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『ニンジャ付き合いは超タイヘン 』
小鉄aa0213)&稲穂aa0213hero001)&麦秋aa0213hero002)&日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

「今回の仕事、言ってはなんだがずいぶん楽だった。所用時間からして物語っている」

 日暮仙寿が刀を鞘に収め、不知火あけびとの共鳴を解いて開口一番、そんな事を漏らすと、あけびが「楽とか言っちゃだめだよ、仙寿様」とたしなめる。

 だが仙寿は改める言葉を口にせず、「事実を言ったまでだ」と生意気そのものの言葉を返す。

「また生意気なこと言ってー! そんなんだから友達できないんだよ、仙寿様!」

「できないんじゃない、選んでいるだけだ」

「そんなの詭弁か強がりだよ! かっこいい言葉でごまかそうとしても、それこそ事実は曲がらないんだから!」

「まあまあ不知火殿、そんなに目くじらを立てなくてもいいでござるよ。それに――」

 2人をなだめる小鉄が親指を自分にビシリと向けた。

「拙者はすでに日暮殿の友でござるからな!」

「そんな……!」

 目を(心情的には)潤ませ、手で口を覆うあけびは小鉄と仙寿を交互に見ては「よかったね、仙寿様!」と本気でそう思っているような口調を仙寿に向けるのだった。

「お前は……」

「それはともかく、早く片づいてしまったのも確かね。この人数でも十分ってだけあるかしら……こーちゃん、どうする? もう帰る?」

 稲穂に聞かれ、小鉄は腕を組み「うむぅ……」と考えるそぶりを見せると、不意にぽんと手を叩いた。

「お二方。拙者の屋敷が近くにあるのでござるが、寄って行かれてはどうでござろうか。折角時間があるのでござる、友好を深めようではないか。拙者自慢の忍者屋敷をとくと堪能して――」

「忍者屋敷!」

 あけびが声を張り上げると目を輝かせて小鉄ににじり寄り、次の言葉を待つ。

「隠し通路に――」

「隠し通路!」

「どんでん返しもあるでござる」

「どんでん返し!」

 鼻息を荒くするあけびはもはや小鉄に噛みつかんばかりまで詰めより、得意げに話していた小鉄の方がたじろいでしまっている。

 あけびの爛々と輝く目が向けられる前に仙寿は顔を背けていたが、胸の前で両拳を握りしめたあけびがにじり寄ってきているのが見るまでもなく、わかる。

 あけびが仙寿と目を合わせるためにちょこまかと動くのだが、それでも必死に、仙寿は会わせようとしない。

 そのうちに業を煮やしたあけびが仙寿の頭を両手で押さえつけ、無理にでも向けさせようとするのを、首に力を入れて無理をしてでも仙寿は顔を向けようとしない。もはや意地である。

「せ・ん・じゅ・さ・ま! 行こう!」

「はっは、日暮殿。観念するでござるよ」

 小鉄は腕を組み楽しそうに傍観するのだが、稲穂の方はいかにも「苦労してるのね……」と言わんばかりの溜め息を吐き出していた。忍びの相方を持つ者同士、何か思う事もあるのだろう。

 仙寿は必死で抵抗していたが、密着しようがお構いなしにぐいぐいと攻めてくるあけびにやがて根負けし、苦々しく吐き出すようなわかったを口にするのだった。

 仙寿が観念したのを受け、稲穂がパンパンと手を叩く。

「さ、腹も決まったようだし、行くならちゃっちゃと行きましょ。くーちゃんも待ってると思うの」

「うむ、そうでござったな。それでは案内致そう――ついて参るがいい、お二方!」

「はい!」

「……ああ」

 スキップする様に歩き出すあけびと、戦闘終了後よりも遥かに疲れた顔で歩きだす仙寿。そんな仙寿の肩をぽんぽんと、稲穂が何とも形容し難い笑みを浮かべて叩くのであった――




