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『天空を駆ける、輝ける者 』
大宮 朝霞aa0476)&ニクノイーサaa0476hero001

「キヨセを?」
『そうだ。キヨセは医療施設が集中し、農耕も盛んだ。そいつを根こそぎいただく』
「確かにこれからの戦いを思えば必要なのかも知れません。しかし……!」
『元々はこっちの領地なんだろう? 何の遠慮が要る』
「今は敵方の要衝です! 一筋縄では」
『手は打ってある。――行くぞ!』

 ひとりの男がいた。
 全てを覆いつくさんばかりの黒衣と時代の風を纏い、暁の如く燃える金色の髪を靡かせ。
 この世に皮肉さえ込めて歪めた口から発す言霊と、覇の一点のみ見据える蒼き慧眼を以って数多の手下を従え。
 ある時は真っ向から血を流す事なく法に則したやり方で、またある時には冷酷にして卑劣な権謀術数敵を以って。
 如何なる手段をも厭わずに、侵略と征服を繰り返した。
 世界を我が物とする為に。

 彼の名は――

 * * *

「――ニック! 早くしないと置いてくわよ!」
 白い帽子から伸びた、癖のある髪が躍動する。
 だが大宮朝霞の声が弾んでいる原因は駆け足だからではなく、パートナーのニックことニクノイーサが悠々とした歩みを崩さないからだった。
『――…………』
 更にあろう事か朝霞が振り向いたところ、彼はあらぬ方向を見て立ち尽くしていた。
「もうっ」
 朝霞が業を煮やし駆け戻って、ニクノイーサは自分が呼ばれている事にやっと気付く。
『……ああ、なんだ朝霞か』
「なんだじゃないよ! なにぼけっとしてるのニック!?」
『…………。いつも言ってるだろう、外では――できればそうじゃなくてもだが――でかい声で呼ぶなと』
「じゃあもっと急いでよ! 時間ギリギリなんだから」
『朝霞が夜更かしの挙げ句、寝坊したお陰でな』
「うっ、悪かったわよ……。でもゆうべ起こしてって言っといたじゃん」
『やれやれ』
 ――一応声はかけてやったんだがな。
 彼女の眠りが頑固過ぎて歯が立たなかっただけ、などと今更言っても始まらないか。
 ニクノイーサは溜息を吐いてから、前触れなく走り出した。
「あ、“行くぞ”ぐらい言ってよ!」
『行くぞ』
「遅い!」
『…………』
 慌てて追い縋る朝霞を見向きもせず、ニクノイーサはそれからも周囲の景色ばかり見ていた。
 ――前に来た事があったか?
 埼玉と東京の県境にある、この街に。

「朝霞ー! ニクノイーサくーん!」

 既視感か記憶か自らに質す暇もなく、前方からこれまた大声で二人を呼ぶ者があった。
 ファッショナブルなようでやはりヒーローコスチュームじみた、しかし当人曰く普段着であるらしい黒を基調とした露出度の高い衣装に身を包む女性。
 誰にも見間違いようのない正義のヒロインは今、手を振りながらこちらに走って来ていた。
『だからでかい声で呼ぶなとあれほど』
「テレサー!」
『……』
 ニクノイーサのささやかな抗議を案の定無視して、朝霞もまた迅く先方の下へとばかり速度を上げた。

「待たせちゃった――かなっ――」
「見ての通りっ――今来た――とこっ――」
 程なくニクノイーサが追いつくと、朝霞とテレサが示し合わせたように息を切らせて俯いていた。
『なんだ、テレサも寝坊か?』
『ご明察アル』
 ニクノイーサに応ずるように、テレサの幻想蝶からマイリンが顕現する。
 ちなみに今日は紙袋いっぱいのカレーパンをもりもり食っていた。
 どいつもこいつも相変わらずのようだ。

 ただひとり、ニクノイーサを除いて。

 所変わって、とある喫茶室。
 四人は二人ずつ向かい合わせに座り、他愛ない会話に花を咲かせていた。
『全く情けないアル。友達との待ち合わせくらい時間守るヨロシ』
「ごめんね、私達もギリギリだったから……」
『…………』
『朝霞は気にする事ないアル。テレサのねぼすけっぷりに比べたら可愛いもんアル』
「だってマイリンったら起こしてくれないんだもの!」
『起こそうとしたら裸締め極めてくれやがったのはどこのどちら様アルか』
「そ、それは……ヒーローたるもの無意識でも戦えるように備えなくちゃ。ね、朝霞」
「言われてみれば確かに! ニック、私達も今夜から練習するよ!」
『…………』
「……ニック?」
 一人静かなパートナーを少し心配して、朝霞は再度声を掛けた。
 ニクノイーサは先ほどから卓上を埋め尽くすケーキ――その大半は既にマイリンの胃袋の中だが――やコーヒーにすら手をつけず、窓枠に肘を突いて外ばかり眺めている。
 いつもなら『普通に時間通り目覚める練習をしたらどうなんだ』くらいは返してくるのに。
「大丈夫? ニクノイーサくん」
『何か悪いものでも食べたアルか?』
『あ――……いや。食べ物に不安はない』
 テレサとマイリンにも気遣われてやっと気がつくと、彼は少しばつが悪そうにコーヒーを口に含んだ。
「今朝からずっとこうなんだ。景色ばっかり見てるの」
「ふぅん……もしかして出身世界に似てるとか?」
『どうかな』
 正直覚えていないのだが、また気を使われるのも疲れるのでニクノイーサはお茶を濁す事にした。
「でもさー、出身世界で思い出したけど。ニックとはじめて会ったのって、この近くだったよね」
『ああ――』
 ――そう言えば。
『そうだったな』
 ならば見覚えがあって当然なのだ。
 そう、朝霞の言葉に納得しようとして。
『……』
 けれど、ニクノイーサの意識はそれ以前の、もっと深いところにある記憶へと惹かれていった――。

