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『そんな事より『今』が先。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 別世界から異空間転移してこの世界に訪れた紫色の翼を持つ竜族にして、なんでも屋さん、でもあるファルス・ティレイラの本日のお仕事は、お姉さまの荷物持ち。

 つまり、「それ」が必要な事になるような予定が、本日のお姉さまにはあったりする。

 本日これからお姉さま――ティレイラの同族にして魔法の師匠でもあるシリューナ・リュクテイアが予定しているのは、魔法薬屋としての仕事上と言うより趣味人たるシリューナの同好の士、でもある魔法使いの女性の所有する館への訪問。厳密に言うなら彼女に個人的に頼まれていた数多の品々を届ける為に、殆ど博物館や美術館と言って差し支えないその大きな館へと赴く予定になっている。
 殆ど博物館や美術館、と言うのは勿論、主である魔法使いの女性の趣味が高じた結果の賜物。彼女は銀製品のオブジェやそれに纏わる魔法道具の収集家であり、趣味で集めたそれらを保管、鑑賞する必然から――いつの間にやらそのくらいの館が必要になっていた、と言う次第。

 ティレイラの方も、そのくらいの話は事前に聞いている。

 となれば、荷物持ちでその館に行くのが楽しみで仕方無い。…そう、ティレイラもティレイラでそんな趣味人たるシリューナの影響――と言うか薫陶をすぐ間近で何だかんだで受けている訳で、当然のようにティレイラも同好の士の端くれ、になってもいる。そしてこれまた当然、シリューナもその辺りの事は承知していて――…

 …――つまり、荷物持ちと言うのは口実に近い。それは勿論、荷物持ちとして同行してくれれば有難い、くらいの荷物は確かにあるが、荷物持ちが居なければ居ないで何とかなる程度の荷物でもある。…そもそも自分で届けに行かずとも、魔法を使ってモノだけ届けると言う事だってやってやれない事は無い。

 つまり今回の訪問は、館に行きたい――館の主と趣味の話をしたいと言うのが本題、と言って差し支えない。
 …そんな大切な大切な趣味の時間の為に、シリューナとティレイラの師弟は本日お出かけをする訳である。



 程無く、到着。

 館に着くと、待ってたわよー、とばかりに魔法使いの女性はシリューナを大歓迎。荷物持ちで付いて来ているティレイラにも目を向け、可愛いわねーこれが噂のお弟子さん? とこちらもまた大歓迎。
 そして勿論、本題である持参した「荷物」の方も大歓迎である。美しいもの、や美しいものを作る為のもの。魔法使いの彼女にしてみれば、それら「頼んだもの」は話には聞いていてもそれまで手許に無かったものでもある訳で――すぐにそちらに興味が向き、シリューナの持参した目にもあやな装飾品の由来を聞いたり、面白そうな魔法道具の効能効果を聞いたり、それを使って作ったものの話をしたり、作ったものがどんな感触でどんな見た目のものになった例があるか、作るに当たり使ってみたい素材について等々、めくるめく趣味の話題に夢中で花を咲かせる事になる。

 何と言うか、ティレイラとしてはディープ過ぎて割って入れない。入れるならば入りたくはあるのだが、実際入ったとしても付いていける気がしないレベルの話なので気が引けてしまう。どちらかと言えば…下手に口を挟んだら邪魔になるかなー、と慮ってしまうのが先になるような、ひたすらに濃厚な二人の会話が続いている。

 えーと。

 あのぅ…と遠慮がちに声を掛けても、多分、聞こえていない。
 暫し考え、ティレイラは館の中を見て回らせて貰おうかと考える。…元々お姉さまにもこの館の話は聞いていたし、何なら見せて貰うといいわよとか何とか軽く言ってくれてもいた。…と言う事は余所の人は絶対に見ちゃいけないとかな訳でも無い筈で…とは言え実際に館に来てみれば、お姉さまと館の主は会って早々お話に夢中なこの状態な訳で…見て回っていいかを確かめるに確かめられない。

 が、館の随所には様々な銀製品が見て見てーとばかりに綺麗にディスプレイされているのがティレイラの視界には既にばっちり飛び込んで来ている訳で。
 …すごく、気になる。
 気になって気になって――取り敢えず、展示してあるもの見せて貰いますねー、と二人に声を掛けるだけ掛けて(返答は無かったので聞こえていたかはわからないが)から、ティレイラは館に展示されている銀製品を一通り見て回らせて貰う事にする。