 現場からほどなく離れたところ、山奥と言うほどではないにしろ、町から少し離れたところにぽつんと――いや、どどんと建っていた。

 高いわけでもないが口を開けて塀を見上げるあけびはふえーや凄いしか言葉が出ず、右から左と首を振って何度も屋敷の全体を見渡す。

 そんなあけびの横顔を、じろりと睨むような仙寿。

(やはり、あけびの好きそうなたたずまいだったか……)

「大きなお屋敷ですね、小鉄さん、稲穂さん」

「ふふーん、そうでござろう!」

「町から遠くて色々不便な上に使いにくくて、古いお屋敷なの。歴史的建造物と言えなくもないけど、格安物件に変わりないのよね」

 自慢げな小鉄に比べ、稲穂の方は深い溜め息しか出てこない。

「忍者屋敷はロマンでござる。多少の不便さには目をつむって――」

「そのおかげでただでさえ掃除する範囲が広いのに、掃除しにくくなったんでしょ。こーちゃんが掃除してくれるなら、話は別なんだけど」

 稲穂がじろりと小鉄を睨み付けると、小鉄は小さく縮こまって「むう……」と唸るしかなかった。

「でも忍者屋敷なんて、憧れるじゃないですか! ロマンに機能美の犠牲はつきものです!」

「わかってくれるでござるか、不知火殿!」

「もちろんですよ!」

 忍者とニンジャだけがわかりあい、「そもそも忍者屋敷とは……」とお互いの忍者屋敷像を語り始める。

 楽しそうに語らう2人に、これから説教でも始めようかとしていた稲穂は息を溜め、膨れ上がりそうだった怒りもフウと吐き出すのだった。 

(ああ、向こうも苦労かけられているんだな)

 仙寿の視線に気づいた稲穂。互いの苦労に共感しあって、2人とも頷くのであった。

「それでは早速、行くでござるか」

 そう言うと小鉄は大きな門を開け――ず、脇の小さな戸を開いてかがんだ。

「……そっちなのか」

「忍びたる者、正門をくぐるわけにはいかんでござろう」

「主君や主君の客人のためのものなんですよね」

「うむ」

(屋敷の主は小鉄なんじゃないのか?)

 あけびはすんなりと理解を示しているが、どうにも腑に落ちない仙寿。主君と屋敷の主が別物らしいのはわかるが、それならこの門の存在意義すら怪しい――と思っていると、門が不意に中から開けられた。

「おかえりなさいー。今日はお客様がいるのねぇ〜」

 忍者屋敷かどうか現時点では不明だが、少なくとも伝統的な日本家屋という純和風な屋敷の門を開け、出迎えたのは、洋服に身を包んだゆるくてふわりとした声の麦秋だった。小さい戸をくぐっていた小鉄がすねたように口を尖らせて、「そっちを開けてはならぬと言っておるだろう」と、麦秋の後ろに立つ。

「こーちゃん。くーちゃんはおかえりって言ってくれたでしょ。そうしたらなんて言うの?」

「――ただいまでござる」

「はいよくできました」

 胸を張る稲穂は今にも小鉄の頭を撫でていい子いい子しそうだったが、さすがにそれはしなかった。身長的に届かなかっただけかもしれないが、それでも十分、小鉄をどういう扱いでいるのかがわかってしまう一幕で麦秋も「よくできました〜」と、届きはしないが手を伸ばして空を撫でているあたり、稲穂に限らず、この家ではこの関係が普通のようである。

 仙寿とあけびの視線に気づいた小鉄は気恥ずかしそうに鼻面を掻き、「案内するでござる」と逃げるように歩き出すのであった。




「なんだ、中は普通じゃないか」

 中へと案内された仙寿が最初に発したのは、その言葉だった。

 古い日本家屋ではあるが、玄関から続くのは少し広くて長い、板張りの廊下。天井はやや低く、小さな明り取りの窓が少しある程度で昼でも薄暗いあたり、日本の住宅という感じである。

「鎖鎌とか手裏剣とか、壁に飾られているのかと思っていた」

「はっは、そんな事をしては全然、忍んでないでござろう」

(小鉄が忍ぶとか、それこそわからない話だけどな)

