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『黒く染まる。 』
柳生 楓aa3403


 夢に見ることがある。
 あの愚神を、四肢をバラバラに撃ち砕き。そこらへんに散乱させて。呻くその頭を踏みつける。
 転がる愚神を見下ろして。
 そして、ほくそ笑む自分の姿。
 けれど、その時の感情までは、目覚めた時には覚えていない。
 だが、その夢を見た後は適度な運動をした時のようにさっぱりと、しているのは覚えている。
 今日もそうだった、少女は熱のこもった布団から抜け出して、月明かりを見あげた。
「また……ですか」
 楓はその光景を噛みしめる。
 夢の中の光景を何度も反芻する。
 そして思い至る。その夢を何度も見るということは『柳生 楓(aa3403) 』という少女はどうしようもなく。その光景が見たいのだと。
 心の底から望んでいるのだろう。
 その手でその光景を再現したいのだと。
 楓は立ち上がる。汗でべとつく髪を払って、荒い息を整える。
 耳鳴りがした。自分の耳に、妙にはっきりと血管の内側をゴーッと血が流れていくのがわかる。
 熱を持った体。反して、熱を持たない機械の足。
 その温度差が自分の中で何かを分けるラインな気がした。
 震える指で楓は自分の頬をなぞる。
 張りつけたような硬い笑みが、その顔面を覆っているのがわかった。

   *   *

 その日は雨が降っていた。深い深い雨。
 視界が藍色に染まるくらいに、一面覆うような雨。
 憂うつな気分で傘をさし、そんな道をまっすぐ、楓は歩いていた。
 連日、ひっきりなしに舞い込む任務、それと学業。
 なかなかに疲れがたまっていることを意識して、楓は次の休みは家で寝て過ごそうかなんて考えている。
 ぼんやりした思考でも自分の体はえらいもので、勝手に家まで楓を運んでくれる。
 帰巣本能の一種なんだろうか。 
 そんなくだらないことを考え水たまりを蹴とばした。
 そんな楓をである。
 後ろから何者かが追いぬいた。黒いレインコートを着た少女である。
「え? レインコート?」
 首をひねる楓、そう、違う。
 楓は違和感に気が付いてその人物を注視した。
 駆け抜け、自分の僅か五メートル先で停止するその人物の特異性。
 まず、かぶっているのはレインコートではない。ぼろぼろの黒いローブだ。
 そしてそのフードの隙間から除く髪色が、どこかで見た気がして。
「あの」
 思わず楓は声をかけてしまった。
 その言葉に少女は振り返る。そして雨の中だというのにもかかわらず、フードを取った。
 その、楓の目が驚愕に見開かれることになる。
「あ、あなた……」

「遊ぼうよお姉ちゃん」

 その姿に思わず楓は傘を取り落した。
 あの日の光景が重なる。
 泣きじゃくるような表情、視線。最後に見た彼女の面影と。目の前の少女の面影が重なる。
「あなたは私の……」
「妹じゃないよ」
 それは語る。
「勘違いしてもらったら困るな。君の妹は……死んでるからね」
 それは告げる。
「だとしたら、僕は何か……そう思ってるね、ひとつ答えにならない代替案を述べよう。僕は皆にこう、呼ばれている」
 愚神『Corpse rummage(NPC)』そう目の前のそれは名乗った。
 歯の根がかみ合わない、寒くもないのに体が震える。
 全身の筋肉が、金属パーツがはじかれるように飛び出したがっているのがわかった。
「今夜、ここにきてよ」
 そう愚神は紙屑を放ると、動けずにいる楓に背を向けて走り去ってしまった。
「見つけた」
 楓は自分自身にそう確認するように告げた。
 見つけたのだ。とうとう、自分の仇を。敵を。
 楓は走って家へ戻る。傘も差さずに。紙屑を拾って。

   
    *    *
  
 その紙屑には、今は平地となっている廃墟の住所が書かれていた。
 楓はそれを地図で確認すると装備を整え始めた。
「Corpse……」
 楓は敵の名前を何度も口の中で転がした。
 その存在を実を言うと楓は前から知っていた。おそらくそれが自分の妹を殺したことも。
 そして奇妙な噂も。
「あいつは、殺した相手の容姿や能力を奪える」
 それが奴の名前の由来であり最大の特徴。
 そしてその名前はよく通っている。つまりH.O.P.E.にとって、厄介か、よほどの手だれか。残虐な事件を起こしているかのどれかに当てはまるということだ。
『あれ』は、おそらくすべてに当てはまりますけど」
 楓はそう告げると、ベットに腰掛けている英雄を振り返る。
 彼女はけわしい顔をしている。
 さんざん止められた。一人で行くべきではない。仲間を頼るべきだ。
 だけど、楓はその言葉に耳を貸さなかった。貸せなかった。 
 だって、だって、この感情を抱いたまま大人しくしているなんてできない。
 そう思ったから。
「私は行きます。だって、逃げられてしまうかもしれないから、それに」
 楓は相棒を見据えて言った。
「これは、私の、戦いだから……」
 そして雨あがりの夜、満月が煌々と照らす廃墟で。二人は対峙していた。
 楓と、楓によく似た。けれど楓よりはるかに幼い少女。
「逃げずに来たんだ」
「ええ、あなたを倒して、全て終わらせる。私は未来へ進む」
 これで本当に最後だから、そう楓は誰にでもなく謝って、地面を駆けた。
 楓は全力の装備で敵に挑んだ。刃を、盾を、全てのスキルを持って挑んだ。
 しかし。
 