 この手の好奇心には、どうしたって勝てない。



 可愛い動物さんや綺麗な女性に妖精さん。ペンダントとかブレスレットとかブローチとか指輪とか。様々な造形に作られた銀製品が、それぞれ一番見栄えがするように展示されているのにティレイラは素直に感嘆する。…お姉さまの趣味にも合うのが良くわかるので、それは話も弾むのだろうなぁとしみじみ思う。
 はわー、と声を上げつつ、それら一つ一つをじっくり鑑賞。触っていいかどうかまでは主さんに確かめていないので、取り敢えず見るだけに留める。…銀製品と言う事は、触る事自体あんまり宜しくないものもあるかもしれないし。時々足を止めてはじっくり見る。面白そうな魔法道具らしきものもまたたくさんある――どういう風に使うものなのかなとかこれまた好奇心がむくむくと湧き上がる。

 でも、我慢する。
 我慢がてら、綺麗にきらきら光る銀製品の方を見る。魔法道具に向いた好奇心が少し薄れる。造形が作り出す陰影とかそっちへの好奇心が代わりに増す。…見ているだけでも何だか心が躍る。綺麗なものを鑑賞するのは、楽しい。

 と。

 思っているところで、何やら液体が詰まった魔法道具らしきものがあるのに気が付いた。不思議な形の瓶――のような道具なのだろう。中に入っている液体の色は銀に輝いている。
 …と言うか、その魔法道具らしき瓶の封が外れ掛けているから、中身の液体が見えた、とも言うのだが。

 これ、閉めとかないと駄目じゃないのかな、とティレイラは何となく思う。思うまま、ごくごく自然にその封に手を伸ばす――手指を伸ばしたその先で、触れてしまった、途端。

 封の奥にちょこっとだけ見えていた銀に輝く液体が、ざぁっと滑るようにして中空に――ティレイラの目の前にまで飛び出て来た。ティレイラは、うにゃっ!? と妙な声を出して思わず仰け反ってしまう――と、飛び出してきたそこで、銀の液体は翅を持つ小さな――妖精めいた姿を形作って飛翔。そのままけらけら笑いながらティレイラの顔周辺を飛び回り――最後、ここまでおいで、とばかりにティレイラをからかうようにして逃げ出した。

 数瞬、間。

 …今の、何?

 と、自問する間にもそれどころじゃないだろうと頭の中で反論が響く。今のは――何が起きたかわからないにしろ、少なくとも私が魔法道具の外れ掛けていた封に触ったから妖精?らしい姿になって現れて、逃げ出した――のだと思う。それだけは言える。つまり逆を言うなら、私が手で触れなければこうはならなかった気がする。

 …私のせいだ。
 なら、捕まえないと!

 俄かに焦りつつ、ティレイラは殆ど反射的に妖精(?)を追い掛ける。気付いた妖精(?)はこちらを振り返ったかと思うとあかんべえ。そしてまたすぐに逃げて行く――何だかちょっとかちんと来る。…その後、追い掛けては見付け、見付けてはからかわれて逃げられが何度も続く。妖精らしい銀の「それ」は館の通路を縦横無尽に逃げ回る――いいかげん追い回して後、ティレイラは半人半竜の翼と尻尾を生やした姿になる事にした。つまり飛翔し己の機動力を上げた上で、再び妖精(?)を追い掛ける。…これ逃げてるのは多分私の過失だし、そうでなくともこっちを莫迦にしてからかって来る感じがなんかかちんと来るし、絶対捕まえてやるっ! と更なる気合いを入れて、ティレイラは妖精(?)を追い続ける。

 それでもまだ、捕まらない。



 …他方 ティレイラの視線を逃れた僅かな間の妖精(?)側。んもうっ、とばかりにむくれている――あの竜の子、いつまで追い掛けて来るのやら。自分に何の恨みがあるのか。いいかげんにしてほしい――ややうんざり気味にそう思いつつ、それでも妖精(?)は逃げ続けている。

 …もう、封印の秘術で動きを止めてやろうか。

 逃げる最中にふと思い、妖精(?)は実行する事にした――正確には、その準備をする。通路を逃げ続け飛ぶように中空を走る中、見えて来た次の曲がり角――曲がった瞬間、銀の妖精(?)はぱしゃんと跳ねるようにして液状化、曲がってすぐの床で、銀色の水溜りと化して留まった。
 そのまま、待つ。

 追い掛けて来る竜の子が、水溜りの真上を通るのを。



 …ティレイラ側。

 今。妖精(?)が通路を右に曲がるのが見えた。…もう少しで追い付く。今度こそっ――思いつつ再び翼を扇ぎ、加速する。そして当の曲がり角で急制動、妖精(?)が向かった側へと方向転換して進もうとするが――…

 …――あれ?