「そういうのは趣味部屋でやるものでござる」

「あるにはあるのか……」

 そんな薄暗い廊下を稲穂が「おもてなしの用意をしてくるの」と、スイスイ歩き出す。歩き出すのだが、廊下を真っ直ぐに歩かず、不思議な蛇行である。

「待って〜いなちゃーん」

 続く麦秋も、多少ルートに差はあるがやはり、真っ直ぐに歩かず蛇行して歩く。

 仙寿の顔にはなんでわざわざそんな歩き方をするのだろうと書かれていて、あけびはにんまりと意地悪く、得意げな表情を浮かべた。小鉄も口元が覆面で隠れているが、似たような顔をしているに違いない。

 小鉄がスイッチを入れると、壁についている蝋燭型の照明が淡い光で薄暗い廊下を照らしてくれる。

 既製品ではない、本物の板を使った板張りの廊下。密と牛乳で磨いているのか、綺麗な木の色と見事な光沢である――が、明るくなってよく見えるようになってやっと、仙寿も違和感を覚えた。

(なにかが、ある。のは、わかるんだが……)

 目を凝らしはするが、どこの何に注目すればいいのかわからないだけに、違和感以上の発見はできなかった。

 後ろであけびと小鉄がにやにやしているのだと思うと、少し腹だたしい。

「仕方ないなー、仙寿様は」

 仙寿の横をあけびが通り過ぎ、しゃがんで板に手を置いた。置かれたところの色が、他とわずかに違う。

「ここを踏むと、きっと――」

 あけびが板に置いた手にぐっと力を入れると、すぐ目の前の床から何かが突き上げてきた。

「槍が出てくると」

 前髪をかすめたが冷静なあけびは押したまま、一歩下がったあたりの板に空いた手を乗せる。

「そしてこのスイッチを踏んだ状態で槍を下がってかわしたとしたら、ここに足が来るから――」

「あ、日暮殿、そこは危ないでござる」

 後ろのスイッチとやらを押そうとした直前、小鉄の警告。仙寿が口を開きかけたその時、あけびが押した。

 先端を斜めに切り落とされた3本の竹が小穴から飛びだしてきて、それがちょうど、仙寿の真横からであった。だが仙寿が鯉口を切ったと思った時にはもう刀は鞘に収まり、根元から斬られた竹やりが跳ね飛ばされるようにくるくると宙を舞い、床に転がる。

 流石に、これしきの事で動じる様なエージェントではない。

「すまない、小鉄。せっかくの罠を壊してしまったな」

「なあに、竹やり程度すぐ交換できるでござる。それよりも拙者は初めてまともに罠として作動したのを見られて、十二分に満足でござる」

 作った甲斐があったと言わんばかりの笑顔で小鉄が答え、そのニコニコ度合いから本当に嬉しいのだなと仙寿は察する。

(作動するところなんて見るはずないしな)

「でも面白いな、とても巧くできている。人間の心理と行動予測を突くあたりが」

 実に巧く出来ていると本気で感心し、最初は理解しがたいものはあったが理解をしていくうちに、少しばかり面白くなってきた仙寿だが、あけびが得意げに「でしょ?」とまるで自分の事のように胸を張って先を歩くその姿に、何となく悔しくなってしまう。

「廊下の中央に槍のスイッチがあったならと、今度は壁際に寄って歩けば――」

 床に足を滑らせながら壁際を歩いていたあけびが足の裏で違和感を感じ取り、立ち止まって右足ですぐ前の床を押してみる。すると板の継ぎ目から2つに分かれ、ぽっかりと床に大きな穴が出現する。広い廊下の半分ほどを占めていて、これでは確かに迂回するしかない。

「こんなわけだよ!」

 どやあと言わんばかりのあけびが落とし穴をぴょんと飛び越え――天井から急に垂れ下がってきた板にぶちあたり、穴の中へと落下していった。

 小鉄が「大丈夫でござるか、不知火殿! 串刺しになっておるまいな!?」と物騒な事を言って覗き込むので、どうせ無事だろうと思いつつ仙寿も覗き込む。

 両手足で穴の壁をつっぱり、穴の途中で止まっているあけび。幸い、底で侵入者を待ちわびている竹やりが赤く染まる事はなかったが、かわりに額と鼻を赤くして、涙目になっていた。けっこう痛かったようだ。

