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『春、巡り会い。 』
御門 鈴音aa0175)&風間 進aa2887

 静謐な空間にはペンを走らせる音しか響いていなかった。
 ついででたまに聞こえるのは、ページをめくる音と誰かがため息をつく声。
 夜の六時、ここは学校の図書室。
 蔵書数が売りなこの学校の図書室はひそかなる人気スポットで、生徒たちにはよく勉強で使われている。
 だがこんな時間まで人が残っているのは珍しい、普通ありえない。部活が終わった生徒ですらそう残っていない時間である、それ故にここにいる人間は二種類のどちらかだとわかる。
 テスト勉強をしているのか、家に帰りたくないか。
 『御門 鈴音(aa0175) 』の場合は両方だった。
 だって今日は二人がいないから。
 あと、追試だから。
「はぁ」
 細々と、でもはっきりとため息をつく鈴音。
 それもそのはず。自分が当てたはずの温泉旅行は追試でつぶれ、自分は遅くまでここで勉強。 
 家にいるとなんだかんだで遊んでしまったり、遊んでしまったり、遊んでしまったりするので、学校に残ろうというのは賢明なはんだんなのだが。
 図書室は図書室で落ち着かない。
 静かなせいか、人の気配というものが浮き彫りになってどうも気が散る。
 他の人を見てしまう。
 たとえば、あそこの青年はすごい勢いでページをめくっている、だがその速度で本は読めているのだろうか。
とか。
 司書の子かわいいな。
とか。
 あのカップル爆発しないかな、とか。とか。
 くすくす笑ってる後輩たちがうるさいな……とか
 だめだ、集中力が切れてる。
 そう思った鈴音はペンを転がして伸びをする。
 胸をそらせて首の周りをパキパキと鳴らすと、広げる教科書をチェンジした。
 英語の教科書と、英語辞書。
 先ずは単語から。そうスペルの書き出し作業に入るが。
 この手の作業は集中力が大切なんだ。もはやおうち帰りたいモードの鈴音ではろくに成果は上げられない。
 それどころかさっきにもまして気が散ってくる鈴音。さらにうるさくなる図書室内。おそらく皆鈴音のように勉強に飽きてきたのだろう。
 特に図書室の大机を占拠する後輩たちがうるさくて。
最終的には甲高い悲鳴のような声を上げて教科書を投げつけあい始めた。
 鈴音の拳に力が入る。シャープペンシルの芯が砕けて跳ねた。
 そんな不穏な空気を醸し出す彼女に気が付いたのか、一人の青年が立ち上がる。
 先ほどの本をばらばらとめくる青年であった。
 立ち去るのかな、悪いことをしてしまったかなと身をすくめる鈴音だったが、次に彼が起こした行動はトンデモないものだった。
「あの、ちょっといいかな」
 その青年が鈴音の隣に立った。
「え? ひゃい」
 青年は見上げるほどに大きかった、たぶん立っていても見上げることになるだろう身長差、なので座っていると顔が見えないほどだった。
「ちょうど英語の辞書開いてるから訊きたくて」
 そう爽やかに告げた青年は鈴音の返事を待たずに隣に座った。
「あああああ、あのあのあの」
 電動ブラシのように振動を始める鈴音、治りかけていた人見知りが、突拍子もないシチュエーションによって復活したようだ。
「だだだだ、だいだいだい大丈夫ですよ」
 やっと落ち着きを取り戻しつつある鈴音、そんな彼女の想いもつゆ知らず、青年は一冊の本を差し出した。
「すまない。この字……なんて読むんだ?」
 分厚い装丁、シンプルな表紙。かおるかび臭さ。
 かなり昔の本の様だ。英語で『Puss In Boots』とタイトルがふられている。
「えっと、待っててください」
「たぶん、同い年だから敬語はいいよ」
 そう青年はつまらなさそうに告げる。
 そのそっけない飾りっ気のない対応が鈴音をより落着けさせる。
「うん、わかった」
 気が付けば英雄たちと接するような気軽さで彼と話をしている。
 そんな彼の横顔と辞書を見比べながら、鈴音はその一文の解読に成功した。
「ぷすいんぶーつ……長靴を履いた猫だよ」 
 そう告げると、青年は短くありがとうと告げた。
 その時である。
 飛来する教科書、その角が鈴音の額に突き刺さる。
「いたーーーーーーーー」
 思わず立ち上がる鈴音。笑い声をあげる後輩たち。
「図書室では静かにしてよ!」
 英雄たち相手以外に切れることなどほとんどない鈴音。
 しかし今日ばかりは黙っているわけにもいかない。
 そう思って一歩足を前に出すが。後輩たちの反射能力はすさまじく、あっという間に荷物をまとめると笑いながら逃げて行ってしまった。
 そしてぽつりと取り残された鈴音だけが人々の視線を浴びることになった。
 大変恥ずかしい。
 鈴音は教科書で顔を隠しながら座り込む。
「そうやって注意できる勇気、すごいと思う」
 そう告げた青年の言葉に鈴音は、幾分か救われたのだった。

