分が焦っていた。
 冷静さを取り戻す一方で、ザラームは自分の気持ちを再確認するのである。

「わらわたちは、その……『恋人同士』、なのじゃろう?」
「……はい」

 今度は、ザラームがカーディスを抱きしめる。
 赤くなったり青くなったりしていたカーディスの顔色が、ゆっくりと落ち着いて、その両腕を彼女の背へと回した。


 眩暈がしそうなほど、濃厚な梅の花の下。
 春はもうすぐ。
 季節はゆっくりと、確実に変わってゆく。




【春告草の下で、わたしとあなた 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7927 / カーディス=キャットフィールド / 男 / 20歳 / 鬼道忍軍 】
【ja7518 / ザラーム・シャムス・カダル  / 女 / 20歳 / アストラルヴァンガード 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
春告草とも呼ばれる梅の花とのエピソード、糖分オンリーでお届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2017年03月21日

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