「……ほんと、よくできてる。罠を見破って調子こいていると、こういう目に合うわけだ――自分で出られるな?」

「仙寿様の意地悪!」




 罠は数あれどロープがなかったので、近くの部屋から鎖鎌を持ちだしてようやくあけびを救出する。すっかり疲弊したあけびはその場にぺたりと座り込んでいた。

「意外な物が役に立ったでござる」

「むしろどうしてロープではなく、それがあった」

「そこは――忍者としてのたしなみでござる。さて、元の場所に戻しておかぬと稲穂に叱られてしまう」

 鎖鎌は忍者の武器だろうかと考えつつも、稲穂の前で正座させられて叱られている小鉄の姿を想像してしまい、口元を隠しながら顔を横にそむける。

 すると立ち直ったあけびが顔をそむけた先にいて、両手で口を覆い「仙寿様が笑ってる!?」と驚愕と歓喜に打ち震えていたので、無言で一歩近づくと、あけびが鎖鎌を持ちだしてきた部屋へと逃げ込むなり、雄叫びに近い今日一番の黄色い声を張り上げる。

 一瞬、訝しんだ仙寿だが、小鉄が鎖鎌を持ちだしてきた部屋なのだと思い返して、不思議でもなんでもない事に気づいた。部屋を覗いてみればやはり、あけびの好きそうなものがずらりとある。武器とかに限らず、何かの指南書なども所狭しと綺麗に整理整頓されて置いてあった。

 小鉄とあけびが書を開いて戦術がどうだ、技がこうだ、極意とはああだと、あまりそうは聞こえないが、楽しそうに忍び談義を語り合っている。

(やはり気が合う、か)

「あら、仙寿ちゃん。どうしたの? そんなところに突っ立って」

「いなちゃーん、歩くの早い〜」

 後ろからの声にふり返ると、お盆に湯呑と急須を乗せた稲穂が、さらにその後ろでは麦秋が蓋つきの菓子入れを持ってちまちまと歩いていた。

 仙寿が答える前に稲穂が部屋を覗き込み、白熱している2人を見て「ああ……」と、言わずともわかってくれたようである。

「あの話の流れだと、危険よね」

「ああ、俺もそう思う」

 忍者に苦労させられている2人だけが分かる、次の展開――小鉄の「試してみるでござるか?」という発言でもはや決定した。

「やりましょう! 実戦形式の模擬戦を!」

 嬉々として受けるあけび。稲穂と仙寿が2人して「やっぱり……」とため息を漏らし、稲穂は仙寿にお盆を押し付ける。

「動いたらお腹もすくでしょうし、もう少しお腹に溜まるもの作ってくるの」

「だから運べと」

「客人と言っても、神様でも殿様でもないんだから、立っているうちは誰でも働かせていいと思うの。そんなわけで、お願いね――くーちゃん、仙寿ちゃんを縁側に案内してあげて」

 運ばされることに不満はないが、何か釈然とはしない。だが稲穂に言われると何となく従ってしまうの仙寿であった。

 稲穂が台所へ戻ろうと振り返った時、やっと辿り着いた麦秋が「は〜い」と答えると、部屋の中ではちょうど小鉄があけびに屋敷にある隠し通路や抜け道の場所を説明し終えた後であった。

「では不知火殿、次に相見えた時が始まりでござる」

「承知!」

「2人とも、人への迷惑というものを考えて――」

 仙寿が一応止めに入るが、小鉄は天井裏へ、口調がうつったあけびは掛け軸の裏へと消えていく。

 不安しかないが、いなくなってしまったものは仕方ないし、言って聞くような2人ではない。やれやれと首を横に振って、先を行こうとするが菓子入れを顔の高さに構え慎重に歩くせいでなかなか進まない麦秋から菓子入れをするりと引き抜くように奪い取る仙寿。片手でお盆、片手で菓子入れという状況ではあるが、少なくとも麦秋よりは危うさを感じさせない。