   *   *

 名前を聞くのを忘れた。
 そう思ったのは校門を出たあたりのことである。
「また会えるといいな」 
 そう帰路につく鈴音は、図書室で出会った謎の男子生徒のことを思いながら坂を下る。いつもふにゃふにゃとした足取りだったが、今日はなんとなく軽かった。
 しかしそれもつかの間のこと。
先を歩く集団に追いついてみせると、鈴音は眉をひそめた。
 それは図書室で騒いでいたDQN達+αだったのだ、いやな予感しかしない。
 そう思って足早に追い抜こうとすると、後ろから声がかかった。
「あ、おっぱい三蔵さんじゃないですか」
「おぱっ……」
 息を飲んで胸に手を当て、下劣な男子たちの目から体を隠そうとする鈴音。
 そんな初心な反応をしている間に鈴音は囲まれてしまった。
「と、通してください」
 鈴音は涙ながらに訴える。
(しまった! 今輝夜いない! このままじゃエロ同人みたいな事される!)
 そう内心焦りまくりの状態で。
「いや、俺達と遊びたいみたいだったから、図書室で声かけてくれたんじゃないんすか?」
 げひた笑い声が上がる。
 鈴音としては内心、そんなわけないでしょーーーーーっと叫び出したい気持ちでいっぱいだった。
「だったらこれから遊んであげますよ、ちょっと町までいきましょうぜ」
(この人、やけに小物臭いな)
 どうしていいか分からず縮こまる鈴音、そんな鈴音に手をわさわささせながら迫るDQN1。
 だがその時、その男子生徒の肩の上を。スッと走るように、なめらかな材質の何かが乗せられる。
 木刀だ、そう思った矢先である、目にも留まらぬスピードでそれが閃いた。
 その剣撃一つ一つを感動の眼差しで見送る鈴音。
 まるで自分たちの剣術は違っていたからだ。
 そう、あえて例えるなら自分とは対極。
 英雄の持てる力をフルに使った。パワー&パワーな戦い方が自分たちだとすれば。
 目の前で繰り広げられているこれは、実績と経験、知識と技術に裏付けされた、剣術と呼べる代物。
 木刀は閃き、後輩たちの額をうち、肩を弾き、足を切り払って切り上げる動きで吹き飛ばす。
 あっという間に男子生徒達の半数が地面をはいずることになり、開けた視界のその向こうに立っている人物が露わになる。
「あなた……」
 図書室で出会った青年だった。青年は鋭利な視線を鈴音に向けると、ぼそりとつぶやく。
「少し下がっていた方がいい、女の子にこんな場面みせたくない」
 次の瞬間、襲いくるDQNの拳を軽くいなして腹部を切りあげる青年。
反転して背後から迫る生徒を今朝切り、返す刃で鈴音を『おっぱい三蔵』と呼んだDQNを吹き飛ばした。
「なんだ、こいつ。無茶苦茶つよい」
 戦闘開始から一分もたたずに全員が地面に転がった。
「まだ立つなら次はたてないようにする」
 そう一瞬放たれた眼光に、生徒たちは這いつくばって退散を決意。
 失礼しましたーという声を残してどこかに消えた。
「暴力はよくないけど……助けてくれてありがとう」
 そう鈴音がお礼を告げると、青年は照れながらそっぽを向いた。
「いや……。それより……この本のこの字はなんて読む?」
 そんな青年の態度がおかしくて、鈴音は少し微笑む。
 これが二人の最初の出会い。

 そして。青年の名前を『風間 進(aa2887) 』というらしい。

 それを鈴音は次に図書室で彼と逢った時に知った。
 それから彼はしきりに鈴音に問いかけを並べた。彼は自分の得意なこと以外は一切学んでこなかったと言った。
 鈴音はそれを聞きたかったが、話してくれるまで待とうと思い、一緒になって辞書を引く。
 その時に限って図書室は静かで、鈴音の集中を妨げることはなかった。
 いや、ひょっとしたらうるさくても気にならなかっただけかもしれない。
 それくらいに二人でいるのは心地いいと感じた。
「桜の花びらだ……」
 そう進は鈴音の額にかかった花びらを拾う。
 やがて春が来る。春が来たなら何をしようか。
 その時二人は初めて、勉強以外の話題で言葉を交わした。

 だが、その幸福な日々は長く続かない。
 悪雲が風に流され舞い込むことを、彼女らはまだ、知らないのだ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『御門 鈴音(aa0175) 』
『風間 進(aa2887) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。鳴海です。
 OMCご注文ありがとうございました!
 セカンドPCさん用意されていたんですね! 今後の活躍に期待させていただきます。
 今回は春も誓いので爽やかな学園ものを意識してみました。ちょっと少女マンガチックになったかも?
 普段と書き方が違うと思いますが、気に入っていただければ幸いです。
 そして、最後に張られる伏線、いったい二人の身に何が起ころうとしているのでしょう。
 先が気になります!
 また、ぜひよろしくお願いしますね。
 それでは鳴海でした。ありがとうございました。
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2017年03月29日

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