 * * *

 “天空を駆ける、輝ける者”
 彼は自らそう名乗り、己が才覚を以って巷間へと知らしめた。
 即ち、その力は天を割き、大地をも割ると。
 ゆえ、この攻勢もまた戦場に彼の姿を認めるより早く敵方へ通ずる事となった。
 このたび彼が率いる軍勢はキヨセを守備する軍の三分の一にも満たない。
 加えて執ったのは北の国境からの一見無策な正面攻撃。
 すると案の定、向こうはこちらを圧倒し得る数と質の軍勢を差し向けてきた。
 ――それこそ望むところだ。
『怯まず着いて来い! この戦に負けはない!』
 激を飛ばせば手下達は決死の覚悟で喰らいつき、敵勢もまた死に物狂いで立ちはだかった。
 既にキヨセの街は怒号と絶叫と悲鳴、血と鉄と死臭の坩堝と化していた。
 建物を焼いて燃え広がる炎が赤々と暗夜を照らす戦場を、彼はひたすら突き進む。
『俺はここに居るぞ! 討ち取ってみろ!』
 挑発に押し寄せる雑兵をひとりまたひとりと斬り捨て、彼が目指すはこの地の領主の首唯ひとつ。
 顔を知らなければ名前すらもう覚えてさえいないが、その性根は聞き及んでいる。
 こちらが少ないと見て多勢を寄越した奴の事、最も安全な場所で暢気に構えているに違いない。
 だから彼はあえて敵が集中している方へと向かう。
 彼以外の誰一人――手下達でさえ――それが叶うとは露ほども思っていないだろう。
 事実、当初は決死の勢いで善戦していた彼の手勢は、激化するにつれて圧され始めている。
 彼自身に向けられる刃の数も次第に増え、常に紙一重を見極める共に討たなくては瞬く間に包囲されてしまいそうだ。
 あるいは少なくない犠牲を払う事になるかも知れない。
 ――だが、あと少しだ。
 生き延びさえすれば絶対に勝てる。
 無論ただの蛮勇ではなく、そう確信する根拠が彼にはあった。
『っ――!』
 刃が頬を掠め、その予備動作は彼の髪を少し削ぐ。
『来世ではちゃんと狙うんだな』
 すぐさま剣を刺して屠り、次いで浴びせられた別の刃を遺骸で防ぐ。
 迸る鮮血に身が穢れるのも構わず得物を引き抜きがてら柄で背後に迫る者を穿ち、反動で隣の者へ一閃を浴びせ。
 身ごと翻りもう一閃で周囲の全てを断てば、絶え間なく続いた攻手が不意に――止んだ。
 あまりの強さに攻めあぐねているのか。
『……なんだ今のは。俄か雨か?』
 屍の山に立ち、彼は息も乱さず不敵に笑う。
「う、う……――うわぁぁぁぁあぁぁ!」
 誰かが情けない悲鳴と共に斬りかかると、つられて他の者達も波となって押し寄せた。
 だが、手下達が彼を抜いてこれを迎撃し、その指揮の高さを認めて彼も加わった。
 戦いが更に激化する――その時。
 どこか遠くで照明弾が打ち上げられた。
 同時に敵勢の波に揺らぎが生じ、剣戟がまばらとなる。
 ――済んだか。
 どうやら自身の打った手が実を結んだらしい。
 今頃キヨセの南側では彼が川伝いに仕向けた伏兵の一部が病院を押さえ、残りは既に敵を背面から包囲している事だろう。
 彼は上空の閃光を浴びながら剣を掲げ、高らかに宣言した。
『聞け! 南側は既に俺の手下が制圧した。つまり、今のお前らは板挟みだ。――命が惜しければ道を開けろ!!』
 いつしか武器同士がぶつかり合う音は完全に止み、敵軍は大地が割れるが如く、東西へと分かれた。
 あろう事か、領主(天)の元へと導く為に。
 彼は颯爽とその間を通り、当然ながら手下達も胸を張って後に続いた。
 そして道行きの果てには、全く似合わない豪華な甲冑に身を包んだ恰幅のいい中年が、脂汗にまみれた顔で彼を出迎えた。
 側近らしき者達は後ずさって距離をとっており、この中年の人望を窺わせてくれる。
『お前が領主か』
「うう……き、貴様こんな卑劣な手を……!」
『随分だな。お前だって最前線を納める要職なのをいい事に好き放題やってるらしいじゃないか? なんでも相当悪どいやり口で街の連中から金を巻き上げているんだってな。だったらこのくらい大目に見ろよ』
「だっ、黙れ! こんな事をしてただで済むと思っているのか!」
『――ただで済ませる気はないさ、少なくとも俺はな』
 世界を手に入れるまでは。
「よくもいけしゃあしゃあとっ……――者ども、こやつを今すぐに――」
『無駄だ。周りを見てみろ、誰一人お前の味方をする奴は居ないぞ』
 事実、既に側近達の姿はない。
「そ、そんな……!」
『この街の誰もお前を領主とは認めてない。その証拠に南側の制圧はやけに早かった、恐らくあっさり降伏したんだろうぜ』
「……!」
『終わりだ、領主――いや、もう違うか』
 うろたえる中年に彼はゆっくりと近づく。
「くく、く、来るな――――うはっ!?」
 そして開かれたこの街の“天”の醜い口目掛けて、実に何気なく。
『今日からはこの俺が領主だからな』
 剣を刺し込んだ。