「ありがと〜仙寿ちゃん。やさしいわねぇー」

 そうでもないと言おうとして口を開きかけた仙寿だが、先に麦秋が「いなちゃんのごはん、おいしーの!」と一瞬にして全く違う話題へ転がり、そうなのかと言おうとすると「あけびちゃんてかわいいわねぇー」とまた一転し、ペースがつかめないでいた。

「仙寿ちゃんはかっこいいひとー、侍って感じするわねー。でもあけびちゃんも侍って感じするのにニンジャみたいねぇ〜、ニンジャっていろいろあるのねー。こーちゃんもニンジャなのよー」

「流派があ――」

「ところで煎餅っておいしーよねぇ〜。チョコもいいけどぉー」

(だめだ、とてもじゃないが話についていけない)

 会話する事を諦め、先を歩く麦秋の話をただ聞くだけに専念する仙寿。話が5転くらいしたあたりで居間に辿り着き、縁側までもう一息という時に、床の畳がひとりでに立ち上がった。

 畳の下からひょこりと顔を出すのはあけびで、するりと下から出てきて身を低くしたまま周囲を警戒している――と、勢いよく畳を手で叩き、畳が跳び起きた。そこに数本の苦無が突き刺さり、天井に開いた穴から小鉄がぶら下がった状態で出てきて、数歩、天井の梁を駆けると梁を蹴って苦無を逆手に構えた状態であけびへ向かって跳んでいく。

 跳び起きさせた畳をちゃぶ台でもひっくり返す様に両手ですくい上げ、跳んでくる小鉄へ畳を投げつけたあけびが廊下へと走っていくと、小鉄は跳んできた畳に着地すると廊下に向かって跳躍し、あけびの後を追うのだった。

 クルクルと回転する畳が麦秋めがけ襲い掛かってきたが、仙寿が振り上げた足でそれに踵を叩きつけ、床に叩き落した。だが麦秋は「2人ともがんばってぇ〜」と何も起きていないかの如くエールを送り、縁側へと移動するだけ――英雄と言えど女性だからと護ってはいるが、色々な意味で要らないかもしれないと思い始めていた。

(大物なのかもしれないな……)




 稲穂が台所で鍋をかきまぜているとあけびが飛びこんできた――かと思いきや、その場で跳躍すると長押と呼ばれる壁の横板に足をかけ、出入り口のすぐ上の天井と壁に張り付いた。

 そして同じく飛びこんできた小鉄の背中めがけて、急襲。だが寸でのところで加速してかわした小鉄、勢いで思わず食卓に足を乗せる。

「こーちゃん! どこ乗ってんの!」

 稲穂の水平にふるったおたまが小鉄のすねを直撃し、スコーンとかなりいい音をたてた。食卓から飛び降りた小鉄が、すねを押さえてしゃがみ込むほどに。

「……すまぬ、稲穂」

 忍者のくせして武士の情けか、それとも単純に稲穂が怖かったのか、あけびは「うわぁ……」と漏らして、隙だらけの小鉄に手を出さないでいた。

「はしゃぐなら、外ではしゃぐ! あけびちゃんも、わかった!?」

「ごめんなさい、お母さ――じゃなくて、稲穂ちゃん!」




「けっきょく、外に来たのか」

 縁側に座る仙寿が屋根の上で走る足音にそう呟く。

「2人とも、元気よねぇ〜」

 1枚の煎餅をどれだけの時間かけて食べるのかと言わんばかりに、端から細かくかじる麦秋。庭の木の枝がしなり空中で手裏剣と苦無が弾きあい、麦秋へと方向を変えるのだが仙寿が鞘で叩き落とす。

 もちろん麦秋は「わぁー」というだけで、驚くわけでもなんでもない。麦秋が驚きもしない事に慣れた仙寿は、今の流れ弾ならぬ流れ手裏剣に関して後でしっかり灸を据えておこうと心に決めるのだった。