 居ない。
 …おかしい。
 曲がった瞬間、妖精(?)の姿が消えた。今の間で、もうずっと先に行っている――なんて事が出来る訳が無い彼我の距離の筈だった。他に咄嗟に隠れられるような場所も無いし、逸れる道も無い――なのにどう見ても姿が無い――ええーなんでー!? とがっくり思いつつ、ティレイラは取り敢えず着地する――床に足が着いた瞬間、何故かぱしゃん、と水を踏むような――弾けるような音がした。

「ふえっ!?」

 こんなところで何で水? 水溜り踏んだ? 予想外の場所での予想外の感触に驚き、ティレイラは妙な声を上げて下方を見る――足の下。水溜りと思しき感触――そう思ったのだが、見たらその水溜りは銀色で。へ? とその時点でもまた何がどうなっているのか認識出来ずティレイラは混乱。している間にもその銀色の水が足元からすぅっと己の足を覆いながら這い上がって来るのを目の当たりにし――同時に締め付けられるような感覚も這い上って来ている事に更なるパニックに陥った。そして――何コレ何コレ何コレっ!! と殆ど悲鳴になっている声を上げた時には――その銀色は全身を覆ってしまっていて。

 後には、ティレイラの形をした等身大の銀の像だけが残された。



 …ティレイラの時が止まって暫し後。

 シリューナは漸く、ティレイラの方にまで気を回す余裕が出来た。と言うか魔法使いの女性との話の中で、一押しの「素材」の話題になった時にティレイラの存在を思い出し、けれど姿が見えない事に――多分館の中を勝手に見せて貰っているのだろうとその段で漸く認識した、と言う経緯があるのだが。
 ともかく、ティレイラのその行動については気付いた時点で魔法使いの女性にごめんなさいねとその旨伝え――魔法使いの女性の方からは全然構わないわよとの快諾が遅れて得られていたりもする。
 そんなこんなで、その時点ではティレイラの事は暫くの間は放っておいてもまぁいいか、となった訳なのだが。

 …魔法使いの女性と交わしていためくるめく趣味の歓談にも一段落つき、そろそろ帰ろうかと言う段になっても、ティレイラはまだ戻って来なかった。

 そうなると、シリューナにしてみれば今度はティレイラの方が気になる。…館の中に何かティレイラの琴線に触れる銀製品があって気を取られているだけならいいのだが…まぁ、どちらにしても捜しに行く必要はある。

 可愛いティレを置いて帰る訳には行かない。



 時々展示品に目移りしつつ、シリューナはティレイラを捜している。館内の広大な通路を歩き回って暫し、不意に、展示している――と言うには少々変な位置にある気がする銀の像を見付けた。
 何が変かと言えば、通路を塞ぐように唐突に置かれているから――と。

 思ったら、その銀の像は――…

 …――ティレイラだった。

 足元を酷く気にしたような、パニック状態と思しきティレイラの――半人半竜の姿を模った等身大の銀製のオブジェ。
 否、ティレイラ本人を「素材」にした魔法的な銀細工なのだろう。

 …いったい何をしてこうなったのか。
 まぁ、まずはこれを為した「力」は封印魔法の類ではある。特に不可逆の術式でも無さそうな以上はティレイラが無事かどうかと言う意味では問題は無い。では何故今その封印魔法が発動しているか。ティレイラは好奇心に駆られて勝手に魔法道具を弄ってしまったり、おっちょこちょいと言うか…魔法道具に振り回されてちょっとした事故を起こしてしまったりする事がどうにも多い。
 今回もその可能性は否定出来ない。…が、その原因になりそうな魔法道具が近くに転がっている気配も無い。
 なら自立稼働の何か、もしくはモノに依る使い魔や妖精の類にちょっかいを出されるような何かをした。と言う線か。そして半人半竜の姿と言う事は、何かを追い掛けていたもしくは何かから逃げていた、と見る事も出来る。…それ以上の詳細は、まぁ推して知るべし。取り敢えず、今はもう新たに何かが起きる様子は無い。

 にしても。

 やっぱりティレが一番可愛いのよね、とシリューナはしみじみ思う。まずは状況把握の為に今のオブジェと化したティレイラの姿を見て確かめていたのだが、シリューナにしてみると、そんな事務的な目で見るだけではどうやったって物足りない。
 暫くそんな目で眺めていたら、本気で鑑賞したくなって来た。…沸々と衝動に駆られるままに表面を――頬から唇を指先でなぞり、堪能。それだけでも思わず感嘆の溜息が出る。美しい光沢と銀ならではのやわらかな感触。…ああ、素敵。このまま暫く時間を忘れて、この可愛さと感触に溺れていたい。場所も何も忘れて、一気にのめり込んでしまう――でもまぁ、ここはあの魔法使いの彼女の館なのだから。ちょっとくらい羽目を外したって私の気持ちもわかって貰える事は間違いない訳で。…ううん、そんな保険を掛けるみたいな言い訳なんか要らない。ここが何処で何をしていたところだろうが、この気持ちは止められない――外野の事はどうでもいい。

 そんな事より、『今』が先。

【了】
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東京怪談
2017年03月29日

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