 だめだった。

 僅か戦闘時間十分。
 十分前からすると考えられないほどに地形は変わり、解体中だった建物は倒壊している。
 その光景をさかさまの状態で楓は眺めていた。
 耳元で大きく聞こえるのは漏電のぱちぱちと爆ぜるような音。
 自分の右足がひしゃっげ中からコードがはみ出しているのが見えた。
 左足に至ってはくるぶしから粉砕。
 それを愚神があいた左手でもてあそんでいる。
「まさか、一撃も加えられないなんてね」
 直後楓を投げ飛ばす愚神。楓は木端のように吹き飛んで鉄骨の束に体をぶつけた。
 そのままずるずると地面に横たわる。
「つまんな〜い」
「私は……私はもう」
 楓はうわ言のように何事かをつぶやいている。
 その目はうつろで。でも体は懸命に起き上がろうともがく。
「私は……あなたを……」
「あー、もう少し強くなったかと思ったけど、だめみたいだね。どうする? 殺す? もっと大切な人を。第二英雄とか。あ、恋人とか?」
 その時楓の瞳に炎が宿った。言葉にならない叫びをあげ、血反吐を吐きながら起き上がろうとしたその瞬間。
 楓の頭を蹴り飛ばす愚神。
 そして起き上がれないようにその頭を踏みつけた。
「がっ!」
「まもる? 奪わせない? 奪われた癖にまだそんなこと言ってるの?」
 愚神は告げる。楓の頭を地面にねじ込むように踏みつけながら。
「言い切れるの? 今度こそ守るって、大切なものを失わないって言うの? バカみたいだね、無理だよ君じゃ」
「できる! 私は!!」
「こんなに、こんなに弱いのに? あははははははは!」
 夜によく響く愚神の笑い声。
 その声は幼いころによく耳にしていた彼女の笑い声。それと重なる。
「強くなった? それは否定しないよ、無力だった君とは大違いだと思う、実際にそこら辺の奴には負けないと思うよ」
 けどね。
 そう愚神は含みを持たせて言葉を続けた。
「もっと強い敵に襲われたらどうするの? 守り続けるの? 守るって何? 殺さないってこと。敵を? 君から奪おうとする略奪者を? 略奪者はずっと君からかすめ取ることを狙ってるんだよ?」
 愚神は楓の足パーツを握りつぶしてガラクタを楓へと投げつける。
「それじゃだめだよね、何度守っても、何度も襲われていたらいずれ奪われる、だったら、奪わせないって覚悟が必要だよ。だから君がすべきことは、殺戮だよ」
 楓は目を見開いた。
「殺せばいいんだ。もう奪わせないように。君から奪いたがる奴ら全員殺せよ。こうやってさ」
「私は、そんなことしない!」
 続けて言葉を連ねようとした楓の目の前にごとりと、何かが落ちた。
 生首だ。しかもそれは妹と同じ顔をしていた。
 その光景を目の当たりにして、蒸発していた恐怖が一気に、戻ってくる。
 蘇るのはあの日の光景。楓は短い悲鳴を上げた。
「それに、笑えるんだよね」
「君、私たちと同じ目をしてるよ、お姉ちゃん」
「あの子の声で私に話しかけるな!!」
 楓の金切り声が響く。
「私達と同じ目をしてるよ、わかるよ、殺したくて仕方ないんだよね? 私を。私たちを」
 妹の生首が呻く。殺せと、ころせと。
 楓に、今までお前がやってきたことなんて無意味だと囁く。
 ほかでもない、妹の顔で、妹の口調で、妹の言葉で。
「それでいいじゃん、なにが悪いの? 守るとか。めんどくさいことしないでさ」
 そして開かれた双眸、それが楓の瞳とあい。妹は告げる。

「殺せよ」

 その言葉に、楓は拳を握りしめて、答えた。
「できない。私には…………私には」

 その言葉に一つ愚神は溜息をついた。
「あ、そ」
 そして生首を拾い上げると自分の首の上に乗せゴキゴキと適切な個所にはめ込むと、踵を返した。
「どこに、いくんですか?」
「君のいないところだよ」
 その時楓はすべてを理解した。
 愚神は自分を見逃したのだ。
「また、戦おうね。今度はそんなよわっちいお姉ちゃんじゃなくて、強いお姉ちゃんと戦いたいな」
 そう告げて愚神は笑いながら去っていく。
 その背を楓は黙って見過ごすしか、できなくて。
 ただ涙を流すことしかできなくて。
 その頭の上に乗せられた手も、温もりも、感じることもできなくて。
 自分の悲鳴の向こうに、歯ぎしりの音が聞こえた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『柳生 楓(aa3403) 』
『Corpse rummage(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 またOMCご注文ありがとうございます。
 今回は前回と打って変わって、どろっとした人の心理を描いてみました。楽しんでいただければ幸いです。
 愚神の名前については通称としました。名前が無いと不便かなぁと思いまして。
 また、おまけノベルについては、エリザのお話に参加できないことを残念がられているようでしたので、前回とネタはかぶりますがエリザとのお話を書かせていただきました。
 また彼女のシナリオはやると思うのでよろしくお願いします。
 それではよろしくお願いします。

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2017年03月21日

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