 その瞬間――元領主の口からは血の代わりに光が溢れ。

『ー―!?』
 それはたちまち一帯を、彼を包み込んだ。
 この世のどんな光よりも白く、明るく、眩く、気が遠くなるほどの広がりを以って。

 天空を駆ける、輝ける者の意識は、ここではないどこかへと――馳せた。

 * * *

「――ック。ニックってば!」
『――……。……ん?』
「本当にどうしたのよ? ぼーっとしちゃって」
『ああ、すまない。ちょっと考え事をしていてな』
 朝霞に肩を揺らされ、ニクノイーサは逆に気を遣うように応えた。
 先ほどから断片的に、ここではないどこかの戦果に巻かれた様子と、そこに立つ自分の姿が何度もちらついた。
 火の手が強くて分かり難かったが、もしかするとテレサが言うようにこの街とよく似た場所だったのかも知れない。
 だが。
「…………」
 いつも頭ごなしなノリの朝霞が、心配げな眼差しを寄越しているのを見て。
 ニクノイーサは今一度『大丈夫だ』と、あえてふてぶてしく言ってのけた。
『何か悩み事アルか?』
「いつでも相談乗るわよ?」
 いつの間にか卓上のケーキを全て平らげたマイリンと、テレサも、それぞれに彼を気遣う。
 あ、ちなみにマイリンは食後のデザート(?)にボールで出された1リットルアイスを食っている最中だ。
 ――やれやれ。
 ここはひとつふざけてみるとするか。
『そうだな……なら、朝霞の変身ポーズについて相談したいんだが』
「!! いきなり何言い出すのよニック!」
『冗談だ。……いや、そうでもないか』
「冗談で済ませてよ!」
『むしろ事態は深刻アル。アタシもテレサの服装の件で相談したいアル』
「ちょっとマイリン!」
 二人の掛け合いにからから笑っていたテレサの表情が、相棒の言葉で豹変した。

 それから暫し、ヒロイン達とパートナー達の押し問答が交錯し。
 けれど程なく和やかな談笑に移り変わった。
 かつて――少なくとも朝霞と出会ったばかりの――ニクノイーサは、こうした事をどこか好ましく思っていなかった。
 何かもっと重要な事を胸に宿していて、それ以外の事を軽んじていたのかも知れない。
 だが、今はそんな事よりも。
「――さて。時間もあるし、東京支部に行ってみようか! なにか依頼があるかもしれないしさ!」
『そうだな』
「賛成!」
『みんな仕事熱心アルな』
 彼女達に――朝霞に付き合ってやるのも、そう悪くない気がしていた。

『だが朝霞、たまには大学にも顔を出せよ』
「うっ……!」

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0476 / 大宮 朝霞 / 女性 / 20歳 / コスプレイヤー】
【aa0476hero001 / ニクノイーサ / 男性 / 26歳 / 聖霊紫帝闘士】
【az0030 / テレサ・バートレット / 女性 / 22歳 / ジーニアスヒロイン】
【az0030hero001 / マイリン・アイゼラ / 女性 / 14歳 / 似華非華的空腹娘娘】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お世話になっております。藤たくみです。
 まずは非常に長い期間お待たせしてしまい大変申し訳ございませんでした。

 普段は和気藹々とした描写を挟みつつも、やはり朝霞さん主体で書かせていただいておりましたので、ニクノイーサさん自身のストーリーは考えるのも描くのも新鮮な気持ちで取り組む事となりました。
 ほんのりマニアックな符号なども挟みつつ、貴重な機会なので格好良さを念頭に戦っていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
 お気に召すものとなっておりましたら幸いです。
 また、私事ながら担当中仲良くしてくださったテレサとマイリンにつきましては、本件で書き納めとなります。
 もしも今後どこかで彼女達を見かけたなら、その時には藤の任期同様ご愛顧いただけますと嬉しく思います。

 このたびのご指名まことにありがとうございました。
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2017年03月29日

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