 何度か空中戦を見せていたが、やがて2人が地上に降りて向かい合うと、どちらも刀を抜く。

(せめて忍者刀か苦無ならまだしも……)

 正面から正々堂々の御立合い――誰がどう見ても忍者らしからぬ戦い方である。それこそあけびの言う『侍』そのものであった。

「いざ……」

「尋常に」

『勝負!』

 肩の高さに刀を構え、2人はお互い、小細工もなしに真っ向から向かっていく。

「ちぇりゃぁぁぁぁぁぁあ!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 気合一閃、振りかぶった2人の刀がぶつかり合う――と思っていたのだが、そこに割り込んだ和服の少女が鍋の木蓋とおたまで刃を受け止めていた。絶妙な力加減で威力を吸収したからこそできる芸当であった。

「はーい、そこまで。お茶にしましょう、冷めちゃうから」

 熱くなりすぎた2人だが、おかんの強力な言葉には逆らえず、コクリと頷くしかできないでいた――




 稲穂の前に小鉄が、仙寿の前にはあけびが正座させられていて、2人とも軽い説教された後だけあって少しは肩を落としているが、仙寿が行儀よく背筋を伸ばしたまま羊羹を楊枝で切り分け口に運んだ事で緊張がほぐれたのか、膝をこすりながらチョコをつまんでいる麦秋のところへと飛び込んでいく。

「あけびちゃんもチョコ好きなのぉ〜?」

「もちろん! きっと嫌いな女の子はいないと断言できるよ!」

「それは暴論だけど、同意しちゃうの」

 小鉄から視線を外して苦笑する稲穂。それを機と見るや否や、小鉄が畳の上を滑るように移動して仙寿の横へと逃げてきた。

「あの見事な緊急用保存食は、男のほとんども好きだと思うでござる。なあ、日暮殿」

「俺に振られてもな」

「仙寿ちゃんはチョコ嫌いなのかしらぁー?」

 聞こえていたから麦秋がそう聞いてくるのだが、ここでも仙寿が答える前に「あけびちゃん、ニンジャだけどお侍さんなのぉー?」と話題が飛んでいた。

「侍ですよ、心は常に! 今日手合わせしてみて思ったんですが、小鉄さん、やはり貴方、侍にもなれますよ!」

「いや、拙者は侍を目指しているわけではござらんし……」

「性質は侍のそれだと思うの。むしろ忍者より性に合ってるんじゃない?」

「麦秋ちゃんも、そう思うのぉ」

「稲穂だけでなく麦秋まで言うでござるか!?」

 まさかという顔をする小鉄が3人に詰め寄ると、「ひゃー」と言いながらあけびが仙寿の横へと逃げてくる。仙寿はと言えば口元に手を当てていて、あけびにはそれが薄く浮かんだ笑みを隠しているのだと気づけた。

 仙寿が楽しそうにしているとあけびも嬉しく、あけびが嬉しそうにしているのだと仙寿も気づいたのだろうが、だからと言って何も言わないし、いつものぶっちょ面に戻ったりもしない。

(少しだけ、打ち解けてきたかな……?)

 そうならば嬉しいなとあけびは仙寿の横を離れ、小鉄の後ろから「隙あり!」と手刀を入れて穏やかな輪の中に戻ってこの何でもない大事な時間を堪能するのであった――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0213 / 小鉄 / 男 / 24 / 正真正銘忍者でござるよ!】
【aa0213hero001 / 稲穂 / 14 / おかんは強し】
【aa0213hero002 / 麦秋 / 14 / ゆるふわ天然最強説】
【aa4519 /日暮仙寿 / 16 / ぶっきらぼう侍】
【aa4519hero001 / 不知火あけび / 18 / ニンジャ?いいえ侍です】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずは大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。字数もだいぶカサを増したわりに、余計な部分が膨らみ過ぎた感がありますが、ご満足いただけますでしょうか
出番ももう少し平等にできればよかったのですが、性格や口調の把握にも手間取ってしまい、差が出てしまった事も申し訳ない限りです。
もしも次回があれば、またのご発注お待ちしております。
SBパーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
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2017年04月11日

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